第5話 ダークゴブリン襲来!
5話まで進みました〜。ストックはあまり無いので、更新遅くなったらすいません^_^;
その村は街-ウエストセントラル-から20km程南西にあった。
「いやー、まさか一瞬で村まで来れるとはねー」
アリシアが辺りを見回しながら言った。
「ほんとほんと。てっきり馬車かなんかで揺られながら行くもんだとばかり思ってた」とエリック。
「TRPGじゃ当たり前だがな!君達は村に着いた、ってわけだ!」
リュウガが納得するように頷く。
そう、コンピューターのRPGとは違い、TRPGではレベル上げのためのルーチンワーク的な移動はしない。
あくまでも重要なのはスピーディさとノリなので、ストーリー上で特に必要でないものはあっさり省かれるのだ。・・・だよな?
あの後、三人は何とか村長の依頼を受ける事になった。そして村に行こうと宿屋を出た瞬間、どこでも○アを抜けた野比家の長男のごとく、村の入口に立っていたというわけである。
「まるでどこでもドアみたいだねー」
・・・伏せ字にした意味がないじゃないか、アリシア。
「とりあえず、わしの家においでなさい」
「え、そんないきなり大歓迎していただかなくてもー」
「僕、しいたけだめなんでよろしくお願いします」
「娘はもらってやろう!俺がな!」
「・・・お前らにツッコミ役はおらんのか」
気のせいか村長の額に縦線が見える。
「ちなみに娘はおらん。孫娘ならおるがな」
「よし、もらってやろう!遠慮なくな!」
「今年5才じゃ」
村長は右手をパーの形にしてリュウガに突き出した。
「くっ。ストライクゾーン内角低めいっぱい・・・か。きわどいな!」
リュウガが額の汗を拭う。
「てか入ってるのかよ!」
思わずリュウガの後頭部をはたくエリック。
「児童ポルノ法と幼児強制猥褻で捕まればいいのよ」
アリシアの冷たーい目がリュウガに突き刺さる。
無念そうにうなだれながら、リュウガは言った。
「・・・ぎりぎりボールで」
「ぎりぎりかよ!」
と、どうやらエリックがツッコミ役に決まったところで、四人は村長の家に着いた。
すると庭で遊んでいた少女が人影に気付いて駆け寄ってきた。先程の会話に出て来た孫娘だろう。
「おじいちゃん、おかえりなさいー!」
女の子は村長に抱き着いた。
「ミイカ、ただいま。いい子にしてたかな」
ミイカと呼んだ女の子の頭ををなぜる村長。
「うん!あ!ぼーけんしゃだ!」
アリシア達に気付いたミイカがくりくりした大きな瞳を輝かせた。
「おにいちゃんたちがゴブリンをやっつけてくれるの?」 大きな眼をきらきらさせながら、可愛らしく小首を傾げる。
「やっぱりど真ん中ストライクかも…」
少女をじっと見つめながらリュウガがつぶやいた。
「・・・はあ~」
アリシアとエリックは顔を合わせると大きくて深いため息をついた。
「それで村長。ゴブリンの住み着いた古城というのはどこに?」エリックが尋ねる。
「この村から南に5km程行ったところにあるんじゃが、今日はもう遅いからわしの家に泊まるといい」
「あ、フルコースとかホントに結構ですから♪」
「僕しいたけはマジだめなんで」
「孫娘さんは幸せにしてみせる!必ずや!」
「こやつらに任せていいんじゃろうか・・・」
村長夫人の決して豪華ではないがボリュームと味は満点の夕食を食べた三人は、村長自慢の桧風呂の勧めを(アリシアが)断り、ミイカが遊んでいた庭に集まっていた。
「ちょ、入浴シーンわあぁぁぁあ!?」エリックとリュウガが号泣している。
「野郎の裸なんか誰も見たくないっての!」マジ泣きしている男共をアリシアが一喝する。
「アズマ、自分だけずるいぞお!!」
「お前は見放題の触り放題だもんな!」
エリックとリュウガが抗議の声をあげた。
「だからー」
女じゃないと説明しようとした時、村長が現れた。
「なぜ風呂に入らん!じゃなかった、なぜこんなところに?」
「エロじじい、もとい村長さん、いい質問ね。さあ教えてあげなさい下僕たち!」
振り返ったアリシアの目に入ったのは、体育座りで砂に「の」の字を書き続ける二人の背中だった。これ以上ないくらいにいじけている。
「お、お前ら・・・」
「しょーがないなあ、後で見せてあげるからいじけるの止めなさいよね」
「うおおおぉぉっ!マジかああっ!」
「ぐおーっ!我が生涯に一片の悔いなし!」
「や、約束だぞ!破ったらハリセンボンだからな!」
エリック、リュウガそして村長までもが涙を流しながら拳を突き上げている。
(お前らの見るのは見慣れたもんなんだけどな・・・まあ言わないでおくか)
「その代わり!あたしがリーダーなんだからね!ちゃんと言うこと聞きなさいよ!」
「了解!!」
軍隊顔負けの敬礼を見せる三人であった。
・・・かわいそうに。
「では僕から説明させてもらいます」
エリックが進み出た。
「今夜、この村は間違いなくゴブリンどもに襲われます」
「な、なんじゃと?!何か根拠があっての事なんじゃろうな!」
「・・・村長、背中に手を伸ばしてみて下さい」
「何、背中?」
不思議そうな顔をして村長が背中に手を伸ばしてみる。カサッ、何か紙のようなものが貼られている。
「なんじゃこりゃーっ!!」
その紙には可愛らしい文字でこう書かれていた。
『今夜0時、あなたの大切なものをいただきに参ります。ゴブリン軍団一同ハート』
「い、いつの間にこんなもんを!」紙を持つ村長の手がワナワナと震えている。
「あの宿屋に現れた時には貼ってあったわよ?」
「なぜもっと早く教えんのじゃっ!」
思わず紙を真っ二つに引き裂く村長。
「いやー、この辺りの流行なのかと」
「流行るかっ!!」
てか、何故気付かなかったのかと問いたい。
「まあ大切なものが何かは知らないけど、まだ取られてないみたいだから、ヤツらは間違いなく今夜来るはずよ!」
アリシアが言い切った。特に根拠はなさそうだが。
「なるほど!」
勢いに負けた感じの村長が納得した。
「んなわけで、ただぼーっと待ってるわけにはいかないわ」
アリシアとエリックがアイコンタクトを交わす。
「これから準備をするので、村の人達はどこかに避難してもらって下さい」
「ゴブリンは皆殺しにしてやるぜ!俺がな!」リュウガが腰のムラマサに手を掛けた。
「よし、村の衆は村外れの寺にに避難させるとしよう」
ふとアリシアが引っ掛かったままになっていた疑問を思い出した。
「ところで大切なものって何?」
「恐らく居間にある壺じゃろう。先祖代々伝わる大切なもんじゃからのう」
「いい物なのですか?」エリックが尋ねる。
「北宗だな・・・」
「はいはい、マ=クベごっこはそれくらいにして。村長、壺はこっちで預かるわよ?」
「キシリア様に・・・」
「殺すわよ」
アリシアの瞳に明確な殺意を見た村長は、家の中に入ると件の壺を持って出て来た。
「ふーん。何の変哲もないただの壺に見えるけど」
「何か宝の地図が入ってるとか、クシャミすると出てくる魔神が封印されてるとか?」
アリシアが壺を軽く振ってみる。音はしない。
ぶんぶん振る。無反応。
岩に叩き付けようとした時、村長がアリシアから壺をアメフトのプロ顔負けの勢いで奪い取った。
「なにするんじゃ!とにかくわしの一番大事なものはこの壺じゃ。くれぐれも奪われんでくれよ」
「りょーかい」
それから三時間後。
暗闇で何かが動く気配がする。
手にした短刀は黒く塗られ、月の光を反射するものはその赤い眼のみだ。
そいつが足元に張られたロープにい気付いた。等間隔で木の板が結ばれている。鳴子だ。
いくら知能が低いゴブリンといえども、わざわざ警報に引っ掛かる程馬鹿ではない。
ロープをまたごうとした時、横合いから声が掛けられた。
「おっと、そのロープを一歩でもまたいでみな。首が飛ぶぜ。お前のな」
「!!」
ゴブリンは声の主を見た。
右の眼に眼帯をした和服の男。左手に刀の納まった鞘を握っている。
ゴブリンが剣を構える。
さて。ここでリュウガの頭に一つの疑問が浮かんだ。
「ちょ、戦闘ってどうやるんだ?!」
「?その持ってる長物で切り掛かればいいんじゃないの?」
当然の質問をするリュウガに呆れた顔でアリシアが答える。
鉛筆を握っているのに、字の書き方を聞く馬鹿を見るかのような目だ。
「バカ言え!自慢じゃないが包丁すら握ったことないんだ!いくら夢とはいえ生き物に刀で切り付けるなんてできるか!」
キャラクターの口調を使うことを忘れるほどに慌てているリュウガ。
「んー。それもそうか」
アリシアも自分の腰にぶら下がっているメイスを見る。
確かにこれをゴブリンの頭部に振り下ろして、脳漿なんぞを撒き散らしたりしたら、間違いなく吐いてしまうだろう。
蚊や蝿を殺すのとはわけが違うのだ。
その時エリックが何かに気付いた。
「あれ?リュウガの頭の上、何か浮かんでる」
エリックがリュウガの頭上を指差した。
「何? 」
思わずリュウガも上に視線を走らせる。
リュウガの上に浮かんでいるもの。
それは二つの正六面体だった。いわゆるサイコロってやつだ。
一辺が50cm程もある大きなサイコロがリュウガの頭上1mくらいのところでゆっくりとと回転している。
「・・・なんだこれは」
「・・・!!戦闘判定だ!」
エリックが叫んだ。
「戦闘判定?」
「ほら、あくまでもこの世界はTRPGなんだ。だから判定時にはサイコロを振らなきゃダメなんだよ。きっとそうだ」
エリックはルールを思い出した。
「えーと、確か命中判定は、敏捷+器用さ×さいの目(+特殊能力)の数字を出して、相手が回避判定でそれを上回れなければ当たりだったはず」
「俺の敏捷値はいくつだ?」
「さあ」
「器用さは?」
「さあ」
「何か特殊能力持ってたか?」
「さあ」
「で、どうやって転がすんだ」
「さあ。気合いじゃね?」
その通りだった。
「ぬぉぉおおおららああぁっっ!!」
ムラマサを振りかざしながらリュウガが念を込めると、頭上のサイコロが回転速度を上げた。そして前に弾かれたかと思うと、ころころと転がってその動きを止めた。
その直後、血飛沫を上げながらゆっくりとゴブリンが倒れた。
「・・・当たったみたいだな。」
「しかも一撃だ。クリティカルかな?」
「クリティカルだともっかいサイコロ振れるはずでしょ?それにほら」アリシアが空中のサイコロを指差した。
下に向いている面が淡く光っている。3と4だ。
「クリティカルは6ゾロだしね。単純にHPが低いんじゃない?それにしても向こうの判定とダメージ計算は一瞬みたいね」
「雑魚相手に時間掛かってもテンポが悪いだけだしな」
エリックがうなずきながら言った。
そうこうしていると、その雑魚がワラワラと森の向こうから湧きだしてきた。5匹いて、各々根棒や剣を構えている。
「よーし、今度は私の番のようですね」
いつの間にかエリックの頭上にも二つのサイコロが浮かんでた。
「確か魔法は賢さ+器用さ×さいの目(+特殊能力)で発動値以上が出れば良かったんだっけ」
「正しくは呪文を詠唱しながらだ」リュウガが補足する。
「呪文かー、結構恥ずかしいんだよなー。<炎柱>の呪文は確か・・・」
少し照れ臭そうな顔で、杖を持った両手をゴブリン達の方に突き出すエリック。
『猛々しき炎の精霊よ!天まで昇る柱となりて我が眼前の敵を焼き尽くせ!!』
・・・この男、ノリノリである。
炎の柱が立ち上がり、複数のゴブリンがまとめて焼かれていく。数千度の炎に炙られて炭化したゴブリンが崩れ落ち、肉の焦げる臭いが辺りに立ち込めた。
「うう、ちょっとグロいかも・・・」鼻と口を手で覆い隠してアリシアが眉をひそめた。
「しかし、なんかあっけなくないか?意外に」リュウガが違和感を口にする。
「うん。あたしもそう思ってた」同意するアリシア。
ゴブリン軍団、あの紙にはそう書かれていた。わずか数匹で軍団とは呼び難い。
だとしたら他の連中はどこに・・・
「・・・まさか!!」
村人が避難している場所に駆けつけた三人。
予想通りそこはすでに数十匹のゴブリンに包囲されていた。
「やられた!壺は囮だったか!」
囮の使い方を間違ってないか?エリック。
「とりあえずここは様子を」
「ゴブリン共!蹴散らしてくれるわ!俺達がな!」
アリシアの提案を掻き消してリュウガの大声が響き渡った。
ゴブリンが一斉にこちらを見る。
「・・・あんたって人はぁぁ」
「よし、ここは戦意をくじく意味で出すぞ!必殺技をな!」
「<剣技>か!」
エリックがルールを思い出した。
魔法使いに<魔法>、僧侶に<法術>があるように、戦士や剣士にも<剣技>と呼ばれる特殊スキルがある。
MPを消費する代わりにただ斬るだけよりも絶大なダメージを与える事ができるのだ。
リュウガはムラマサを鞘から引き抜いて正眼に構えた。
「柳生流剣技!必殺『紺碧 巨星斬!!』」
蒼い光に包まれたリュウガは空高く飛び上がり、ゴブリンが最も密集している所に斬撃を叩き付けた!
一気に十数匹のゴブリンが消滅する。
「-なかなかやるわね」
不意に高い声-女性のそれだ-が辺りに響いた。
そう言いながら出て来た-というより突然顕れた、というべきか-のは、長い黒髪にSMの女王様のような衣裳を身に付けた美女だった。
ボンテージから溢れ出さんばかりの巨乳。キュッとくびれたウエスト。バイーンなお尻。
どこをとってもアリシアとは月とスッポン、猫に小判、カッパ巻きに味噌、である。
「ちょっと!最後の例えの意味がわかんないけど、間違いなくバカにしたわね!」
「あたしはまだ発展途上なんだからね!」
・・・なにをどう発展させる気だ、お前は。
「むう、そのボディライン!やるなゴブリンのくせに!」
リュウガが値踏みするかのような目付きでその女をジーッと見る。
「あたしはゴブリンじゃねえ!ダークエルフだ!」
なぜか恥ずかしそうに両手で体を隠しながら答える、自称ダークエルフの女。
「ダークゴブリン?」
リュウガが聞き返す。
「ゴブリンがさらに黒くなってどうすんだよ!ダークエルフだよ!」
「なるほど、ダークエルフ風のゴブリンか」
「風じゃねえよ!本物のダークエルフなんだよ!」
「・・・そんなに言うならそれにしといてやるよ」
やれやれ、てな感じで両の掌を上に向けるリュウガ。
「なんだその哀れむような顔は!あーっ!ムカつくなあ、お前!!ゴブリン共、やっておしまい!」
顔どころか全身を紅潮させてダークエルフ(自称)が叫んだ。
しーん。
周りにはゴブリンのゴの字すら見当たらない。
まさに鳩が豆鉄砲を喰らった顔のダークエルフ(自称)の女。
「あなたの部下はもう全滅させましたよ。リュウガと漫才をしてる間にね」
杖を掲げながらエリックがその疑問に答えた。
エリックの頭上には、まだ戦闘判定のサイコロがゆっくりと回っている。
「な、なにぃ!?」
「ばーか、ばーか」
男のくせに体形で負けてるのがよほど悔しかったのか、アリシアが舌を出す。
「もう完全に頭来た!鍵<キー>の確保なんか知った事か!」
明らかにさっきとは違う意味で顔を紅潮させたダークエルフは、両手を頭上に掲げ何やら呪文を唱え始めた。
「ま、まさかあの呪文は!?」
「知ってるの!?リュウガ!」
「知らん!全くな!」
メキョ。
アリシアの右拳がリュウガの顔面にめり込んだ。
「いや、待て!マジでヤバいぞ!」倒れ伏すリュウガを無視してエリックが叫んだ。
「なんなのよ!」
「あいつの頭の上を見てみろ!」
「頭の上?」
アリシアは見た。ダークエルフの頭上で回転している<三つ>の六面体を。
「さっきの雑魚とは違う!レベル10オーバー!しかもオープンダイスだ、手加減無しだぞ!」
ちなみに判定に使われる六面体サイコロは基本二個だが、レベルが10上がるごとに一個追加される。
「全員灰になるがいいわ!『怒り狂える炎の精霊よ!紅蓮の嵐となりて我が眼前の敵を燃やし尽くせ!!』」
「超ヤバい!聖霊よ!より集いて我等が盾となり給え!『守護円陣』!」
ダークエルフの起こした爆炎がアリシア達に襲い掛かる!
しかし寸前に展開された防御結界によって、その炎は冒険者達の身を焦がすには到らなかった。
「・・・やるじゃないの、お嬢ちゃん」
以前に神の攻撃を跳ね返したのと同じ呪文だが、その時二ノ宮はサイコロを振らなかった。
その時の<ノリ>でアリシアの防御結界が弾き返したことにしてくれたのだ。
もしあの時、サイコロをアズマ達の前で振っていたら・・・
彼らの冒険は終わっていた。間違いなく。
今回ダークエルフの『爆炎』の呪文を弾き返せたのは運が良かったに過ぎない。
あちらのサイの目は1・1・3、こちらは5と6。ともにファンブルとクリティカルぎりぎりの値だ。
内心の動揺を抑え込みながら、アリシアはダークエルフに応えてみせた。
「ま、まあね。ところでさっき言ってた鍵<キー>ってなに?この壺の事?」
とりあえず時間稼ぎに話題を変えてみる。なんとか策を講じないと。
アリシアの思惑に気が付いたのか、それとも自身の優位性からくる余裕からなのか。ダークエルフは微笑んだ。
「なるほど。頭もいいみたいね。んでなに?その趣味の悪い壺は?」
出来の悪い部下の報告書を見る上司のような顔で、アリシアが村長から奪い取った壺を睨みつける。
「外れか」
いーらない、とばかりにおもむろに壺をそこら辺に放り投げるアリシア。村長がダイビングキャッチして三回転ばかり地面を転がる。
「こおらっ!我が家に先祖代々伝わる家宝の壺を!壊す気か!」
村長がもの凄い剣幕で怒鳴ったその時。
「おじいちゃーん!」
ミイカが村人の輪から走り出してきた。
ダークエルフの瞳がミイカを捉える。
その口元が綻んだ。
「見つけた!鍵<キー>!そこを動くんじゃないよ!」
ダークエルフの眼が光ったかと思うと、素早い動きでミイカに向かって駆け出した。
「ちょ、鍵<キー>ってミイカちゃん!?」
不意を衝かれたアリシアはダークエルフの動きに反応が遅れた。
(しまった!間に合わない!)
が。反応し得た者がいた。
「俺の嫁には触れさせん!指一本たりともな!」
いつの間にかリュウガが立ち塞がっていた。
すでにその手にはムラマサが抜き放たれている。
「『身体強化』の呪文か。魔法使いめ、いつの間に」
ムラマサを構えるリュウガの身体が淡く光っているのをダークエルフは見のがさなかった。
短時間とはいえ、Lv10のダークエルフと同等の動きをするに違いない。
「ふん、まあいいわ。今日の所は引いてあげる。また改めて来るから、宝物はちゃあんとしまっておかないとダメよ」
すぐ目の前にある獲物に少しも未練はないのか、ゴブリン、もといダークエルフの女は掻き消すようにその姿をくらました。