解せぬ、解せぬのだよ。
いくら嫌なことでも、決められたことはもう覆すことができない。
それは前世で嫌という程学んでいることである。
「紅カン」の主人公が王子とくっついた時も嫌だった。
何故、シャーロットと幸せな家庭を築けなかったのか・・・私にはつらかった。
だから、王子が来てしまうという運命も覆すことは出来ないのだ。多分。
「ふう、全く・・・どうしよう。」
あれから自室に戻った私は、これからどうするかを考えるべく、
部屋に飾ってあった百合の花に話しかけていた。
この世界に来て7時間あまり。
様々なことがあり、だいぶ疲れがたまってしまった。
「クララ、お茶をいれてもらえるかしら?」
そういった私は、かなり態度の悪いお嬢様だったことだろう。
疲れからか、愛想笑いさえ出来なくなってしまった。
正直、表情筋がもう動かない。
顔だけではなく、何故かすぐ疲れるのだ。この身体は。
まあ、六歳児の身体だから当然か。
「お嬢様、こちらっ・・・どうぞ!」
クララが入れたての紅茶を零しそうになりながら、私に差し出してきた。
私は少し悩んだが、そのカップを受け取った。
うむ、やはり、味は良い。
上質な茶葉を使っているのもあるが、クララの腕も良いのだろう。
かなり好みの味である。
「あの、お嬢様・・・」
「どうしたの?」
「お嬢様、・・・大丈夫ですか?」
何故、そんなことを聞くのだろうか。
少し不安げな顔で、手は震えながら私に聞いてくる。
そんなクララの挙動不審さから、お茶の味を心配しているのではないことが分かる。
「美味しいわよ、どうしたの?」
私はクララを安心させるように笑顔で答える。
表情筋がかなり痛いが仕方が無い。
「あっ!いえ、何でも無いです!」
クララは先ほどと打って変わって、少し嬉しそうな表情を見せた。
私は人の感情が結構分かる方だ。
中2の頃ハマっていた人間観察を、大人になってもずっと続けて来たお陰だ。
クララは、どうやら私のせいでこんなにも心を動かしているようだ。
こんな言い方をしてしまったら、まるでクララが私う好きみたいだが、
それは違う。なぜならクララは、ローゼが好きなのだからな!
やはり以前の私と大分違うから違和感を覚えているのだろうか?
一応、口調や呼び方は同じにしてみたがやはりそれだけでは・・・・
「ねえ、私、変わったかしら?」
「え?」
「貴女の知っている、シャーロットとはだいぶ違うわよね?」
思い切って聞いてみることにした。
クララは、かなり困惑したような表情をしている。
朝、見た表情より少し悲しみも帯びている。
「・・・いえ?」
少し詰まり気味に彼女は答えた。
朝はあんなに「様子が変」といっていたのに。
何故そんなにも悲しげに、私の言うことを否定するのだろうか。
全てが分からない。
やはり、今まで過ごしてきた経験が全てなくなってしまったのは痛い。
そうしたら、このクララの不振な様子の謎も理解できるかもしれないし、
国外追放回避にも役立つのに。
そんなどうしようもないことを考えていると急に音がした。
パリン!
何かが割れたような音。
この部屋ではない。廊下で割れてしまったのだろう。
そこまで大きい音ではなかったが、かなり不快な音のように思えた。
「お嬢様っ!大丈夫ですか!?」
クララが叫んだ。
何故クララがそこまで声をあげるのかが分からない。
部屋にいる私が怪我をするわけがないのに。
その後、クララや駆けつけたメイド達によって、介抱?され、
ふかふかベッドに寝かされた。
何故そこまで心配するのか・・・・解せぬ。
私は不満を抱きながらも、ここはおとなしく眠ることにしたのだった。
百合ん百合ん