129話 単なる自作自演
『あれ…コロネ、背中光ってる』
私がリリとコロネをぎゅっと抱きしめていればリリがふと、気づいたようにコロネの背後を見る。
『はい?そうですか?』
私も二人を解放してコロネの背中を見るが……確かにマントごしに光っている。
『あの背中の紋章かな?コロネ、マント脱げるか?』
私の言葉にコロネは頷き、そのまま服を脱げば……確かに背中の紋章が光っているのだ。
そして――背中の紋章の光が、何故か眩しく光り輝きだす。
「ちょ!??コロネ!!」
私がコロネに手を伸ばし、そのままコロネの腕をつかんで、引き寄せ抱きしめる。
またコロネがどこかへ連れて行かれると思ったからだ。
背中の光は一気に光線のようにコロネの背から立ち上ると、そのまま神殿内に霧散した。
そして幻想的な光を放ちながら、神々の閉じ込められていた水晶が一瞬光る。
『い、一体何が……』
コロネを抱いた状態で私は呟いた。
そのままコロネの背中を見れば――紋章はあるものの、もうすでに光は失われている。
一瞬光った神々が眠っている水晶も、何事もなかったように先ほどと同じ光をたたえていたのだ。
『なんだったんだろう?』
『わ……わかりません』
コロネも呆然とつぶやく。結局、謎は再び増えただけだった。
▲△▲
「さて、それでは現状を確認しましょう」
あれから――天界は異界の女神の力が強まり危険ということで、私たちはリュートの視界で瞬間移動してエルフ領に戻ってきた。
やや疲れた顔でコロネが言えば
「アルファー達戻さなくていいの?」
と、エルフの神殿でリュートが用意してくれたお菓子を食べつつリリちゃん。
「また戦闘になるかもしれないから、後にしよう。
今回は流石に疲れた」
と、私。肉体的にってのもあるが精神的にってのも大きい。
リリちゃんとコロネが死んだと思ったせいですごい疲れた。
これでまたアルファーたちが操られてた!なんて事になって戦闘になるのはかなりきつい。
「ナスターシャの記憶はどれくらい覗けたんだ?」
「うーん。神様だからガードが固かった。
最近考えたことだけしかわからない」
「それでも大分わかりました。
現在この世界に来ている異界の神はナスターシャとクリファの二人です」
「ふむ」
私がぱくぱくお菓子を食べながら肯けば、同席してたリュートが目を細める。
うん、リュートはこれまでの経緯知らないしね。
にしても、何も聞いて来ないところをみると私達の話を聞く方に徹するらしい。
リュートの隣にいるザンダグロムも黙っているので話に参加はしないようだ。
ちなみにザンダグロムの魔道具はとっぱらってある。
「異界の女神も何故世界が蘇ったのかはわからないようです。
ナスターシャとクリファはこの世界の滅びの巻き添えで一度滅びかけたところを、魔王によって復活させられました。
本来神の敵であるはずの魔王が何故二人を生き返らせたはわかりません」
と、コロネ。
「今、こっちの神様達封印されてる。
だから、ナスターシャとクリファの二人で、この世界の神様になるつもり。
この世界で暴れてるプレイヤー達も、もう少ししたら、ナスターシャとクリファの二人が倒して、この世界の住人に感謝されて神になる予定だった」
コロネに続くリリちゃん。
「えー。なんだよ。それ単なる自作自演じゃないか」
「そうなりますね。
ですが、猫様がプレイヤー達を倒してしまってるので、予定が狂ったのでしょう。
だから邪魔な私たちを殺しにきたのかと」
と、コーヒーを飲みながらコロネが言う。
コロネの話をまとめるとこうだ。
まず最初にこの世界は一度ナスターシャとクリファ達などの異界の神々に乗っ取られた。
異界の神の人数は全部で15人。
彼らは自分たちのいる世界の生命を乱雑に扱ったために、魂の輪廻が壊れてしまい、魂すらをも滅ぼしてしまった。
魂さえ存在すれば何度でも生命は誕生させられる。
だが魂がなければ神々がいくら生命をつくっても、そこに命は芽生えないのだ。
彼ら神々を祀るはずの生命を全て滅ぼしてしまったのである。
祀る存在がなければ神々は存在できない。
そこで、異界の神々が目をつけたのが、既に違う世界の神(魔獣の元となった大神)に一度襲撃を受けて、大神が不在だった、この世界だったのである。
本来この世界にいる神々セシウス達は以前の神々同士の戦いで、一度世界の崩壊の危機を迎えた事を後悔していた。
そしてまた、神々同士の戦いで魂が疲弊してしまえば、この世界も魂の輪廻が壊れてしまう恐れがあったのだ。
そこでセシウス達は生き物達を無闇に殺さない。
魂の輪廻を壊すような事をしない。
と異界の神々との決して破れない誓いをたてさせ、自分たちは世界の礎となって世界を譲ってしまったのだ。
神々の入れ替わりを、人間はすぐ認め、新たな神々を祀ったがエルフはそれを認めなかった。
当時エルフの王であったセズベルクが人間と神々に戦いを挑んでしまったのである。
だが異界の神々の加護をうけた人間に敵うはずなのどなく、エルフは惨殺され世界から駆逐された。
異界の神々はセシウスたちとの約束を守り、自らはエルフ惨殺の手をくださなかったのだが、結論からいえば自ら手をくださなかっただけで、干渉しまくった。
人間を煽動し力を与え、自分たちを神と認めないエルフ達を皆殺しにしたのである。
逆らう者のいなくなった世界でナスターシャ達異界の神々は世界の神になるかと思われたが……。
何故か世界は崩壊に向かった。
異界の神が本来その世界の神を押しのけて世界を支配すると誕生する『審判の御子』がこの世界に誕生してしまったのだ。
『審判の御子』は神々ですら逆らえない。
誕生すればその世界はすべて無にかえる。
審判の御子の存在が知られるようになったのは本当に最近の事だった。
まるで狙いすましたかのように同時期に、他の巨人の世界を乗取った神々をその世界の生命ごと滅ぼしはじめたのだ。
審判の御子の誕生に異界の神々は一目散にこの世界から逃げ出したのだが……クリファとナスターシャは逃げ切れず審判の御子の最後の裁きに巻き込まれた。
二人の女神は裁きで一度は滅んだかと思われたが……何故か気づけばこの世界の魔王によって蘇らせられていたのである。
そして、蘇った世界には何故かレベルなどというシステムができており、クリファとナスターシャにもレベルが適応されていたのだ。
この世界の神々は、蘇った世界でも眠ったままであり、天界で水晶漬けになっている。
その理由はナスターシャやクリファ達もわからないらしい。
「まぁ、だいたいの経緯と、女神たちの狙いはわかったけど――。
結局なんで世界がゲーム化したのかは謎なままか」
私がコーヒーとミルクと砂糖をかき混ぜながら言えば
「そうなります。この背中の紋章も謎のままですし……」
と、やや疲れた顔でコロネも同意する。
「皆さん一度休まれてはいかがでしょうか?
大分顔色が悪いですし……」
と、げっそりした顔の私とコロネにリュートが言う。
まぁ、確かに連戦しすぎて疲れた感はある。小難しい事はまた明日にしよう。
すでにお菓子を食べながら寝てしまったリリを抱え、私はいそいそとリュートの用意してくれた部屋で休むのだった。










