↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/42

だいきらい

「――全部、この人のせいで、こんなことに……!」


 静まり返る場内。


 なにより驚いているのは、味方陣営だ。

 サクラの発言は予定にないどころか、確実に現状を窮地に招き入れるもの。


(サクラ? どうして……?)


 リコも、幼なじみであるサクラの発言が信じられないでいる。


「だから、責任は、全部この人が取るべきです!」

「ほう……」


 ドレイヴンが目を細めた。

 ここでは嘘か誠かを検証する必要がない。


 『神の裁き』が発動しない以上、その言葉に嘘はないということなのだ。


「それは興味深い発言だ」


 ドレイヴンがイッキに目をやる。

 イッキは硬い表情のまま、なにも応えない。


「ねーえ。今は、王の殺害を議論する場でしょぉ?」


 声を発したのは、リンネ。

 頬杖をつき、気だるそうにしている。


「たかが一介の人間に時間を割く必要がある?」

「リンネよ、今おまえが口を挟むことでない。なにか議論があるなら壇上で行え。我は、この人間の素性に非常に興味がある」

「なにそれ。個人的な感情?」

「いや、直感だ。この人間にはなにかある。もしそれが今回の一件と関連するのであれば、時間を割く余地は大いにある」



「……くく、なるほど」

「……っ」


 イッキと、サクラの視線が交わった。


「おまえはここで俺を潰そうって魂胆か」

「だって……あなた、めちゃくちゃすぎる……! あなたがこのままにしておいたら、リコが……世界が……!」


 イッキの過去を覗き、その力と目的を知っているサクラは、このまま野放しにはできない。

 だとするなら、この場で正体を暴き、『神の裁き』をもってイッキを止めるしかないのだ。


「私語はそこまでだ。――人間よ、心して答えよ」

「…………」

「貴様の真の目的は、何だ?」


 視線がイッキへと集まる。

 アリスも、リコもまた、イッキの次の発言を、固唾を呑んで見守っていた。


「――ろすことだ」

「なにかね?」

「『幼なじみ』を、殺すこと。俺の目的は、ただ、それだけだ」


 ざわつく場内。

 それは驚きというより、困惑といった類のざわつきだった。


「ち、ちが……ッ! 違います! この人の本当の目的は、神さまを殺すことで……! そのために今まで……!」

「神を? この人間が? だが、今『幼なじみ』と口にしたぞ。そうすると彼は、神と同列とでもいうのかね?」

「そ、そうじゃなくて……!」


 神の裁きが行われない限り、ここでの発言は全て真実として扱われる。

 イッキの言う『幼なじみ』も、サクラの言う『神』も、本質は同じものなのだが、事情を知らない者にとっては、そうではない。


 現在の世界では、神は唯一無二の絶対的な存在なのだ。

 それが人間と同等の存在など、あってはならない。

 許されることではないのだ。


(こ、この人、混乱させるのために、わざと別の言い方を……)


「どうも話が噛み合わないな。そもそも、きみがなぜ、この人間の素性を知っているのだね?」

「それは……」


 サクラが口ごもる。

 だが、偽れない。

 意を決し、口を開く。


「私が、過去を、覗いた、からです……」


 ぴくっと、ドレイヴンの眉が動く。


「ほう――覚えがあるぞ。過去、王に仕えた『過去視のスキル』の持ち主。その一族かね? だが」

「あー、思い出した♪」


 ひゅっと軽やかに壇上へと降り立つ、リンネ。


「確か、正確じゃない情報を王に与えて、危険に晒した、とか。なんでも、過去はすべて視えるわけじゃなく、一部関係ない虚像が視えるって資料で見たわ。結局、職を追放。そのスキルは、不具合スキルっていうことで封印されたって聞いたけれど」

「つまりは、きみの話は信ぴょう性に欠ける、ということだ。『思い込み』は嘘とはみなされぬからな。貴重な時間を無駄にした」


 サクラは悲痛な面持ちのまま、うつむいている。

 その様子を、イッキは冷めた目で見つめていた。


「……それは、違います」


 ぽつり、とサクラがつぶやく。


「過去は、人それぞれが持ってる、消せない、変えられないものです。時には辛くて、思い出したくない、でも、とても大切で、かけがえのないもの」

「…………」

「だから、そんなものを覗いちゃいけないって、父は思って、王さまに頼んだんです。リンネさまが読んだ資料は、王さまが用意してくれたもので――」

「理由はどうあれ」


 サクラの語りに、ドレイヴンが割り込む。


「公式に『不具合』と判断されたスキルを、信じるわけにはいかん。今きみが語った理由さえ『思い込み』かもしれないのだからな」

「……じゃあ、最後に、いいですか?」


 サクラが顔を上げた。

 そして、この神裁の当事者であるアリスに顔を向ける。


「アリスちゃんは、犯人じゃありません。それどころか、王さまを守ろうとしていました」

「……え……」


 目を丸くするアリスに、サクラがほほ笑む。


「ごめんね、最初に握手したとき、視ちゃったの。アリスちゃんは、王さまを本当の親のように慕ってて……でも……王さまを殺そうとしたのは、エルノール、さまです」

「きみは、なにを――!」

「言わせてあげたら? 今の彼女には証言能力はないんでしょ?」


 リンネがドレイヴンを不敵に見上げる。


「――じゃないと、私も口が滑っちゃうかも♪」

「貴様……」

「はーい、続けて続けて」


 サクラが、ぎゅっと拳に力を込めた。


「……私も、禁止されたスキルは使いたくありませんでした。なんでこんなスキルがあるんだろうって、ずっと、嫌でした。視たくもない人の過去を覗く度に、その人の大事なものを、勝手に荒らしてるようで……。不具合っていう認識のせいで、嘘つき一族って呼ばれたり、イジメられたりもしました。でも、今は少しだけ、感謝しています」


 今度は、イッキの横顔を見つめる。

 イッキは前を向いたまま、見向きもしない。


「私には過去しか視えません。だけど、この人の未来は……なにもない。破滅しかないっていうことだけは、わかります。みんなを巻き込ませるわけにはいきません」

「…………」

「だから、私の覚悟を示します」


 にこりと笑い、サクラがリコへと振り返る。


「リコ! リコだけだったんだ。私にいつも優しくて、いつも、守ってくれたよね。私の大切な、一番大切な、幼なじみ」


 そのサクラの笑顔が、悲しみをたたえていることに、リコは気付いた。


(……サクラ?)


「人間も、他の種族も、仲良く平和に暮らせる世界……リコの願いは、私の願いでもあります。ごめんね、リコ。幼なじみでいてくれて、ありがとう。私は、リコのこと――」


 サクラの瞳から、涙がこぼれ落ちる。


「『だいきらい』」



 瞬間、サクラを中心に、周囲の色がモノクロへと変わる。

 謎の息苦しさと、圧迫感。


 ドレイヴンはすぐに、この現象の正体を理解した。


「神の……裁き」


 ズズ……。


 そこでサクラは、自分の足元がわずかに沈むのを感じる。

 見下ろすと、円形の『闇』があった。


 ズォ……ッ!


 突如として伸びる、無数の黒い手。

 その手はサクラの身体に絡みつき、『闇』の中へと引きずり込んでゆく。


「サクラ――いやぁッ! サクラ!」


 駆け出したリコだが、


「ダメだ! 行くんじゃないッ!」


 同じイヌ種の男に、強引に取り押さえられる。


「神さまの力だぞ! 無駄死にするだけだ!」


 覚悟を決めていたサクラは、抵抗する素振りさえなく、身を任せていた。

 まるで底なしの沼のように、サクラの身体は沈み続けている。


(最後に、大嫌い、なんて嘘ついてごめんね、リコ)



 誰もが、神には逆らえない。

 逆らう意思さえ持てないのだ。



「……やっと、やっとだ」



 バチバチィ――ッ!


 誰もが、目を見張る。


 黒い手を、神の力を、掴む、人間に。


 サクラがイッキの表情を見たとき、背筋が凍り付いた。

 イッキの表情はサクラを助けるため、などというソレではなく――狂気に満ちた笑顔。


「やっと掴まえたぞ、神奈……!」


 ――ただひとり、この男(イッキ)だけは、嬉々として、神に挑む者なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。