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白雪姫は眠らない。  作者: ヒロカワ
第一章
1/7

1.アイスブルーに魅せられて

こんにちは。ヒロカワです。

2016年は苦手ジャンルを克服しようを目標に作品作りしていこうと思います。

まず第一弾としてファンタジー克服!

感想・評価どしどしお願いします。厳しめで!受け入れて精進します。

よろしくお願いいたします。


Twitter:@hirokawa730

 少年は、天を仰いだ。何故自分だけが、そんな気持ちで一杯だった。

 少年が住むこの村は農業が盛んで皆、それで生計を立てていた。もちろん、少年の両親もそれは同じだ。周りを見渡すと、農作業をする大人で溢れかえっている。少年も手伝いはしたがそれよりも、家事を担当する方が多いのが現状だ。

 少年は額の汗を泡塗れの手で拭う。額に泡が付いてしまったがそんな事はお構いなしに洗っていた衣類を再び洗い出す。桶に溜めた水は既に泥で濁っていた。その水を捨て、新たに水を注ぎ足すために井戸とロープで繋がっている桶を井戸の中へと放り込んだ。ロープを引っ張る。少年の貧弱な体ではその行為だけでも体力を消耗する。しかし、言い付けを守らなければ拳が飛んでくる。その恐怖に比べればこんなもの、耐えるのは簡単だった。桶の中の水を自分の持ってきた桶の中へと移す。先ほど洗った衣類をその中に浸して泡を流す。それを何十回か繰り返し、ようやく少年はその場を後にした。


 家の中へと戻る。木造のこの家は雨が降れば雨漏りがし、風が吹けばミシミシと嫌な音を立てた。少年は洗った衣類の入った桶を持ち、部屋へと上がる。頭の高さより高く積まれた衣類を落とさないように細心の注意を払いながら歩いていたが、何かに足を取られこけてしまった。

「何してるのよエシル、どんくさいわね。あらあら洗濯物がまた汚れちゃったじゃない」

「あはは、ごめんね、お母さん。僕がどんくさくて何回も洗濯しなきゃいけなくなって……」

 少年―エシルは泣きそうになるのをぐっとこらえ、何度目かわからないその言葉を紡いだ。ぐちゃぐちゃに散らばった衣類を掻き集めて桶の中へ入れる。また洗濯のやり直しだった。

「本当にダメな子。早く洗ってきなさい」

 エシルの心は既に壊れてしまっていた。度重なる両親からの嫌がらせに耐える毎日。そんな毎日が十六年間も続いたらとうの昔に心はマヒしてしまう。両親からの虐待を恐れて、ただ言う事を聞くロボットになってしまっていた。

 家を出て行こうとした所で母親に呼び止められる。いつもの様にへらへらと笑ってやり過ごそうとしたところでエシルの頬に平手が飛んできた。パシリとひと際大きな音が部屋に響く。エシルは歯を食いしばり痛みに耐えた。それでも満足できないのか母親は更に腹部に蹴りを入れてくる。逆らうのが怖くてエシルはまともにその蹴りを受けてしまう。腹にじんじんと痛みを感じた。母親は何度も何度もエシルを蹴る。ただただ、それに耐えるしかなかった。逆らってしまえば食事を出してもらえない。エシルは腹に熱を感じながらその痛みに耐え続けた――…。


*****


 やっと母親の虫の居所が良くなったところでエシルは解放された。衣服は汚れ、頬は赤く腫れ上がり、腹部の痛みも増していた。けれど、桶をひっくり返して汚してしまった衣類をまた洗わなければならない。井戸に着くと先ほどの作業をまた繰り返す。手先はあかぎれて血が出ていた。

何故、自分だけが……。エシルは涙を流す。辛さにも痛みにも慣れてはいたが自然と涙が流れた。

「エシル、大丈夫か?」

「あ……ジャンスさん……」

 エシルよりも20センチ以上背の高い男がエシルに近付き心配そうに話しかける。知り合いなのだろう、エシルはそれに答えた。ジャンスと呼ばれた男は金髪の髪に蒼い瞳を持つ男だった。その容貌は整っていて同性のエシルでさえ見惚れてしまうほどの美しさだった。その見た目通り優しそうに微笑み、エシルの頬の腫れにそっと触れる。痛みで顔を歪めるエシルにジャンスは手当てをしてあげようと提案をした。

 エシルは洗濯が終わっていない事をジャンスに説明する。これを終わらせて帰らなければまた母親の機嫌を損ねることになってしまう。ジャンスはなら、自分も手伝うと言い、エシルの事を手伝ってくれた。 二人で石鹸をつけ衣服を洗う。一人で洗うよりも断然早く終わらす事が出来、エシルはジャンスに感謝した。

 そして、二人してエシルの家へ向かう。ジャンスが居る事に気付いた母親は機嫌がよくなり、エシルを打ったり蹴る事なく家に上がらせた。エシルの母親はジャンスが居る時にはエシルに優しく接した。それは母親がジャンスの美貌の虜になっていたのは言うまでもない。

 エシルの母親は、ジャンスに夕飯を食べて行くように促す。ジャンスは始めこそ渋ったが、エシルにも食べて行って欲しいと言われ、頷いた。

「ごめんね、ジャンスさん」

「何でエシルが謝るんだ? 俺はお前と夕飯食べたいんだし気にするなよ」

 アイスブルーの瞳がエシルを捉える。エシルはその深い蒼に吸い込まれそうになるのを堪え、遠慮がちに微笑んだ。今日は母親が料理を作ってくれた。彼女の手料理を食べるのは何年ぶりだろう。ここ数年料理をしない母親だったがその腕は衰えてはいなかった。普段並ぶ事のない豪華な食事にエシルは感動し、その日はお腹いっぱい食事をする事が出来た。

 夕食後、エシルとジャンスは隣にあるジャンスの家へと向かった。夜道は暗く、隣の家とは言うものの炬火を焚かなければ足元すら暗くて見えない。

「足元、気を付けろよ」

「うん、ありがとう」

 並んで歩く。炬火の灯りで二人分の長い影が歩くのと同時にゆらゆらと揺れた。すぐ傍には森があり、いつ大型の動物が現れるか解らない。なるべく速足でジャンスの家へと向かった。

 ジャンスの家は必要最低限の物しか揃っておらず、殺風景だった。生活感のまるでない部屋だったがそれもどこか彼らしいな、とエシルは思った。救急セットを取り出してきぱきと処置をするジャンスをぼーっと見ていたらジャンスが口を開いた。

「なぁ、エシル。うちに来ないか?」

「え? どうして?」

「この痣、おばさんにやられたんだろ? 俺、お前が酷い目にあってるの、見て見ぬふりは出来ない」

 その申し出は有り難かったが、エシルは丁寧に断った。自分が居なくなれば母親は一人になってしまう。そんな事はさせまいとシエルは思っていた。ジャンスは複雑な表情を浮かべたがそれ以上は追及してこなかった。治療が終わり、エシルは再度礼を言ってジャンスの家を後にするのだった。


*****


 数日後、シエルがいつもと同じ様に井戸で洗濯をしていると、またジャンスがやってきた。ジャンスはエシルの隣に腰かけて、エシルをつま先から頭の上まで食い入るように見つめた。

「何? どうかしたの? ジャンスさん」

「怪我、この間よりは酷くなってないね」

 安堵してジャンスがエシルに微笑んだ。それだけの事なのに、エシルは目頭が熱くなるのを感じる。必死に涙を堪えてエシルはジャンスに礼を言った。

「…気が付いてくれてありがとうございます。ジャンスさん」

「泣きそうな顔するなよ、エシル。俺はいつもエシルの味方だからさ」

 そう言ってエシルの頭を撫でるジャンス。今度こそ、エシルは涙を流した。こんなに誰かに優しくされたのは今までなかった。その優しさが嬉しくて次から次へと大粒の涙が頬を伝う。溢れ出る涙にエシルはどうして良いのか解らずにごしごしと涙を拭きとる。

「だめだ、エシル。目が腫れるぞ」

「あ…うん、ごめんなさい……」

「まぁ一息つけよ。飲みもん持ってきてやったから」

 そう言ってジャンスは鞄の中から飲み物の入ったステンレス製のスキットルを取り出す。キャップを開けてエシルにそれを差しだした。エシルは礼を言い、一口液体を口に含んだ。珈琲豆の香りが口いっぱいに広がる。エシルは珈琲を飲むのは初めてだったが母親が好んで飲んでいたため香りは知っていた。これがコーヒーの味か、と感動しつつもう一口飲む。苦みと甘さが広がりとてもいい気分だ。

 急に眠気がやってくる。薄れゆく意識の中、最後に目にしたのはアイスブルーの瞳だった。

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