とおいゆめ。
教室の端っこから、いつもクラスの中心にいるあなたの事を見つめる。
いつも誰かが傍にいて、盛り上がりの輪が自然とできるような人で、誰にだって平等に優しくて、まじめなところはちゃんと真面目にしていて。……そんな姿が、頭から焼き付いて離れない。
あなたに初めて会ったきっかけも、私ははっきりと覚えている。あなたにとっては、ほんの些細な日常の一部だったのだろうけど。でも、私にとっては、一生に一度の出会いだった。
あなたはずっと日の当たる場所にいるのに、私は海の底にいるみたい。それだけ日陰者の私に、これ以上あなたに近づけるチャンスを、神様は与えてくれなかった。一度だけあなたが夢を見させてくれた、あなたのいる世界は、私の周りとは比べ物にならないくらい、温かくて明るくて、天国のように思えた。
あの光のものに行きたい。そんなこと言ったって、叶えてくれる魔法使いなんて、おとぎ話みたいに簡単に表れてくれるわけがない。だから、自分で自分に魔法をかけた。恋という魔法で。
野暮ったかった眼鏡も取って、視線を隠すために伸ばしてた前髪も取った。友達だって増えて、私も光の当たる世界までは来れた。『恋は女の子を綺麗にする』って昔からの言い伝えも、信じてしまいそうになるくらいに、綺麗になれた気がする。
でも、光のずっとずっと向こうにいるあなたは、こんな私になんて気づいてくれるわけがなかった。こんな私に興味なんて無いの、ずっとずっと遠くから見てたから知ってるはずなのに。他に、好きな人がいるってことも。
それに、あなたを見る度に、あなたの声を聞くたびに、胸の奥がズキズキと痛むようになってしまった。
私を輝かせてくれた恋という魔法は、同じ世界に立った瞬間に大きな呪いとなった。ただ遠くから見るだけでいいと割り切れたときには、持ってなかった感情が、……もっと近づきたい、あなたと触れていたい。そんな欲望が、心の中に芽生えてから。
あなたの目線が偶然私と重なっただけで、顔中熱くなって、何もできなくなる。「好き」っていう、たった二文字の言葉も、あなたに伝える前に、喉の奥で霞のように消えてなくなってしまう。その気持ちに、心臓を鷲掴みにされたように痛むから。
届いたはずの光は、蜃気楼のように逃げていく。一度近づいたときに見えた、あのまばゆいばかりの光を、心は、ずっとずっと追い求めていってしまう。
いくらあなたの事をわかっていても、どれだけ声を振り絞ったって。
人魚姫の声は、この気持ちは、……あなたには届かない。