閑話3:夢【コロネ視点】
「またな。コロネ」
そう言って彼は、ゆっくりと背を向けた。
いつもと変わらないはずなのに、ここで彼と別れれば二度と会えない。そんな気がして。
「待っ……」
彼を呼び止めようとすれば、ガシッと突然足を掴まれる。
「え……」
コロネがふとその足を見れば。
「何故私を見捨てたのですか。師匠」
と、血まみれのリュート王子。
そして、コロネの知る人物達が、まるで底知れぬ闇にコロネを引き込もうとしている。
見捨てた?何の事だ。
心当たりのないセリフにコロネが眉根をよせるが――
「はやくおいでよ。今度はどこから潰してあげようか?喉かな?目かな?」
と、その後ろにはニマニマした笑顔のレオンが現れる。
「――なっ!?」
コロネが構えようとするが身体が動かない。手も足もすくんで動けないのだ。
「随分生意気な口を聞いてくれたじゃないか。
本当は、僕の事が怖くて、口すらろくにきけないはずなのに」
言ってレオンが残酷な笑を浮かべる。
――そうだ。彼の言うとおりだ。
生き返った時。コロネは廃人同然だった。
受けた拷問の恐怖からか、口すら利けなくなっていたのだ。
人を極端に恐れてしまうようになり、部屋の片隅でただただ恐怖に震えることしかできなかった。
マルクに呼ばれて迎えにきてくれたコロネの密偵のケイトが直近一年間の記憶を忘れる魔道具をつけてくれるまでは。
デスペナでレベルが下がった事で精神面で弱くなってしまったのか。
それともレベルが下がらない状態でもああなってしまっていたのかはわからない。
だが、レベルが下がっていなければ、レベル50のグラッドが作った記憶忘却の腕輪は効果がなかっただろう。
レベルが下がったのは幸いともいえた。
冷静に恐怖と向き合える時間ができたのだ。
もし、あの時あの腕輪をしていなければ、自分はいまもただ、恐怖に怯えるだけの廃人だっただろう。
忘れる事で全てから逃げたのだ。
そう――全てから。
全て忘れてなかったことにした。
全て?何を忘れた?
自分は忘れてはいけない何かを忘れている気がする。
いや、それは本当に自分なのだろうか?
オリジナルの記憶ではないだろうか?
そもそも。本当に自分はどこからが自分だったのだろう。
昨日の記憶さえ、実は仮初なのではないだろうか。
自分は誰なのかそれすらわからない。
「思い出させてあげるよ。この僕が」
まるでコロネの心を読んだかのようにレオンが残酷な笑を浮かべ、ノコギリを片手にこちらによってくる。
逃げようにも身体がすくんで動けない。
何ども痛めつけられ、死んでもまた生き返らせられ痛めつけられる。
死ぬことすら許されない。
死ねるということがどれほど幸せな事なのか。
あの時ほど死を望んだ事はなかっただろう。
絶望しかないその恐怖に身がすくむ。
助け――
コロネが助けを求め手を伸ばしたその瞬間。
「おいっ大丈夫かコロネっ!!!」
猫に肩を揺すられ、現実に引き戻された。
「え……」
どうやら、猫に抱かれてウトウトしている間に夢を見ていたらしい。
身体は寒いはずなのに、体中汗だくになっていた。
「大分うなされてたぞ?大丈夫か?
もすぐリリ達が医者を連れてくるからそれまで我慢してくれ」
と、気が付けば猫がコロネの背中をさすってくれていた。
……ああ。夢か。
猫の身体に顔をうずめ安堵する。
ぬくもりが温かく気持ちがいい。
「はい。大丈夫です」
コロネが答えれば、猫が安堵した表情になる。
そうだ。彼はここにいるのだ。
なのに何故自分はこの人が居なくなると思ったのだろう。
もう、彼と離れる必要などないのだ。
そこまで考えてコロネはふと疑問に思う。
彼?彼女ではないだろうか。
意識が朦朧として考えがまとまらない。
そもそも自分はどんな夢を見ていたのだろう?
「すぐリリ達が医者を連れてきてくれるから。
それまでゆっくり寝ておけよ」
そう言って背中をさすってくれる猫の手が気持ちよくて。
コロネは再び意識を手放すのだった。
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