太陽の宮①
あなたは輪廻転生という言葉をご存知だろうか。
私は残念ながら詳しくは知らない。理系専攻なので、倫理や哲学の授業を受けたことがないから。
けれど、漠然となら説明できる。
要するに、人間の魂は永遠に回り続けるということだ。
死んだ後、人の魂は天界へと行くのがセオリーではあるが、徳が足らない人間の魂はそこにとどまることはなく、次のものへと生まれ変わりそれを永遠とループする。それが輪廻転生。
私は、輪廻転生はいいことだと思う。
だって永遠に生まれ変わるということは、永遠に生きながらえるってことでしょ?
生きるのに貪欲な私なら、それは極上の幸せなのだ。何度でもやり直せる、違う生き物になることが出来る。
けれどそれを苦痛だと唱えたのが、ガウタマ・シッダールタ…つまり、仏陀。
輪廻転生は苦であるとし、それから逃れられないと、涅槃の地にたどり着けないだとか。
彼の考える涅槃というのは、どのような場所であるか。
彼は、魂の平安を保てる場所であるとした。
存外、悪くはないかもしれない。
現実世界は、生きてても辛いことばかりだった。
けれど今私が居る白い、無の空間よりは、現実世界の方がよかったでしょ。
そうこの真っ白な、まるで虚無の空間ー…
「…って、ここ何処!?」
えー、長らく私の独り言に付き合ってくれて、ありがとう。
私、風間千鶴は、目覚めると白い空間にいた。
上も下も限りなく白くて、どっちが上か下か分からない。おまけにこの空間には境目が見えなくて、ただただ白色が世界を支配していた。
「…私、どうやってここに…?」
分からない。ベッドもないし、そもそも寝かされていたのかすら分からない。
思い出したくもない、交通事故の記憶。
そして、親友に刺された記憶。その痛みも今は無くて、ズキズキと痛むのは心だった。
何もかも生前のことは覚えている。
自分で言うのもなんだが、私の広大な暗記力も衰えてはいない。今すぐ関数の定義を空で言えてしまうくらいに、私の記憶は生きていた。
だけど、由梨に刺されたのことは何一つ分からない。そこだけぶつ切りにされたように、空白があるのだ。何だか気持ちが悪くなる。
「ここは一体どこ?」
私の呟きはどこにも反射することなく、静かに消えてしまう。
それでも黙ってはいられなくて、私は最大の疑問を唱える。
「なぜ、私の体が無事なの?」
私の制服。その腹部。
ちらりと見てみても、傷1つなかったのだ。