表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白紙の本の物語  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
第三章 百年前の英雄
7/24

旅立ち

「おかえり、三人とも」


「ただいま、じいちゃん」


 宿屋にもどった三人を、ヘンリーが出迎える。彼は総司と葵に礼を言い、すぐに三人を家の中へ引き入れた。


「カイ、少しは頭が冷えたか?」


「ああ」


「思い直してくれたか?」


 ヘンリーの二つ目の問いかけに対して、カイが首を横にふる。

 さらにカイは、ヘンリーに向かって静かに頭を下げた。


「ごめん。じいちゃんがオレのことを思って止めてくれているってことは、よくわかるよ。でも、母さんのことを思うと、じっと待つことなんてできないんだ」


「……やはり、止まらないか」


 カイの言葉にヘンリーがため息をつく。その顔には、あきらめの表情がうかんでいた。


「お前がそう言うのはわかっていたんだ。お前はとても勇ましい子だからな」


 ヘンリーにはわかっていたのだ。カイが止まらないこと、そして、自分ではカイを止められないことを……。

 ヘンリーはカイの前まで歩いていき、彼の肩に手を置いた。


「お前の意思が変わらないと言うなら、もう止めはしない。自分の思うようにやってみなさい。――だがな、無理だけはしないでくれ。そして、必ず帰ってくると約束しておくれ」


「わかった、約束する」


 肩に乗ったヘンリーの手に自分の手を重ね、カイがうなずく。

 すると、カイの横に総司と葵が進み出た。


「大丈夫です。カイが無理しないよう、ぼくたちがしっかり見張っておきますから」


 ドンと胸を叩いた総司が、任せてくれといった表情でヘンリーを見る。

 一方、ヘンリーはたまげたという顔だ。カイと全く同じ反応をする辺り、やはり血のつながった祖父と孫である。


「まさか、君たちもカイについて行くと言うのかい?」


「はい。カイはわたしたちの大切な友達ですから。カイが行くと言うなら、わたしたちはカイを手伝います」


「ソウジ君、アオイちゃん……。――ああ、ありがとう。二人とも、カイをよろしく頼むよ」


 カイを「大切な友人だ」と言って、屈託なく笑う総司と葵。そんな二人の笑顔に、ヘンリーの目に涙がうかべる。

 だが、それも束の間のこと。ヘンリーは「ああ、そうだ」と、何かを思い出したように奥の部屋へと入っていく。

 しばらくすると、彼は両手に包みを抱えてもどってきた。


「カイが行くと言ったら、渡そうと思っていたものだ。持っていくといい」


 そう言ってヘンリーが、テーブルの上に抱えていた包みを置く。中から出てきたのは、騎士が持つ長剣と短刀、そして木製の弓矢だった。


「実はな、わしも昔は騎士団に所属していたのだ。この長剣と短刀は、そのころにわしが使っていたものだよ。年代物だが、まだまだ現役で使える。この弓矢は狩猟用のものだが、きっと役に立つだろう」


「すげぇ! じいちゃん、ありがとう!」


 長剣を手に取って、カイがうれしそうな様子でヘンリーに礼を言う。初めて持つ本物の騎士の剣に、興奮をかくせない様子だ。


「この弓矢は、わたしが使っていいですか?」


「ああ、構わないよ。だが、アオイちゃんは弓の使い方を知っているのかい?」


「はい。お父さんから教えてもらいました」


 葵が弓の心得があることを知ると、ヘンリーはあっさりと葵に弓をゆずってくれた。そして、残った短刀はお守りとして総司に手わたした。


「ありがとうございます、ヘンリーさん。とても心強いです」


「礼には及ばないよ。さて、他にも色々準備しないといけないな。三人とも、今日はゆっくり休んで、出発は明日の朝にするといい」


「わかったよ、じいちゃん」


 その後は、旅の準備に大忙しだ。

 旅の間に食べる食料。防寒用のマントに、暗闇を照らすランタン。その他にも、ヘンリーが必要と思われるものを次々とそろえていく。

 準備につかれた総司たち三人は、どろのように眠り――迎えた次の日の朝。

 外が明るくなり始めるころ、三人は玄関の前でヘンリーと向き合っていた。


「いいかい、三人とも無理だけはするんじゃないぞ。必ず、三人とも無事に帰ってきておくれ」


「わかってるよ、じいちゃん。約束は絶対守るさ!」


 頭からすっぽりマントをかぶり、荷物を持ったカイが笑顔で答える。


「君たちもわかったね」


「はい、わかりました!」


「必ず三人で帰ってきます!」


 荷物を手にした総司と、弓と矢筒を肩にかけた葵がそれぞれ返事をする。二人とも、カイと同じようにマントをかぶり、すっかり旅装束だ。


「それじゃあ、行って来るよ、じいちゃん!」


『行ってきます!』


「ああ、行っておいで。気をつけてな」


 ヘンリーに見送られながら、三人は暗い森へと歩き出したのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ