90話 カシューのクエスト
「この洞窟に入るときに唱えた呪文ですが……
あれは私とテオドール、そしてグラッドが幼い時に3人で作った秘密基地に入る時の合言葉と一緒です。
3人で適当に言葉を組み合わせて考えた言葉でした。
……おそらく、この洞窟の入口を作ったのは、グラッドのオリジナルでしょう。
既に壊れて作動しなくなっていましたが、あの入口の前には、扉を認識できないように幻覚を施す魔道具が置いてありました」
グラッドの墓の前で。
コロネはしゃがみながらそう告げた。
「……えーと、つまり?」
リリがよくわからないようで小首をかしげる。
「1000年前。異界の神と神々の戦いが起きたとき、何かしらの理由で世界は滅んだのだと思います。
そして、神々は滅んでしまった世界を再生させた。
理由はわかりませんが、神々は再生させたときに世界をゲーム化したのでしょう。
今まであった世界をそのまま手本とした世界をゲームとして復活させた。
以前そこに存在していた人間やエルフの記憶を植え付け、NPCとして記憶と役目をあたえ……それをそのまま世界に適用させた。
ですから、この墓に眠るグラッド達がオリジナルで、いま生きているグラッドやサラたちは偽物、猫様の世界の呼称で呼ばせていただくならレプリカです」
と、コロネ。
確かにそれが今のところ一番しっくりくる。
それならばここに墓があるのもうなずけるのだ。
「うーーん。よくわからないけど、じゃあ、リリの友達のサラ達 死んでない?無事?」
リリが小首をかしげながらコロネに聞けば
「はい。リリ様が遊んでいるサラやロロ、ルーベルトは死んでいませんよ」
と、コロネが答え
「よかった!!!リリと仲良しのサラ達無事!!」
と、にっこり笑う。コロネは一瞬面食らったような顔をしたあと
「………そうですね」
と、ニコニコ顔のリリの頭を撫でてやった。
「うん。そうだな。
仲良くなったのは今のサラ達だもんな」
言って私もリリの頭を撫でてやる。
コロネには……正直なんと声をかけていいのかわからなかった。
自分が本当は作り物だと知ったら、自分ならどう思うだろう?
わりといまなら、別にそれでもいいと思ってしまうのは所詮人事だからなのか。
それとも実際もしそうなら落ち込んでしまうのか。
自分にはよくわからなかった。
コロネはどんな気持ちなのだろう?
私がそんな気持ちでコロネを見ていれば彼はリリににっこり微笑んだ。
「ですが、リリ様、このことは他の誰にも言ってはいけませんよ?
私たちだけの秘密です」
と、コロネがしーっと指をたてて口元でやれば、リリが「おぉぉっ」と目を輝かせて
「秘密!
大丈夫リリ絶対秘密守る!」
と、ふんむーと言わんばかりにガッツポーズをとるリリちゃん。
少しコロネの表情が緩むのがわかった。
こういう時、無邪気な子供というのは強いのかもしれない。
「探せば、私のオリジナルの墓もどこかにあるのかもしれませんが、今はそれよりも聖水を優先しましょう」
と、コロネがポンポンとローブの汚れを払う。
「ああ、そうだな」
「ああ、ですがピンクスライムとブルースライムは是非一度、倒してみたいですね。
古文書や日記などは今でもドロップするのでしょうか?」
そう告げるコロネの顔は……いつもの好奇心旺盛なコロネの表情に戻っていた。
△▲△
「エルフの日記はドロップしませんでしたね」
墓地を抜けたその先の通路で、わらわらと湧いたピンクスライムを問答無用で魔法で全部ぶっぱなしたあと、宝箱を物凄い勢いで開けていたコロネが落胆したかのように言う。
「まぁ、クエストアイテムはクエストを受理してないとドロップしないしな」
「では今からカシューのところへ!!!」
どこかへ イソイソと行こうとするコロネの首根っこを掴むと
「もう死んでるだろ。300年前の話だぞ」
「それならば、子孫の所へ行きましょう何か所持しているかもしれませんっ!!」
「君は本来の目的を忘れてないかなー?」
と、私がコロネに凄めば、「まさか、ははは」と露骨に視線を逸らした。
うん、こいつきっと忘れてたわ。
「あ、コロネ!あっちにもピンクスライム」
リリが言うと笑顔で問答無用で魔法をぶっぱなすコロネを見つつ、元に戻ってよかったんだか、悪かったんだかと私は頭をかかえるのだった。
△▲△
「結局ドロップはありませんでしたね」
聖水の泉の前で鎮座するブルースライムを倒してコロネが落胆したかのように呟いた。
うん。本来の目的はその奥の聖水の泉のはずなのだが、コロネの中ではすっかり、過去に何があったかの方に興味が移ってしまっている。
探究心が強いのはいいことだが本来の目的を忘れてるのはいかがなものか。
「ねーねーネコ、この泉が全部聖水?」
「ああ、そうだ。これダンジョン産だから消費してもまた湧くと思うんだが」
私が覗き込みながら言えば
「そうですね。後で検証してみる必要があります」
とりあえず今は持てるだけ持って帰りましょう。コロネが言って、モンスターの皮でつくった水筒をいくつも取り出した。
一応魔道具で見かけよりずっと量が入るらしい。
「に、しても、国中に配る量を私たちだけで運ぶっていうのはキツイものがあるな」
私が言えばコロネは頷いて
「そうですね……エルフの騎士のレベルを上げて彼らに頼んだ方がいいかもしれません」
「人間の領土の事をエルフに頼めるのか?」
私がふと疑問に思って言えば
「あまりいい顔はされないと思いますが……。
人間のレベルを上げるくらいなら、と引き受けてくれるでしょう。
それなりの報酬はもちろん人間に請求させていただきますが」
「なら確かにエルフのほうがいいな。
人間だとどうしても寿命が短いし」
などと、コロネと私で話していると
「ネコー!こっちの扉は何があるのー?」
と、泉の奥に扉を発見してリリが叫ぶ。
「ああ、そこは人が住んでいた形跡の遺跡があったはずだけど……
とくにめぼしいものはなかったはずだが」
「遺跡ですか!?」
「……行きたいのか?」
私がジト目で睨めばうっという表情になる。
が、好奇心には勝てなかったようで
「猫様、今後この場所に聖水を取りに来る者達のためにもきちんと最後まで遺跡をそれはもう隅々まで調査すべきだと思います!」
いかにも今まとってつけたかのような、理由を言うコロネ。
本人も欲望を隠すつもりはあまりないらしい。
「あー、わかったわかった。じゃあ行ってみるか」
私が言えばコロネは嬉しそうに頷くのだった。










