表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/42

奴隷の国からの使者

「ゲゲッ⁉ あの船のマーク……」


 いち早く襲来者の正体を察知したのはシェアだった。

 というのも、奴隷商人であるシェアの重要な取引先だったのだ。


「奴隷の国……!」

「…………」


 アリスは肩を押さえる。

 奴隷の国から売られる奴隷は、肩に烙印を押される。それは船のマークと同じもの。

 奴隷の国出身のアリスは例に漏れず、その烙印があった。


「くく、まずは来るべきところが来たって感じだな」


 イッキの言葉に、リコが頷く。


「奴隷がいなくなったら、奴隷の国じゃなくて人間の国になっちゃうもんね」

「ひとまずの人間の移住先にはちょうどいい国ってわけだ。そりゃあ管理する動物種は必死になるだろうな」



 やがて、船がエデンに着く。

 迎え撃つのは、イッキ、リコ、アリス、そして無理やり呼ばれたシェアの計四名。


「――これはこれは、質素なお出迎えですなあ」


 ぞろぞろとエデンに上陸したのは、数十名。

 動物種は先頭の二名だけで、その他は全員奴隷の人間だった。


「シェアくん、まさかきみが吾輩を裏切るなんて。失望したよ」

「ターブ、さん……」


 ブタの鼻と耳、尻尾を持つブタの動物種――奴隷の国の管理人、ターブ。

 丸々と太った身体には、高価そうな腕輪、首飾り、指輪などこれ見よがしに身につけている。


「――と、まさか、そこにいるのは『王殺し』のアリス?」


 アリスは咄嗟にイッキの背後に隠れる。


「覚えてる! 覚えてるよきみぃ! 喋れない『欠陥商品』だったけど、覚えがえらく優秀だったんで王に売れた、あのアリスだろう⁉ フゴッ」

「…………」

「一部の動物種はきみを英雄だって称えてる者もいるくらいだよ。そんなきみがなぜここにいるのかなあ?」

「……うるせーばか……」

「は? 今、なんて?」


 アリスは隠れたイッキの背後から、再び姿を現した。

 今度は(おく)さずに、ターブを睨み付けている。


「おいおい、おいおいおい! なにその眼? すっげー反抗的? 人間がしちゃいけない眼じゃん? してー……調教してー……フゴッ」


 ターブが指を鳴らすと、ひとりの奴隷の少女がターブの元に近寄った。


「吾輩が奴隷を連れて来たのにはちゃんと理由があってねえ。エデンの人間は、奴隷の実態をまだ詳しく知らない者も多いって聞いていたから、ぜひ教えてあげたかったんだ」


 首輪を付けた奴隷の少女は、虚ろな瞳で次の指示を待っている。


「これが完璧に調教された人間ってヤツだよ。主人の言いつけは絶対。感情さえコントロールできる。――さあ、まずは吾輩の靴を舐めなさい」

「――はい」


 なんの躊躇なく、少女は命令通りターブの靴に舌を這わせる。

 遠巻きでそれを眺めていた人間たちは、やはり絶望感にさいなまれる。あれが現在のエデンの外での人間の姿なのだ。


「どうして、そんな意味のないことさせるの?」


 思わず、リコが訊ねる。


「意味がないとかあるとか関係ないのさ。ただそうさせたいからさせているだけ。それだけのことだよ。まさにそれこそが、人間の唯一の価値なんだからさあ」

「そんな……」

「例えば吾輩が死ね、と言っても『コレ』は従う。だよねえ?」

「――はい」


 少女が動きを止め、ターブは少女の頭の上に足を上げる。

 リコは、その身体が小刻みに震えていることに気付いた。


「やめ――ッ!」

「――な~んて、そんなもったいないことしないけど。売り物だからねえ」


 ターブは、シェアに視線を切り替える。


「きみだね? きみが、人間にくだらない反抗心を植え込んだ。今回の決闘だってきみが率先したんだからね? 物が、感情を持つこと自体おこがましい。きみも同じ意見だったじゃあないか、シェアくん?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよォ! 俺様は――」


「リーダー、ブタの寝言なんか放っておくに限る」


 リーダー、と、シェアをそう呼んだのはイッキだった。


「あの、旦那? リーダーってそりゃアンタ――」

「フゴフゴうるさいブタ野郎は、とっとと決闘で黙らせればいい」


 興奮すると鼻を鳴らすクセのあるターブは、その指摘が気にくわなかった。


「なんだあ? そこの白髪の人間は? フゴッ」

「元人間の家畜が、今や立場逆転か。出荷される側が出荷してるってことか? くくく、こりゃ傑作だ」


 イッキがフーゴたちの前に歩み出る。


「まずは、俺がやる。好きな決闘方法を指定しろよ」

「奴隷を使って遊んでやろうと思ったけど、もういいや。こ~んな意味のない決闘は早く終わらせよう。そんで、エデンは解体だ。全員奴隷の国に連れ帰って、自分たちの立場を、身をもってわからせてやる……!」


(こいつはまずいこいつはまずい……ターブは問題じゃねェ。問題なのは、その背後にいる動物種――)


「よぉし、あの人間に目にもの見せてやれ! エルダー!」

「――確かに、生意気な人間には、『調教』が必要だな」


 黙って成り行きを見守るばかりだった動物種が、初めて口を開いた。

 黒いスーツのような服と、シルクハットの帽子をかぶるトカゲ種。


「旦那、旦那! あいつはまずいです。決闘は絶対指定させちゃダメですよォ⁉」

「なんでだ?」

「ターブの片腕、調教師エルダー。肉体じゃなく『精神』調教のスペシャリストで、優秀な調教師であると同時に、何人も人間を廃人にしてるンですよ」

「へー」

「すっげェ興味なさそう⁉」


 奴隷の国側からは、エルダーが歩み出る。


「決闘とは高貴なものだ。だが同時にすべてのものに平等に与えられるものだ。だからこそ神は、人間であるおまえたちにも権利を与えたのだろう。だから私は、例え脆弱な人間であろうと、全力を尽くそう。決闘方法は――『拷問』」

「拷問?」

「直接肉体を傷付けるわけではない。奴隷としての価値を落とす行為は、私の流儀ではないからな。お互いに精神魔法をかけ、そこでどちらかが降参するまで、ありとあらゆる苦痛を与え続ける」


 シェアがイッキの手を引く。


「き、聞いたでしょ旦那ァ! 今回、肉体的な強さは意味がねェ! 相手はその道のプロなンだ。だから今回は別の――」

「面白そうじゃないか。いいだろう」


(あ。ダメだこれ。話聞いてねェわ)


 エルダーが、イッキに向かってコインを指で弾く。

 イッキはそのコインを手でつかみ取った。


「コイントスでマーク付きの表が出ればおまえの先行。裏が出れば私の先行。表が出ることに賭けるのだな。おまえの唯一の勝機は、それしかない」


 イッキが笑い、コインを親指で上に弾いた。

 落下するコインを、手の甲で受け止めた。


 コインを隠した手をずらすと、出たのはマークのない面のコイン。


「――裏だ」


 シェアが手で両目を覆う。

 シェアからすればイッキが廃人になろうが知ったことではないのだが、問題は敗北することで保身が危ういということだ。


 管理人のターブは陰湿で根に持つタイプ。今回の件に加担した者全員、凌辱の限りを尽くされるだろう。


 だが、エルダーが決闘内容を提案し、イッキは受託した。

 すでに決闘は成立してしまった。もう取り消しはできない。


「これでおまえは、生まれてきたことを呪うようになる。想像を絶する苦痛によって」


 ゆっくりと、エルダーがイッキに近寄ってゆく。

 その手がイッキの視界を覆った瞬間――ふたりは、白い空間に立っていた。


「ここは、『死』の存在しない精神世界。意識さえ失えない。安直な希望は捨てることだ」

「くくく、そうか。楽しみだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ