128話 計画通り
絶望的な表情を浮かべる猫を見て――異界の女神ナスターシャは勝利を確信していた。
プレイヤーの仲間のNPC二人はすでに死亡し、ナスターシャの手持ちは天使3人。
それに対してプレイヤーは一人になったのだ。
もう勝ち目はない。
ナスターシャのレベルは850でとても猫まっしぐらに敵うレベルではない。
だからこそ、私をこの地におびき寄せ、守護天使を操り、殺すことにしたのだ。
クリファとナスターシャの召喚したプレイヤーおよび、守護天使には少し細工がしてあった。
自分たちの都合のいいように思惑誘導をかけていたのだ。
そしていざと言う時の為に操れるようにしていたのである。
守護天使たちには操れる魔道具を装備させていた。
巧妙に埋め込んだためプレイヤー達も気付かなかっただろう。
守護天使達にも思惑誘導でその魔道具には気づかないように細工をした。
レベルが200時にかけた思惑誘導だったがいまだ効果は持続していたようだ。
ファルティナがここに来るように誘導したのも、ナスターシャの筋書き通りファルティナにセリフを言わせたにすぎない。
もちろん、ファルティナはそのことに気づきもしていなかっただろう。
ファルティナのよかれと思って進言したセリフは思惑誘導でナスターシャに言わされていたものだった。
そして、天界のこの場所は本来神々の住まう地区なだけあって神であるナスターシャの力が強まる。
神々の祭壇はシステムの力には敵わないものの本来に近い力が発揮できるのだ。
こうして、自分よりレベルが高い守護天使も操れるし、姿を隠したり現したりできる。
守護天使達が戦ってる間は身を隠していればいいだけなのだ。
このプレイヤー達を倒すにはうってつけの場所。
そして全てが計画通りに進んだ。
守護天使達がプレイヤーを倒してくれたのである。
あとは本体である猫まっしぐらを倒せば、守護天使達も一緒に勝手に死んでくれる。
そして、勝利の笑を浮かべ勝ち誇ったその瞬間。
なぜか一瞬で守護天使たちが一斉に石化した。
「!??」
意味がわからずナスターシャが身を乗り出せば、猫がにやりと微笑んだ。
--まさか!?気づいていたのか--
ナスターシャが狼狽するが、
「神々すらをも凌駕するその力--」
男の声で、すべてを悟った。
声に振り替えれば、其処にいたのはーー死んだはずのエルフの魔道士とドラゴンの少女だった。
気づいた時にはすべてが手遅れだったのである。
すでにエルフの魔導士はほぼ詠唱を終えていたのだ。
ナスターシャよける間もなくエルフの魔導士の最大級の攻撃魔法をくらいあっけなく灰塵と化すのだった。
▲△▲
コロネの魔法で、ナスターシャはなすすべもなく消滅した。
神殺し魔法なだけあって、えぐい。
一瞬で消し炭になったのだ。
私は慌てて守護天使たちを、そのままアイテムボックスにしまいこんだ。
リリが見せてくれたナスターシャの記憶では身体につけたピアスの魔道具で操れるっぽいし。
一応何があるかわからないのでここではアイテムボックスに入っていてもらおう。
あとでコロネに魔道具をとってもらわないと。
「なんとか倒せた!!」
竜姿でコロネを背にのせ嬉しそうにリリちゃんが言い
「さすが猫様です」
と、杖を片手にコロネ。
もちろんきちんと右腕もついている。
――そう。彼女は私たちを誘い出したと思っていたようだが。
ファルティナの誘いが女神側の思惑だということは、私達は察していたのだ。
まず最初に疑念を抱いたのはファルティナのこの一言だ。
「もし、これが神々がコロネ様達に思惑誘導をかけたのだとしたら問題はありません。
神々が下界の者に心配をかけないように思惑誘導をかけることはよくあることだと聞き及びますので。
ですが、異界の女神や魔族が思惑誘導をかけたのだとしたら……」
この一言。明らかにおかしい。
何故ゲームの世界しか知らないファルティナがゲーム化前の知識があるのか。
sionの裏設定集にでも何か書いてあったのかとおもったが、それらしい記述はなかった。
疑問に思った私達がそれとなく守護天使達を探れば、微弱ながらなにかと魔力が繋がっていたらしい。
そしてコロネがかつてアルファーの記憶を見た時の女神達と守護天使達が会った時の記憶が一部、おかしい事。
どうも操られた形跡があったらしい。
そこでこっそり守護天使たちには内緒でそれとなく今後の方針を決めたのだが、何パターンか作戦を用意してから私たちはこの天界に挑んだのである。
リリとコロネが死んだふりをして、女神を倒すというのもその作戦のうちの一つだった。
レイスリーネの高火力技で死んだと見せかけて、ただ実はリュートの視線を使って瞬間移動でエルフ領に行っていただけなのだ。
ちなみにコロネが落とした右腕も昔予備に作った精巧な義手にすぎない。
ナスターシャが現れたその瞬間、私の視界を通じてコロネとリリがワープして倒したのだ。
女神がここで仕掛けてくるのはなんとなく予想はついていた。
恐らく守護天使を操るには条件が必要なのだろうと。
私たちを殺すのだったらセファロウス戦で守護天使を操っていれば簡単に殺せたのだし。
だからわざと誘いにのった。
保険の為、守護天使達には私とリリとコロネの意志で石化する魔道具をつけてある。
私がコロネに教わって作成したものなので、守護天使達にも効果があるはずだ。
ここに来る前に、通信用と偽って渡したあの腕輪は本当は守護天使達をいつでも石化できるようにしたものにすぎない。
――ちなみに。
私は顔に出やすいから!!という理由でついさっきまで作戦をたててたことすらリリちゃんに記憶を封じられてたんですけどね✩
うおーーーマジで死んだと思ったじゃないかぁぁぁぁぁ!!!
マジ焦った!!マジ悲しかった!!もう嫌だあんなの!!!
二人が死ぬとこなんてマジ見たくないんですけどぉぉぉぉぉ!!!
でも自分で立てた作戦だぁぁぁぁぁぁ!!
すぐ嘘がバレるからリリちゃんに記憶消したほうがいいと言い出したのも自分だよ!!!
怒るに怒れねぇぇぇぇぇぇぇ!!!
私がやり場のない怒りにのたうちまわっていると
「ネコやっぱりすごい!神様さえ倒しちゃう!」
と、人間の姿に戻りぴょんぴょん跳ねるリリちゃん。
「流石猫様!!魔族殺しの次は異界の神殺しの称号ですね!」
と、感動しだすコロネ。
いらない!そんな称号いらない!!
てか倒したのコロネだし!!!!
「ああああああ!!もういい二人とも!!」
「うん?」「はい?」
「とりあえず抱かせろっ!!」
言って二人を抱きしめる。
「ネコ?」
「猫様?」
リリとコロネがきょとんとするが、知らない知らない聞こえない。
死んだと思って超悲しかったとか。一人になって心細かったとか、絶対言えない。
私が何も言わなくても二人とも察したのかぽんぽんと背中を叩いてくれる。
うん。もうこの作戦はできればとりたくない。
私は心から思うのだった。










