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98話 精神的被害者

「これは一体どういうことですか」


 パジャマ姿でこめかみを抑えながら、コロネが尋ねる。

 コロネのベッドの上には所狭しと、魔法少女リンリンの号外の記事が置かれていた。

 サーカスの悪事を滅した正義の使者だのコロネ様の使いだのいろいろ記事には盛り込まれている。

 あのあと、サーカスで悪党退治を終えた私達は再び夜に魔素を吸って、次の日城に戻ってみればコロネに速攻呼ばれた。

そして呼ばれるなり怖い顔をしたコロネが部屋で待ち構えていたわけで。


「えーっとこれにはいろいろ事情がありまして」


 私がしどろもどろに言えば、


「どのような事情か教えていただきたいのですが」


 じろりと睨まれる。

 あまり怒る事がないせいか、ちょっとすごむといつになく怖い。

 ちなみにリリちゃんは怒られることを察したのかレヴィンと遊んでくる!と脱兎のごとく逃げてしまった。

 くぅ、わりと世渡り上手だなリリちゃん。


「えーーと、この件につきましては、私は本当見ていただけというか、首謀者はレヴィンでありまして……」


 しどろもどろに説明する私。


 う、うん!嘘はついてないよ!私今回なにもしてない!

 ノータッチだ!

 むしろいたたまれない、気持ちになって精神的ダメージを負った分被害者だ!


 コロネがジト目で私を見つめた後。


「……ああ、あれは優秀でしたが、悪ふざけをする癖があるのを忘れてました。

 そうですね。ではあれから話を聞くことにしましょう」


 言って大きくため息をついた。


「うん。やっぱりこれってまずかったのか?」


 私が聞けばコロネは疲れた表情で


「この国の王族の何人かに、人心を集め、私が王位を狙っているのではという疑念を抱かれてしまったようです。

 テオドールのいない人間領など興味などないのですけれど。


 ……ああ、猫様達にそのような輩を会わせる事はしませんので安心してください」


 言ってため息をつき


「さて、では説明してもらいましょうかレヴィン」


 と、コロネが私の後ろに話しかければ


「流石コロネ様。私がいるのがよくわかりましたね」


 何故か背後からレヴィンが出てくる。

 って、マジか!?気配まったく感じなかったんですけど!?

 流石職業隠密だけあるわ。

 マジ気配消すのうまい。


 慌てる私など他所に


「何故このような事を相談なくしたのですか?

 このように目立てば、私の立場が危うくなることは貴方なら容易に想像がついたでしょう?」


「はい。立場が危うくなって、猫様たちに危害がいかないようにコロネ様がこのまま帝国領から手を引く事まで想像はできております」


 と、ニッコニコ顔でレヴィン。


 ……うん。なにげにヘビーなことをサラリと言っているような気がするのは気のせいだろうか。


 コロネは大きくため息をついて


「私はあなたを信用しすぎていたようです。

 猫様にお聞かせする話ではありません、その話は後にしましょう」


 コロネが言えばレヴィンは首を横にふり


「そうやって、面倒事から猫様たちを遠ざけて守っているつもりかもしれませんが。

 いつまでも貴方が猫様やリリ様を守れるとは限りません。

 きちんと本人達にも現実を知らせるべきです。

 

 貴方たちは人が良すぎます。

 人間領でそのような行動をとっていれば利用され捨てられるのはコロネ様ならわかっているはずです。

 今だってそうではありませんか。

 既に貴方を排除しようとする動きがあるのに気づいていないわけではないでしょう?

 国を救った直後でこれですよ。そんな薄情な人間達のために何故貴方が苦労せねばならないのですか?」


 真剣な顔で答えるレヴィンをコロネが無言で見つめる。


 うおおお。なんだろう。やばいこの空気。

 

 私がコロネとレヴィンの会話に入れずたじろげば


「……貴方の言いたい事はわかりました。

 ですが、後にしてください。

 今日は議論はしたくありません。その件は体調が回復してから話しましょう。

 まだ薬の影響か思考がよくまとまりません」


 言う、コロネの顔色は確かに悪い。


「……わかりました。

 ですが、私はこれ以上この国に関わることは推奨できません。

 確かにテオドール様の治めた地をなんとかしたいという貴方の気持ちもわからないわけではありませんが。

 あとは人間達でなんとかなるはずです」


 言って、レヴィンは一礼して部屋を後にする。

 私が出ていったレヴィンを見送りながら


「えーっと、コロネ、そんなに嫌がらせ受けている状態なのか?」


 と、聞けば


「いえ、あれは大袈裟に言う癖がありますから。

 猫様はお気になさらずに」


「あー、でもそんな嫌がらせ受けてるなら自分があんまり逆らうなら国乗っ取るぞと脅せば……」


 と、私が言えば、急にコロネに腕を掴まれ、引き寄せられる。


 ……へ?


 顔を近づけられ聞かれ、私は思わず赤面した。

 いや、なんだこの近い状態は。


「私は猫様にとってそれほど頼りにならない存在でしょうか?」


「い、いやそういうわけじゃ」


「でしたら、少しは私に頼っていただけないでしょうか?」


 言うコロネの顔は物凄く真剣で。

 少しドキリとするが――それ以上に。


「もちろん信用してるし任せてる。

 でも、無理はしてほしくない」


「無理をする気はありませんので」


 にっこり微笑むコロネの顔は何時ものコロネで。

 それでも、どこかいつもと違う。

 私は思った事を口に出していいのか迷う。

 コロネにいつもの余裕がないような感じもするのだ。


 けれど出かかった言葉を私は呑み込んだ。

 なんとなく今その言葉を言ったらコロネを傷つけてしまう気がしたから。


「うん。わかった。じゃあコロネに任せる。

 コロネならうまくやってくれるだろうし。頼む」


 言えば、コロネはにっこり微笑む。


 リリちゃんと親睦をとることにばかり気を取られていたけど、私はコロネを頼りにしているということを伝えておくべきだったのかもしれない。

 頼りにしてたから、コロネにもそれは自然に伝わっていると思っていた。

 いつも私が意見を言えば、それに添う形でいろいろ用意してもらう事がいつの間にか当たり前になっていて口に出してちゃんと感謝を言うのを忘れていた。

 思っているだけじゃ伝わらないのだ。

 どこか余裕のないコロネを見つめ――私は反省するのだった。


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