メアリ
原っぱを抜け、再び森の中の獣道を進むと、前方に石造りの小さな家が見えてきた。
小屋と言っても差支えないような粗末な家を前にして、狼が三人をふり返る。
「ここだ。ここに、お前たちが魔女と呼ぶ者がいる」
「ここに魔女が住んでいるのか……」
カイがきびしい表情をしながら言う。
一同が家を回りこむと、玄関の前に三人の親と同じくらいの年齢の女性が立っていた。
背中まで流れる美しい金色の髪をした女性は、悲しげな顔で雪のふる空を見つめている。
「――あら、アルバス。もどってきたのね」
「ああ。ただいま、メアリ」
狼に気づいた彼女は、やさしげにほほ笑みながら狼を迎える。おそらくこの女性が、雪をふらせる魔女なのだろう。想像とあまりにかけ離れた魔女の雰囲気に、三人は思わず面食らう。
すると、魔女も狼の後ろにいる総司たちに気づき、目を向けた。
「アルバス、その子たちは?」
「お前を倒すために霧の壁をこえてきた子どもたちだ……」
狼の言葉に、魔女はすべてを悟ったかのように悲しげな笑みをうかべる。
彼女はエメラルドのように澄んだ緑の目で、総司たち三人を見わたした。
「そう……。ついにあの霧を越えて来た人が現れたのね。まさか、こんなにかわいらしい子供たちとは思わなかったけれど」
「……確かに、オレたちはあんたを倒すために霧を越えてきた。だけど、あんたにも何か事情があるんだろ? それを聞かせてもらいたい」
きびしい表情のままではあったが、落ちついた口調でカイが魔女に話しかける。
よもやそんな事を言われるとは思っていなかったのだろう。魔女はおどろきの表情で、カイと狼を交互に見た。
「私はこの子たちに賭けて、すべてを話してみようと思う。私はこの三人の中に、お前の祖母たちと同じ光を見た気がするのだ。だから、彼らをここまで連れて来た」
「すべてを話せば、この子たちをさらなる危険に飛びこませてしまうかもしれないのですよ。それでも話すというのですか?」
「それでもすべてを話さねば、彼らは納得しない。覚悟を決めるのだ、メアリ。これが、私たちの果たすべき責任だ」
一瞬、迷うような表情を見せた魔女。しかし、狼の「果たすべき責任」という言葉に、彼女もすべてを話す覚悟を決めたようだ。
「…………。わかりました。あなたがそこまで言うのでしたら、私もこの子達に自らの命運を託します」
確かな意志を持って、魔女も狼の意見に同意する。
魔女は三人に向き直り、はっきりとこう告げた。
「あなたたちに、すべてをお話しします。どうぞ、家の中にお入りください」
魔女にうながされ、三人は魔女たちと共に家の中へと入っていく。
家の中は古ぼけた机といす、ベッド、そして暖炉があるだけだった。家具が少ない分、意外と広く感じるが、三人の目にはその家がまるで牢獄のように思えた。
ただ、そんな家の中で異彩を放つ存在が一つ。暖炉の上に置かれた、光り輝く水晶だ。
時の流れから置き去りにされたようなこの家で、その水晶だけが異質だった。
四人と一匹は机をどかし、円陣を組むように床へ座る。大きな狼がいることもあって、家の中はそれだけでいっぱいになってしまった。
「まずは自己紹介からですね。私の名前はメアリと申します」
「私の名はアルバスだ」
「オレはカイ。そんで、こっちにいるのがソウジとアオイだ」
カイの紹介に合わせて、総司と葵がペコリと頭を下げる。
全員の自己紹介がすむと、メアリがおもむろに暖炉の上を指し示した。
「お話を始める前に一つだけ。この暖炉の上にある水晶が雪をふらせる魔法の源です。これをこわせば、魔法は解け、雪もすぐにやみます」
「なぜ、そのことをぼくたちに教えるのですか?」
「先ほど、私はあなたたちに命運を託すと言いました。ですから、これをこわすかどうかの判断も、あなたたちにゆだねたいと思うのです」
総司の問いかけに、メアリがやさしくほほ笑みながら答える。
そして、メアリの言葉に続けて、アルバスが重く語り始めた。
「それでは話そうか。我々が雪をふらせる理由。そして、今この国に何が起こっているのかを――」




