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星天師〜星空の湊〜  作者: 下村美世
第2章 星天師として
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ほぼ同期⁉木星星天師③

「で、お前の紹介は?」

「あ!」

いくら軟派とはいえ私からしたらずっと先輩であるアルフレッドさんに先に挨拶させてしまった。私は慌てて席を立つ。

「自己紹介遅れて申し訳ありません。私は風間千鶴です。最近試練を終えて天王星の星天師に……」

「チヅルってどういうスペルなの?」

「す、スペル?ええっと」

胸ポケットのメモ帳にでも書いてやろうかと思ったけれど、リミットを服用している間は言語は自動で翻訳されてしまう。アルフレッドさんはどう見ても欧米圏の見た目をしているし、漢字は理解できないだろう。

私は口頭でこう伝えた。

「数字の1000に、鶴で、チヅルっていう意味です」

「へえ!千羽鶴ってやつか」

千羽鶴が嫌いな私は一瞬たじろいだが、アルフレッドさんに特に悪気はないみたいなので曖昧に笑った。

「えっと、まあそんなところです」

「へえ!続けていいよ」

「あ、はい……。天王星の星天師になりました。今は挨拶周りをしていて……」

「うーん、ダメダメ!つまんねーよチヅル!」

今後は何!

「挨拶ってのはどう印象づけるのかがミソだ」

「はぁ」

「何せ一番最初に相手とコミュニケーションを取る機会だからな。だからここで自分をどう見せたいか意識しないのはとても勿体ないぞ。事実の羅列なんて誰が面白いと思うんだ」

そういうアルフレッドさんも結構べたな自己紹介だったような……。

私が曖昧な顔をしていると、アルフレッドさんは「そうだ!」と何か閃いたように指を鳴らした。

「これも千羽鶴の縁だ、お前ら!」

千羽鶴の縁って、何……?何だか不吉なんですけど。

そう思う前に、私はあんぐりと口を開いた。アルフレッドさんが指を鳴らした瞬間、これまでだだっ広かった空間に大量の椅子が配置されたからだ。そのすぐ後、部屋の奥の扉からぞろぞろと人が出てきて、一斉に椅子へと座りだし、あっという間に席は満杯となった。

「え、え、え」

「俺の部下団その①だ」

「部下団って……こんな、大隊くらいの規模の……」

「へえ、チヅルお前軍隊に詳しいのか?」

「い、いえ。比喩として使っただけで」

実際は大隊以上にいると思う。目算だけど、千人はいるんじゃないか。

「俺はこの部下団をあと4つ持っている」

「……つまり、5000人ほどの部下?」

「それぐらいだな。木星は惑星の中でもダントツで人口が多い。男は火星で生まれて女は金星で生まれる。そいつらが木星で出会って結婚し、子どもが生まれたら火星と金星に送り込む。つまり」

「なるほど。だからこの星には労働力が豊富で、子どもがいないんですね」

「そいうこと。ただイオもそんなにデカい星じゃねーから、居住スペースが少なくなっているのが現実だな。ここに来る間の建物、全部デカくて広かったろ。でも一戸建ては一つもない。あれは集合住宅にしないと土地がなくなるからだ」

私はアルフレッドさんを少し見くびっていたのかもしれない。

明るくておおらかで、すこし適当な印象であまり悩みがないように思っていたが(失礼)、実際はその性格じゃないとこの規模の人数をまとめるにはプレッシャーがかかりすぎてしまうのだと思う。

「これは記念だ。木星はとにかく人が多くて労働力が溢れているってこと、証明してやる」

アルフレッドさんが「お前らー、やれ!」と言った瞬間、皆さん一斉に机の折り紙に向かった。

手元が見えにくくて何を作っているのかよく見えないが、5分もしないうちに折り紙は部下団の方々が回収していき、そして少し後に私に持ってきてくれた。受け取ると5キロほどの重さがずしりと加わって、私は貌を顰めた。

「……これって」

「千羽鶴。お前の名前だ、チヅル」

病院で見るなんちゃって千羽鶴ではなく、本当に千人の手でつくられた正真正銘の千羽鶴だった。あまりにも折り紙の数が多いのでタコ糸ではなく麻紐でくくりつけられているけど。

「木星の土産だ。今後とも、星天師としてよろしくな!」

アルフレッドさんの大きな手のひらが私に向けられる。私は千羽鶴を隣のローザさんに預けると、その大きな手のひらを握り返した。

「は、はい!よろしくお願いいたします」

アルフレッドさんの手のひらはひんやりとしていて、裾からちらりと見える手首には銃創のような痕があったけど、見ない振りをした。私はなかなか解放されない手のひらに首を傾げていると、不意に手を引かれて耳元で囁かれた。

「名前は大事にしろよ、チヅル」

「え?」

「いいカミサマもいれば悪いカミサマもいる。名前をとっちゃう奴もいるからな」

「……冗談ですよね?」

「マジだっての」

そこまで言うと、アルフレッドさんはやっと私を離した。

かくして、私の木星訪問は幕を閉じたのでし……



ドガッ!バババッ!


「!?」

「な、何⁉」

突然の轟音に、私は耳を塞いだ。

今まで聞いたことのないような、耳をつんざく音。隣のアルフレッドさんは耳は押さえないもののやはり煩いらしく、軽く眉を顰めていた。

「あーあ、来ちゃったかぁ」

「え?」

き、来たって何が!

私が聞き返そうとしても轟音が声を遮ってしまう。

アルフレッドさんは手を振り切り、ハンドサインで何か指示を出すと、部下団の方たちは一斉に扉へと走ってあっという間にいなくなってしまった。

え、何、何なの!?


続く

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