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TRPGはこわくない♪  作者: 高山マサムネ
3/10

第3話 幼なじみは甘い香り♪


校門前。アズマ、岩田、御手洗の三人が立っている。

「あのボディビルダー部の筋肉馬鹿どもめ、俺達を荷物みたいに放りなげやがって。壊れ物の扱い方が全くなってないな」

「僕達、壊れ物だったのか」

「さらに付け加えるなら、生ものだ」

「そりゃあ宅配屋さん泣かせだねぇ」

「うんうん」


三人が夕日を浴びながら黄昏れていると、二ノ宮セイイチロウが姿を現した。


「さて諸君。グゥルディルヌンを倒した君らは、いよいよ本格的に悪の組織に狙われる事になった。ついては明日までにレベルアップを終わらせておいてくれ」

「おー!ついにレベル5の魔法が使える!」と御手洗=エリック。

「俺も『分身』が覚えられる。これで一人ジェットストリームアタックができるな」と岩田=リュウガ 。

「僕は『賢者』にクラスチェンジしようかな」とアズマ=アリシア。

「いや、セイラさんに賢者は似合わん」首を振りながら岩田が言った。

「どう考えても、戦う僧侶>>>越えられない壁>賢者だろ」

「そうだよなー。風紀委員って言うよりはナチのSSって感じだもんなー」御手洗も岩田の意見に賛成のようだ。

「い、いやちーちゃんはああ見えても案外優しいとこあるんだよ」アズマが何とかフォローを入れようとする。

「優しさならジャイアンにだってあるぞ」岩田がフォローを打ち消した。

「・・・確かに。正論だ」御手洗が頷く。

「ジャ、ジャイアンよりはマシだと思うけど・・・たぶん」アズマは否定しきれなかった。



剛田武と遜色ないのか、瀬良チヒロ。



「実は次のセッションにセイラさんを誘ってみたんだが」二ノ宮が言った。

「おおっ!それで!?」三人が口を揃える。

「振られてしまった」

 首を振りながら二ノ宮は返答した。 

「やっぱり~」

 揃って肩を落とす三人組。

「まあ腐女子ならともかく、お固い風紀委員長じゃねえ」

「死ぬまでに一度でいいから女子としてみたいもんだ」

「・・・なんか卑猥だぞ」


「フッ。いずれその機会もあるだろう。ではまた明日」

 二ノ宮は片手を上げると颯爽と夕日の中に消えていった。


「しっかし絵になる人だな。俺達と年齢や性別はおろか、とても同じホモサピエンスとは思えんな」

 二ノ宮の後ろ姿を見送りながら、御手洗が呟く。

「なんでもファンクラブもあるらしいしね。なんで彼女いないんだろ?てか、なんで俺達とTRPGなんてやってんだろ?」


「・・・なんでなんだろ?」

三人は同時に首を傾げた。




御手洗達と別れた帰り道、中村アズマは考えていた。

ちーちゃんとTRPGかー。そういや幼稚園の頃はよくヒーローごっこをしたっけ。

・・・大体僕が怪人役だったけど。 小学校まではよく遊んでたのに、中学からなんか疎遠になっちゃったなー。

なんでだろ?

やっぱり僕がオタの道に踏み込んだからなのかなー。でもそんなに見るからにオタクっぽい感じはしないよね。そうだ、僕は他の連中ほど酷くないよ。うん。


過半数のオタクと同じように、アズマくんが客観的に自分を見れないでいると、急に後ろから首を羽交い締めにされた。


「うぐっ!!?」

「中村アズマだな?」


耳元で声がした。聞き覚えのある声だ。わざと低くしているが、清んだソプラノは隠しようがない。


「ち、ちーちゃん!苦しいって」(そ、それに背中越しに思いっきり柔らかい弾力のあるものがぁ)

その柔らかさに反比例するようにアズマの一部分が固くなる。


「ばれたかー」

ヒョコッと首を傾げながらチヒロがアズマの視界に入ってきた。

「正体がばれたからには死んでもらう!」

チヒロは女子のそれとは思えないフットワークでアズマの懐に入り、顔面に拳を叩きこむ。思わず目をつぶるアズマ。


ぺちん。


チヒロの拳はアズマの顔面数センチ手前で止まり、その白くて細い人差し指がアズマの額を軽く弾いた。


「峰打ちじゃ。命拾いしたな・・・くくっ、あはははは」

大笑いするチヒロ。


「何してんだよ!ちょっと痛かったよ!」

当然、全く痛くないアズマだが、額を押さえながら少し怒ってみせた。


「え!?ゴメン!爪が当たったのかな?ホントにゴメンね」

焦りながらアズマの額を覗き込もうとするチヒロ。柔らかい髪が軽くアズマの頬をなぜる。甘い香りがした。


「うそうそうそ!なんともないよ!」アズマは慌てて飛びずさる。

「あー、良かった」胸を撫で下ろすチヒロ。

「さっきも飛び蹴り入れちゃったし、気になってたんだ。みんな怪我とかしてないよね?」


気にするんなら飛び蹴りなんか入れんなよ、と思いながらも口に出来るはずもなく、

「みんなああ見えて頑丈だから。あはは」と愛想笑い全開になる中村アズマ16才=彼女いない歴であった。


ちなみに幼なじみとはいっても、二人の家は隣同士ではない。ただし方向は同じなので約2kmの道程を並んで帰ることにはなる。傍から見れば恋人同士に見えるだろうか。


恋人同士かー。無理だよなー。今さら告るなんてできっこないしなー。今の関係で十分幸せなんだよ、うん。でもちーちゃんモテるしなー。!ま、まさかすでに付き合ってるヤツがいるとか!?いやいや、ちーちゃんの本性に我慢できるヤツなんて僕くらいしかいないね。何回三途の川に足を突っ込んだことか。そういやあの時は酷かったなあ。小学三年生の冬だったっけ・・・



「で?そんなに面白いわけ?」

チヒロがアズマの顔を覗き込みながら尋ねた。

「え!?ななな何がっ!?」

チヒロの悪戯で雪ダルマに閉じ込められた思い出に浸っていたアズマは現実に引き戻された。

「さっき二ノ宮君達と遊んでたゲームよ。Tなんとかってやつ」



あ。いけない!セイラさん、その質問は危険だぞ!



「あ、TRPGね。うん、楽しいよ。」

「ドラクエみたいにゲーム機でやるのより?」



ダメだって言ってるのに!



「断然!対CPUってのは基本的にフラグ探しだからね。オンラインでボイチャ使うのはまだ近いんだけど、やっぱり臨場感ていうかキャラとの一体感が足りないんだよなー。冒険してるって感じられるのは(以下略)」



・・・ほら、オタ特有の『自分の好きなものの話には饒舌になる』が始まった。



「・・・というわけなんだよ。ちょっと難しかった?」


「フラグ探し、まで聞いてた」花が咲いたような笑顔で返事をするチヒロさん。どうやらこういう現象には慣れているようだ。


「あ、そ、そう。よかったらちーちゃんも明日おいでよ。絶対楽しめると思うよ」

「ま、考えとくわ。じゃあねー」

「じゃあね」



ちーちゃんとTRPGかー、楽しいだろうなー。

ちーちゃんはエルフとか似合いそうだよなー、ディー〇リッ〇みたく。すると僕は〇ーンか。



例えるキャラが古すぎるぞ、アズマ。



でもせっかく好きなキャラに成れるんだからやっぱ女性がいいよなー。お姉さま~的なヤツか・・・


などと気色の悪い妄想をしてる間アズマはに家に辿り着いた。


「ただいまー」

洗面所に向かうと母親がリビングから出てきた。

「お帰りなさい。なんか荷物届いてたわよ、部屋に置いといたから」

「ま、まさか勝手に中身見てないだろーね」



何か見られて困るものでも頼んでいるのか。



「まさか。いくら息子でもプライバシーは守らなきゃね。ただ見られて困るものはちゃんと隠しときなさいよ。ベッドの下とかタンスの一番下の引き出し抜いた下とかにね」

「な、なぜそれを?!」

二階の自分の部屋までダッシュで駆け上がるアズマ。

部屋に入るとA4くらいの大きさの茶色い小包がベッドの上に置かれていた。18禁の同人誌と共に。


「うわーん!」


くそっ、勝手に息子の部屋に入るのはプライバシー侵害じゃないのか。

よく見ると恥ずかしい格好をした女の子の表紙の上に一枚のメモがある。


『二次もいいけど三次に興味持ちなさいよ(はぁと)』


なんで二次とか単語知ってんだよ!母さん!


とりあえず小包を手に取ってみる。宅配便の伝票の宛名は間違いなく自分宛てだ。差出人は・・・二ノ宮セイイチロウとある。


「二ノ宮くんか、なんだろ?」

丁寧に包装紙を開けるアズマ。中身は黒い箱だった。箱の蓋をまるで爆発物処理をする警官のような慎重さで開けてみる。



中には。一冊の本が入っていた。


綺麗な装飾の入った表紙には『レムザリア戦記TRPG』と書かれている。


「いつもやってるヤツだ。凝ってるなー!いつの間にこんなの作ったんだろ?」

本をそーっと取り出して見る。

「まあ、あの人ならやりかねないけど」

表紙からページをめくってみる。どうやらルールブックのようだ。

「キャラクターの作成とルールについて、か。前のと何か違うのかな。作り替えないといけないのかな」

「えーと何々、種族、性別、職業か、特に変わってないみたいだけど…」

「種族はヒューマン、エルフ、ドワーフ、ホビット。やっぱし人間だよなー。人間万歳!性別は女子でしょー。違う自分を演じてこそのTRPGだもんね」

「職業かー。あの二人はどうせサムライと魔法使いに決まってるからな、自然と僧侶になるんだよね。あ、やっぱアリシアと変わんないじゃん。作り直す意味ないような…」


ここでアズマは従来のキャラメイクになかった部分を見つけた。


「あれ?最後の『特徴』って今までなかったな。六面体を二回振って出た目を書き込むと。それっ。一回目が一で二回目は・・・三か。何かを参照するのかな?」

ルールブックとおぼしき本をペラペラとめくってみるが、どこにもそれらしき表みたいなものは見当たらない。


「ん〜、どこにも表がないな。まあいいか。」

「よしよし。レベル5の僧侶の出来上がりっと」



結局アリシアに落ち着いたようだ。



「明日はどんな冒険を用意してくれてるんだろ。楽しみだなー」

アズマは遠足の前日の小学生のようにワクワクしていた。




そしてその期待は、これ以上ないくらいに叶えられることになる。。。


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