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たらればを考えるな

それからは大変だった。



この世界に転生した次の日から、“お稽古”が始まったのだ。

理由は、15日後に一ヶ月の間、王子が泊まりにくるからである。

礼儀作法、テーブルマナー、一般的な常識など、休む暇もなくさせられるハメになった。



もちろん、これらは元のシャーロットであれば多少なり出来たことであろう。

けれど、この世界に昨日来たばかりの私には、到底出来ないものばかりだった。



多分、私の食事中に気がついたのだろう。

私が今まで行ってきたはずのことが出来ないのだということを。



しかし、それについての言及はされなかった。

かなり可笑しいのに、言及されなかったということは変だ。

まあ、今考えても仕方が無いことなので考えるのは今度にしよう。




それよりも今は、目の前に積み重ねられた本を読破することが優先的だろう。




元々ついていたらしい専属の家庭教師に、約10冊ほどの本を読了するように言われたのだ。

いや、無理でしょう。


この分厚い本を、10日で10冊。

しかもハロルドがテストの採点をしている合間しか読む時間がない。

つまり、講義を受け、テストも受けつつ、難しい本も読んでいるのだ。

正直、睡眠時間を削って読んでいる。


中身大人の私でもきついんだぞ、6歳の子供にさせないで欲しい。



「ハロルド・・・この日数でこの冊数はキツいですわ。」



そう私が零すと、家庭教師のハロルドは少し嬉しそうな笑みを浮かべた。

そして、テストの採点をしている手を止め、返事をした。



「ダメです。ちゃんと全てよんで下さいね。」



そう言う彼は大変楽しそうだった。

彼はかけている眼鏡の位置を正し、自分の作業に戻った。


彼は、所謂「S」なのだろう。

お父様にも思ったが、これで女性だったら最高だった。


真っ白な髪色に、青色の瞳、そして何と言っても眼鏡。

すばらしい属性のオンパレードである。



「お嬢様は、頭がよろしいんですから。

このくらい、すぐ覚えることが出来ますよ。」



それは前の私の話である。

今の私は、興味のあることしか覚えることが出来ない、ただの百合豚だ。



こんな政治的な本、いくら読まされた所で頭に入ってくる訳がない。




「こんなの頭に入ってこないわ。

この国の勉強法、可笑しいんじゃないかしら?」




いくら、元々の頭が悪い私でも、これが効率的な勉強法ではないことは分かる。

私も若い頃は、当時好きだったキャラクターが通っていた大学のモデルとなった

大学に入るために、猛勉強したものだ。結果は残念だったが。



しかし十分な休息と睡眠を取り、適度に勉強することが大切だということは分かった。



なのでこの国の勉強法には違和感を感じる。

これが、このハロルドが作った勉強法ならまだ分かるが、

どうやらこの「詰め込み勉強」が、この国の勉強法らしいのだ。




まあ、決まっていることに悪態をつくのはやめよう。

私はそう思い、本に集中することにした。




「お嬢様、本当に・・・」



私が集中していると、ハロルドが何かをつぶやいた。

正直、かなりの集中状態だったので、何を言っているのか分からなかったのだが。



「ん?何か言ったかしら?」


「テストの採点が終りました。」



そう言うと彼は、私の居る方へ向かってくる。

白く細い髪が、少し揺れる。



「100点中、32点でした。

・・・・この状態では王子とあわせられません・・・。」



そう、焦り気味に彼は言った。

彼はお父様から、娘を完璧に仕上げろ、と言われているらしい。


礼儀作法や、テーブルマナーなどは何とかなったが、

やはり学力はどうにもならなかった。


元々の覚えの悪さと、良くない勉強法が相まって、どうしてものびないのだ。



「どうしましょう・・・」



彼が頭を抱えて悩んでいると、急にクララが入って来た。




「シャーロット様!た、ったいへん・・・大変です!!」




クララは大声で叫ぶと、私の手を握りしめてこう言った。

彼女の手は、少し荒れており、いつもきちんと仕事をこなしてくれていることが分かる手だった。




「チャールズ王子が、王子がいらっしゃいました!」



「・・・・・・・・・。」



その刹那、この部屋に沈黙が走った。

王子が此処に来るまで、まだ5日はあるはずだ。


どうして、今日いきなりいらっしゃったのか。分からない。

クララに、ついてきてと言われ、なす術もなく玄関につれて行かれた。


玄関には、王子と思わし来少年と、40代くらいの人が並んで立っていた。

そして、そこにはお父様の姿もある。




ああ、出来れば会いたくなかったのになぁ。王子には。




クララに引かれるように連れていかれると、挨拶を交わした。


王子の印象としては、ゲームとはまるで違う、おとなしくてか弱そうな少年だ。

ゲームの王子は、ナルシストの要素を含むのだが、

このチャールズは、何かに怯えていて、戸惑っている様だった。



それは、40代ほどの男性も同じ様子である。

怯えている、というよりは、何かに気づき戸惑っているようだった。





それにしても、泊まりに来たのが男二人とは・・・最悪である。





私は何度目かそんなことを考えながら、愛想笑いを浮かべた。


百合のいる生活

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