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運命の日(1)

 約束の10日後、クローディア皇宮で一番広い議会場には、以前大神殿に居合わせた人々が様相を変えて集まっていた。扇状に広がる席を埋めるのは帝国の重鎮ばかり、そうそうたる顔ぶれである。対する上座中央には皇帝と皇妃が並び、その左右に分かれて3人の皇子が座る。騎士2人に連れられて会場に足を踏み入れたクロエは、思わず棒立ちになった。その場には既に異様な緊張感が漲っていた。

 ほとんど引き摺られるようにして真ん中まで進み、今日もクロエはこの会の中心に置かれる。

 残念ながら今回は花嫁ではなく、罪を問われる立場で。

 用意が整ったことを確認し、カイサル・クローディア皇帝陛下は徐に腰を上げた。

 

「――さて」


 静まり返ったその場に、凛とした声が響く。

 

「早速だが始めようか。先日大神殿で巻き起こった論争に関しては皆も記憶に新しいことと思うが、本日はその件に関し、事の真偽を明らかにすると伴に対応を定める予定だ。――それでいいな、エドワード」


 水を向けられ、エドワードが「有難う御座います」と言って椅子を立つ。彼の釣り目がこちらを向いて、クロエはびくっと肩を震わせた。が、彼はひとまずクロエには触れず、今ここに居ない人物について言及した。

 

「まず今回詮議される対象であるジュリアン・ヴィンスに関してですが、見ての通り不在です。実は私の領土で身柄を拘束しておりましたが、脱獄し、5日ほど前から姿を消しております」


 脱獄と聞いて、人々のざわめきが小波のように広がる。クロエはごくりと固唾を呑んだ。確かに彼はこの場には居なかった。今朝ある目的で出て行ったきり、まだ戻っていない。

 落ち着きなく外を気にするクロエを他所に、エドワードは続けて言った。

 

「…なので欠席裁判となりますが、問題は無いと考えます。私はまず陛下に、こちらの手紙を提示させて頂きたい。どうぞ、中身をご確認ください」


 差し出されたものを、皇帝陛下は黙って受け取った。封を切って中身を開く。その動作を、隣のエヴァンゼリンは固唾を呑んで見守った。

 

「それはラフレシア王国のある方から送られてきたものです。脱獄したジュリアンがその後何処へ行って何をしたかが、詳しく記されております。あの者は何を思ったかラフレシアの議会場に乗り込み、魔道力を以って建物を破壊しようとしたそうです。その後再び逃走したとのことですが、その際はっきりと瞳の色が赤く変化するのを、ラフレシアの諸侯全員が目撃しております」


 皇帝は封の中にまだ何かが入っているのに気付き、掌に取り出した。金細工の輝きが、皆の目に晒される。その動作を見守りながら、エドワードが説明を添えた。

 

「陛下は当然ご存知でしょうが、それは私達クローディアの皇族が持つ紋章です。ご確認頂ければ分かりますが、ジュリアンの名が彫られております。…どうやらその場に残してきたようで、あの者が確かにラフレシアに現われた証拠にと同封されておりました」


 クロエの眉も知らず顰められていた。ジルは確かに紋章を置いてきてしまったと言っていたが、こんな風に戻ってくるとは思っていなかった。

 エドワードは聴衆の反応を窺うように視線を巡らせた後、その目を皇帝陛下に戻して告げた。

 

「…これで、ジュリアン・ヴィンスが魔道士であることは確定いたしました。この件に関して何か反論がございますでしょうか。エヴァンゼリン姫」


 名指しされたエヴァンゼリンが、身を強張らせるのが分かる。逡巡の後、諦めたように目を閉じた。

 

「…ございません」


 それは全ての運命を受け入れようと決めた者の顔だった。クロエの胸がずきりと痛む。

 

「では改めて、あの者の父親の名を明らかにして頂きたい」

「…私のかつての夫、ジェラール・エンバリーでございます」

「有難う御座います」


 一気にざわつく場内に反して、エドワードに驚きは無かった。ただの事実確認であったという風情で頷き、長い人差し指をぴたりとクロエに当てる。

 

「では、そこの女」

「っ、…はい」

「フランシア・エンバリーと偽ってこのクローディアに来た、お前の本当の名を名乗って貰おうか」


 ――遂にこの時が来た。覚悟を決め、クロエは精一杯の声で告げる。

 

「クロエ・ノアと申します」

「エンバリー家との関係は?」

「…フランシア様の、侍女として仕えておりました」

「――結構」


 聞きたいことは聞き終えたという様子で両手を挙げ、エドワードはクロエから目を逸らした。瞬間、クロエは声を上げる。

 

「待って下さい!!」


 背を向けかけたエドワードが、瞳だけこちらに戻した。視線だけで威圧され、クロエの足は情けなくも震え出す。

 それでも今この場にはクロエしか居ないのだ。黙っていてはル・ブランの容疑は晴れない。そう自分に言い聞かせ、喉から言葉を押し出した。

 

「…聞いて下さい…。確かに私はただの侍女で、フランシア姫ではありません…が、ジェラール様は確かに姫様をクローディアに送り出していらっしゃいます!ただ、姫様が来る途中に姿を消してしまわれただけで…!でも…後ほどきっとこの場に、来て頂けますので…!」

「後ほど?では今は何処に居るというのだ」

「い、まは…」


 クロエは視線を彷徨わせ、議会場の入り口で止めた。そこには当然、求める姿は無い。

 

「申し訳ありません…。きっと、間もなく…」


 エドワードはふんと鼻を鳴らしてクロエに背を向け、皇帝陛下に言った。

 

「もう充分でしょう、父上。ジュリアンは魔道士であり、ジェラールとの固い繋がりがあることが証明された。更には今回の婚姻に際し、偽者の花嫁が送られてきていることも明らかになった。これでもまだ、ル・ブランの陰謀など無いと思われますか?」

「――待ってください!!」


 追い掛けるように、クロエは一歩踏み出していた。その動きは両側を固める騎士にすぐに阻止されたが、引き下がるわけにはいかなかった。身を乗り出し、クロエは必死で訴える。

 

「…待って下さい…!私が偽物で、ジルが魔道士で…、それだけでそこに悪意や陰謀が存在したと決めてしまわれるのは、あまりに早計ではありませんか…?!」


 騎士が「静かにしろ!」とクロエを制する。エドワードが不愉快そうに目を眇めた。

 威圧されてしまいそうになる自分を、無理やり奮い起こす。

 

「そ…そもそも殿下は、ジルのことをどれだけご存知なのですか?」

「…なんだと?」

「…会食にも、き、来てくださらなかったし…、グリフォンに招いて下さったのも、私だけだったではないですか…!ろくに顔も合わせて下さらなくて、殿下にジルの何が分かるのですか…?!ジルが実際に密使のような振る舞いをしたかどうか…どうして誰にも、訊いてすら下さらないんですか?!」

 

 再び控えめなざわめきが起こるなか、吐き出し切ったクロエの体はまた思い出したように震え出した。

 エドワードの顔は変わらず無表情のままだ。それでも目には抑えきれぬ怒りが揺らめいている。皇太子に対して、畏れを知らないひどい態度をとっている自覚はある。ただでは済まないかもしれない。

 どこかでそう覚悟して、クロエはきゅっと目を閉じた。その時――。

 

「――その者の主張も尤もだ」


 よく通る声が割って入った。席を立った、皇帝陛下だった。エドワードが「父上…!」と非難を含んだ声を漏らす。それに応えることなく、皇帝陛下は会場の端へと目を遣った。

 

「レディオン騎士団長!!」

「――は!」


 団長は驚きを見せながらも、皇帝の呼び掛けに応えて前に出た。慌てて礼を取る彼に、厳かに告げる。

 

「発言を許す。ジュリアン・ヴィンスに関するお前の見解を率直に申せ」


 皇帝陛下の命令にエドワードはあからさまな舌打ちをした。クロエの言葉で動いた父親に対する不満が、表情に表れている。くだらない――そんな彼の心の呟きが聞こえるようだった。

 団長は「畏れながら申し上げます」と前置いて答える。

 

「…私は、あの者を13の時から知っております。貴族家の血を引いて生まれながら、裕福な暮らしを知らぬ者です。そのためか、身分の隔たりを感じさせぬ空気があります。私はあの者が他者に対して家柄をひけらかすのを見たことがありません。皇籍に入った後も皆に対し、一団員としての地位を越える対応を要求することはありませんでした。むしろ皇族などと思わず今まで通り扱って欲しいと、そう言って――」

「――だからどうしたというのだ!目的が知れぬために外面を繕うのは密使として当然の行為であろう!」

「その通りだな、エドワード」


 苛立った息子を、皇帝陛下の声が宥める。エドワードは虚を突かれたような顔になった。

 

「私が示したいのはジルの人となりではない。あれが密使だったとして、何をしたかということだ。そもそも騎士団に入れたのは私だ。ジルの希望ではない。皇族に入ることになったのも、あれが未成年であったがために他の選択肢を与えられなかったが、本人が喜んでいなかったのは知っている。ジルがその地位を利用して何をした?――この場の誰でもいい。ジルに何かしらの情報を探られた記憶のある者は名乗り出よ!」


 クロエはぱっと集まった人々を振り返った。食い入るように見詰める中、手を挙げる者は現れなかった。それを充分に確認して、皇帝陛下は息子に目を戻す。

 

「…私自身もジルに政治的な情報を漏らしたことなど一度も無いが、そもそも聞かれたこともない。――私のこの言葉も、お前は疑うか…?」


 エドワードは答えなかった。ただきつく唇を引き結び、父を見返していた。納得したという顔ではなかった。むしろより一層反感を強めているように見えた。

 不意にそれまで黙していたジョシュアが片手を挙げる。

 

「あー、ちなみに私もだ」


 そう言って、立ち上がった。

 

「それなりに長い付き合いのつもりだが、ジルに何かを探られた記憶はない。むしろ社交の場に出してやろうとしたのを、苦手だからと言って断られた。仲良くなっておけば何かと都合が良いであろう貴族のご令嬢達に見向きもせず、舞踏会に出るより仲間と酒を呑んでいる方が数倍楽しいなどと失礼な事をほざく始末だ。あれが密使でも、我が国の脅威にはならん」


 隣に居たセドリックはハッと笑うと、「同感!」とだけ言った。エドワードは心底疲れた顔で嘆息する。


「…私には父上もお前達も、すっかり懐柔されているようにしか見えんがな」

「仲良くなっていると言って貰いたいな」

「弟と親しんで何が悪いの?」

「っ、今まで人間だと偽られていたんだぞ?!それでも仲良くしたいなどと言うのか?!」

「――違うんです!!偽っていたわけではないんです!!」


 再び口を挟んだクロエを、エドワードは鋭く睨み据えた。だがもうクロエが居竦められることはなかった。心強い味方の存在が、クロエに勇気をくれていた。

 

「…ジルは本当に知らなかったんです!人の地で、自分が魔道士であるかどうかを確かめる術も無いまま育って…」

「嘘を吐け!魔道士でないと思っていたなら何故あいつは脱獄したのだ!」

「それは…!――だったら、他にどうすればよかったんですか?!」


 クロエの絶叫に、その場は束の間シンと静まった。皇太子に対するとてつもなく無礼な物言いに、誰もが驚きを通り越して凍り付いた。だがもうクロエ自身にそんなことを気遣う冷静さは残っていなかった。エドワードの身分すら、頭から消えていた。


「ジルは必死だっただけです!なんとかル・ブランの陰謀なんか無いっていう証拠を掴んで、お母さんの幸せを守ろうって動いただけです!――彼が魔道士だったらなんだっていうんですか?!ジルは16年間、その力の使い方も制御の仕方も知らなかったんですよ?!ただの人と同じように生きて来たんですよ?!そうでなかったら大勢の前で力を発動させてしまうなんて…そんな失敗を犯す筈がないじゃないですか!!…それでもダメなの?!魔道士ってだけで、受け入れられないの?!――どうして?!」


 悲痛な叫びは、いつしか涙に上塗りされた。思うさま喚いたクロエの声は、込み上げる嗚咽に喉を塞がれて消える。その場にはまた、静けさが戻った。

 人が変わったようなクロエを、エドワードはただ呆然と見ていた。

 そして皇帝の席の隣、堪え切れず俯いたエヴァンゼリンの頬を、涙が一滴伝い落ちていった。

 

「…エドワード」


 不意に名を呼ばれ、エドワードは我に返ったようだった。その目が皇帝陛下の静かな瞳と出会う。

 

「私も訊きたいぞ。お前はそもそも、何がそんなに気に入らないのだ…?前からジルを魔道士だと疑っていたわけではあるまい。だがお前は初めから、リゼとジルを頑なに受け入れようとはしなかった。今も密告の真偽より、どうにかして2人を追い出すことを考えているようにしか見えない。…それは何故だ?…私に、妻を失うあの苦しみを再び味合わせたいのか…?」


 思い掛けない問い掛けだったのか、エドワードは束の間声を失った。動揺を誤魔化すように作った笑みは、ひどくぎこちなく映る。

 

「母のことなど…、既に綺麗にお忘れでしょうに…。今この時に持ち出すとは…」

「何故忘れていると思うのだ」

「…誰の目にも明らかです」

「……つまり、私が再び妃を迎えたからか?」


 エドワードは答えなかった。否定も肯定もせず、険しい顔で押し黙った。不意にジョシュアが、掌に拳を打ち付けて言う。

 

「あぁ、なるほど!兄上はそれが気に入らなかったのですね?父上が、母上のことを忘れてしまわれたように感じていたと…!」

 

 場違いなほど、明るい声だった。本気で謎が解けたと喜んでいるような。皇帝陛下はその言葉を受けて、改めてエドワードに向き直る。


「…そうなのか?エドワード」

「誰がそんなことを!」


 エドワードは即座に叩き返した。


「…どちらでも構いません。……どうせただの政略結婚なのだから」

「……なんだと?」


 険しくなった父の顔から目を背け、エドワードは吐き捨てる。

 

「今更取り繕う必要も無いでしょう。気位が高く気性の荒いあの母を、父上が疎ましく思っていたことは知っています」


 皇帝陛下の瞳が、衝撃に揺れた。

 誰もが息を呑む。2人の間の空気は、最早限界にまで張り詰めていた。

 エドワードのこめかみに、一筋汗が伝う。

 

「エドワード様、それは違います」


 ふと誰かの声が、その静寂を破った。それはずっと黙していたエヴァンゼリンが、自ら発した初めての声だった。

 彼女はすっと腰を上げ、背筋を伸ばして立つ。先程までの姿が嘘のように、毅然として言った。

 

「陛下は奥様を…セリーヌ様を愛していらっしゃいました。お二人は深く愛し合っていらっしゃいました。私はそれを陛下から、何度となくお聞きしております」


 その言葉を伝えるのがエヴァンゼリンであることに戸惑ってか、エドワードはただ顔をしかめて絶句した。そんな彼の内心に答えるように、彼女は続ける。

 

「私達は出会いが遅かったので…この歳になっていれば当然、お互いに既に自分以外の大事な存在があることは承知の上です。むしろだからこそ、私達はお互いを理解し合えたと思っております。…殿下のような忘れ形見を残して下さった奥様を、どうして陛下が忘れることなどできましょうか。……そんなことは不可能です。有り得ないのです」


 自信を持ってそう言い切り、エヴァンゼリンは美しく微笑んだ。その笑顔がジルと重なって、クロエの胸には熱いものが込み上げる。漸くおさまった涙が、再び呼び戻されそうだった。

 エドワードは放心していた。その瞳はもう何も映していないように見えた。そんな兄を見かねて、ふとジョシュアが口を挟む。

 

「あー、失礼。兄上は別に、本気で母上を貶めようという気は無いと思われますぞ。兄上が仰りたいのはつまり、そんな母上とよく似た自分を、どうせ父上は愛してなどいないんだろうと――そういうことですよね?」


 全員が一瞬、呆気に取られた。軽い調子の問い掛けのわりに、内容があまりにも釣り合っていなかったからだ。

 途端、エドワードが息を吹き返したように怒声を上げる。

 

「だ、誰がそのようなことを!!」

「ほらほら、図星だ。気位が高く気性が荒いというのはご自分のことなのでしょう?気持ちは分かりますが、距離を置いているのは兄上の方なのに疎まれている筈だなんて、いくらなんでも…」

「だ、黙れ!!黙れ黙れ!!!お前はそれ以上何も喋るな!!」


 周りの者達の目が揃って点になる。

 今やエドワードは耳まで真っ赤だった。

 常に冷静沈着な彼らしくもないそんな姿がジョシュアの言を肯定しているかに見えて、更なる戸惑いが広がる。

 皇帝陛下も純粋な驚きを浮かべてエドワードを見ていたが、不意に「そうなのか?エドワード」と真っ向から問い掛けた。

 エドワードは当然ながら猛然と反論した。

 

「違います!何を馬鹿なことを!ジョシュアの妄言など、真に受けないで頂きたい!!」

「私はセリーヌのことを、気位が高く気性が荒いなどと思ったことはないぞ?お前のこともだ」

「、だから!…違うと言っております!」

「確かにセリーヌには気の強いところがあったが、誇り高く聡明な女性だぞ。素直に口には出さないが、実は愛情深くてヤキモチ妬きなところが可愛くてだな。そういえばあれもよく言っていた。どうせ私達の間に愛なんて無いんだからとかなんとか…」

「――父上!!」


 繰り返し絶叫するエドワードを見る皇帝陛下の目が、ふと愛おし気に細められた。

 

「…そのたび私は、彼女から愛していると告げられている気になって、喜んでいたものだよ」


 エドワードは完全に声を失った。

 その瞬間、クロエはエドワードを覆う何かが木っ端微塵に壊れた音を聞いた気がした。現れた顔は今までの彼からすれば想像もつかないほど無防備で、押し寄せる様々な感情に、堪え切れずにくしゃっと歪んだ。

 彼はもしかしたら今初めて、自分の本心と向き合ったのかもしれない――。そう思わせる姿だった。

 家族から浮いていることに対する寂しさとか、誰にも愛されていないかもしれないという不安とか、感じていない振りをして目を背け続けていた負の思いが、ジルとエヴァンゼリンが現れたことで助長されてしまったのだろう。

 彼が本能的に受け入れ難かったのは2人のことではなく、孤立を深める自分自身だったのかもしれない。

 でもそれは全て、怯える心が見せる幻影で――。

 

 あと数秒その静寂が続いたら、エドワードは泣き出していたかもしれなかった。

 だがその時、不意に議会場の扉が外側から開かれたことで、場の空気は一変した。

 全員がハッとするなか、慌しく2つの足音が駆け込んでくる。その姿を認め、クロエの顔は一気に輝いた。

 

「遅くなりました!申し訳御座いません!」


 ジルのよく通る声が辺りに響く。その隣には今朝方彼と一緒に出て行ったフランシアが並んで立っていた。

 

「おぉ、2人とも!なかなか戻らないから心配したぞ!」


 ジョシュアが歓声を上げて椅子を立ち、両手を広げて出迎える。

 クロエとジョシュア以外、状況が見えない者達はただ呆然とその不可解な光景を見守っていた。

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