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反撃の狼煙

 王、死去――。

 瞬く間に世界に知らせは行き届き、人々は悲しみに暮れた。


 落ち着いた様子のリコは、座って続報を待っていた。


「――なんか、あんまり実感がないの。おとうさんが王様になってから、会う機会なんてほとんどなかったから」


『わたし、がんばるから! おとうさんに認めてもらえるように!』


 一定の功績を認められれば、王への謁見が許される。

 毎日討伐ギルドに通い、腕を磨いていたのはそのためだった。


「内緒にしてたつもりじゃないんだけど、ごめんね?」

「いや――」


 イッキは、かける言葉が見つからなかった。

 家族を失う痛みが、辛さがどれほどのものか、イッキは知っている。


 カタカタ――。


 テーブルに置かれた水晶が揺れる。

 魔力の込められた、映像を空間に映し出す装置――要するにテレビである。


『全世界のみなさん――王の使徒、エルノールです。私も正直、まだ混乱しております。王は、世界のことを常に考える、素晴らしい方でした。ただ、残念なことに一点だけ、見誤ってしまった。それが、今回の悲劇につながってしまったのです』


 最初に映像に現れたのは、エルノール。

 イッキは眉をひそめる。


『王は――人間に、殺されました』


 リコの、息を呑む声が聴こえた。

 次に移った映像は、王と、ひとりの少女。

 少女が大剣を手に、王の胸目掛けて突き刺した瞬間だった。


『人間に情を移してしまった結果、油断が生まれ、このような結果に――』


「……イッキ、くぅん……ふぇぇ……ん……!」


 証拠となる映像を前に、我慢が限界に達したのだろう。

 リコは涙をポロポロとこぼし、イッキの胸に顔をうずめる。


『この人間には、王の葬儀と同時に然るべき公開の処罰を――』


「くくく……なるほどねえ」

「イッキ、くん?」

「リコ、辛いだろうけど、よく見るんだ。彼女に見覚えは?」


 繰り返し流れる映像、その中の金髪の少女――王の就任式の際に、王のかたわらにいた奴隷の少女だ。


「アリス――ちゃん?」

「この映像だけど、いくつか不思議な点がある。なぜ王は夜にあんな場所にいたか」

「ふぇ……っ?」

「よく見ると、最初は誰かと話しているように見えないか?」


 イッキの指摘通り、王は背を向け、誰かと話しているようにも見える。


「次に、あの人間の女の子に、あんな大剣が持てるかどうか。よほどの怪力じゃなきゃ、無理だ」

「……そ、それ、どういう、意味」

「王は誰かにはめられた。そう考えるのが妥当だよ。でも、証拠がない」


 これらの不可解な点は動物種でも気付く者はいるだろう。

 しかし、指摘する者はおそらく現れない。使徒――王に継ぐ権力者が公表している時点で、真実はもみ消される。


 人間が悪となったほうが、都合がいいのだ。


「リコは、真実を知りたくないか? いや、知るべきだ。なら答え合わせはどうすればいいと思う?」


 リコは答えることができなかった。


「――あの人間の女の子を、奪う」


 まるで軽い『イタズラ』を計画する子どものように、イッキは言った。


「う、奪うの⁉ ど、どうやってそんな」

「王宮に乗り込んで、強奪するんだよ? それしかない」


 過去に、王宮に乗り込んだ者はいない。

 そもそも、そういった考え自体、思い浮かぶことがないのだ。


「このまま人間が王を殺したことになれば、今後、人間の立場は最悪になる。奴隷から抜け出るなんて未来永劫不可能だ。違うかな?」

「だ、だけど、でも」

「わざと王をはめて、人間に殺させた。それは、王の意思を踏みにじる卑劣な行為だ。リコは、悔しくないのか?」


 リコの憶えている王は、いつも人間の可能性を信じていた。

 いつか人間と手を取り合い、並んで歩く――そんな夢物語を、本気で語っていた。


「――そんなわけ、ない。悔しい、よ。悔しいに、決まってるよぉ……ッ!」

「そうだ、リコ。黙っているのは負けているのと同じだ。先に喧嘩を売ってきたのは、向こうなんだから」


 ただ、リコには不安がまだあった。

 王が亡き今、アルモニアの管轄はエルノールになっている。


「……エルノール様は、絶対に王宮の中に、いるよ?」


 使徒エルノールは、『鉄壁』の二つ名で呼ばれている。

 魔法の知識、実力はさることながら、真に恐れられているのは、凄まじいまでの防御力だった。


 過去、巨大なモンスターがアルモニアを襲ったことがある。

 ソレを撃退したときでさえ、エルノールはかすり傷ひとつ負わなかったのだ。

 その実力は計り知れない。


「くくく――こっちには、『俺』がいる」


 その言葉は、計画性もへったくれもないものだったが、なぜか、不思議な安心と説得力をリコは感じていた。


「決行は早いほうがいい。王宮の地図はあるかな」

「内部は、公開されてるから……。たぶん、アリスちゃんは地下の牢獄にいると思う」


 たったふたりの、奴隷強奪作戦。

 リコは覚悟を決めた。

 成功しても、しなくても、大罪人となるだろう。

 それでも、真実を知りたかった。


「幸い、リコは面識があるようだから、奴隷の女の子を連れ出す役割はリコにお願いするよ」


 明らかに無謀な計画だったが、イッキからは緊張感のカケラも感じない。

 イッキは、リコが見た中で一番生き生きしている。


「……じゃあ、イッキくんはどうするの?」


 リコがアリスを連れ、逃げるまでの時間稼ぎ――囮が必要だ。

 エルノールは当然障害となり、立ちはだかってくるだろう。

 演説を続けるエルノールを、イッキは不敵な笑みで睨む。


エルノール(あれ)は、俺がやる」

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