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星天師〜星空の湊〜  作者: 下村美世
第2章 星天師として
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ほぼ同期!?木星星天師①

「千鶴様、お身体に異変はございますか?」


 スペースモービルの中、私たちは次なる惑星を目指していた。

 ローザさんが言っているのは、私がさっき土星で瞬間移動の魔法を授かったからで。 

 私はちっとも痛くもかゆくもならないので安心していた。


「ううん、平気だよ。そもそも合う合わないとかあったりするの?」

「もちろんですとも。人間にも得手不得手があるように、魔力にも適性というものがあるのです。魔力は文字通り魔の素質がなければダメージも大きいですからね。千鶴様は大したものですよ」


 今さらりと魔性だとdisられた気もするけど、なるほどとも思った。

 魔の素質。私にその能力があるのだとしたら、おそらくあの頃から消えてくれないあの人の記憶が影響しているのだと思う。

 まあ、もう今は吹っ切れているんだけど。

 私は目をゆっくりと閉じて開くと、そういえばと口に出した。


「ところでさ。次の木星って相当大きな星なんでしょ」

「ええ。面積、人口共に太陽系最大の星でございます。というか、私も含め、ほとんどの太陽系の住民は木星の出身です」

「ああ、それ。アポロン様からも聞いてる。木星で生まれた女は金星に、男は火星に連れていかれて、年頃になったら木星で家庭を築くんでしょ?」

「左様でございますか。確かにアポロン様の言う通り、木星人は大半がそうなのですが、私は少し特別な家庭に生まれたものですから。金星に在住した経験はないのですよ」


 視線は前にいっているから表情はよくわからないけど、そう言っているローザさんは少しだけ悲しそうだった。気になったけど、よく考えたら私たちは出会ってからまだ浅い。踏み込んではいけない領域のような気がして、押し黙るしかできなかった。

 沈黙を破ったのは、「あ」と声を出したローザさんだ。


「どうしたの?」

「ほら、ご覧ください。見えてきましたよ」


 ほっそりとした彼女の指の先……私はハッと目を見張った。

 車窓越しに見える、とても巨大な木目の星。茶色と白のコントラストが艶やかでとても綺麗。

 でも……でもさ!


「大きすぎない……?」

 

 私はあんぐりと口を開けてしまう。

 いや、太陽の方が遥かに大きいのは認めるよ?でもそれにしても、木星もまた天王星より何倍も大きくて。

 木星もガス星ではあるから、今回着陸するのは衛星であるイオ。木星を構成するのは主に4つの衛星で、イオ、エウロパ、ガニメデ、そしてカリスト。最も大規模な星である分、住居星も他の惑星に比べたら多いのだ。

 中でもイオは太陽系の衛星の中でも4番目という大きさを誇っていて、地球にいたころの私でも名前くらいは聞いたことがあった。


「ええ、そうですよね。木星は何から何までとにかく規模が大きいので、初見でしたら皆さん驚かれます」

「木星の星天師ってどんな人…?こんな大きな星を請け負ってるなら、相当凄い人そう…。社交的な人だってアポロン様は言ってたけど」


 特に才能はないけれど、というアポロン様の風評はここでは言わない。なんだか悪口を言っている気分になるから。


「そうですねえ……。実際お会いしたら分かるとは思いますが、太陽系の星天師様の中では千鶴様の次にお若いんじゃないでしょうか」

「最高齢の土星の次は最少年齢かあ……。忙しいね」

「うふふ、たしかにそうですね。ですがそんなに身構えなくても大丈夫ですよ。少し派手ですが、心根はとても優しいお人柄ですから。……と、着陸態勢に入りますね」


 はーい、と返事をすると、私は胴体を固定するベルトを締めあげた。




 パンッ、パンパンッという音が鳴らされると、キラキラとした紙吹雪があたり一面に広がった。


「ようこそ!天王星の星天師様!」

「ささ、どうぞこちらへこちらへ~」


 着陸場から10分ほど歩いて、木星王宮にたどり着いた途端の出来事だった。

 流石に太陽系最大の星というだけあって、道中にもたくさんの店やら市場やらで人も多くて、もみくちゃにされながら来たものだから、私もローザさんもボロボロだった。


「あ、あはは。どうも~…」


 半ば引き笑いしかできない私に嫌な顔1つせず、門番さんは私に敬礼をすると、大きく立派な鉄門を解き放った。

 首が痛くなって見上げるのをあきらめてしまうほど、とてつもなく立派な王宮だった。

 素材は木だろうか。古さはあるものの、それすらも貫禄として印象付けられるほどの規模の王宮である。とにかく何といっても大きさが半端ではない。門から左右に見える立派な庭園を歩いていくと、高さおよそ100メートル、横幅200メートルはありそうな変な笑いがでそうなくらいの大きな箱型の建物の入り口へと突き当たる。中からはたくさんの業者や一般人やらでごった返していて、いってみれば超過密地域の市役所のようであった。

 職員らしき人もバタバタと走り回っていて、なんだか訪問時期を間違えてしまったようにしか思えない。


「あの、お忙しいのにすみません……」

 

 私が珍しく素直に詫びると、門番さんったら信じられないとでも言いたげに目を見開いてしまった。


「とんでもございません。本日はとても穏やかな方なのですよ」

「えっ」

「いつもならこれの3倍以上はいますね。本日は平日の中間日ですので、1週間の中では最も人の出入りは少ないです」


 ホワッツ!?

 空いた口が塞がらなかった。今ですら人の多さにゲンナリしていたのに、これ以上になるだなんて……。

 隣をちらりと見やると、案の定ローザさんもノイローゼ気味だった。普段天王星の研究室にいる身としては、相当キツイのだろう。いやあ、仲間仲間。

 死んだ魚のような瞳をして、せっかくの綺麗な水色の髪の毛もダランと下げて、今にも死んでしまいそうな彼女は、キャパオーバーしたのか不気味に笑い出した。


「ふふふ……研究室が恋しいです…」

「ローザさん、しっかり」

「すみません……。如何せん、イオにはほとんど来ませんので慣れなくて……。ゼウス様の根城はガニメデにありますし……」

「あれ。星天師とゼウス様は一緒に住んでいないの?」


 悠さんや私、余暉さん同様、星天師は秘書なのだから、主である神様の近くにいるものだと思っていた。

 私の質問に答えたのは先ほどのクラッカーの残骸を手にした門番のお兄さんだった。


「ゼウス様はいろいろな星を回っておられるので。私たちがあの方のお力やカリスマ性を軸にして生活しているのは確かですが、あの方は私たちの管理など特にご興味がありません」

「こら、お前。口を慎め。……と言いたいところだけど、まあこいつの言う通りです。ゼウス様はちょっと次元が違う方なので。私も直接あの方を拝見したのは、ここに雇われたあとの祝賀パーティー以来ありません。しかもそのパーティーですら、ご挨拶を終えられると即愛人様と引き連れてガニメデに帰ってしまわれて」

「え、先輩凄いですね。私なんて、直接見たことすらありません。家に肖像画はありますけど、実物はないですね…」


 あ、あのエロおやじ……。自星の民くらい丁重に扱えよ…。と思うものの、私の自覚がないだけで、ゼウス様と話すどころかお会いすることも難しいだなんて。それほど星天師が特権階級なのか、それともゼウス様が異次元なのか。おそらく両方だろう。


「ですので、天王星星天師様と従者様には我らのリーダーであるアルフレッド様……木星の星天師様にお会いしていただきます。が、とにかく木星の星天師様は他の星天師様と比べて忙しいので、そこまでお時間は取れませんが」


 な、なんかすみません。そこまで忙しいのに私たちのためにクラッカーまで用意させてしまって。

 そんな言葉は心の中にしまって、私はこっそりとろローザさんに耳打ちする。


「まだ二つの惑星しか回ってないけど、神様に会えないのって普通なの?」

「そんなことはありませんよ。ただ、ゼウス様と火星のアレス様、土星のサターン様はレアキャラでして。だから気にしなくても大丈夫です」

「ふーん……。そうなんだ、ありがとう」


 ゼウス。

 多分、この星天師制度においても太陽系においても、一番の鍵となる神。

 その神様直属の部下である星天師のアルフレッドさんはどんな人なんだろう。


 若干の不安と、多大なワクワクを胸に秘め、私は人にあふれている建物の入り口へと足を踏み入れた。

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