告白
「好きだ、神奈」
「――え?」
思い切った。
放課後の学校屋上で、ついに言ってしまった。
俺と神奈は幼稚園、小学校、中学、高校までずっと一緒という、テンプレート的幼馴染だ。
この関係を、いつか壊したいと思っていた。
「一輝……」
お互い十八歳を迎え、進路も別々になることが決まっている。
神奈は容姿端麗、頭脳明晰。学校の人気も凄い。
俺とは不釣り合いなのもわかっている。だからこそ、伝えたかった。
腰まで伸びた艶やかな黒髪が揺れ、風に乗っていい香りが運ばれてくる。
大和撫子、と表現するのが一番しっくりくるだろう。
「……うれ、しい」
ぽつりと、神奈が呟いた。
「うれしいよ、一輝」
顔を真っ赤にして、抱きついてきた。
――ああ、これは夢じゃないだろうか。
もし夢なら、醒めないで――
「これで、今の世界を滅ぼせる……」
およそこの状況に相応しくないセリフ。
一瞬、耳を疑った。
「今、なんて?」
「ほんとうにうれしいの。わたしたち、両想いになったんだよね。これでもう、未練はないの」
「お、おい、冗談は止めろよ、こんなときに」
俺は知っている。この口調のトーン、神奈は、冗談を言っていない。
「わたし、一輝に恋をしたの。こんな気持ち、数万年生きてきて初めてだった。だから、もし両想いになれたら、この星を、ふたりに相応しいものに作り替えて、安住しようって決めていたの」
完全に引きつっている俺の顔を、胸の中の神奈が見上げた。
「わたしは、『星喰い』。そして――創造主」
∞
「……はッ⁉」
ベッドから跳ね起きる。
夢――じゃない。
あれから、いつも通りの神奈に戻り、「また明日ね」とだけ言い残して別れた。
なにかの冗談だったのだろうか。
きっとそうだ、そうに違いない。
学生服に着替え、階段を降り、いつものように家族と会話を交わす。
何気ない日常の中、チャイムが鳴った。
きっと神奈だ。
「じゃ、いってきます」
いつものようにドアを開けると、いつもの神奈の眩しい笑顔――
「……え?」
神奈は、確かににこにことほほ笑んで、いつものように俺を迎えている。
だが。
俺の家以外、街並みが消えている。
俺の家を残して、更地になっていた。
なんだこれはなんだこれはなんだこれ……。
家の中から見る景色は、いつも通りだった。なのに。
「びっくりした? 家の中からは普通になるようにしてただけ」
「…………」
冷や汗が流れる。
呼吸が苦しい。
「ふふふ、この星の知識は学んだ。だから今の文明は用済みなの」
「いってきま~す……なんだおにいちゃん、まだいたの? ――へ?」
遅れて出てきた妹が、周囲の状況を察知し、呆気に取られていた。
動けない俺を尻目に、神奈はほほ笑みながら妹のもとへ歩く。
そして、妹の頭を撫でた。
「か、神奈、さ――」
その瞬間、妹が掻き消える。
まるで存在そのものが最初からなかったかのように。
「……な、なに、した……! 俺の妹に、なにを……⁉」
「『食べた』だけだよ?」
平然と言い放つ。
「ね? 憎い? お願い、憎んで。愛憎が、ふたりの絆を強めるの」
――憎しみ。
言われるまでもなく、今の俺の心の中は憎しみが渦巻いている。
「だから、とりあえず、一輝にはそれなりに強くなってもらわないと。『勇者のたまご』の中で」
「――ッ⁉」
突如、身体が『なにか』に吸い寄せられる。
慌てて振り返ると、白い――まるで卵のような形の『なにか』があった。
俺の身体がぎゅぽっ、とそこに収まると、下から白い肉壁が盛り上がってくる。
必死に脱出を試みるが、身体はびくともしない。
「おい! 出せ! 止めろぉッ! ……許さないぞ……神奈! 神奈ァッ!」
「うん。一輝。わたしを見つけてね。待ってるから。何年でも、ずっと、ずっと――」
白い壁が完全に閉じる、と、俺は意識を失った。