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白紙の本の物語  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
第四章 魔女の霧
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霧を越えろ

 霧の中に入ったカイは、ここからどうやって進むかを考えていた。


「さっきは、まっすぐ進んでみたら、元の場所にもどっちまったんだよな……。だったら今度は、別の方向に進んで見るとするか」


 考えを口に出しながら、カイはまず右を向いて、霧の中を進んでいく。その後も何度か進む方向を変えながらズンズン進む。

 そうして、ジグザグとでたらめな方向に進んでいったのだが……。


「あれ? もどってきちまった」


 十分ほど歩いたところで、やはり元の場所にもどってきてしまった。

 二人を見つけたカイは、残念そうな声を上げる。


「お帰り、カイ。どうだった?」


「やっぱりだめだった。一人で行くついでに、霧の中で進む方向を何回か変えてみたんだけどな~。結局、ここにもどってきちまった」


「そうか……。それじゃあ、やっぱり一人でなくちゃだめっていうのも違うのかな」


 問いかけてくる総司へ、カイがお手上げといった顔で首をふる。

 カイの話を聞いた総司も、あごに手を当てながら、どうしたものかと考えこむ。

 すると、葵が総司の肩を叩いた。


「まだ決めつけるのは早いんじゃない? わたしたちも試してみましょう」


「アオイ、さっきまで一人は危ないって言ってたじゃないか」


「でも、カイも無事にもどって来られたじゃない。わたしたちも一応やってみましょうよ」


「うーん。じゃあ、やってみようか」


 葵の言葉に、総司もとりあえず賛成する。

 どうせいいアイデアはないのだ。とりあえず危険はなさそうだし、反対する意味もない。


「なら、わたしが先に行って来るわ。ソージ、それでいい?」


「うん、ぼくはそれでいいよ」


「じゃあ、行って来るわ。二人とも、また後でね」


 そう言って、葵はさっさと霧の中に入っていくのだった。



          * * *


 

 霧の中を歩いた葵は、カイと同じように、これからどうするか考えていた。


(まっすぐ進んでもだめ。進む方向を変えてもだめだったのよね……)


 葵が今までやったことを、頭の中で指折り数えながら思い返す。

 するとその時、葵がはたと気づいたように後ろを向いた。


「だったら、来た道をもどったら、森を抜けられるかも!」


 いいことを思いついたという顔で、葵は来た道をもどりだした。

 これぞ、逆転の発想。アイデアの勝利。

 今度こそ間違いないと確信し、意気揚々と霧の中を突き進む葵。

 しかし……。


「あっ! アオイ、お帰り」


 アイデアは不発。葵は霧の外で待つ総司とカイのところへもどって来てしまった。


「うーん、これも違ったか……」


 元の場所にもどってしまった葵が、がっくりとその場に座りこんだ。


「何か試してみたの?」


「うん。来た道をもどれば霧を抜けられるかなって思って、途中で引き返してみたの。けど、ふつうに入口へもどって来ちゃった」


 葵がため息をつきながら、自分のやったことを話す。本人としては自信があったため、ショックが大きい様子。その表情はくやしそうな色で満ちている。

 そして、葵につられたのか、カイまでもため息交じりに頭をかいた。


「うーん。まっすぐ進んでもだめ、曲がってもだめ、もどってもだめってことか。これ以上、どうすりゃいいんだ?」


「とりあえず、次はソージの番ね。期待してるわよ!」


 葵が総司の背中をパシンとたたく。

 しかし、思った以上に力が強かったらしく、たたかれた総司はケホケホとせきこんだ。


「アオイ、そんな強くたたかなくても……」


「あはは、ゴメンゴメン。でも、がんばってね。こういう頭使うことは、ソージが頼りなんだから」


「そうだな。こうなったら、ソウジのひらめきにかけるしかねぇ」


 葵に同調して、カイも元気にうなずく。


「まあ、やってみるけどさ。あんまり期待しないでね」


 カイと葵の期待の眼差しに後押しされ、総司はとぼとぼと霧の中へ足を踏み入れた。



     * * *



(……とは言ったものも、まったくいい手が思いつかない)


 霧に入ったはよいものの、総司はたちまち途方にくれて立ち止まった。はっきり言って、アイデアの一つも出てきやしない。

 そもそも、霧に入る人数は関係ない。その上、どの方向に進んでもだめだったのだから、どうしようもない。いじわるな無理難題だ。


(だけど、何か考えないと。――おわっ!)


 考え事をしながらとりあえず進む総司だったが、考えるのに集中し過ぎたようだ。

 雪ですべって、その場にひっくり返った。後頭部を地面にしこたま打ちつけ、目の前に火花が散る。


「痛たた……。――って、あれ? メガネがない!」


 青い顔をしてあわて始めた総司。

 どうやら転んだ時にメガネを落としたらしい。総司は地面にはいつくばって、メガネを探した。

 何も見えない中、手の感覚だけを頼りに地面を探っていく。そうしたら、手に覚えのある感触が……。


「あっ! あった。良かったぁ」


 ようやくメガネを見つけて、総司がホッと一安心する。

 しかし、安心できたのも束の間のこと。メガネを探すのに夢中になっていた総司は、方向を完全に見失ってしまったのだった。


(うーん、困った。どっちから来たのかもわからなくなっちゃった……)


 キョロキョロと辺りを見回す総司。

 だが、周囲は何も見えないほど濃い霧だ。一度見失った進行方向を、再び見つけることなどできるわけがない。


(仕方ない。何も思いつかないし、適当に歩いて、アオイたちのところにもどろう)


 そう決めた総司は、葵たちのところへもどるために歩き始めるのだった。



          * * *



「……どういうこと?」


 霧の壁を見上げ、総司は再び途方にくれた様子で立ち止まった。

 それもそのはず。総司が霧の入口にもどろうと歩きだして、体感時間でおよそ十五分。しかし、総司はいまだ入口にもどれずにいたのだから。


(おかしいな。さっきまでは十分くらいで元の場所にもどっていたのに……)


 総司は戸惑いながらも、霧の中を進んでいく。

 おそらく、霧の中で時間の感覚がおかしくなったのだろう。そうに決まっている。

 そうやって自分を納得させながら足を進めていると、ふいに霧が晴れた。


「ふう、やっと抜けた」


 安心がにじみ出た口調でつぶやきながら、総司は辺りを見回す。

 だが、そこで彼は自分のいる場所がおかしいことに気づいた。


「えっと……?」


 突然の出来事に、総司が首を傾げる。

 彼が真っ先に気づいたのは、景色が元の場所と違うことだ。それに、まだ日が落ちる時間ではないのに、辺りが薄暗くなっている。

 そして、何より一番おかしいのは、カイと葵がいないことだ。


「ここ、どこだろう?」


 誰にともなく尋ねてみるが、当然答えはない。

 彼はギュッと目を閉じ、「三、二、一」とカウントした上で、もう一度目を開けた。

 しかし、景色は変わったりしない。そこは、今までに見たことない場所のままだった。


「もしかして、霧を抜けられた? でも、どうして?」


 どうやら霧を抜けられたらしいとわかった総司。

 けれど、どうして霧を抜けられたのかが、さっぱりわからなかった。


(さっきまでと違うこと、何かしたかな?)


 自分の行動の中にヒントがあるのは間違いない。そこに、霧を抜けるための鍵があったのだ。

 総司が自分のやったことを一つ一つ、丁寧に思い返していった。


(霧の中で転んで方向を見失って……。仕方ないから、アオイたちのところにもどろうと歩き出して……。――あれ?)


 そこまで考えたところで、総司は何か引っかかりを感じた。その引っかかりに手をかけるように、総司は思考を進める。

 その時だ。総司の頭に一つの考えがひらめいた。


「あっ! もしかしたら!」


 突然、総司がポンッと手を打った。総司の頭の中で、すべての事象が一つの答えへとつながったのだ。


(ぼくの考えが正しければ、入口にもどる方法は……)


 確信を持った様子で、総司が魔女の霧を見つめる。

 自らの推理を裏付けるため、総司は再び霧の中に入って行った。


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