101話 プログラム
レヴィンや探索のためのエルフ達のレベルを上げたあと。
私たちはもう一度聖水の湧いていたダンジョンに潜ることになった。
というのも、まだ探索してない部分があるからだ。
エルフ達に行ってもらうにしても危険な場所があるのはあまり好ましくない。
ちなみにアルファーはまだ帝国領に残っていてもらっている。
「これがあの時リリ様が押したボタンですね?」
ダンジョンの奥底。洞窟内の神殿でコロネが興味深そうにリリが押した赤いボタンを眺めている。
「これ押したらどうなるのかな?一応ガーディアンっぽいチビコロネは石化したけど」
私が言えば、コロネは困ったような表情になる。
「押したいんだろ?」
私が言えばコロネがぐっと唇をかんだあと、
「そうですね。
恐らくここが、レベル300で受けられたクエストのエルフ達の秘密に該当する何かなのでしょうが……
辞めておきましょう。
システムという未知の力が働いている可能性が高いですから。
あの子供の時も、システムが作動する前は、猫様の攻撃すら防ぎきりました。
下手に手を出せば、収集がつかなくなる可能性があります」
言って目頭を抑える。
まぁ、確かに。
本来あの罠は一度かかれば解ける事など決してない。
罠が不発に終わるか、罠にかかるかの二択なのだ。
罠にかかったあとぶち切るなどという事ができるのは本来ならありえない。
何か特別な力が働いたのは確かだろう。
というか、たぶんシステムが適用されてなかったと考える方が無難かもしれない。
「じゃあこの部屋は他の人が入れないように封印するしかないな。
聖水をとりにきて間違って入らないように」
私が言えばコロネが頷いた。
「はーい」
と、リリちゃん。
そして、一歩歩いて足をとめる。
「ん?どうしたリリ」
私が言えば、リリちゃんが、足元の土を掘り出した。
「どうした?」
「何か堅いもの踏んだ」
言ってリリが取り出したのは……石のような素材で作られた一冊の本だった。
△▲△
「これは……ゲーム化以前の文字です」
本を開いて中を読むコロネが興味深そうに本を読み始めた。
「なんて書いてあるの?」
「この世界に異界の神々が侵攻してきてからの、日記のようですね」
「へぇ。じゃあ本来の歴史がわかるかもしれないのか?」
私が言えばコロネがはいと読みながら頷いた。
「……しかし、わかりませんね」
コロネが本をめくりながらため息をつく。
「ん?何が?」
「過去の歴史を知ることがタブーなのだとしたら、私から過去や文字の記憶を消去すればいいと思うのですが、それすらしていない。
ここに入ることも出来ないようにする事もできたはずです。
このような過去がわかる本を何故残したのか。
私とリリ様が知ってしまった歴史とは一体なんだったのでしょうか。
それとも記憶が消えたのは……何か別の理由だったのでしょうか」
言ってコロネが日記に目を通す。
まぁ、言われてみれば確かに。
過去の歴史を知られたくないならここ閉鎖して、コロネからゲーム化前の記憶をとっぱらえばそこで終了な気もしなくもない。
まぁ、この記憶を奪ったのが異界の女神達という可能性は低いだろう。
それなら全部記憶を奪って、廃人状態にしてしまえばいいだけの話だし。
コロネとリリは一体あの映像の中から何を見てしまっていたのだろうか?
「猫様の記憶では――私は何かと会っていたようですが、それが関係しているのでしょうか?」
コロネの言葉に私はあの時の事を思い出す。
まるでコロネを拒むかのような鋭い感覚。
精神世界とは違うまた別の何か。
はじめての感覚のはずなのに――なぜか懐かしいと感じてしまったあの空間。
あそこにいた存在は一体何だったんだろう?
「それにしても――システム復元の鍵が、コロネだったところをみると、オリジナルのコロネはシステム化に関わっていたとみるべきだよな」
私の言葉にコロネも頷く。
「恐らくは。
それならばあの子供のレプリカも説明がつきます」
「だとしたら、あそこにいたのはオリジナルのコロネだったのかな?」
私の問いにコロネが考え込み
「――システムの中核に私のオリジナルがいるということですか?」
「そうそう。アニメや漫画じゃよくあるパターンだろ。
自分の脳をデータ化してシステムそのものになってるとか」
「……なるほど。面白い考えですね。
脳をデータ化ですか。
それでは私もプログラム言語を学べばシステムに干渉できるのでしょうか?」
真面目な顔でコロネが言う。
「プログラム言語なんてよく知ってたな?」
「何人かプレイヤーの記憶をリリ様に送っていただきましたからね。
猫様の世界の事はある程度わかるようになりました」
「あー。なるほど」
「それにしても……。
私個人としてはいろいろ、試したい事はありますが……。
流石に興味本位で試すには世界に与える影響が大きすぎます。
とりあえず、この部屋は封鎖しましょう。何があるかわかりませんから」
言ってコロネは名残おしそうに遺跡を見つめるのだった。










