何のために私は。
「1つ確認させてくれないか?千鶴は、何故星天師になった」
何故、か。どう答えるのがベストなのだろう。
事故にあって、瀕死のところを由梨に剣で刺されて気が付いたら宇宙にいて。
それで、ほとんど成り行きのような感じで星天師になったのだけど。
「それは、主観的な理由ですか?それとも、客観的な理由?」
「客観的な理由……か。それはもう検討済みだ。そしておそらく、答えもあっているだろう」
「……神々の集会の時、ウラノス様は仰っていましたよね。“神剣を使ったから、私が星天師になった”と。それが、客観的な理由ですか?」
アレスに、何故私のような普通の女子が星天師候補なのだと尋ねられたとき、たしかにウラノスはそう答えた。
神剣……。剣と聞いて指すものは、由梨が持っていた短剣のことだろう。
あれは、神剣というらしい。
「ほお、流石の記憶力だな。これなら、安心して星天師を任せられそうだ」
言葉とは裏腹に、ウラノスは固い表情をしていた。油断ならない、とでも言いたげな顔だ。
「神剣は、どのような者でも星天師にすることができる。通常、星天師に選ばれる場合、神が直々に誘うことが多いが、神剣に貫かれた者は例外的に星天師になる権利を与えられる。その場合、試験が必要ではあるがな」
「どのような者でも……ですか」
「自分が特別だと思っていたなら、期待に添えなくてすまないな。ただー…」
そこで言葉を濁らせ、ウラノスは頭を抱えた。
「ただ、神剣の存在を知り、呼び出せる者なんて、限られている」
うそ、でしょ。
ということは、由梨の正体に近づけるってこと!?
「教えて下さいっ!それは一体、誰なんですか!?」
形相を変えて必死に飛びつく私に、ウラノスはため息をついた。
「ならん。重要な機密事項だからな」
「お願いします!そこを、どうか…」
「ならんものはならん。それに、自分で答えを探せば良いだろう。千鶴は、頭の良い子なんだからな」
自分で答えを見つけろ。
そう言われて、私は急に恥ずかしくなった。
自分の力で由梨を見つけ出し、話をもう一度したい。そう決めて、私は星天師を志したではないか。
こんな簡単に答えを入れようとして、私はとても安直だ。馬鹿だ。
何のために星天師になったんだよ。本当に。
拳を握る。
悔しくて恥ずかしくて、私は顔を上げられなかった。
「……すみませんでした。私は、とても安直でした」
「無理もないさ。誰だって、目の前に欲しい答えがあれば求めるものだ。……お前はそれを、あまり良しとはしない人間なのだな」
そうだよ。
今までだって、分からないことは自分で調べて、自分で理解した。
もちろんときには人に頼ったけど、答えを導き出すのは必ず私だった。
そのポリシーを捨てちゃいけないよね。
由梨には一刻も早く会いたいけど、由梨が私をこうして生かしてくれた。
何故そうしてくれたのか。
何故由梨が神剣を持っていたのか。
それは、私が自分で考えないといけない。
「客観的な理由は、これであらかた良いだろう。わしは、主観的な理由とやらも、聞いてみたいのだがな」
ウラノスの瞳がキラリと光る。
私を精査するためなのか、それとも単に事情を把握したいのから分からない。
でも、もしかしたら、答えを導き出すためのヒントをくれるかもしれない。
淡い期待を抱きながら、私は話した。
「私は事故で瀕死になりかけていて、神剣で私をここに連れてきてくれたのは、親友でした。しかし、目覚めたときには親友は側にいなくて……」
途切れ途切れだけど、なんとか言葉を紡いだ。
どうして私が星天師になりたかったのか。
ここでそれを整理するのは、とても有意義なことだと思う。先程まで、地球ホームシックになっていたのだから、尚更ね。
「私、彼女に聞きたい。どうして神剣を持っていたのか。そして、彼女は何者なのか。
私、彼女に言いたい。ありがとうって。大好きだって、彼女の瞳を見て伝えたい。だから私は、星天師になったのです」
私は私なりに、精一杯伝えたつもりだった。感情を込めたつもりだった。
けれど、ウラノスの反応は、予想外なものだった。
「それは、星天師という仕事を、お前の欲望のための踏み台にしているってことか?」
ウラノスからすれば、悪意がなく純粋にそう思ったから私に問うたのだろうけど、私はその言葉に、とても傷ついた。
今まで、誰かに非難されたことなんて山ほどあるけど、これが今までで1番堪えた。
「そんな……つもりは」
ありません、なんて言えない。
だってその通りじゃないか。
私は、星天師を何だと思っているんだ。
神の秘書で、とても大切な役割なのは知っているけど、そんなの表面だけの理解だった。
極端な話、就活のときに、「何故弊社を志望したのか?」と聞かれ、とても自分本位な理由を答えてるようなものである。
そんな人、企業は雇ってくれるか?いや、そんなわけない。
私は、もしかしたら、とても失礼なことを言ってしまったのかもしれない。
「すみません……」
「いや、そう謝らないでくれ。今のはわしも口が悪かったし、殆どの星天師は、そんなものだ。そもそも、星天師の存在すら、知り得るわけがないのだからな」
ウラノスはとても優しく笑んだ。
「星天師になりたい理由なんて、今から考えれば良い」
「でも、もうなっちゃってるし…」
「ま、まあそうだがな!でも、やりがいだとか楽しさなんて、これからいくらでも覚えることになるだろうしな。……これ、読んでおいてくれ」
「うわっ」
ウラノスがパチンと指を鳴らすと、真横から本が飛んできた!
ぶつかると思って思わず身構えたけど、本は私の前でピタリと止まると、ふよふよと宙に浮いた。
「これは……?」
「各惑星のデータだ。星天師の仕事は、惑星によってかなり異なる」
「アポロン様から話を聞いておりますが、天王星星天師は研究の手伝いをするだとか」
「ああ、それなんだかな。慣習ならそうなんだが、どうも研究員が今足りている状態なんだ」
ええええ!!!?
私、バリバリの理系だったから、そういう研究とかやってみたかったのに!
「そう困った顔をするな。もちろん、研究にも手を借りることはあるから。だが、それ以上にやってほしいのは、いわゆる真相解明だ」
「シンソーカイメイ?」
「探偵ごっこのようなものだな。どこかで事件が起きたらそこに駆けつけ、解決を図る。この役割は、本来なら火星が請け負うものなのだが、最近物騒でな。火星には防衛に徹してもらおうと思って、天王星が受け持つことにしたんだよ」
いや、バリバリのフィールドワークだな!
私、体力無いし、そこまで体も丈夫じゃないから、大丈夫かな。すごい心配。
「なあに。お前の頭脳があれば大丈夫だよ。試験だって、見事にこなしていたじゃないか」
ずっこけたり、斧で殺されかけたり、歩きすぎて足が動かなくなったり、ボロボロになったりしてたけど、どこらへんが見事だと思ったんだろう。
真面目に謎である。
「それで、まず、千鶴にやってほしい仕事なのだが」
サラサラと、紙に何やら書き付ける。
天王星の言語だろうか。楔形文字みたいなフォルムのそれは、本来なら解読できないのだろうけど、今の私は一味違う。
リミットの影響で、読めはしないけど、解読はできてしまう。
これ、私が書いた文字は、外部にはどう映るんだろう。後でやってみよ。
「ええと、……挨拶回り?」
「そうだ。まず、各惑星を回ってこい。そして、その惑星の役割を理解し、他の星天師と交流をすること」
うわぁああ。1番苦手かもこういうの……。
もともと、友達といえば由梨くらいの、コミュ力皆無の人間だから、下手したら地雷を踏みかねないし……。
「そう困った顔をするな」
そのセリフ、2回目なんですけど!
私ってそんなに、顔に出やすいのかな。
「ローザもお供に連れてけば良い。彼女はスペースモービルの運転免許も持っているしな。千鶴もそのうち取得することになるだろうが、取得まで1年はかかるから、しばらくはローザが運転手だな」
千鶴なら簡単に免許取れちゃうヨ!って余暉さん言ってたけど、1年もかかるんかい!
こりゃ、やることたくさんだな。
「ルートとしては、そうだなぁ」
ウラノスは簡単に太陽系の惑星の図を書くと、矢印で繋いでいく。
ええと、①土星→②木星→③金星→④水星→⑤太陽→⑥火星→⑦海王星、ね。
「土星から向かうのは分かりますけど、何故火星が後回しなのですか?」
「しばらく星天師が遠征に向かうみたいでな。1つの星を1日出回るとして、その日しか予定が空いてなかったそうだ。太陽も、その日しか空いてなかったらしい。まあ、余暉はタイミングが良かったけどな」
へぇ、やっぱり軍事星の星天師は忙しそうな感じね。
それにしても、7つの星に訪問なんて、豪華すぎない?さっきまで、不満だったけど、すごく楽しみになってきちゃった!
「さあ、もう寝なさい。明日の午後、土星に出発だからね」
私は気前よく返事をすると、ルンルン気分で自室へ戻った。
が、
「うへぇ……。部屋まで遠い〜」
螺旋階段の下降に、苦労したのは言うまでもない。




