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白紙の本の物語  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
第四章 魔女の霧
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森へ

 雪の中を歩き慣れていない総司と葵に合わせ、三人はゆっくり森の道を歩いて行った。

 森の中はとても静かだ。しんしんと雪がふる中、三人が歩く音だけが響く。


「そろそろ昼飯にしようぜ!」


 先頭を歩いていたカイが、総司と葵の方をふり返る。

 村を出てから、数時間。厚い雲でわかりにくいが、確かにちょうど昼時だ。

 三人は近くに合った石の上に座り、荷物から干し肉とパンを取り出した。


「昨日言っていた小屋まで、あとどのくらいなの?」


 パンを食べながら、葵がカイに聞く。

 葵の言っているのは、旅人が寝泊まりするために用意された小屋のことだ。ヘンリーが言うには、森の中には何カ所かそういう小屋が用意されているらしい。

 村から一番近い小屋は、霧のすぐ手前にある。そこで三人は、暗くなる前にその小屋へ到着することを目指していた。


「このペースで進めば、夜になる前には着けると思うぞ」


 干し肉を食べていたカイが、「うーん」とうなりながら答える。

 そんなカイに、今度は総司が思い出したかのように尋ねた。


「ねえ、カイ。ちゃんと聞いていなかったけど、森の奥にかかっている霧って、何が変なの?」


「あ! すまねえ。そういや、そこんとこを話してなかったな」


 問われたカイが、やってしまったという顔で額に手を当てる。どうやら、話すつもりですっかり忘れていたらしい。彼は干し肉を口へ放りこみ、「これは騎士団から聞いた話だけどな」と話し始めた。


「霧の中を進むと、なぜか元の場所にもどっちまうそうだ。騎士団も、入る場所や時間を変えるとか色々試したけど、どうやっても霧を抜けられなかったって言ってた」


 カイが聞いた話を思い出しながら、総司に説明する。カイの話を聞いて、総司は腕を組んで考えこんだ。


「なるほど、それは厄介だね。騎士団の人たちも考えつく限りの手を試しただろうし……」


「ソージ、何かいい手は思いつきそう?」


「うーん……。実際に見てみないと、何とも言えないね」


 霧を突破しないことには魔女のところに辿り着けない。しかし話を聞く限り、魔女の霧は難攻不落。

 これはなかなかの難題だと、総司と葵は頭を悩ませる。

 だが、難しい顔をしている二人へ向かって、カイが気楽に笑うのだった。


「霧を突破する方法は、着いてから考えればいいさ。まずは、無事に小屋へたどり着くことだけ考えようぜ」


「そうだね。一つ一つ目標を達成していこう」


「よーし。午後もがんばって歩くわよ!」


 カイの笑顔を見ていると、どんなことでもできそうな気がしてくる。不思議な活力を得た総司と葵は、カイへ力強くうなずくのだった。



          * * *



 昼ご飯を食べ終えた三人は、再び森の奥へと歩き始めた。

 午前中と同じように、休みをはさみながらの進行だ。結果、小屋に着く前に辺りはすっかり暗くなってしまった。

 家などがない森の中は、夜になると真っ暗になる。空には雲がかかっているため、星の明かりさえもない。三人は荷物からランタンを取り出して、慎重に夜道を進んだ。


「森の中って、こんなに真っ暗になるんだね」


 森の奥をランタンで照らしながら、総司がつぶやく。

 現代の日本で暮らしていた総司と葵にとって、これほど暗い夜は初めての体験だ。二人は、明かりがないと夜はこんなにも暗いものなのかと改めて感じた。

 そして、ランタンを片手に森の道を進んで行くこと、さらに一時間ほど。とうとう目的の小屋が見えてきた。


「おお、あれだ。これで野宿しないですむな!」


「ごめんね、カイ。わたしたちに合わせたせいで、小屋に着くのが遅くなっちゃって……」


「迷惑ばかりかけちゃって、本当にごめん」


「あはは。気にするなよ、二人とも。ちゃんとたどり着けたんだから、それでいいじゃんか」


 あやまる総司と葵を、カイがまったく気にしていない様子で笑い飛ばす。

 小屋の中に入ると、しばらく誰も使っていなかったせいか、少しほこりっぽい。

 しかし、そこは総司と葵が思っていたよりも、ずっと立派な小屋だった。ランタンで小屋の中を照らしてみると、奥の方には暖炉まである。暖炉の横には、前にこの小屋を使った旅人が残していったのか、薪も置いてあった。


「おっ、ラッキー! 薪が置いてあるな。湿気てもなさそうだし、これですぐにでも暖炉が使えるぜ!」


 早速カイがその薪を使い、暖炉に火をつけ始めた。普段から家でやっているだけあって、カイの手際は見事なものだ。その間に、総司と葵がランタンの明かりを頼りに、床のほこりをはらっていく。

 暖炉に火がつき、部屋が暖かくなったところで、三人はホッと一息ついたのだった。


「ようやくゆっくり休めるぜ」


「そうだね。一日中歩いたから、足がパンパンだし、体もクタクタだ。……というか、もう一歩も動けない」


「あはは。これにこりたら、もうちょっと体力つけなさい、ソージ」


「うぐっ! 反省します……」


 うなだれる総司を見て、葵が得意げな顔をする。それ見たことか、といった様子だ。

 さすがに分がわるいと感じた総司は、話題を変えようとカイに話をふった。


「ねえ、カイ。例の霧がかかっている場所まで、あとどのくらいかな?」


「そうだな……。多分、この小屋からそれほど離れてはいないはずだぞ。目と鼻の先って感じじゃないか」


「そっか。それじゃあこの小屋は、わたしたちの基地ってわけね」


「キチ? 何だ、それ?」


 葵の言葉にカイが首をかしげながら、聞き返す。


「活動のよりどころとする場所のことだよ。魔女を倒すまで、この小屋がぼくたちの家になるだろうからね」


 カイの疑問に総司が答える。

 すると、カイはニヤリと笑って、二人を見た。


「なるほどな。確かにその通りだ」


「さてと、それじゃあ夕ご飯にしましょう。わたし、もうお腹ぺこぺこ」


 葵の言葉に反応したのか、カイと総司のお腹が鳴り、三人で笑う。


「あはは。オレも腹へったぜ!」


「うん、ぼくもだ。さっさとご飯を食べて、しっかり休むようにしよう。明日からが本当の本番なんだから、体調を整えておかないと」


 言うが早いか、三人ですぐにご飯の準備に取り掛かる。

 持ってきた水を温めてココアを作り、三人は遅めの夕食を取った。

 夕食の後はすぐに寝る支度だ。ランタンの明かりを消して毛布にくるまると、疲れがたまっていたのだろう。三人ともすぐに眠ってしまったのだった。


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