プロローグ
険しい岩山を抜けた所にある小さな村。
歩く人もなく、田畑にも作物もない廃村の様だが不思議な事に道は荒れてなく雑草等も延び放題になっていなかった。
そして、少し高台の森を背にした家にこの村最後の住人がいた。
「この風景も見納めだね。」
かなりの高齢だろうが背も曲がっておらず、はっきりとしゃべる老婆が村を見ていた。
すると、村のあちこちにある桃の花が一斉にに咲きだし始めた。
「すまないね、こんな婆さんの為に」
すると、その肩に薄桃色の衣を着た黒髪の小さな少女が現れた。
「あの方がね、最後だからって力をくれたの。」
すると、風が舞い蒼の長衣に黒のズボン、長い白髪に紫の目の青年が現れた。
「なに、花や木らが別れをしたいとの事でな」
そして、ふわりと老婆を抱えるとゆっくりと空に浮かび上がった。
「そして、これは私からだ」
すると、村の先に虹ができた。
「まるで、物語の姫様になった気分じゃな。」
本当に愛おしそうに村を見て。
「ありがとう、龍神様」
「さらばだ、我が巫女よ。」
そして、腕の中この村最後の巫女が息を引き取った。
未来視によると、この村は後数年後に地震で無くなると視えたので、先程の巫女により住人を移住させた。
巫女にいたってはこの村で最後を迎えたいとの事で、その最後を看取った。
その夜、森の奥にある湖の畔に先程の青年の姿の龍神と桃の精がいた。
「本当に桃源郷に送らなくていいのかい?」
その小さな桃の精に言うと。
「龍神様といると楽しそうだから。」
「全くの別世界だからね。」
まあ、桃の精とこの森位なら余程の世界でも何とかなるだろう。
ちょうど今日は満月、湖面の中程に月が映るといきなり湖面一杯に月が映り湖面が光だし湖と周辺の森が消えた。
数年後、地震により村は無くなったが高台と、そのうえの小さな墓石は無事であった。