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解き放たれた復讐者

※以降三人称になります。

 エデンでは、緊急の集会が開かれていた。

 突如、奇妙な卵の中から現れた青年。

 青年は、島民の上限百人をオーバーし、禁忌となる『百一人目』だった。


「――だが、我々の責任ではない。彼は『元々』ここにいたのだ。おそらく、ずっと前から」


 白髪の老人――長老が言った。顔はほとんど白髭に覆われ、髪もその小さな背丈と同じくらいある。


「とにかく、彼が目覚めるまで、待とう」



「な~、エル」

「な~に、おにーちゃん」


 九歳になるイルとエル、双子の兄妹が、眠ったままの青年を見つめる。

 『秘密基地』作りのための採掘結果が、この青年だ。


「このにーちゃんは『とくべつ』なんだぜ、きっと」

「なーに? 『とくべつ』って」

「きっと、きっとさ、おれたちをこの島から救ってくれる『ゆーしゃ』なんだよ!」

「ゆーしゃ? てなに」

「ゆーしゃってのはなあ、そのー、つまり……うわっ⁉」


 青年が、目を開いていた。


「…………」

「あ、あの、こ、コンチハ」


 青年が起き上がり、イルの目線までしゃがみ込む。

 妹のエルはイルの後ろに隠れ、怯えていた。

 そして。


 むにゅ。


 イルは頬をつままれる。


「ひぅっ⁉」

(現実、世界?)


 上下左右に動かしたあと、青年――イッキは現状を多少理解する。


(あれは夢――いや、そんなわけがない)


 途方もなく、戦い続けたあの『地獄の空間』も、リアルだった。何度も気が狂いそうになった痛み、そして、この、今でも感じる『レベルアップ』によって得たチカラ。


 イッキは、イルから手を離し、ぽん、とその頭に手を置いた。


「ごめんな」

「ひう? う、あ……うん」


 人間と会話したのは、何年振りだろうかとイッキは思う。

 時間の感覚が、まるでない。


「お目覚めかね」


 現れたのは、長老だった。


「この兄妹じゃよ。お主を発見したのは。なんでも、穴を掘っていたら偶然発見したらしくての。卵のような――ようわからんものの中に入っておったとか」

「その卵はどうなった」

「触れると、すぐに溶けるようにしてなくなってしまったらしい。にしても、何者なんじゃお主。その白き髪に――その見たこともない着物」


 指摘され、イッキは前髪を引っ張り、確かめた。

 確かに、白髪だ。


「ここに鏡はあるか?」

「鏡? そんな貴重なものありはせん。身なりを確かめたいのなら、滝に向かうといいじゃろう。案内は、そこの兄妹に頼むとしよう」



 滝の泉で、イッキは水面に映る自分を眺めた。


 ――白髪。

 それ以外、外見はそれほど変化が見られない。

 学生服も、『あの日』のまま、傷んだ様子さえなかった。


「なー、にーちゃん」

「…………」

「にーちゃんって人間だよな?」

「……たぶん、な」

「けどさ、なんかおれたちと違うよな。雰囲気とか……」


 イッキの目の輝き。

 エデンの住人とは違い、その奥に静かな迫力を秘めている。


「ここの大人は、みんな弱虫なんだよ。おれたちが最下級だからって、こんな島に閉じ込められて、いじめられても、へらへら笑ってる」

「最下級?」

「種族ランクだよ。弱っちくて、価値がない、ただの……」

「くくく……」

「にーちゃん?」


 イッキが知る世界とは、そのすべてが違う。

 あの『女』は、すべてを奪った。

 両親、妹、友人、そして、世界さえも――


『お~い、禁忌を破った最下級の糞人間ども~! しゅ~ご~!』


 島中に響き渡る、しゃがれた声。

 げ、とイルはすぐさま嫌な顔を見せた。

 この声は、エデンの『管理者』、シュアだ。



「はい正座~、即正座~、しないヤツはお仕置き~」


 島中の人間、総勢九十八名が集められ、言われた通りにする。

 ヘビ種のシェア。外見こそ人だが、蛇眼と、ちろちろと覗く舌は、完全にヘビのソレだった。


 草むらに隠れてその様子をうかがっていたイルは、棒立ちのままシェアを見つめるイッキの手を引っ張る。


「は~い、注目! なんで俺様がせ~っかくの予定をほっぽり出してここに来たか、その理由がわかるや~つ! 挙手!」


 だれも手を上げなかった。

 シェアはカイゼル髭(くるっと先端が丸まった髭)をいじりながら、ため息を吐く。


「百一人。エデンの管理システムが送ってきた情報だ。エデンの掟は、人間の島人は百人まで。勝手な繁殖は許されない」


 長老が、恐る恐る手を上げる。


「た、確かに、先日ひとりの若者が増えました。ですが、その者は『元』からここにいた者で、勝手に繁殖したわけでは」

「はあ? 言い訳ですかあ? 理由なんてのはどうでもいいんだよ! 大事なのは結果! 連帯責任! わかるよなあ、そこの隠れてる連中もよォ!」


 びくぅ!

 イルとエルが震える。


「蛇眼を舐めんなよ? 熱感知くらい余裕なんだよォ!」


 先に草むらから現れたのはイッキだった。


「お? 見ない顔だな。おまえか? ジジイの言う『先人』ってのは? ――残りの二匹も出て来いよォ! おらとっとと座れ!」


 イッキの後ろに隠れるようにしていたイルとエルは慌てて走り出し、正座の中に加わった。


「おまえもだよ! お、ま、え、も!」

「…………」


 イッキは動かない。

 痺れを切らしたシェアはイッキを睨み付け――


(……な、なんだ、こいつ? ……ありえねェ。なぜだ、なぜこの俺がこんな糞人間の雑魚一匹に)


 イッキの目を見た瞬間、金縛りにあったかのように動けなくなっている。

 睨み動けなくするのはあっても、ヘビが睨まれ動けなくなる、なんてことはあってはならない。


「あの……シェア様? 我々は、どうすれば」

「お? お、おう、百人以上は掟違反。つまーり、一匹減らすしかねェってことだ。だが安心しな俺様は優しい、寛大だ。幸い、『天然もの』の奴隷を欲しがる連中は大勢いる」


 シェアは、ビシッ、とエルを指差した。


「おまえを奴隷としてもらってやる。有効活用してやろうってんだ。ありがたく――いてッ⁉」


 シェアが頭を押さえる。

 ドロリ、と血が流れた。

 エルの兄、イルが思わず石を投げつけてしまったのだ。


「イル! なんてことを――」

「わ、あ、ご、ごめ……」

「はい死刑かくて~い! けって~い! 即、実行!」


 シェアの蹴りで――地鳴りと、土埃が舞う。

 人間離れした怪力が、地面に小さなクレーターを作っている。

 が、手応えがないことをシェアは実感していた。


 土埃が晴れ、シェアはイルを一瞬で連れ去った『最下級ランク』の、『家畜』の、『最弱』種族――イッキを驚愕の眼で見つめた。


「あ、あれ? にー、ちゃん? ――わわっ」


 イルは掴まれていた服を離され、どさっと地面に落ちる。


(俺様の蹴りを、あの距離から、糞餓鬼を連れて、かわした……⁉)

「貴様ァ……!」


(これがあいつの作った世界か。復讐のついでだ。こんな、糞みたいな世界)


「なにを……笑ってやがる……!」


「――今度は俺が、壊してやるよ」

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