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白雪姫は眠らない。  作者: ヒロカワ
第一章
3/7

3.友と、ともに。

 エシルは数日間、歩き続けた。道なき道を進み、夜になると木の陰で隠れて休んだ。どこか遠くへ逃げなくては。その事ばかりがエシルの頭を支配していた。歩きすぎて足の裏が悲鳴を上げているがそれでも歩く。立ち止まればそこで終わってしまう気がした。

 森を進むにつれてだんだん道が開けてきた。開けた先には、小さな一軒の家が建っていた。藁にも縋る思いでその家のドアをノックする。返事はない。ドアノブを回してみると、ドアが開いた。エシルは申し訳なく思ったがもうクタクタだった。少し休んだら出て行こうそう思って家の中へと入った。入ってすぐにリビングがあり、隣の部屋を確認するとベッドが六つ置かれていた。ドア寄りのベッドに横になる。疲労のせいか睡魔はすぐにやって来た。


*****


「どうする……」

「……でも、……だし……」

 話し声が聞こえた。エシルはゆっくりと目を開ける。そこには、この家の住人であろう人たちが何人かいて、皆複雑そうにエシルの事を見つめていた。エシルは急いでベッドから起き上がり、これまでのいきさつを彼らに話して聞かせた。

「そりゃ大変だったね。でもよく逃げ切れたものだよ。な、ルーロ」

「世の中には怖い人がいるんだね、カル」

 容姿が全く同じ少年二人がそう呟いた。感情を読み取れない瞳にお揃いの赤毛。どう見ても双子だった。服装も同じでローブに身を包んでいるため区別がつかない。エシルが困っていると双子が話しかけてきた。

「初めまして。オレはカル。ルーロの兄だ。泣きボクロがある方がオレだ」

「初めまして。オレはルーロ。カルの弟だよ。宜しくね」

 そう言って双子は自分たちの見分け方を教えてくれた。泣きボクロのある方が兄のカルで、ない方が弟のルーロだという。エシルはしっかりと頭に叩き込んだ。

「話は終わったか? さっさと帰ろうぜ」

「気が短すぎだよートウガー」

 活発そうな印象の少年と、ほわんとした雰囲気の少年が双子に話しかける。活発そうな少年は常にぶすっとした表情で、イラついているように見て取れた。ライトブラウンの短い髪は、寝起きのまま直さずに来たのか寝癖もついており、ずぼらな印象を与える。対してもう一人の少年は、少女と見紛う程可愛らしい容姿で、銀色の髪はサラサラしていて見ていて触りたくなるほどだ。トウガと呼ばれた少年はエシルとそう年齢も違わないだろうが、もう一人の少年はエシルより年下に思えた。

 双子に促されて、トウガともう一人の少年も自己紹介をする。トウガは手短によろしく、と伝えそれでおしまい。次にもう一人の少年が口を開いた。

「ぼくはリク。トウガとは幼馴染なんだ。よろしくー」

 リクはにこにこと笑みを浮かべてエシルに右手を差し出した。エシルはそれを握り返しここにいるすべての人間の挨拶を終えた。

 エシルは数日で良いのでここに泊めてほしい事、炊事洗濯はすべて自分が行う事を提案し、皆の返答を待った。暫くの間沈黙が続いたがそれを破ったのは双子の兄カルだった。

「だったらさ、オレたちの住む世界へ行かないか。丁度帰るところだったし」

「でもカル、勝手に招いたりしたらピートが……」

 双子の弟、ルーロが難色を示す。それに続く様にしてトウガはどちらでもいいが早く帰りたい事を、リクもどちらでもよい事を伝えて来た。

「やってみなきゃわかんないだろ。それにこんな境遇の奴あいつは絶対ほっとかない」

「そう……だね。エシル、よく聞いて。今からオレたちの住む世界にキミも連れて行く。時空移動は体に堪えるだろうけど我慢して欲しい」

 ルーロに真剣な表情でそう言われ、これから行われることが危険であるという事が解った。エシルはゆっくりと頷き、ルーロの指示に従う。

 五人で輪を作り、互いの手を握り合う。ルーロが聞き取れない早口で何かを呟いた。すると、ぐにゃりと辺りの風景が歪み出し、エシルはたちまち気分が悪くなる。それでも兩の手は繋いだまま離してはならないと思った。再度手に力を籠める。隣にいるルーロとリクが強く握り返してくれた。


*****


「エシル、着いたよ」

 リクの声が聞こえ、エシルは強く瞑っていた瞼をゆっくりと開く。そこにはエシルが今までに見た事のない世界が広がっていた。色とりどりのシャボン玉のような球体が頭上に広がっている。そして目の前には何に使うのか解らないが祭壇が置かれている。時刻は解らないが夜中なのだろう辺り一面は真っ暗だった。

「ここは、一体……」

「ようこそ、オレたちの国『White Land』へ!!」

「ようこそ、オレたちの国『White Land』へ!!」

 双子が声を揃えてそう言った。エシルは自分が知らない世界に来てしまったのだとそこでようやく実感する。エシルはふよふよと漂うじゃぼんだまのような球体に触れようとする。やめた方がいい、というリクの忠告も虚しく、エシルは球体に触れてしまった。球体はすぐさま弾けて中からオレンジ色の液体が飛び散りエシルの服や頭を濡らした。

「わ、何これ!?」

「だから言ったのに~まぁ、ジュースで良かったね」

 リクが言うにはこの球体には色々な物が入っているそうだ。時にはジュースやお菓子、玩具や生物までも。それらは、割ってみないと解らないようだった。

「とにかく、ピートの所へ行こう。そこでシャワーも借りれるしね」

 夜道を五人で歩く。球体が邪魔で仕方ないが上手く交わしながら先へ進む。十分ほど歩いただろうか、一軒の家から明かりが見えた。エシル以外の四人はその家に吸い込まれるようにして入っていく。勝手に入って良いものか考えあぐねているとトウガに素っ気なく「入れ」と一言言われたのでそれに従う事にした。

 室内はそれほど広くなかった。居間兼寝室が一部屋、それにいくつか扉があるだけだ。壁際の本棚にはぎっしりと本がその存在を主張している。まずこの部屋に入って一番に目につくのは本の多さだろう。そして、肝心の家主はというと、まだ見つかっていない。

「おかしいなー。こんな時間に出掛ける筈もないし……」

「とにかく風呂だけでも先に浴びれ。風邪ひくぞ」

「わぁ、トウガがやさしー!」

「うるせぇ!!」

 エシルはトウガに促され、シャワーを浴びることにした。先ほどから服がべたべた肌にくっついて気持ち悪い。服を脱ぎ風呂に入る。シャワーの栓を捻り熱いお湯を体に浴びた。そういえば風呂に入るのも数日ぶりな事に今更ながらに気付く。今まで臭ってはいなかっただろうかと不安になった。

 今日一日でたくさんの事があった。少年たちに会い助けてもらい、この『White Land』へやって来た。未だ解らない事だらけだが、自分が生きている事に心底安堵した。

 髪を洗っていると浴槽から水しぶきが聞こえた。何事かと目を開ける。

「え…………」

「お?」


*****


 目の前にはエシルと同年代の黒髪の少年がぶすっとした表情で座り込んでいた。アイスブルーの瞳はジャンスを思い出させたが彼がこんな場所にいるはずがない。エシルはぶんぶんと首を横に振りその思いを消し去った。

「で、浴槽で何してたの? ピート」

 リクが少年――ピートにそう問いかける。相変わらず不機嫌そうな表情のまま、ピートが答えた。

「海を見てた」

「ピートは相変わらず面白い事を言うな」

「面白い面白い」

 双子が無表情のままそう言う。面白いだなんてこれっっぽっちも思っていないだろう。とにかくこの状況をどうにかしなければ、エシルが口を開いた。

「あの、僕もその、気付かなくてごめんなさい」

「いや、別にいいけど……というか、キミは誰?」

 エシルは今までの経緯をピートに話して聞かせた。ピートの表情がみるみるうちに怒りへと変わる。鼻息荒くピートがエシルに近付いて言い放った。

「今日からキミはここの住人だ。絶対に元の世界には戻っちゃいけない! ボクたちが全力でキミを守るから、な!」

 ピートは仲間たちを見渡す。皆頷いてくれた。エシルは目頭が熱くなるのを感じた。初めてできた友達はとても頼れる人たちばかりだった。

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