荒んだ日常
古来より、天と大地は密接に関わっている。
天は大地に水をそそぎ、大地に生命を芽生えさせた。
大地は豊穣を育み、更なる生命を作ろうと勤しんだ。
互いに均衡とまではいかないが、とにかく関わりあって存在している。
私が普通の生活を送っていたのなら、おそらくこんなことには気づかなかっただろう。
当たり前だけどとても大切なこと。
私が気づいた理由とともに君にささげよう。
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「何?私友達待たせてるんだけど。用なら早く済ませて」
自分でも棘のある言い方だとは思うけど、私は容赦なく告げる。
けれど友達を待たせているのは本当。
それに、屋上に呼び出しておいて一向に口を開こうとしない目の前の2人の女子達にもかなりイラついていた。
「用はないの?なら、私もう帰っていい?」
踵を返して屋上から出て行こうとする私を、ポニーテールの女子が止めた。
「待ちなさいよ、風間さん!」
…え?なんでこの子私に命令調なの?
まあ、いいか。このまま口を閉ざされるより、さっさと話してくれた方がいいもの。
「何?」
極めて穏やかに聞いてあげると、やがてしゃべりだした。
「あのね、風間さん、今村メグって知ってる…わよね?」
「今村メグ?」
ええと…、確か私の斜め前の席の女の子のはず。
「今村さんがどうかしたの?」
「メグね、今、休んでいるでしょ」
—ああ、確かそうだった。
確か一昨日あたりから、学校を休んでいるっけ。
「うん」
「どうしてか分かる?」
知るわけないじゃない、と内心思いつつ、答えを返す。
「さあ?風邪とか?」
すると、今まで黙っていたショートカットの女子が涙目で怒鳴った。
「風間さん!メグは、あなたのせいで学校に来てないのよ‼︎」
私は一瞬ポカンとした。
え?意味わかんない。なんで私のせいになるのよ。
「ええと……」
ショートカットの女の子の名札を見る。川石というらしい。
「川石さん。それ、どういう意味かな?」
私は今村メグとの接触はほぼない。
喋ったことすらそんなにない。
…なのに、どうして私が?
「そのままよ。メグはね、成績トップが取れないことを親に責められて、それで……!」
川石さんは泣き出してしまった。
困るなあ。話は最後まできちんといってもらわなきゃ分からないじゃない。
「川石さん、泣かないでちゃんと話して」
「ちょっと風間さん⁉︎真野泣いてるのに、そんな風に言わなくてもいいじゃない!」
…やばい。イライラのバロメーターが、急上昇するのを感じる。
「ねえ、本当、帰っていい?」
これ以上この人達に関わると、耐えられなくなる。
ただでさえ私は短気なのだから、あまり怒らせないでほしい。
「待ちなさい!と、とにかく、メグは、あんたのせいでノイローゼになって、学校に来れなくなったの。」
…私のせい?
ね、それっておかしくない?
だって、私が首席を取るのと、今村さんがノイローゼになることが、どうイコールになってるのよ。
ますますムカムカしてきた。
私だって、遊ぶのを必死に我慢して勉強してる。その上で得た首席なんだから。
好き勝手は言わせない。
「で、私は何すればいいわけ?テスト手加減して、今村さんに首席を譲ればいいわけ?」
「……そうよ。そういうことよ」
ポニーテールが、私に懇願するようにつぶやいた。
呆れてものが言えない。
果たして、ここまで馬鹿らしい話は地球上に存在するのだろうか。
「断るに決まってんでしょ」
自分でもゾッとするくらい低い声音で言い放つ。
ポニーテールと、川石さんの目が、見開かれた。
「風間さん、あんたには、心がないの⁉︎」
ヒステリックに吠えられ、いよいよ私も限界だった。
「じゃあ聞くけど、私が例え手加減したとして、今村さんが首席とったとして、あんたら本当にそれでいいと思ってんの⁉︎」
私の変わりように、少し怯む2人。
でも、そんなの構わない、いくらでも言ってやる。
「私だって、寝る間を惜しんで勉強してんの。私には、夢があって、それを叶えるためには勉強しなくちゃいけないの!だから、だから……」
息を吸い込む。
「努力する人の邪魔をしないで‼︎」
初めてかも。人前でこんなに叫んだの。
「それに、私、手加減って嫌いなの。手加減は、その人のレベルに合わせるでしょ?それって、今村さんを、最も侮辱してると思わない?」
もう2人は何も言わなかった。
私は、ため息をついて、今度こそ帰ろうと踵を返す。
「じゃあね」
ドアノブに手をかけると、川石さんが背後から叫んだ。
「私ら、本当にあんたを嫌うから…!あんたなんて、消えちゃえ!」
ああら、幼稚な罵倒。
もう笑うしかない。
こんな悔し紛れに馬鹿みたいなことしか言えない人種と、長くはいたくない。
「嫌うなら、嫌えば?どーぞ嫌って下さいませ」
少し、笑ってやる。
ドアを閉めるとき、かすかに「サイテー」という言葉が聞こえたが、無視した。
おっ!もう5時⁉︎
や、やばい。由梨を相当待たせてるな。
私は夕陽に照らされている茜色の校庭へと走っていった。