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反逆の兆し

 リコの家は、粘土のような素材で造られたものだった。

 リコ(いわ)く、ゴーレムの原理を利用して造られたものらしい。

 アルモニアの技術はすべてイッキの時代のものを上回っている。


(500年……か。――この、メダルは?)


 壁にはモンスターの形が刻まれた無数のメダルが、はめ込むように飾られていた。


「ただいま~」


 リコの声が響く。

 食材を調達してくる、と言って出かけていたのだ。


「おかえり、リコさん」

「えへへ、なんかいいね。『ただいま』って」


 はにかむリコだが、その手には食材を持っている様子はない。


「近くの森で獲ってきたの。今日は特に大物!」


(獲ってきた?)


 森で、ということはやはり動物なのだろう。

 リコの手招きの誘いに、イッキは外へ出る。


「…………」


 そして、目の前の物体に言葉を失った。


 大型のミミズが、ごろりと転がっている。


 かつて、イッキが最初に戦ったモンスターだ。


「リコ、さん? これが、食材?」

「うん! 運んでくるのたいへんだったよ~」


(食うのか⁉ これを⁉)


 イッキの戸惑いをよそに、リコはミミズ――ワームに近寄ると、ブチッ、とその肉を千切った。


「はい♪」


(生で⁉)

「あ、ありが、とう、ございます……」


 無造作に千切られたピンク色の生肉。

 当然のことながら、食欲は一ミリたりとも刺激されない。


 リコを見ると、新しく千切った肉を、もっちゃもっちゃ、と頬張っていた。

 イッキは改めて生肉を見つめる。


 モンスターは戦うべき『敵』で、食料と考えたことは一切なかった。その固定概念を崩していけば、モンスターの生肉は案外おいしいのかもしれない。

 おそらく、モンスターを食材とするのはこの世では常識。

 乗り越えなければならない壁。


「あれ? 食べないの?」

「……いただき、ます」


 ――吐いた。



「わ~♪ なにこれなにこれっ⁉ いい匂い~」


 現在の家庭では火の魔法陣、水の魔法陣などが当たり前のように常設され、使われていた。

 火の魔法陣の場合、指で叩く強さによって火加減が異なり、消すときは強く息を吹きかける。


 その火を利用し、イッキは『ワームハンバーグモドキ』を完成させていた。


「おいしそ~♪」


 はうぅ~、とリコは歓喜の声を上げた。


(意外と、覚えてるもんだな)


 両親が共働きで夜遅くなることもあったイッキの家庭では、イッキと妹とで家事を分担することは珍しくなかったのだ。


「どうぞ」

「いただきま~す♪」


 頬張るなり、ん~♪ と耳、尻尾、身体全身をくねくねとさせ、リコはご満悦の様子だった。


(まあ、少し硬いが、食えそうだ)


 よく噛み、飲み込み、空腹を満たすこの感覚。

 ここは現実(リアル)だ。

 あの空間では死ぬ度に強制的に蘇生したが、ここではそうはいかない。一度でも死ねばそれでおしまい。目的(ふくしゅう)を果たせなくなる。


「やっぱり人間って凄いな~。こうやって工夫するんだもん。わたし、食事なんてお腹に入ればいいやって思ってた」

「そういえば、リコさん――」

「リコ、でいいよ。外じゃまずいだろうけど、ふたりのときくらい、普通にはなそ? 歳も近いよね?」


 わたし十六、とリコは続ける。


「十八、だよ」

(肉体年齢的には、だが)


「へ~、年上なんだ」

「それで、そこの壁にあるメダル? 僕と引き換えてたけど、よかったの? 集めてたんじゃ――」

「集めてるけど、気にすることないよ? ただのメダルだもん」

「どうして、リコさ……リコは、そこまで人間を?」


 イッキの観点から見ても、リコの人間に対する肩の入れようは異常だ。


「みんなが人間を嫌うのは、旧人類が動物に、自然に、酷いことをいっぱいしてきたって知ってるからだと思う。だけどそうじゃない人も、きっとたくさんいたから。嫌いになんて、なれないよ」


 人間とイヌは、長年パートナーだった。本能的な部分が強いのだろう。

 リコの場合、それが顕著(けんちょ)なのだ。


「今の王も、人間に対して穏健らしいね」

「――うん! わたしがすごく尊敬してる人! きっとあの人なら、人間と動物種の関係を変えてくれるって、信じてる」


(王に会って、『神』の情報を聞き出す――こちらから動かなければ無理と思っていたが、状況が変わるまで待機するのもありか……? なんにせよ、焦る必要はまだないか)


「奴隷の立場から頼むのは申し訳ないんだけど、僕、この国に来たのはじめてなんだ。ろくに世界についての知識もない。だからいろいろ教えてくれないかな」

「いいよ。わたしのわかる範囲なら。イッキくんは、どこから来たの? その服も、変わってるよね」

「…………」


 リコの問いかけに、イッキは一度真顔になったが、すぐに笑顔で答える。


「――ずっとずっと、遠いところだよ」



「それは、困りましたね」

「来るべきときが来たというわけか」


 白い空間に、十二の人物。

 それぞれフードを頭にかぶり、顔はわからない。

 王の配下――使徒(しと)たちだ。


 王は絶対の統一者だが、広大な世界をひとりで管理しているわけではない。

 王になる際に、王選抜の優秀候補、志願者、王の推薦、などから選りすぐりの十二人が使徒として選ばれる。


 十二人の使徒は、王と意思疎通を感知魔法(テレパシー)で行っていた。

 それぞれがまるでその場にいるかのように会話を行える強力な魔法で、王はこれを利用し、各使徒に指示を与える。

 しかし、この場に王の姿はない。


「『奴隷の解放』……王は本当にそんなことを?」

「間違いありません。奴隷のメイドに漏らしているのを、我が配下が聞いています」


 ――奴隷の解放。

 つまり、人間を自由にするということ。


 人間を奴隷として扱うことを決めたのは初代の王だ。


 人間は取るに足らない存在。種族ランク圏外。最弱の種。それは間違いではない。

 だが、稀に現れるのだ。身体能力こそ遠く及ばないものの、カリスマ性を備え、いずれかの分野で動物種の才能を凌駕(りょうが)する人間が。


「――今日も、アルモニアで人間が揉め事を起こしたとか」

「ああ、奴隷市場でいざこざがあったようですね。人間が軽い挑発を行い、大乱闘。動物種の自爆で被害者は多数。恥ずかしさからか、当人たちはあまり問題にはしたくないようです」

「王の意見は?」

「当人たちが解決済みで、問題ないと」

「やはり――甘い」


 王の命令は絶対。

 配下である使徒の意思は、関係ない。

 いざ命令が下されてしまえば従うほかない。


「王が、『王』になって、何年だ?」

「十年と、少し」

「頃合いか?」

「かもしれませんね」


 皆、ハッキリと真意を口にはしない。それは使徒にとって絶対の禁忌となっているからだ。


「――くだらない」


 小柄な使徒が言った。


「まったく、くだらないわ。こんなことのために呼んだの?」

「世界の今後を担う会議だ」

「どーでもいい。だったらその素晴らしい理屈を王に提言すればいいだけ。私を巻き込まないでくれる?」


 エデン設立の際も、何度も苦言を(てい)した。だが、ことごとく却下されていた。

 上限を百人と納得させるまでも、どれほど苦労したことか。

 王の人間へのひいき目は目に余るものがあると、使徒の大多数が思っていた。


「人間を見下すクセに、支配していないと心配でしょうがない。一番人間を恐れているのはあなたたちね。ま、好きにすれば?」


 小柄な使徒が感知魔法(テレパシー)を一方的に終え、残るは十一人となる。


「使徒の面汚しが。我々が人間を恐れているだと?」

「気にすることはありません。我々が間違えてはならないのは、真に忠を尽くすべきは王ではなく『世界』であるということ」

「そうだな。では事を進めるとしよう。『神』の創りし――世界のために」

読んでいただいている方、ブクマしていただいている方、ありがとうございます。

次回投稿は4/20(または19日)を予定しております。

※4/19追記

4/20の20時頃に投稿させていただきます。

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