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波乱の奴隷市場

 転移魔法によりアルモニアに到着していたイッキは、街の賑わい、発展振りと人々の多さに既視感を覚える。


(東京、みたいだ)


 違うのは緑の豊かさと、道行く人々の面々。


「獣人ばっかりだな」

「獣人じゃないっス。動物種。それ結構気にする連中いるんで、あんまり言わないほうがいいですよ」


 首輪の効果なのか、人々はイッキにそれほど興味を示さない。

 白髪に見慣れぬ学生服だが、彼らの多彩性においては些細なものなのだろう。


「けど旦那も物好きっスよねェ。自分から奴隷になるなんて」


 できるなら目立たないに越したことはない。

 なにが『神』の目覚めるきっかけとなるトリガーになるかわからないし、面倒事は避けたい。

 隠密行動と情報収集という立場でいえば、その選択肢が最善とイッキは判断した。


「好きでなるわけじゃない。今の人間の立場は奴隷が自然なんだろ? まあ、できるだけ扱いやすい主人(タイプ)を頼む」

「なンスか、扱いやすいって」

「人間に寛容、利用しやすい、純粋、天然」

「欲張り過ぎやしません⁉ そんな都合のいい奴いないっスよ……」


 シェアはイッキをジッと品定めする。


 見た目は人間だが中身は別物。主人の力を軽く超える存在を奴隷にしようなんて物好きは現れないだろう。よってマイナスポイント。


 性格は敵対する者に対し凶悪、野蛮。マイナスポイント。


 次に白髪。この年代にしては珍しいが、希少価値というほどでもない。


 奴隷採点の結果――0点‼


(……俺様なら絶対いらねェ)


「旦那、セールスポイントってなんかあります? 特技とか」

「食う、寝る、遊ぶ」

(うわァ、ただの怠け者だァ…)


 頭を抱えつつも、従わないわけにはいかない。

 なにせ、イッキの要求はシェアにとっても好都合なのだ。


 ――厄介事は、他へ押し付ける。

 自分での処理が不可能な以上、そうするしかない。


(くそッ、奴隷商人としての意地で売ってやるよ!)



 奴隷市場。

 定期的に開催されている、人間の売買。

 市場の利益に少なからず貢献しているシェアは、顔パスで難なくイッキの奴隷登録をとりつけた。


 イッキが奴隷市場で売られる時刻は、一時間後に決定する。


「いいですか旦那。一応、VIPとして旦那を売り出します。くれぐれも、くれぐれもォ、妙な気は起こさないでくださいね」


 控室で、シェアは呑気に欠伸するイッキにいった。


「あのですねェ、『現王』は人間に対して穏健派なンです。エデンだってその王が反対を押し切って作ったンです。だから旦那が揉め事を起こすと、王の顔に泥を塗ることになる。人間への風当たりも厳しくなる。わかりましたね⁉ 手だけは出しちゃダメですよ⁉」

「わかったわかった」

「じゃ、手錠しますから。頼みましたよォ?」


 そして一時間後、イッキの売買、開催。


 奴隷市場でも名の売れたシェアが『VIP』として推薦する人間だ。

 たった一時間でその噂は広がり、席は満員。

 だだっ広い会場で客に囲まれ、現れたシェアはこほんと咳払いした。


「え~、お集りの皆々様~。今回! (わたくし)が自信を持って推薦する、彗星の如く現れた規格外れの人間~、その名も、イッキ~!」


 会場が揺れる。

 名前付きの人間は一芸に秀でているのだ。


 だが。


「…………」


 紹介された当人は、横になって眠っていた。


(いきなりやりやがったこの野郎~⁉)


 会場がざわつき始める。


「え、えー、この通り今は疲れてグッスリ眠ってますが、その強さは折り紙付き! ぜひモンスター討伐のお供に!」


 ざわつきのほとんどが、疑惑の声。

 それもそのハズだ。ただの人間がモンスター討伐の役に立つわけがないのだ。


「私も最初は目を疑いました。しかし! なんとたった単騎でゴーレムに立ち向かい、一瞬にして倒してしまったのです!」


 静まり返る会場。

 驚きではない。しらけているのだ。


「なに言ってるペテン師野郎!」

「マシな嘘言えよ!」


 遅れて、怒声が次から次へと浴びせられる。


「いや、嘘じゃ……」


 イッキの奴隷とは思えない態度も相まって、怒声は罵声に変わった。


「――わしが試してやる」


 シェアが対応に困り果てているところに、クマ種の男が名乗りを上げる。

 シェアとはまた異なり、元の動物の印象が色濃く表れた男だ。


「ちょ、ちょっと困りますよお客さん! 売却前の商品への暴行は――」

(殺されるってマジでやめとけ!)


「わかりました。いいですよ」


 いつの間にか起き上がっていたイッキが、にこやかに言った。

 その爽やかな営業スマイルに、シェアは内心震え上がる。


「僕、避けるのは得意なので、どうぞ、遠慮なく試しちゃってください」

「いい度胸――だッ!」


 ブゥン!

 毛むくじゃらの巨大な腕が、空を切る。

 クマ種の男の一撃一撃は確実に致命傷を狙ってのものだが、当然のように外れ続けた。

 当たる寸前にイッキが避けるので、男の苛立ちは更に募る。


 その苛立ちは徐々に他の客に伝染していき、


「相手は手錠付けた人間だぞ! 何やってんだ!」

「次は俺だ!」

「俺もやるぞ!」


 続々とチャレンジャーが増えていった。


「くく……はいはいどうぞどうぞ~、一対一と言わず、なんなら全員で」


 イッキの言葉を皮切りに、会場中の客がイッキの元へなだれ込んだ。


 最早市場の面影はなく、ただの乱闘会場だ。


(ひ、ひィ~……! やっぱこうなっちまったァ~……!)



 その頃、奴隷市場の外ではただ事ではない騒ぎの音に、観衆が集まっていた。


「なんだろ……。中で、なにが……」


 その観衆の中に、リコはいた。



 イッキはシェアとの約束は守り、手は出していない。

 ただ、客と客の相打ちをわざと狙い、計画的に避け続けている。


 その効果は抜群で、イッキの周囲は相打ちで倒れた動物種の山ができていた。


(終わった……俺様の奴隷商人生命が……)


 立ち尽くすシェアの胸倉を、何者かが掴む。

 それは、最初にイッキに挑んだクマ種の男だった。


 とばっちりを受けたのか、顔中傷だらけになっている。


「あ、あのォ……だ、大丈夫、です、かァ?」


 その言葉は、逆効果だった。


「落とし前つけて、くたばれッ!」

「ひィィィ⁉ ……?」


 振り上げた男の拳が、シェアに振り下ろされることはなかった。

 イッキの両足が、男の顔面をとらえていたのだ。

 勢いで男は吹き飛び、壁に激突する。


「だ、旦那……?」

「悪い、デカいから壁と間違った。手じゃないからセーフだよな?」


(……こいつ、俺様を助けた? いや、まさかな)


 だがその一部始終は乱闘の混乱でうやむやとなり、イッキは再び乱闘の渦の中へと戻った。

 最早誰も止めることができない、そう思われた矢先。


「そこまで~‼」


 会場中にとどろく大声。

 時間が制止したかのように、誰もが動きを止めた。


 尻尾と、手をピンと上に掲げ、リコは叫ぶ。


「その人、わたしが買います!」

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