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星天師〜星空の湊〜  作者: 下村美世
第1章 宇宙へやってきた
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賢者の試し③



さて、これからどうしようかな。


先程視察してきた【病んだ命】ーすなわち南ーへと続く道には(といっても、出口は葉で覆われてもう行くことはできないが)リンゴを置いた。私は先程リンゴ、ミカン、柚子、バナナを東西南北それぞれに伸びる道の入り口に配置し、リンゴが南に該当することが判明した。そこから考えると、ミカンは西、柚子は北、バナナは東の方向になる。

南は視察だけして尻尾巻いて逃げてきたため、大分時間に余裕がある。今がどれほど時間が経っているのか正確にはわからないが、体感では1時間にも満たないくらいだ。


私が最も恐れている西方角…【死ぬ命】を次に視察するか、最後に回すか迷いどころである。

北【生まれた命】、東【老いた命】を先に回した方が良いだろうか?なるべく早く終わらせ、手強そうな西に時間を費やすのも悪くはないだろう。

だが、私は面倒ごとを早く片付ける方が好きだった。自分が他より遥かに勉強が出来るのは、後回しにしない・したくないというこの性質も関係があるのだと思う。


しかし、なんだか妙に引っかかる。

北の【生まれた命】なんていかにも感動・御涙頂戴のような試練に思えるけれど、字面を素直に眺めてもいいのだろうか?

というのも、私の母が生前言っていたことなのだが。




『ちーちゃん。生きることってとても素敵だし、前向きなイメージがあるかもしれないけれど、それは終わりに向かっていくという意味を同時に持つの。生まれるということは、終わるということと紙一重。だって生まれなかったらそもそも終わらないんだから』


箱の中で力なく横たわるスズメの雛。

頑張って手当てしたのに。昨日までは元気にミルワームを食べていたのに。


静かに静かに命の灯火が弱まっていくその様子に、私はただただ泣いて怯えていた。

クールな母にしては珍しく、詩人のようなことを言ったものだから、今でもよく覚えている。


『この鳥さんは、ちーちゃんによって少しでも長く生きられたのよ。きっと、幸せだったと思うわ。だから、泣いちゃダメよ、ちーちゃん』



あの鳥は、本当に幸せだったのか?

傷ついた体の痛みに悶えながら、一瞬でも早く死にたいと感じなかったのだろうか?

私は、余計なことをしてしまったのではないだろうか?


思えば生来私は捻くれていたものだから、母の優しい言葉にもうまく頷けなかった。


けれど生きるということは、死ぬということと常に隣り合わせ。生きるとは、死ぬということ。死ぬということは、生きるということ。




私はグッと拳を握りしめた。全身に、嫌な汗が流れていく。



その嫌な汗と迷いを振り切るように私は無理やりのミカンの道へと歩みを進めた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



道なりに進んでいくと、草木の色が緑から褐色へと変わっていくのがわかった。空も、黄昏ていて、案の定ゼウスが舐めるように私を見ていた。


あー、ゼウスにこのプレッシャーを分けてやりたい。腹がたつなぁ。


怒りのバロメーターが振り切れやすい私にとって、今の状況はストレスでしかない。怒りたい相手は私が逆らえない神で、怒ったところで私に利益などないのだから。


…今から行くところ【死ぬ命】は、果たして私が1番恐ろしいと感じるのだろうか?

達観しているわけでも強がっているわけでもなく、私は地球にいた頃致命傷を受けたのだ。あの時の感覚は実に恐ろしかった。

体から命がこぼれていくのも、急速に冷えていく感じも、もうできれば二度と味わいたくない。


けれど、と私は思うのだ。

けれど、それは生きているから命が惜しかったのではないか?

死人って、ある意味最強なのだ。恐れるものなど何もないのだから。

私は生きてて、その体を、精神を、大切な人間を喪うのが怖かった。


難しいことをごちゃごちゃ考えていると、いつのまにか出口に着いたようだった。

ごく、と唾を飲み込んで、光が漏れてくる茶色い葉っぱのバリケードに手を当てて押した。



「…う」



どんよりと曇った赤い空。

鼻をつく腐ったイカのような匂い。

先程の【病んだ命】にさえあった道路も、このエリアには無くて、植物一つ生えていない乾いた砂地に血痕や吐瀉物、よくわからない物体が撒き散らかされていた。


建築物などは見当たらない。どこまでも砂地が広がっており、感覚を空けて死体がゴロゴロと転がっていた。


風がビュッと吹き荒れ、砂が天高く舞った。

同時に死体も風に押されて若干動く。


砂埃に噎せた上に、風に煽られた激臭とその光景のショックで、私は今度こそ吐いた。

最後の食事っていつだっけ?

ゼウスによって生前の体を維持している私は、お腹も空かなかったし尿意も感じなかった。もしかしたら、ゾンビのようなものなのかな?と思ったが、きちんと吐けるらしい。

少しだけ安堵したのも束の間、私は信じられない光景を目にする。



「え…?」


胃液が口の中に残っており喋るのは億劫だったが、それでも声に出さずにはいられなかった。


死体だと思っていた人々の体が、僅かながらに動いたのだ。人々といっても、砂埃のせいで私付近の2、3体くらいしか確認できなかったが。


この人たち、生きているの?…もしかしたら先ほどと同じように、また助けを求められる?


嫌だなあと思いつつ固唾を飲んでその様子を見守っていると、右手側に転がっている中年くらいの男が、開きっぱなしの瞳で私に焦点を写した。どうやら認識されたようだ。




長らく更新できておらず、誠に申し訳ありませんでした!楽しんでいただけると幸いです

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