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星天師〜星空の湊〜  作者: 下村美世
第2章 星天師として
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何のために私は。

「1つ確認させてくれないか?千鶴は、何故星天師になった」


何故、か。どう答えるのがベストなのだろう。

事故にあって、瀕死のところを由梨に剣で刺されて気が付いたら宇宙にいて。

それで、ほとんど成り行きのような感じで星天師になったのだけど。


「それは、主観的な理由ですか?それとも、客観的な理由?」

「客観的な理由……か。それはもう検討済みだ。そしておそらく、答えもあっているだろう」

「……神々の集会の時、ウラノス様は仰っていましたよね。“神剣を使ったから、私が星天師になった”と。それが、客観的な理由ですか?」


アレスに、何故私のような普通の女子が星天師候補なのだと尋ねられたとき、たしかにウラノスはそう答えた。

神剣……。剣と聞いて指すものは、由梨が持っていた短剣のことだろう。

あれは、神剣というらしい。


「ほお、流石の記憶力だな。これなら、安心して星天師を任せられそうだ」


言葉とは裏腹に、ウラノスは固い表情をしていた。油断ならない、とでも言いたげな顔だ。


「神剣は、どのような者でも星天師にすることができる。通常、星天師に選ばれる場合、神が直々に誘うことが多いが、神剣に貫かれた者は例外的に星天師になる権利を与えられる。その場合、試験が必要ではあるがな」

「どのような者でも……ですか」

「自分が特別だと思っていたなら、期待に添えなくてすまないな。ただー…」


そこで言葉を濁らせ、ウラノスは頭を抱えた。


「ただ、神剣の存在を知り、呼び出せる者なんて、限られている」


うそ、でしょ。

ということは、由梨の正体に近づけるってこと!?


「教えて下さいっ!それは一体、誰なんですか!?」


形相を変えて必死に飛びつく私に、ウラノスはため息をついた。


「ならん。重要な機密事項だからな」

「お願いします!そこを、どうか…」

「ならんものはならん。それに、自分で答えを探せば良いだろう。千鶴は、頭の良い子なんだからな」


自分で答えを見つけろ。

そう言われて、私は急に恥ずかしくなった。

自分の力で由梨を見つけ出し、話をもう一度したい。そう決めて、私は星天師を志したではないか。

こんな簡単に答えを入れようとして、私はとても安直だ。馬鹿だ。

何のために星天師になったんだよ。本当に。

拳を握る。

悔しくて恥ずかしくて、私は顔を上げられなかった。


「……すみませんでした。私は、とても安直でした」

「無理もないさ。誰だって、目の前に欲しい答えがあれば求めるものだ。……お前はそれを、あまり良しとはしない人間なのだな」


そうだよ。

今までだって、分からないことは自分で調べて、自分で理解した。

もちろんときには人に頼ったけど、答えを導き出すのは必ず私だった。

そのポリシーを捨てちゃいけないよね。

由梨には一刻も早く会いたいけど、由梨が私をこうして生かしてくれた。

何故そうしてくれたのか。

何故由梨が神剣を持っていたのか。


それは、私が自分で考えないといけない。


「客観的な理由は、これであらかた良いだろう。わしは、主観的な理由とやらも、聞いてみたいのだがな」


ウラノスの瞳がキラリと光る。

私を精査するためなのか、それとも単に事情を把握したいのから分からない。

でも、もしかしたら、答えを導き出すためのヒントをくれるかもしれない。

淡い期待を抱きながら、私は話した。


「私は事故で瀕死になりかけていて、神剣で私をここに連れてきてくれたのは、親友でした。しかし、目覚めたときには親友は側にいなくて……」


途切れ途切れだけど、なんとか言葉を紡いだ。

どうして私が星天師になりたかったのか。

ここでそれを整理するのは、とても有意義なことだと思う。先程まで、地球ホームシックになっていたのだから、尚更ね。



「私、彼女に聞きたい。どうして神剣を持っていたのか。そして、彼女は何者なのか。

私、彼女に言いたい。ありがとうって。大好きだって、彼女の瞳を見て伝えたい。だから私は、星天師になったのです」


私は私なりに、精一杯伝えたつもりだった。感情を込めたつもりだった。

けれど、ウラノスの反応は、予想外なものだった。


「それは、星天師という仕事を、お前の欲望のための踏み台にしているってことか?」


ウラノスからすれば、悪意がなく純粋にそう思ったから私に問うたのだろうけど、私はその言葉に、とても傷ついた。

今まで、誰かに非難されたことなんて山ほどあるけど、これが今までで1番堪えた。


「そんな……つもりは」


ありません、なんて言えない。

だってその通りじゃないか。

私は、星天師を何だと思っているんだ。

神の秘書で、とても大切な役割なのは知っているけど、そんなの表面だけの理解だった。


極端な話、就活のときに、「何故弊社を志望したのか?」と聞かれ、とても自分本位な理由を答えてるようなものである。

そんな人、企業は雇ってくれるか?いや、そんなわけない。

私は、もしかしたら、とても失礼なことを言ってしまったのかもしれない。


「すみません……」

「いや、そう謝らないでくれ。今のはわしも口が悪かったし、殆どの星天師は、そんなものだ。そもそも、星天師の存在すら、知り得るわけがないのだからな」


ウラノスはとても優しく笑んだ。


「星天師になりたい理由なんて、今から考えれば良い」

「でも、もうなっちゃってるし…」

「ま、まあそうだがな!でも、やりがいだとか楽しさなんて、これからいくらでも覚えることになるだろうしな。……これ、読んでおいてくれ」

「うわっ」


ウラノスがパチンと指を鳴らすと、真横から本が飛んできた!

ぶつかると思って思わず身構えたけど、本は私の前でピタリと止まると、ふよふよと宙に浮いた。


「これは……?」

「各惑星のデータだ。星天師の仕事は、惑星によってかなり異なる」

「アポロン様から話を聞いておりますが、天王星星天師は研究の手伝いをするだとか」

「ああ、それなんだかな。慣習ならそうなんだが、どうも研究員が今足りている状態なんだ」


ええええ!!!?

私、バリバリの理系だったから、そういう研究とかやってみたかったのに!


「そう困った顔をするな。もちろん、研究にも手を借りることはあるから。だが、それ以上にやってほしいのは、いわゆる真相解明だ」

「シンソーカイメイ?」

「探偵ごっこのようなものだな。どこかで事件が起きたらそこに駆けつけ、解決を図る。この役割は、本来なら火星が請け負うものなのだが、最近物騒でな。火星には防衛に徹してもらおうと思って、天王星が受け持つことにしたんだよ」


いや、バリバリのフィールドワークだな!

私、体力無いし、そこまで体も丈夫じゃないから、大丈夫かな。すごい心配。



「なあに。お前の頭脳があれば大丈夫だよ。試験だって、見事にこなしていたじゃないか」


ずっこけたり、斧で殺されかけたり、歩きすぎて足が動かなくなったり、ボロボロになったりしてたけど、どこらへんが見事だと思ったんだろう。

真面目に謎である。



「それで、まず、千鶴にやってほしい仕事なのだが」


サラサラと、紙に何やら書き付ける。

天王星の言語だろうか。楔形文字みたいなフォルムのそれは、本来なら解読できないのだろうけど、今の私は一味違う。

リミットの影響で、読めはしないけど、解読はできてしまう。

これ、私が書いた文字は、外部にはどう映るんだろう。後でやってみよ。


「ええと、……挨拶回り?」

「そうだ。まず、各惑星を回ってこい。そして、その惑星の役割を理解し、他の星天師と交流をすること」


うわぁああ。1番苦手かもこういうの……。

もともと、友達といえば由梨くらいの、コミュ力皆無の人間だから、下手したら地雷を踏みかねないし……。


「そう困った顔をするな」


そのセリフ、2回目なんですけど!

私ってそんなに、顔に出やすいのかな。


「ローザもお供に連れてけば良い。彼女はスペースモービルの運転免許も持っているしな。千鶴もそのうち取得することになるだろうが、取得まで1年はかかるから、しばらくはローザが運転手だな」


千鶴なら簡単に免許取れちゃうヨ!って余暉さん言ってたけど、1年もかかるんかい!

こりゃ、やることたくさんだな。



「ルートとしては、そうだなぁ」



ウラノスは簡単に太陽系の惑星の図を書くと、矢印で繋いでいく。

ええと、①土星→②木星→③金星→④水星→⑤太陽→⑥火星→⑦海王星、ね。


「土星から向かうのは分かりますけど、何故火星が後回しなのですか?」

「しばらく星天師が遠征に向かうみたいでな。1つの星を1日出回るとして、その日しか予定が空いてなかったそうだ。太陽も、その日しか空いてなかったらしい。まあ、余暉はタイミングが良かったけどな」


へぇ、やっぱり軍事星の星天師は忙しそうな感じね。

それにしても、7つの星に訪問なんて、豪華すぎない?さっきまで、不満だったけど、すごく楽しみになってきちゃった!



「さあ、もう寝なさい。明日の午後、土星に出発だからね」


私は気前よく返事をすると、ルンルン気分で自室へ戻った。



が、



「うへぇ……。部屋まで遠い〜」



螺旋階段の下降に、苦労したのは言うまでもない。

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