それぞれの戦い
カイ、アルバス組と別れた総司と葵は、城の中をうろついていた。
部屋の扉を見つけると、こっそり開けて中を確かめる。近くからオーガの声がしたら、柱のかげにかくれる。
そんなことをくり返しながら、二人はアイリスが捕らえられている部屋を探していた。
「アイリスさんはどこにいるのかしら。早く助けて、カイとアルバスさんのところへ行かないといけないのに……」
来た道を何度もふり返りながら、葵がつぶやく。アイリスの救出が進まないことに、相当あせっているようだ。
「あせっちゃだめだよ、アオイ。それより見て。次の部屋だ」
総司が扉を見つけて指さす。二人は静かに扉の前まで歩いて行き、音を立てないように扉を開けた。
「あれ? これは部屋の扉じゃない」
扉の向こう側を見た総司が言う。扉の向こうにあったのは、地下へと続く階段だった。
「RPGゲームだと、地下に牢屋があったりするものよね」
「うん。どうやらここが、当たりっぽいね」
顔を見合わせた二人は、「うん」とうなずき合い、階段に足をかける。足音をたてないようにそろりそろりと下りて行くと、間もなく階段の出口にたどり着いた。
総司が顔だけ出して周囲をうかがう。
そこは二人の予想通り、地下牢だった。テレビの中でしか見たことないような、鉄格子のはまった部屋がいくつも並んでいる。
「ソージ、あそこを見て!」
総司と同じように階段から顔だけ出した葵が、総司の服を引っ張る。総司が葵の見ている方に目を向けると、牢屋の一つの前でオーガが居眠りしていた。
「あそこだけ、オーガが見張りをしているの。――居眠りしちゃっているけどね」
「ということは、アイリスさんがいるのはあそこかな?」
「どうしようか、ソージ」
葵が見つめる前で、総司が腕を組んで考える。
決断はすぐに出たようで、総司は葵を見て、こう言った。
「ぼくが見に行ってみるよ。アオイはここで待っていて」
「一人で大丈夫なの?」
「うん。アオイはここで、上からオーガが来ないか見張っていてほしいんだ」
「……わかった。気をつけてね」
葵に向かってうなずいた総司は、階段から出て、牢屋の方へゆっくりと歩いて行く。オーガが起きないのを確認し、総司は牢屋の中をのぞきこむ。
牢屋の中には、そまつな服を着た一人の女の子が、体育座りをして顔をふせていた。
見たところ、総司よりも少し年下といったところだろうか。総司からは、メアリと同じ金色の髪だけが見えていた。
「君が、アイリスさん?」
総司が声をかけると女の子が顔を上げた。メアリと同じ澄んだ緑の目に、総司の姿が映りこむ。
彼女の目からは、少しだけおびえている様子が見て取れた。
「アイリスは私です。あなたはどちら様ですか?」
「ぼくの名前は総司。メアリさんから君の話を聞いて、助けに来たんだ」
「ママから? ……あ、あの、ママは無事なんですか?」
母の名を聞いたアイリスが、鉄格子の前に駆け寄ってきた。その表情は、自分のことより母に身を案じているように見える。母親思いのやさしい子なのだろう。
そんなアイリスに向かって、総司は安心させるように笑った。
「メアリさんは無事だよ。安心して」
「ママは無事……。良かった。本当に良かった……」
母の無事を知り、アイリスは心底ホッとした様子で、胸をなでおろす。
ようやく表情を和らげたアイリスに、総司も一安心だ。
「待っていて。すぐにここから出してあげる。――ええと、牢屋の鍵はどこだろう?」
「鍵なら、そこのオーガが持っています」
総司が辺りをキョロキョロしていると、アイリスが居眠りしているオーガを指さした。
見れば確かに、オーガの腰に牢屋のものと思われる鍵がくくりつけられている。
最後の最後で、なかなかにハードなミッション。総司のほっぺたを冷たい汗が伝う。
けれど、いつまでもここにいるわけにはいかない。総司は意を決し、眠っているオーガの腰もとへもぐりこんだ。
「起こさないように、起こさないように……」
総司はオーガを起こさないように、鍵を取ろうとする。
しかし、必要以上に緊張しているのだろう。なかなかうまく取れない。
総司は一度深呼吸をして気分を落ち着かせ、やっとのことで鍵をオーガの腰から外した。
「やった! 取れた!」
「危ない! 逃げて!」
鍵が取れて喜んでいた総司が、アイリスの言葉で顔を上げる。
すると、オーガが怒りの形相で総司をにらんでいた。鍵を取るのに夢中になり過ぎて、オーガを起こしてしまったようだ。
「…………」
「……。あはは……」
だまったまま自分をにらむオーガと目が合い、愛想笑いをうかべる総司。
一方、オーガは顔を真っ赤にして、猛然と立ち上がった。
「てめぇ、ここで何してやがる」
「わぁああああああああっ!」
「ソージ、ふせて!」
オーガのどなり声と総司の悲鳴がひびいた瞬間、階段の方から葵の声が飛んだ。
葵の声にしたがい、総司は無我夢中でその場にふせて頭をかかえる。
それと同時に、ヒュン、という風切り音が総司の耳にとどいた。
「ぎゃああああああああっ!」
直後、真上でオーガの叫び声が上がる。
総司が恐る恐る顔を上げると、肩に矢を受けたオーガがうめいていた。
その向こうでは、葵が弓を構えて立っている。どうやら彼女が、オーガを撃退してくれたようだ。
「ソージ、急いで!」
「わかった!」
オーガから奪った鍵を使い、総司が牢屋を開ける。そして、牢屋の中にいるアイリスへ手をのばした。
「アイリスさん、こっちに来て」
「はい!」
アイリスの手を引いた総司が、葵のところまで駆けもどる。火事場のバカ力か、普段からは考えられないくらい素早い動きだ。
そのまま三人は一目散に階段を上り、近くの部屋へ逃げこむ。
扉の隙間からオーガが追ってこないことを確認すると、三人はその場にへたりこんだ。
「ふう……。助かった」
「そ、ソージ……」
総司が額の汗をぬぐっていると、後ろから弱々しい葵の声が響く。
葵のただならぬ声に総司がふり返ると、彼女はガクガクとふるえていた。
「アオイ、どうしたの?」
「オーガの悲鳴を聞いたせいか、今さら撃ったことが少し怖くなっちゃって……。あはは。ちゃんと戦うつもりで来たのに、わたし、ダメだね」
笑ながらふるえ続ける葵。
総司はそんな葵を安心させるように、彼女の手を取った。
「そんなことないよ。怖いのは、アオイがやさしいからだ。何もおかしいことじゃない」
「ソージ……」
総司に手をにぎってもらったことで、葵もいくらか落ち着いたようだ。ふるえも止まり、彼女はしっかりと総司の手をにぎり返してきた。
「もう大丈夫。ありがとう、ソージ」
そう言って、葵がいつもと同じ笑顔を見せる。
と、その時だ。
今まで後ろで息を整えていたアイリスが、二人に向かって頭を下げた。
「あの……助けていただき、どうもありがとうございました」
「お礼なんていいよ。あなたが無事で本当によかった。わたしは葵。よろしくね、アイリスさん」
「はい、よろしくお願いします。それと、私のことは呼び捨てで結構です」
「うん、わかった。よろしくね、アイリス」
「はい!」
葵がアイリスに向かって手を差し出す。アイリスはかわいらしい笑顔をうかべて、葵の手をにぎった。
「さてと……。アイリスも無事に助けられたし、急いでカイたちの応援に行かないと」
女子二人が仲良く自己紹介している横で総司は廊下に顔を出し、その先を見すえた。
彼の頭にうかぶのは、今も戦っているであろうカイたちの姿だ。
「アオイ、アイリスを連れてどこかにかくれていてよ」
「何言ってるの? わたしも行くわよ」
「でも大丈夫なの? アオイ、さっきもふるえていたし、無理しない方がいいよ」
「大丈夫。さっきは少しびっくりしただけ。ソージもカイもバラムを退治するために戦うのに、わたしだけかくれていられないよ」
胸に手を当て、葵が総司に訴える。彼女にも、曲げられない信念があるのだ。
すると、アイリスまでもがグッとこぶしを握って、総司を見つめてきた。
「あの、私も連れて行ってください。助けてもらったお礼もしたいですし、ママたちを苦しめたバラムを私も許せません」
「アイリスまで……。でも、とっても危ないんだよ」
「構いません。それに、ママほどではないですけど、私も少しは魔法を使えます。きっと役に立って見せます」
「ねえ、みんなで行こうよ、ソージ。前にも言ったでしょ」
女の子二人に押され、総司がやれやれとため息をつく。
そして、葵が言わんとした言葉を口にした。
「一人よりも二人の方が心強い。二人よりも三人の方がもっと心強い、でしょ。わかったよ。アオイ、アイリス、いっしょに行こう!」
「うん!」
「はい!」
総司の言葉に、葵とアイリスが笑顔で返事をする。
三人は、バラムと戦うカイとアルバスのもとへと走り出した。
* * *
城の外での戦いは、エドワード率いる騎士団がオーガたちを圧倒し始めていた。
怒りに任せて突っこんでくるオーガたちを、盾と槍を持った騎士たちが足止めし、弓を持った騎士たちが次々と倒していく。
最初は自分たちが押していると思っていたオーガたちも、何かがおかしいと思い始めていた。
「くそっ! 押しているのはこっちのはずなのに、なぜ倒せない!」
自分たちが攻めているはずなのに倒せない。むしろ、自分たちがどんどん追い詰められていく。その事実に、オーガたちのあせりはつのる。
しかし、あせっている間にも、ある者は矢で撃たれ、ある者は槍で突かれ、倒れていく。
その様子を見て、さすがに分が悪いことに気づいたのだろう。オーガたちが、一人また一人と逃げ出し始めた。
「よし、ここが勝負所だ。みんな、行くぞ!」
エドワードが、騎士団へ号令を出す。
すると、今まで下がりつつ戦っていた騎士団が、前進しながらオーガたちを倒し始めた。
逃げ腰になり始めていたオーガたちにとって、これはたまらない。いよいよ勝てないと悟り、我先にとその場から逃げていった。
「弓兵、深追いはしなくていい」
逃げるオーガたちを見ながら、エドワードが指示を出す。それは、勝利の合図だ。
同時に、騎士団からは喜びの声が上がった。
「我々の勝ちだ!」
「百年前の先祖の借り、しっかり返したぜ!」
騎士たちは互いをたたえ合い、喜びを分かち合った。彼らの顔にうかぶのは、ほこりと泥にまみれてなお輝く笑顔だ。
「まだすべてが終わったわけではないぞ。今も戦っている子供たちを助けに行くんだ!」
『おう!』
エドワードが自身も笑みをうかべながら、騎士団に激をとばす。
対する騎士たちも、隊長の命に雄叫びを持って応える。
オーガたちを倒し、勢いに乗った騎士団は、城に向かって進軍を始めたのだった。




