112話 イチかバチカ
「みーーつーーけーーた」
そう言うレオンの声は……以前の声とは程遠く、何故か何人もの人物が一斉に声をあげたかのようなしわがれた声だった。
ゾクリと、嫌な感覚が私の背中を伝う。
――こいつ強い。
私は本能的にヤバイ敵と判断するが、このままにしておくわけにもいかない。
とりあえず、なんとかしないと。
「エ…る…ふ……NPCのエルフど…こだっ!!」
魔獣になったレオンがカタコトになった言葉で吠えた瞬間。私に無数の虫が襲いかかってくる。
レイド戦ではかなりお世話になった全体攻撃だ。
弱い虫が攻撃や詠唱をかたっぱしから邪魔してくるという、エグイ攻撃だが。
しかし、糸の攻撃はレベル補正無効にできる技が結構ある。
虫くらいなら余裕で倒せるだろう。
私はすぐさまトラップマスターのスキルを駆使し、虫を一匹残らず駆逐すると
「コロネのことかっ!!」
レオンに叫ぶ。すると、レオンが気持ち悪いくらい恍惚な笑を浮かべ
「コロネだ…せ…ごう、もん……こんど、こそ……いのち、ごい…させる」
カタコトで返事をする。
うん。コロネってレヴィンとかレオンとかなんでこんな変な人達に人気なんだよ。
モテモテだね!!まったく羨ましくないけど!
どうやら、あの時コロネに殺された恨みからか、コロネへの執念をこじらせたらしい。
殺されたリリにではなく、コロネに執着する時点でその気のあるやつだったのだろうか。
てか、なんでこいつセファロウスと合体してんだよ。女神に何かされたのか。
とにかく、このコロネへの困った執念を利用しない手はない。
私はすぐさま念話で守護天使とコロネ達に指示をだす。
復活の使えるファルティナとリリとコロネは魔道具で姿を隠したままそのまま待機。
アルファーとレイスリーネは私のサポート。
私の指示と同時に、翼で空からかけつけたアルファーとレイスリーネが私達の戦いに参戦した。
「ぢがう!おまえぢがう! えふる出せ!!」
と、舌や光線を乱れうちしまくり、レオンが叫びながら私とアルファーに攻撃してくる。
レイスリーネはガン無視だ。
うん、男だけかよ。それだけコロネに執着してるということか?
なんつーか、どこまでレオンは意思があるのだろう。
もうコロネ大好きマンにしか見えない。
『炎天飛翔槍!!』
レイスリーネの放った一撃が、レオンの顔面に直撃し――ぶしゅぅぅっと変な音をたてた。
が、一度潰れたかのように見えたレオンの顔は再び再生する。
「いだ…い、いだ…い、お前ゆるざない!!」
と、レオン。
私をメインに狙っていたレオンの攻撃がレイスリーネに向かう。
――っち!!私が瞬間移動でカンだけで躱してる攻撃をレイスリーネがよけられるか!?
思った瞬間。
ごすっ!!
やはりレベル100差の壁は厚かったようで、レイスリーネの身体をレオンの舌が貫いた。
「レイスリーネ!!」
私はすぐさま瞬間移動でその場に飛び、その舌を、レベル補正無効にできる技で切り裂き、その体を抱きかかえる。
「猫様!!危ないっ!!」
レイスリーネを抱えて無防備になった私に攻撃してこようと伸ばされた舌を、アルファーが片っ端から剣で薙ぎ払った。
ああ、うん。ヤバイ。
なんとかアルファーのおかげで助かったがいまのはマジやばかった。
生き返られるんだから咄嗟に庇うクセはやめないと。
私はレイスリーネを石化させ、そのままアイテムボックスに仕舞い込む。
うん。ごめんね。あとでちゃんと回復させるから。
sionとかにアルファーは他の守護天使より強いと言われていただけあって、レベル差によるスピード差があるにも関わらず、なんとか迫り来る攻撃をすべてなぎ払ってくれている。
アルファーが時間を稼いでくれているうちに私もトラップを完成させないと。
あまり長引けば、心配で待ちきれないようすのリリとコロネが参戦してきてしまう可能性もある。
あの二人我慢たりないし。
アルファーが時間を稼いでくれている間。攻撃を避けているふりをして私はそれを完成させた。
――そして。コロネに合図をおくったその瞬間。
「くっ!??」
攻撃の一つを躱しきれなかったアルファーの身体が、レオンの舌に絡め取られる。
「アルファー!?」
私が向かおうとするが、魔獣の体中にある顔の目が見開き、私に魔法を打ち込んでくるため、うまくいかない。
「あ”あ”あ”、ごろず…なぶりごろず……」
レオンが残忍な笑を浮かべ
「うあああああ!?」
激痛に悲鳴をあげるアルファー。
舌に物凄い力で巻き上げられ、アルファーの体からミシミシとありえない音が響き、悲鳴をあげる。
「あ”あ”あ”いい、くる・・しめ・・もっと…ひ・・めい」
言いつつ、アルファーを絡めた舌に更に力を入れようとしたその時。
「相変わらず、自分より弱いものを痛めつける事でしか自尊心を満たせないようですね。
浅ましい」
私よりやや後方から、声が聞こえる。
攻撃を掻い潜り振り向けば――ーそこには白龍のリリに乗った状態で、コロネが立っているのだった。
▲△▲△▲△
「あ”あ”…ゴ ロ ネ」
まるで恋する乙女のような表情をしたレオンがコロネの姿を見つめ――ぽいっと舌に巻いていた、アルファーを捨てる。
力なく落ちていくアルファーを私は受け止めた。
魔獣レオンがコロネに夢中で、私に対する攻撃も止んだのだ。
ファルティナからアルファーに回復魔法が飛び、一気に回復させる。
「随分醜い姿になりましたね。
大方、女神に騙されて魔獣と合成されてしまったという所でしょうが――」
コロネが何か言おうとするが――レオンはそれを遮り
「ゴ、ロ、ネ ●●●!!!▲▲▲!!」
エグイ拷問方法の単語を連発し、コロネに猛突進で突っ込んだ。
途端
びしぃぃぃぃ!!!
私の張り巡らせた罠が作動した。
魔獣レオンの身体に糸がまとわりつき、その身体を容赦なく切り刻みあらゆるところから血が吹き出す。
「い だい いだ い!!」
のたうち回る魔獣レオン。
うん、やべぇ。こいつ馬鹿だ。
何の考えもなしに、突っ込むかな普通!
そんな、のたうち廻るレオンにコロネは今まで見せたことのないほどの冷たい笑を浮かべ
「いい気味ですねレオン。
どうですか、あれだけ小馬鹿にしたNPCごときに痛めつけられる気分は?」
「ぎ ざ、ま……っ」
「ああ、いいですね。その表情。
それですよ……私が望んでいたのは……。
あんな哀れみに満ちた顔で、助けを求めるみっともない表情より大分マシですよ?
それでこそ、痛ぶりがいがあるというものです!!
ああ、どうせ復讐するならこうでなくてはっ!!」
コロネが手を掲げ、恍惚とした表情でレオンを見下ろす。
……うん?
あれ、おかしいぞ。うちのコロネってこんな子でしたっけ?
正直セリフだけ抜粋すればどっちがレオンでどっちがコロネかわらかないよこれ。
やばい。もしかしてこれドS同士の戦いなのか!?
「ぢが・・うっ!!いため・・・つけるぼ・・くっ!!」
レオンが吠え――その口をバッと開く。
このモーションは魔獣セファロウスの最大攻撃、吐息のブレスだ。
途端私に抱かれていた状態のアルファーが復活の呪文の詠唱にとりかかる。
アルファーが行動にうつったということは、どうやらここまではコロネの作戦通りらしい。
『リリ様っ!!上へ!!』
コロネはそうリリに指示をだすと――ブレスを放とうとする、その魔獣レオンの口に――そのまま突っ込むのだった。
▲△▲△▲△
ブレスに、コロネの身体が焼かれる。
レベル200差のボスモンスターの最大攻撃にコロネが耐え切れるはずもなく、その身は跡形もなく消え――そして間をあけずに復活する。
本来なら、そのまま死ぬはずだが、復活の指輪は少しの時間だけ無敵状態になる時間がある。
コロネはそれを利用し、さらに口の奥底まで風の魔法を身にまとい突っ込んだ。
「んなっ!!」
コロネを飲み込む形になったレオンは驚きの声をあげ……そして体内が爆発した。
コロネの自爆魔法によって。
最大攻撃のあとはボスは防御力が一定時間低下する。その瞬間を狙ったのだろう。
「んがぁぁぁぁぁぁあ!!」
体内からの爆発の痛みに耐え切れなかったのか、レオンが悲鳴をあげる。
アルファーが呪文でコロネを生き返らせ、間入れず再び自爆する。
「んががぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
魔獣の身体が、見るも無残に肉片が飛び散っていく。
魔獣は何ども大きな爆発が体内からおき、回復が間に合わない。
これなら行けるか!?
私がそう思った時――自爆攻撃で精神防御まで手がまわらなくなったのかコロネの思考が念話で直に頭にはいってくる。
あと一回、自爆魔法をすれば、心臓核にたどりつける。
……そして、どんな手段を用いても心臓核は壊せない。
なら復帰する細胞にコロネ自らの身体を飲み込ませ――硬質化のスキルで心臓核もろとも硬質化し自分もそのまま朽ちよう。
それが、コロネの作戦だった。
アルファーもコロネの思考を読んだのだろう、はっと私の顔を視る。
……あんのやろうっ!!騙しやがったな!!
私には心臓核を壊すとかいっておいてはじめから死ぬ気満々だったんじゃないか!!!
私がすぐさま瞬間移動でコロネの元に行こうとするが、視界をアルファーに遮られる。
…っちっ!!
どうやら守護天使には話を通してあったらしい。
私とリリが邪魔しないようにフォローするように頼んであったのだろう。
『ネコッ!! コロネがっ!!』
同じく思考をダイレクトに受け取ったリリが悲鳴をあげる。
リリの前にもファルティナがいて視界を防いでいる。
くっそ!!あの馬鹿っ!! もちろん死なせはしない。
言ったはずだ絶対守るって!!
たとえ本人が嫌がったとしても!!
私はイチかバチかのカケにでる。
念話でコロネの思考をそのままうけとって――そしてスキルを行使した。
コロネの視界での瞬間移動を。










