第7話 こぞうは湯けむりと共に。
なんかセリフばかりで、小説と言うよりは脚本みたいになってます。ご了承下さい^_^;
ウエストセントラルにある、まあまあ大きな宿屋。
日本の旅館よろしく大浴場があって、男湯と女湯に分かれているらしい。この『世界』が日本人によって造られたことは疑いようもない。
「ミイカちゃん、お風呂行こ」
「うん」
(女の子っても5才だし、犯罪じゃないよな。身体もタオルで隠せばわかんないだろ)
アリシアはミイカの手を引いて女湯の暖簾をくぐった。
「あれ?ミイカちゃん、ネックレスなんてしてたんだ?」
脱衣所で服を脱いだミイカの首すじに、キラリと銀の首飾りが光った。
「うん。あのね、おかあさんからもらったんだー」
(そうか、服の中に入れてたから気付かなかったのか。あれ?)
「ちょっと見せて貰ってもいい?」
「いいよー」
よく見るとその銀の首飾りのペンダント部分には、蒼い宝石を取り囲むように何かの紋章が刻まれている。
「あ、怪しすぎる!怪しさ大爆発だーっ!!」
(ちくしょう、これが『鍵』だったんだ!)
「おねえちゃん、なにがあやしいの?」
ハッ! 我に帰るアリシア。
「い、いやなんでもないのよー。ホホホホホ」
「へんなのー。ところでおねえちゃん、むねちいさいね」
「うっ!それは言わないで・・・」
「まあまあおねえちゃん、むねのおおきさとおんなのみりょくはひれいしないから、きをおとさないで」
「5才児に慰められるあたしって一体・・・」
その頃リュウガ達は。
二人並んで大浴場の外壁部分を匍匐前進していた。上から見ると丁度女湯の外側だ。
そこは外部からは草むらで見えず、壁には換気のためかいくつかのスリットが設けられている。
「こちらスネーク。目標ポイントに到達した」
「ターゲットの姿は確認できるか?」
「霧(湯気)が濃くてよく見えない」
スリットからは湯気で中の様子は窺い知れないが、人の気配だけは感じることができる。
「よし、ここは僕に任せろ。『風の精霊よ。我が眼前の敵を吹き飛ばせ!』(小声で)」
エリックの呪文に合わせて突風が舞い起こり、湯気が一気に掻き消されて風呂場の視界がクリアになる!
「おおーっ!」×2
その少し前。 女湯。
「じゃあミイカちゃん、次はお姉ちゃんが洗うから湯舟に入っててくれる?」
「うん!」
大きなお風呂が珍しいのか、はたまた口からお湯を垂れ流すライオンの顔に興味をそそられたのか、ミイカはダッシュで湯舟に飛び込んでいった。
「ふぅー。やっとゆっくりできるよー。股の間に挟んどくのも結構疲れる・・・」
ナニを挟んでいたかはご想像にお任せする。
アリシアが女の子には付いてないものをぷらんぷらんさせながらイスに座って髪の毛を洗いはじめたまさにその時、アリシアの前の壁の下の方にあるスリットから突風が吹いてきて、辺りに立ち込めた湯気を掻き消した。
アリシアは頭を洗っていて気が付いていないようだ。
「・・・なんか見慣れたモノが」
「・・・ああ。象さんだな」
「・・・子象だな」
「・・・ああ。子象だ」
「・・・って、男湯かよ!!」×2
「こらーっ!!そこの出歯亀!!」
箒を持った女中さんに見つかった変態×2は一目散にその場から駆け出した。
「あー、いいお湯だった♪」
「いいおゆだったー♪」
「あれ?あんた達何してんの?魂抜けかけてるわよ」
アリシア達がお風呂から出ると、女湯と男湯の出口にある待ち合わせ場所でリュウガとエリックが突っ伏していた。
「頼む。少しの間俺達をそっとしといてくれ・・・」
「こ、子象が・・・」
「小僧?変なの」
「へんなのー」
・・・それから数時間後。
「さあ!いつまでくたばってんの!?そろそろ出発するわよ」
子象、もといアリシアが意気消沈しまくりの男性陣の尻を蹴り上げた。
そのまま目の前を歩いていた女将さんに話し掛ける。
「あのーすいません。王都までの乗り合い馬車みたいなのないですかねー」
「あー、あるにはあるけどねえ。ほら、あんな事件があったから今は城門を閉鎖してしまってるのさ。王都に着いても猫の子一匹足りとも中には入れないよ」
「事件?」
「知らないのかい?王女が誘拐されたんだよ。ちょうど一週間前にね。王女の誕生日パーティーが催されるってんで王城が解放されてたんだけど、警備の隙をついて掠われたらしいのよ」
「ふーん」
初耳だ。というか城から王女が誘拐されるなんて、ちゃんと警護してたのか、ポチョムキン。
「幸いいなくなったことにすぐ気付いて、街は封鎖されたってわけ」
「もし犯人が高位の魔法使いなら、もう転移の呪文で脱出してるんじゃないの?」
「あんたらは本当に何も知らないんだねえ」
「どういう事ですか?」
「王都じゃ一切の魔法が使えないんだよ。別名『沈黙の都』と言われる由縁さ」
「なら、王女と犯人はまだいるのか。街の中に」
いつの間に復活したのか、リュウガとエリックが会話に割り込んできた。
「今は外出禁止令が敷かれてて、しらみ潰しに犯人捜しが行われてるんだってさ」
「『沈黙の都』か」
「今の僕達が逃げ込むにはぴったりの場所だね。魔法を封じられれば奴ら相手でも何とかなりそうだ」
リュウガはともかく、アリシアとエリックも役立たずになりそうだがな。
「で、女将さん。王都行きの馬車はいつ出るの?」
王都に向けて街道を馬車が走っている。二頭立ての大型の馬車の車内はがらんとしている。
「客は僕達だけみたいだね」
「まあ目的地が封鎖されてるんじゃあ仕方ないわよね」
「しかし、さすがによく整備されてるな。王都行きの街道は」
村に行く時のガタガタの土の道とは違い、遥か彼方まで石畳できれいに舗装されている。
馬車の揺れも少なく快適そのものだ。
「王都には夜明け前には着くらしい・・・けど誰この人?」
十人は乗れる大型の馬車には、アリシア・リュウガ・エリック・ミイカ以外に一人の青年が座っていた。
正確に言うと座ったまま眠っていた。
「僕らが乗る前から乗ってるしね。疲れてるんじゃない?」
「寝かしといてやれ。ぐっすりとな」
「あたし達も少し寝ときましょ。明日は早いわよ」
ほどなく車内は微かな寝息と車輪の音しか聞こえなくなった。そして馬の蹄が地面を蹴る音も遠くに聞こえるが、心地好い子守唄のようだ。
「・・・お客さん、お客さん終点ですよ!お客さんってば!」
いつの間に馬車は目的地に到着したのか、御者がいつまでも眠っているお客の肩を揺すっている。
ようやく目を覚ましたその客は寝ぼけ眼で辺りを見回すと、二度寝して寝過ごしたことに気付いた出勤前のサラリーマンなみの勢いで起き上がり、ビシイッと御者を指差してこう言った。
「クックックッ、この俺『稲妻』のザジ、あらかじめお前らの行く手に先回りしてたんだよ!」
「・・・お客さん、何言ってんすか。早く降りてくれないと車庫に帰れないんですがね」
御者の心底迷惑そうな顔を見て我にかえった客-『稲妻』のザジ-は、小さく咳ばらいをすると恥ずかしそうに尋ねた。
「5才くらいの女の子を連れた三人組を見なかったか?」
「とっくに降りましたけど?」
「くそう!謀られたか!!」
わなわなと肩を震わせながら、ザジは本気で悔しがっていた。
当の三人組はというと、王都の城門の手前500mまで来ていた。朝日も登り始めて外壁より高い建物や塔が幻想的な雰囲気を漂わせている。
「ここが王都か〜」
「この外壁の高さじゃ超大型巨人に襲われたらひとたまりもないな」
「あと20メートルは欲しいわよね」
んなものはいないぞ。・・・たぶん。
そんな雰囲気をぶち壊すかのように、彼らの後方からドドドドド!と凄まじい足音と砂煙が迫ってきた。
「何?」
「さあ?巨人ではなさそうだが」
その正体は。
言うまでもなくあの男だった。
「クッ、クッ、クッ。こ、この俺、『稲妻』のザジを出し抜くとは、た、大した奴ら、だな!」
思いっきり肩で息をしながら、ザジはアリシア達を睨みつけた。
「あ、さっきの居眠り青年」
「起こさないで悪かったな。よく寝てたもんでな」
「いやいや、気を使わせたみたいでこちらこそ、って何言わせるんだ!」
(ノリツッコミだ)
(ノリツッコミね)
(ノリツッコミか)
「おにいちゃん、おもしろーい」
ミイカが小さな両手をぱちぱちと叩く。
「んなこたあいい、お前らの持っている『鍵』をこちらに渡してもらおうか!」
「!!!」
アリシア達に緊張が走る。
「この間のゴブリン女の仲間か!」
「この『稲妻』のザジ、イヴァリアのように甘くはないぜ」
「ザザ?」
「ジジ?魔女の使い魔みたいな名前ね」
「そうそう。キキー、早くいこうよー、って誰が黒猫やねん!」
(関西弁だ)
(関西弁ね)
(ノリツッコミの上に関西弁か)
それ以前にジブリの知識がある事に疑問を感じていただきたい。
「おにいちゃんほんとにおもしろーい」
「だあーっ!もういい!おしゃべりはここまでだ。俺の魔法で貴様らはここで息絶えるのだ!」
「魔法ですって!?」
「くそう!雷系の魔法か!」
『稲妻』のザジの顔が驚きに変わる!
「なに!?な、何故俺の得意な魔法を知っている!?」
「・・・は?」
「こちらの情報が筒抜けになっているのか?とすると俺の弱点が猫であることも掴んでいるはず!」
「おい、馬鹿だ馬鹿がいるぞ」
リュウガがザジを指差す。
アリシアもザジを指差し、高らかに叫んだ。
「フフフ、その通りよ!あなたの弱点が猫であることはお見通しよ!」
「やはりか!!」
「紛れもなく真性の馬鹿だ…」
エリックは開いた口が塞がらないようだ。
さらにアリシアはノリノリでザジを追い込んでいく。
「ここであたしが口笛を吹けば101匹もの猫が集まるわよ」
「ぐは!ちいっ、ここはひとまず引いてやる。しかし次はこうはいかんぞ!」
轟く雷鳴。
『稲妻』のザジは自らの身体を電気に変換し、文字通り電光石火の速さで去って行った。
「・・・すげえ、あれと戦ってたら」
「間違いなく負けてたわね」
「助かったな。馬鹿で」
「あー、おもしろかった。またくるかなー」
「来るだろうな。馬鹿だから」
「とりあえず猫を手に入れとかないとね」
「だな」
『稲妻』のザジの致命的な欠点。それは<馬鹿>というスキルを持っていることだった・・・