103話 簀巻き
「大丈夫ですか?」
のぼせてしまった私にコロネが水を持ってきてくれる。
……うん。一人で風呂に入って、考え事をしてしまったためのぼせてしまった。
ちょっと情けないというかなんというか。
パジャマに着替えて横になっているが、頭がクラクラして仕方ない。
久しぶりのお風呂で身体が慣れていなかったらしい。
コロネが冷たくしたタオルをおデコや首筋においてくれた。
「あー、ありがとうコロネ。気持ちいい」
私が言えばコロネはにっこり微笑んで、そのまま手を私にかざす。
手から冷気が流れてきて気持ちいい。
風魔法か何かの応用なのだろうか。
身体が女のせいかコロネが随分大きく見える。
私の男の時の身長が高すぎるせいでコロネが小さく感じていたが……こうやって見ると結構たくましいんだよねコロネって。
魔導士タイプのわりには筋肉質っていうか。
「お風呂好きなのはわかりますが、あまり無理はしないでくださいね」
と、コロネ。
「あー、うん。ごめん。ちょっと考え事してたら長くなった」
「考え事ですか?」
「うん。これからどうしようかなーと。
他のプレイヤーに占拠された所を解放しても内政できる人がいないし」
「ああ、なるほど。
ではそうですね。旧クグガーナ王国領だった神聖マルティウス王国はどうでしょうか?
あそこは旧王族達が魅了されて操られている状態です。
プレイヤーから解放されればあとは監視を二、三人おけば大丈夫でしょう」
「へぇ。魅了なんてあるんだ」
「はい。国の男性全員が魅了されています。
攻略本にはありませんでしたがプレイヤーのスキルでそういったことが出来るのでしょうか?」
「えー。男性限定?
そんなスキル知らないけど」
「………ということは、女神が何か助力をしているということでしょうか?
ある一定の地域に入ってしまうと男性が魅了されてしまうようです。
私の密偵の一人も魅了されてしまい取り巻きの一人に加わってしまっています。
密偵はハーフとはいえエルフです精神防御が高いはずなのですが」
「えええ、じゃあ下手したらコロネも私も男性姿だと魅了されるかもってこと?」
「そうですね。一度試してみたほうがいいかもしれません。
魅了されてしまうようなら、リリ様に強引に地域外にだしてもらえばいいわけですから
まずは私で試しましょう」
「でもコロネが全力でかかってきたら、わりとやばくない?」
「入る前に猫様の罠で捕縛された状態にしていただければいいかと」
「あー、うん。そっかなるほど」
簀巻きにされているコロネを想像し、ちょっと吹きそうになるけど黙っておく。
コロネもそれを察したのかにっこり微笑むがそれ以上は突っ込んでこなかった。
「にしても、マルクさんに聞いたけどコロネの密偵ってみんな孤児院の子達なの?
コロネがハーフエルフの子供達をひきとったんだよね?」
私が聞けばコロネが苦笑いして
「はい。私はそれぞれ好きな道を歩むようには言ったのですが……。
あの子達が成人した時にはまだ、前国王の時代でハーフエルフの迫害が続いた状態でして。
ですから人間に変装して各地を放浪する密偵になりたいと本人たちが申し出ました。
エルフ領では暮らせませんし、歳をとらないハーフエルフでは人間領に一箇所にとどまるのも難しいですから」
「ハーフエルフ差別ってリュートのお父さんが原因なんだっけ」
人間に愛する妻を取られたことへの恨みだろうか。
「はい。以前も多少はありましたが、あそこまで酷くなってしまったのは前国王です。
……ですが、それもどうやら魔族が絡んでいたようですが」
「え?そうなの?」
「はい。前国王はまだ生存しています。
セズベルク達を操っていた魔族を倒してすぐに、リュートに謝りにきたそうです。
まるで人が変わったかのようだとリュートから報告がありました。
セズベルクが思惑誘導を受けていたところをみると、国王も同等の事をされていたのかもしれませんね。
結局は私たちは魔族の手のひらで踊らされていただけだったのでしょう」
言うコロネの顔はどこか儚げだった。
マルクさんの話ではコロネはハーフエルフを迫害する国王にかなり逆らったらしい。
殺されそうになったリュートを引き取ったり、ハーフエルフの子供たちを全員孤児院を建てて引き取って、生贄に捧げられそうなところを助けたり。
さすがのエルフの国王も大賢者であるコロネには手出しできなかった。
だが、それなりに嫌がらせはしてきたらしく、コロネは金策にかなり苦労したとか。
人間領向けの魔道具をやたら作っているのも、子供たちや迫害されているハーフエルフ達を養う目的もあったらしい。
エルフ領では村八分状態だったため、人間相手に商売をするしかなかったのだろう。
それが魔族のせいだったと知れば心中かなり複雑なものだろうが……。
やっぱりそこまでハーフエルフに思い入れがあるのはテオドールがハーフエルフだったからなのかな?
と、チラリとイベントでみたテオドールを思い出す。
あの時のコロネの心はかなり動揺していた。
コロネが動揺を隠せないくらい、彼はコロネにとって大事な存在だったのだろう。
そこまで思い入れのある親友関係ってちょっと羨ましいかな。
「大分身体の熱もとれてきたでしょうか?」
コロネがふいに頭にのせた濡れふきんをとり、額に手をのせる。
「あ、うん!?だいぶよくなったかも!」
と、慌てる私。
ちょっと待ってほしい。女の身体の時はそういうことされるとすごい照れるんだけど!
わりと手大きいんだよな。や、自分の男の時の手のほうがおおきいのか!?
いや、でもごついのはコロネ!?いやいや私の男の時か!?
や、体温があったかいんだけど!?って当たり前か!?
私があわあわしていると、
「熱いですね。もう少し冷やしたほうがいいかもしれません」
と、コロネが真剣な顔で言うのだった。
△▲△
ああ、死ぬかと思った。
結局あのあと。私は速攻で男の姿に戻った。
女の身体だとどうもコロネを意識してしまうからだ。
……やばい。自分でも驚くほど男性耐性がなかった。
引くわーまじ引くわー。
男性耐性もスキルで身につかないものだろうか。
手置かれただけで、テンパるってどういうことなの。
男の身体なら平気なのになぁ。
私は大きくため息をつくのだった。










