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第二話

神代博巳。年齢十七歳。

古くから受け継がれている「滅魔」の総本山、神代家の現当主である神代総二郎の一人娘の夢と、その婿養子である

神代勝弥との間に長男として生まれる。妹は神代小夜。

一般的には信じられていないーーいわゆる妖怪や幽霊の類いを祓う「滅魔」の力を隔世遺伝により強く受け継ぐも、

本人には至って自覚無し。力自体が潜在的な物として表には出て来ていない事も要因の一つと思われる。

妹の小夜は「滅魔」の力が既に表に出ており、低級なものであれば単独でも祓える様子。

中学は外部の中学に通い、そのまま同系列の高校に進学したが一週間前に総二郎の画策により、八代学園に編入。

本日より新しい学園生活に入る予定。

性格は至って温厚であり、自分から目立っていくタイプではないが周りからの信頼は厚い。

その容姿と穏やかな口調、加えて誰にでも分け隔てなく接する事から、男女問わず人気がある様子。

好きな食べ物は母親が作る生姜焼きと和菓子。

好きな言葉は「なんとかなるさ」

好きな女性のタイプはーー


「……好きな女性のタイプは長い髪で年上のお姉さんタイプ、かあ。ビンゴね」

「はい。信用出来る筋からの情報ですので間違いないかと」

八代学園の教室の一つ。

朝の日差しが差し込んでいるとはいえ、やや薄暗いその部屋には一組の男女がいた。

最初に声を発した女が書類に一通り目を通した後、傍らにいる男に向かい笑みを浮かべる。

藤堂(とうどう)、よく調べたわね。感謝するわ」

藤堂、と呼ばれた男はその顔に薄く微笑みを貼付け、軽く頭を下げる。

「しかし姫様、本当によろしいのですか?」

「なにが?何か文句でもあるの?私が一度決めた事は絶対に変えないのは、藤堂も知ってるでしょう?」

「それはそうですが……」

女はまだ何か言いたげな藤堂をひと睨みで黙らせる。その眼光には無条件で人を従わせられる程の力があった。

女は部屋の窓に向かい、そこから外の様子を眺める。


「いよいよ会えるのね……この宝龍久遠(ほうりゅう くおん)、あなたの名前を忘れた事は一度も無かったわ……」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「それじゃあ神代君って、「あの」神代さんとこの息子さんだったんだ」

「ええ、急に戻ってこいって言われて、この学校に入ったんですけどね」

「でも編入試験って大変だったでしょ?うちの学園って結構難しいって言うし」

「なんとかギリギリってとこですかね……普段から勉強しておいて助かりました」

あははー、と笑う女性教師ーー芝原初美(しばはら はつみ)と会話しながら歩く博巳は、新しく入るクラスへと

向かっている。

挨拶に向かった職員室で、この初美が担任だと聞かされた時は「この学校おかしくないか?」と思った

博巳だが、それもその筈。

同年代の男子の中ではけっして背の高くない博巳だが、この教師の身長は145センチ程。

最初はどこぞの中学生が紛れ込んだのでは、と思ったがその疑問はすぐに解決された。

なんというか、その、初美の胸部ーーつまりバストがかなりの物だったのだ。

博巳の母親もなかなかの物を持っているのだが、その身長と幼い顔立ちからは想像出来ない様な

立派な二つの膨らみに博巳は目をそらし、担任だと信じる事にした。だって男の子だもの。

「到着っと。じゃあ神代君、ちょっと待っててね。呼んだら入ってくる様に」

「はい、分かりました」

まだ騒がしい教室に入って行く担任の背中を見つめ、少し緊張している自分に気づいた博巳は

掌に「人」という字を三回書いて飲み込む。いや、効くのかどうかは分からないが。

すると教室が静かになり初美の声が聞こえてくる。出欠の確認をした後に簡単な連絡事項を伝える初美。

そして少し間を置いた後、ひときわ大きい声を発する。

「みなさーん!今日は一大イベントがあります。なんと、このクラスに新しい友達が増えましたー!」

小学校か、ここは。

思わず突っ込みたくなった博巳だが、自分が呼ばれる頃合いだと考え何とか踏みとどまる。

「せんせー!そいつって男ー?女ー?」

「男の子だよね?初美ちゃん、その子ってかっこいい?」

踏みとどまるーー。

「ばっかだなー。こういう時は女って決まってんだよ。そんで実は俺と知り合いだったりするんだぜ」

「漫画の見過ぎ。きもい。しね」

「結局どっちなんですかー?」

踏みとどまるーー。

「ぬっふっふっふ。聞いて驚け、見てわめけ。そして……喜べ!男子ー!」

踏みとどまるーー。

「そして……喜べ!女子ー!」

踏みとどまるーー。

「それではっ!新しいクラスメイトの神代博巳ちゃんでーっす!」

「ちゃん付けで呼ぶなあっ!!」

踏みとどまれなかった。

ばしーん、とスライド式のドアを開け放ち初美に突っ込む。

その音と声に、ざわついていたクラスが静まり返った所で博巳は自分がどれだけ目立ってしまったかを理解する。

キョトンとした顔の初美の近くまで行き、ペコリと頭を下げた後、勝手かとは思ったが自己紹介をする。

「えと……神代博巳です。宜しくお願いします……」

直後ーー教室内は応援団も真っ青な音量で埋め尽くされた。


「かーわーいーいー!」

「男子の制服だろ?あれ。何で女の子が着てるんだ!?」

「え?どゆこと?どゆこと!?」

「なんだー、そういう事だったのかー」

「ねえねえ、ぎゅってしていい?いいかな?いいかな?」

「はいはーい、みなさーん。おさわり禁止ですよー」


なんだ、このクラス。本当に大丈夫か。

というか僕は男だし、初対面でおさわりはされたくありません。

そこから博巳が、クラスメイトに質問攻めにあったのは言うまでもない。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「なあ、本当に男なのか?」

「まず間違いなく。戸籍もしっかり」

「付き合ってる男の子はいるの?」

「いません。というか僕は至ってノ−マルです。そういう方向性がお好きなら、ご期待には沿えません」

「ちょ、ちょっと、上目遣いで名前呼んでみてくれない?俺、浅野って言うんだ。あさのくうんって」

「お金をもらってもやりません。大体何度も言ってるけど僕は……お!と!こ!」

「こ、この服……き、着てもらえないかなあ?」

「ブルマ出すな」

周りの質問に一つ一つ丁寧に答える博巳だったが、なぜだろう?明らかに間違った質問が多い。

一時間目がロングホームルームだった事で、初美の提案により博巳への質問タイムが始まったのだが

いい加減うんざりしていた博巳は大きくため息を吐く。

「あのね……もうちょっとまともな質問をしてもらえると助かるんだけど」

「なにを言うか!みんな至って真面目だぞ!」

先ほど浅野君と呼んでくれ、と言っていた生徒から大真面目な顔で返された。

その時、さすがにこの状況は収集がつかないと思ったのか、一人の女生徒が声をあげた。

「その位にしといたら?神代君もいきなりこんな囲まれたら、きっと皆の事が嫌いになるわよ?」

「そうそう。おさわりは程々にねー」

「先生は黙ってて下さいっ!」

「ふええん。吉川さんに怒られたああっ」

吉川(よしかわ)という生徒に叱責され本気で泣く教師、芝原初美29歳。

吉川の言葉を受け、さすがにやりすぎたとでも思ったのか、囲んでいた生徒達も少し落ち着きを

取り戻した様だ。

「あ、ありがとう……えと、吉川さん?」

吉川智美(よしかわ ともみ)よ、宜しくね。一応このクラスの学級委員長やってるわ」

「そうなんだ……尊敬します」

「そう思うのも無理はないわね。さすがにあの状態になったら」

「でも本当に助かりました。有り難うっ」

くすりと軽く笑う吉川に対し、博巳も笑顔を返す。

「え、あ、いや、別に、い、委員長として見過ごせなかっただけで、そ、そういう事だから」

「?」

何やら顔を赤く染めた吉川は先ほどまでの雰囲気を一変させ、急にしどろもどろになる。

もちろん何故そうなったのかを博巳は理解していない。これが博巳なのだ。

「おい、見たか今の。すげえよ」

「あれは破壊力抜群ね……」

「俺、吉川のあんな顔見た事ねえよ」

「こ、この服……き、着てもらえないかなあ?」

博巳と吉川のやり取りを見ていた生徒はレアな光景に感嘆の言葉を漏らす。

約一名を除いて。あとブルマ出すな。

「こほんっ……それじゃあ、何か分からない事があったら相談して。皆も神代君をいじめない様に」

「うん、有り難う」

二人が言葉を交わした後にチャイムが鳴り、一時間目の終わりを告げる。

なんだかんだあったが、悪い人達ではなさそうだ。皆と仲良くやっていけそうだな、と博巳は思うと

次の授業を受ける準備を始めるのであった。

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