第6話 黒幕っぽいヤツ登場!
いつにも増してちょっと短めです^_^;
-ある広間。小さな教会くらいの広さがあるその部屋には、背もたれの高さがニメートルくらいある椅子以外には何もない。壁にも絵画の一枚すらなく、窓や扉も見当たらない。
しかし完全な暗闇ではなく、その部屋の空気自体が発光しているのか、その椅子とそれに座る人影、そしてその前に膝まずいているもう一人の人物が見てとれる。
「申し訳ありません」
膝をついている方が口を開いた。この声には聞き覚えがある。
「『鍵』を手に入れることができませんでした」
そうだ。あのダークエルフの声だ。
「気にするなイヴァリア、まだいくらでも機会はある。」
応えたのは男の声。まだ若い。
「しかし『鍵』があいつらの手中にあるのはまずいのでは」
「『鍵』があっても開けるべき『錠』が何なのか解らなければ何の意味もない」
「おっしゃる通りですが・・・」
「まあ、もう少し遊ばせてやろうじゃあないか。どうせこの『世界』は僕の掌の上なんだから」
男はニヤリと口を歪める。
「はい、マスター」
イヴァリアと呼ばれたダークエルフは深く頭を垂れた。
「結局は負けたって事なんだろ」
何処からともなく別の若い男の声が響いた。
キッと鋭い視線を周りに巡らせるイヴァリア。
ピシャアアアッと天井から床に雷光が走り、薄暗い部屋が一瞬まばゆく照らされる。
「・・・『稲妻』のザジか」
光に目を細めもせず、椅子に座った男は突然目の前に現れた青年に声を掛けた。
「そろそろ俺にも出番を下さいよ、マスター。そこの半分黒エルフよりは役に立つと思いますよ」
「消し炭になりたいようだな」
気のせいか、イヴァリアの周りにメラメラと炎が上がっているのが見える。
「『稲妻』と『炎』、どちらが早いかなんて誰でも分かる問題だぜ」
「・・・試してみるか」
ザジの軽い口調に対してイヴァリアは真剣そのものだ。よく見ると右手に炎の精霊<サラマンダー>を握りしめている。
てか<サラマンダー>握り潰されそうなんですけど。精霊愛護団体あたりが黙ってないぞ。
「好きにするがいい」
一触即発の空気をマスターの一言が霧散させた。
「ちょ、マスター!」
「さっすが、話が分かるぜ。じゃあ早速行ってきまーす」
再び雷光が輝き、ザジは姿を消した。
「いいんですか?マスター。あいつには致命的な設定があるんですよ?」
「・・・・!ま、まあやるときゃやる男だ。大丈夫だろ。たぶん・・・」
(マスター、完全に忘れてたな・・・)
何かビミョーな空気を醸しだしつつ、その部屋は完全な暗闇に閉ざされた。
さて、イヴァリア率いるゴブリン軍団をなんとか退けたアリシア、リュウガ、エリックの三人は再び村長の家に戻っていた。
「まさか奴らの狙いがこの娘じゃったとは・・・」
村長が隣りで眠るミイカを心配そうに見つめる。
よほど疲れたのか、ミイカは家に戻る途中に背負ってくれていたリュウガの背中で眠り込んでしまったのだ。
「鍵<キー>って言ってたわよね、あの女・・・」
アリシアがイヴァリアの台詞を思い出しながらつぶやいた。
「<魔法感知>を掛けてみたけど反応0だったし、彼女の身体に秘密でもあるんだろうか?」
エリックが少女の寝顔を見る。あどけない、どこにでもいそうな5才の子供にしか見えない。
「じいさん、そういやこの子の両親は?」
リュウガが問い掛ける。この家に来てから、村長夫婦とミイカ、この三人しか見ていないし、それ以上他の人間が住んでいる気配も感じられない。
「先の大戦で死んだよ。二人ともな。」
「大戦?何それ?詳しく聞きたいわね」
「知らんのか?お前さん方どこの田舎から出てきたんじゃ。あの戦さからまだ三年前しか経っておらんのじゃぞ?」
やれやれ、といった感じで村長は語り始めた。
三年前。
南の辺境の地、イヲズ島より闇の魔法使いがデミヒューマンやデーモン、ドラゴンの軍勢を率いてこの国を攻めて来た。
王国騎士団や魔導兵団が迎撃に当たったが劣勢を強いられた。
その時、聖剣を携えた剣士とその仲間達が闇の魔法使いを倒し、平和が訪れた。
「というわけじゃ!」
「話短かっ!!てか読めたわよ!」
おもむろにアリシアが立ち上がった。
「つまり闇の魔法使いは倒されたんじゃあなくて、封印されたのよ!聖剣によってね。んで、ミイカちゃんの両親はその勇者と共に戦った仲間で、自分達を盾にして勇者を守ったのよ!どう?コ〇ンも真っ青の推理でしょ!」
ビシイッと人差し指を村長に向ける。
「いや、全然違うし。てかコ〇ンって誰じゃ?たしか、昔の戦士にそんな名前のヤツがいたような」
残され島にもいたな。
「いきなり全否定された・・・」
うなだれるアリシア。んな簡単にいくわけねーよ。
村長が話を続けた。
「息子夫婦は確かに闇の軍勢と戦い命を落とした。だが、勇者達とは面識すら無かったよ」
「うう、じゃあなんでこの子が狙われんのよ。てっきり闇の魔法使いの魔法を跳ね返した時に出来た稲妻だかなんだかの傷がついてるもんだとばかり」
「・・・おい。そのネタはさすがにマズイだろ」
エリックがアリシアをたしなめる。
てかごめんなさい。
「とにかく。此処にいてもまた狙われるのがオチだ。ヤツらにな」
珍しくリュウガが良いことを言った。
「確かに」
村長が頷く。
「どこか安全な所に匿ってもらうってのはどうかしら」
「この国において安全な場所といえばただ一つしかない」
「どこ?」
「王城じゃよ。現在の王はかの勇者様じゃからな」
「ええっ!?王様?ちょっと若すぎない!?」
「若い?いやそんなこともないと思うが」
「だって二十歳前後で王様って!あ、そうかこの世界じゃ普通なのかも」
「二十歳前後?ポチョムキン王は42歳じゃが」
「42!?勇者なのに!?勇者の年齢制限オーバーしてない!?ってか何その名前!勇者なのに!!」
勇者に年齢制限があったとは。
「20歳と40歳、確かに常識的に考えればしっかりしてるだろうな。後者の方が」
またおかしな事にリュウガが常識を口にした。
「でも勇者なのよ!じゃあ名前は!?名前は変でしょ?ねえ!」
「グリゴリー・アレクサンドロヴィチ・ポチョムキン(ロシア語: Григорий Александрович Потёмкин、1739年9月13日(グレゴリオ暦9月24日) - 1791年10月5日(グレゴリオ暦10月16日))は、ロシア帝国の軍人、政治家。タヴリダ公爵で、ポチョムキン=タヴリーチェスキー公爵と呼ばれる。帝国秘密参議会参事官、軍法会議副議長、陸軍首席大将にして南部ロシア総督(クリミア総督)。エカチェリーナ2世の愛人。Wikipediaより。」
おい、エリック。Wikipediaを暗記してんのか!?
「おお!ポチョムキンのくせに偉そうだ!ロシアじゃ普通の名前なのか、ポチョムキン」
「うう。あたしの勇者観が~」
んな偏った勇者観は捨てていただきたい。
そして翌朝。
三人はミイカを連れて王都を目指す事にした。一旦ウエストセントラルに戻って定期馬車に乗って行く予定だ。
「じじい。ミイカは必ず幸せにする。俺がな!」
「・・・不安すぎて死にそうじゃ」
「やっぱり村長さん達も一緒に来ればいいのに」
「昨夜も言ったとおり、わしらも行けばまた襲われた時に足手まといになる。そして頼れるのはお前さん方だけなのじゃ」
たった一人の孫娘だ。離したいわけがない。しかし、自分達の感情より孫娘の安全の方が何千何万倍も大切なのだ。
年老いた、しかし力強い眼差しを確かに三人は受け止めた。
「安心して下さい、ミイカちゃんは必ず王都に送り届けますよ」
エリックの言葉に村長が頷く。
「安心するがいい。泥船に乗った気でな!」
「・・・・・・」
年老いた、そして心配そうな眼差しがアリシアとエリックに向けられる。
「リュウガ、あんたはもう喋るな。ミイカちゃん、おじいちゃんやおばあちゃんと離れ離れになるけど大丈夫?なんならしばらくあたし達がここにいてもいいけど」
「・・・ううん。またあいつらがおそってきたらむらのみんながこまるもん。あたし、おしろにいく!」
「で、出来た娘さんだ」
「頼みましたぞ、お二方」
を村長の目がうるうるさせながら言った。
「おい、のけ者にされてるぞ。アリシア」
「・・・あんただ、あんた」
「潜水艦に乗った気で任せろ。俺にな!」
わざと言ってるだろ、リュウガ。
「リュウガおにいちゃん、よろしくね」
ミイカがにっこり微笑む。
「・・・・・」
「幼女相手に何をマジ照れしてるんだ・・・」
「アリシアおねえちゃんもエリックおにいちゃんもよろしくおねがいします」
ペこりと頭を下げる。
「ホントに出来た娘さんだー!」
さて、こうして村を後にした四人はウエストセントラルへと戻ってきた。
「早っ!」
「まあ、また襲われなくて良かったじゃないか」
「じゃあまた部屋を取らなきゃねー。あたしとミイカちゃん、エリックとリュウガでいいわよね。お金ないし。」
「・・・なんなのリュウガ、そのおもいっきし不満そうな顔は。」
「・・・べつにぃ」
とか言いながらも顔には不満だ!とデカデカと書かれている。そんなリュウガを道端に落ちてるゴミ並にシカトして。
「じゃあミイカちゃん、行こっか」
「うん!」
手を繋ぎ去って行く女子二名(正確には違う)。
そして置き去りにされた男子二名はというと。
「さて、御手洗」
真剣な顔付きでリュウガがエリックに向かい合う。
「なんだ、唐突にリアルネームで・・・」
「ここは夢だよな」
「・・・夢か異世界かは分からんが、現実でないことは確かだな」
「なら何をしても犯罪にはならん・・・よな?」
「岩田!お前まさか本気で幼女相手に!?いくら夢でもヤバいって!」
エリックの指摘に慌てて首を振るリュウガ。まあさすがにねえ。
「違う違う!アズマばかりにおいしい思いをさせていていいのか?やつは見放題の触り放題なんだぞ、俺達も少しくらいいい目をしてもいいんじゃないのか?」
「まさかお前・・・やる気か?」
「さっき仲居さんを買収して女湯のピーピングポイントを教えてもらった」
「いつの間に・・・てかその行動力はどこから来るのか」
もっと他に回せばいいのにな。マジで。
「やるのかやらないのか!どっちだ?」
「・・・やらいでか!」
二人はバロムクロスばりにがっちりと腕を組んだ。
その目には炎がメラメラと燃え上がっていた。かなり邪まな炎が。