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白紙の本の物語  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
第三章 百年前の英雄
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友達だから

 二階にいた総司は、カイとヘンリーのどなり声を聞き、びっくりして一階へもどった。

 その途中、同じく台所から飛び出てきた葵とばったり出くわす。


「ソージ、今の……」


「とにかく、行ってみよう」


 顔を見合わせた二人は、そろって玄関へ駆けていく。すると、開いたままの扉を前に、ヘンリーがうなだれながら立ちつくしていた。


「ヘンリーさん、今の声は何ですか? カイはどうしたんですか?」


「ソウジ君、アオイちゃん……。すまない、驚かせてしまったかな。ちょっと、カイと口ゲンカをしてしまってね。それで、カイが飛び出して行ってしまったんだ……」


 矢継ぎ早に尋ねる総司へ、ヘンリーは力ない口調でわけを話す。

 ヘンリーの顔色はわるく、今にも倒れてしまいそうである。ちょっとした口ゲンカと言うには、あまりにもひど過ぎる気の落ちようだ。

 ケンカの原因はわからない。それでも、何か大変な事情があることだけは、総司たちも理解できた。


「ヘンリーさん、とりあえずこっちへ行きましょう。いつまでも玄関にいたら、カゼひいちゃいます」


 葵がヘンリーの手を取り、家の中へと連れていく。

 ヘンリーも葵の気遣いに、「ありがとう、アオイちゃん」と、弱々しいながらも笑顔で応えた。


「二人とも、申し訳ないが、カイを迎えに行ってくれないかね。私が行くと、またケンカしてしまうかもしれないから……」


「わかりました。それじゃあ、行ってきます。――アオイ、行こう」


「うん。ヘンリーさん、行ってきます」


「ああ。よろしく頼むよ」


 ヘンリーのことも気になったが、総司と葵は彼の頼みを聞いて外に出た。二人とも、ヘンリーには一人になる時間が必要だと思ったのだ。

 それに、飛び出していったカイが今どうしているのかも気がかりだった。


「カイ、どっちに行ったんだろう?」


 玄関の前で、葵がキョロキョロと辺りを見回す。辺りには、すでにカイらしき姿はない。

 そうしたら、足元を見ていた総司が、森の方面に向かう道を指し示す。


「玄関の前の足跡が、あっちに向かっている。多分、森の方じゃないかな」


「なるほど! ソージ、頭いい!」


 二人で足跡をたどって歩いて行く。そのまま村のはずれまで来たところで、二人は森をにらみつけているカイを見つけた。


「カイ、こんなところにいたんだ」


 総司がホッと安心しながら声をかけると、カイは険しい顔のままふり返った。


「なんだよ。じいちゃんに言われて、迎えに来たのか?」


「ええ、そうよ」


「カイ、とりあえず一度もどろうよ。ヘンリーさんも心配していたよ」


 総司がカイに手を差し出す。カイはその手を見つめながら、総司に尋ねた。


「じいちゃんからは、何か聞いたのか?」


「いや、ケンカをしたとしか聞いてないよ」


「そうか……」


 総司の答えに、カイがそう一言だけつぶやいた。

 彼は総司の手を取ることなく、再び森の方を見てポツリポツリと話し始めた。


「出稼ぎに出ている母さんがさ、倒れたらしいんだ。しかもこの寒さと物不足で、大変なことになっているらしくてさ。それで、オレが魔女を倒しに行くって言ったら、じいちゃんに怒られて……。オレ、思わず家を飛び出してきちまったんだ」


「そうだったんだ……」


「お母さんの病気、そんなに悪いの?」


 葵が心配そうにカイに聞いた。彼女のとなりでは、総司もしずんだ顔をしている。そして、カイが「かなり危ないみたいだ」と告げると、二人はさらに表情を曇らせた。

 暗い顔の総司と葵に向かって、カイは妙に清々しい表情で、こう言うのだった。


「オレさ、やっぱり魔女のところに行ってみる。じいちゃんがオレのことを心配してくれているのはわかるけど、このまま何もしないでいるなんてできない。魔女のところに行って、この雪を止めさせる。それで、母さんに少しでも早く元気になってもらうんだ」


 だから悪いけど、じいちゃんにあやまっておいてくれ。総司と葵にそう言い残し、カイが森へと向かおうとする。

 しかしその時、総司がカイの行く手をふさいだ。


「……どいてくれ、ソウジ」


「このままカイを一人で行かせるなんてできないよ。それに、ヘンリーさんに何も言わずに行くなんて、絶対にダメだ!」


 カイのにらみつけるような視線にさらされても、総司は道をゆずらない。

 だが、その代わりに総司は再び手を差し出し、カイにほほ笑みかけた。


「ねえ、カイ。カイがどうしても行くっていうなら、ぼくも君についていくよ」


「ついていくって……危険なんだぞ!」


 突然の申し出にカイが目を見張る。

 おどろく彼に向かって、総司は「確かに危険だ」と言いつつ、しかしさらに言葉を重ねた。


「でも大丈夫。どんな危険があったって、一人じゃなければ――ぼくとカイの二人なら、きっと乗りこえられるさ」


「ソージの言うとおりよ」


 総司の言葉に同調したのは葵だ。そのまま彼女は、総司のとなりに並ぶ。

 そして、総司と同じように、カイに向けて自らの手を差し出した。


「でも、それなら二人より三人の方がもっと心強いよね。――だから、二人が行くって言うなら、わたしもいっしょに行くわ」


「ソウジ……。アオイ……」


 カイが信じられないという顔で、総司と葵を見る。二人がこんなことを言い出すなんて、カイにも予想外だったのだ。


「それに、魔女を倒すことは、ぼくたちにとっても大切なことだと思うんだ」


「うん? そうなのか?」


 首をかしげるカイへ、「あくまで推測だけど」と総司が続ける。

 だが、総司たちがカイに協力したいと思った本当の理由は、そこではない。


「でも、そんなこと関係なく、大切な友達が困っていたら助けるのが当然だよ」


「それに、カイだって初めて会ったわたしたちを助けてくれたでしょ。だから、今度はわたしたちがカイを助ける番だよ」


 自分たちの目的以前に、友達としていっしょに行きたい。

 そう告げる総司と葵を、カイがもう一度見る。

 そして、カイはいつもの人なつっこい笑顔を見せて、今度こそ二人の手を取った。


「わかった! 二人とも、いっしょに来てくれ!」


『もちろん!』


 三人は互いの手をしっかりとにぎり合う。

 すると、キュピーンと目を光らせた総司と葵が、カイを村の方に引っぱった。


「でも、その前に一度帰りましょう。魔女を倒しに行くなら準備も必要だし、ヘンリーさんにもちゃんと話さないと」


 ニコニコ笑う葵が、さらにカイの手を強く引く。もちろん、総司も同様だ。

 二人に引きずられる形となったカイは、途端にバツのわるそうな顔をした。


「やっぱり、じいちゃんと話さないとダメか?」


『ダメ!』


「……はあ。わかったよ。それじゃあ、一度帰るか」


 二人に根負けした様子で、カイが頭をかく。

 ぼやくカイを連れて、総司と葵は宿屋への道を歩き始めるのだった。


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