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星天師〜星空の湊〜  作者: 下村美世
第1章 宇宙へやってきた
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賢者の試し④

「…」


中年男は何も言わない。と言うよりも、何も言えないのだと思う。口の端は何かで焼かれたように爛れ、膿んでいた。口が開きにくい分呼吸もままならないようで、苦しそうに鼻呼吸をしていた。


…すごい、醜い。


顔立ちだってお世辞にも綺麗じゃない。ゴツゴツした顔に虚ろな瞳、こっちまで卑屈になりそうな感じが、非常に不愉快だ。

男は土色の肌をしていて、一見すると老人にも見えたけど、ガッシリとした全体の風貌からしたら中年くらいかな?と再認識した。


「…あの、私は試験としてここに来たんです。そして悪いけれど、貴方を助けることは私の力では不可能です」


我ながら性格が悪いと思うよ。

男がこちらを凝視しているだけで、勝手に相手の要望を妄想して、更に断るなんて。


「……れ」

「え?」


驚いた。

膿だらけの口をグググ…とこじ開け、たしかに何か発音したからだ。


何か、伝えようとしている?


私は彼の元へと近づくと、耳を傾けた。

匂いがどんどんキツくなっていったけれど、そんなことよりも、死に限りなく近い彼が初対面の私に何を伝えようとしているのかに興味がある。


人の死を何だと思ってるんだと、私は言われるかもしれないが、ここはゼウスの世界。全てゼウスの設定の上にある世界。


みんな作り物。限りなく現実に近い虚構。

…まぁ、その設定に関して、1つだけ気になる点はあるのだけれど。



「…い、のって、く…れ」


祈ってくれと、男は確かにそう言った。


祈るという行為は私にほとんど縁がない。

由梨に会いたいという願いはあるけれど、祈りで叶えようだなんて思わない。実力行使がもっとも確実だし、そもそも過度の現実主義者なので、スピリチュアルな行為には些か嫌悪感があった。

だって、確実性が無いんだもの。心の中で処理できるようなものに、価値なんてあるの?

世の中の聖職者や宗教家が聞いたらボッコボコにされそうだけど、素直にそう思う。そしてそれもまた価値観。否定される謂れはない。



「…どう、祈ればいいのですか?」


信仰心の欠片もない私にも、心の中で手を合わせることくらいならできるからとりあえず言葉だけでも聞いてやることにした。



「…に、幸、ことを」

「はい?」

「来世、に、幸あらんことを」


口元を動かすと、男は苦痛に歪んだ表情をより一層歪めるのだが、それでもこのフレーズだけは、ハッキリと言った。


来世に幸あらんことを、と。


何を言っているのだろう。

来世なんかに期待をしてしまうの?生まれ変わりという、本当にあるかも分からない概念のために今生きることを棄ててしまうの?


私には理解できないよ。仮に輪廻転生があったとしても、今の“私”の意識がないのなら、それは別人じゃないの。


「祈りなんかに身を委ねていたら、ダメですよ」


自分でもブーメラン発言だと思う。

この試練だって、私が由梨に会いたいっていう“祈り”から来てるのに、この人に叱咤する資格なんて私にはないのだ。


「…来世に、幸あらんことを」


吐き捨てるように言うと、男は少しだけ微笑んだ。そして目やにだらけの瞳を開けたまま、1分後に息を引き取った。



———————————————————


男が死んだのを見届けた後、私は様々な半死体の元を訪れては最期に望む願望を聞いて回った。

するとどうだろう。ある共通点が見られたのだ。



「来世、幸せになれるように祈って欲しい」


「天国であの人と再会したい」


「願望なんてないよ。…強いて言うなら、早く死んでしまいたい」


これはほんの一例だけど、みんな決まってこの世界に対して執着がないのだ。私はそれが、とても怖いことだと感じた。


だってそうでしょう?未練、執着、後悔という言葉はいずれもマイナスイメージを伴うものだけど、でもそれらを今生きている世界に持っていないというのは、生きることを放棄しているということだ。


そりゃ死にかけなんだから仕方がないだろうと言われてしまうかもしれないけど、死にかけでも生きたいと必死に抗う人の姿が、私は望んでいた。だって、私もそうだったから。



価値観によって現世を苦に感じる人がいたっておかしくはないけど、私は結局自分の価値観から抜け出せないでいる。


なんだか神妙な気持ちになって、私は西エリアから退出した。



バサバサバサ…!


「あ、また」


先程も鳥が羽ばたくような音が聞こえたけど、一向に姿が見えない。これは、何の音?

私が鳥を見逃してるだけなのかな?


実は、私がゼウスの作ったこの世界に抱いている違和感はこれなのだ。

それは、人間以外の動物を見ないということ。しかも、羽音が聞こえるのに鳥の姿を観測できない。

もしかして、だけど。


この世界は作り物というより、本当はー…。




…やめよう。今はそんなこと考えたって無意味だ。

あとでゼウスに【生老病死】で私が一番恐ろしく感じたものを伝えたあと、答え合わせをすればいい。



私はキッと空に浮かぶ目を睨みつけた。

巨大な緑の瞳は、私の視線に気がつくと、ニタァと歪んだ。


更新遅くなりました。実は腱鞘炎にかかってしまって、今はだいぶ良くなりましたが長らく更新できない状況でした。

不甲斐ない作者ですが、これからも閲読していただけると幸いです(^^)よろしくお願いします。

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