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おちこぼれのかみさま

作者: 夢見 歌鳥

 むかしむかしのそのまたむかし。天界にはたくさんのかみさまが住んでいました。

 今度新しく星を創ることになり、なにを作ろうか、どんな生物を住まわせようかという話で天界は持ちきりでした。


 そんな楽しげな会話の輪に入れないかみさまが一人いました。「おちこぼれのかみさま」です。彼の創るものはいつも不完全で欠陥だらけで役立たずばかりなので、いつしかみんなからそう呼ばれるようになりました。

 おちこぼれのかみさまはいつもみんなにいじめられ除け者にされていたので、悔しい思いをしていました。今度こそどうにかしてみんなを出しぬいてやろうと思い立ち、誰にも見つからない場所で新しい生物を創り始めました。


 強い生命力、豊富な知恵、技術、記憶力や想像力を与え、他の生物との差別化を図るために様々な感情や意思を総合した画期的な成長システム「心」を心臓に加えました。これによって他を思いやり、尊重し、助けあうことができるようになりました。

 しかし自分を信仰をしなくなることを恐れ、取得した知識は一代限りとし、次の世代には受け継がれないようにしました。最後に誰が創ったのか一目でわかるよう、自分そっくりの形に仕上げました。

 出来あがったものは「ニンゲン」と名付けられました。


 そして星を創る日がやってきました。他のかみさまが一斉に創った物質や生物を放つ中、おちこぼれのかみさまはまだニンゲンを放たずにじっと息をひそめていました。

 時が経ち、星の状態も安定してみんながいなくなると、やっとニンゲンを放ちました。


 それからしばらくして、さて星の様子はどうなったかなと見に来た一人のかみさまは驚きました。物や火を臆することなく扱い、自分で考え行動する知性を持った生物がいるではないか。

 これはどうしたことだろうと騒ぎになり、その姿からおちこぼれのかみさまが創ったのだと分りました。みんなは素晴らしい!見直した!と口々に言い、おちこぼれのかみさまを褒め称えました。

「やったぞ!やってやったんだ!」とおちこぼれのかみさまは喜び、勝利の美酒に酔いました。ちやほやされて今まで感じたことのない幸福感に包まれ、これが永遠に続けばいいのにと思いました。


 しかしその栄光は長くは続きませんでした。ニンゲンが予想しない行動を起こし始めたのです。必要よりも多い資源を採取し、生きるため以外の狩りを行うようになったのです。

 ニンゲンは後先を考えず目の前の利益のために森を焼き、川や海を化学物質で汚し、生き物を大量に殺し、自分達がこの星の王にでもなったような横暴な振る舞いをしました。「心」を与えたにも関わらず、思いやりのないニンゲンや「心」に欠陥のあるニンゲンが生まれ、他の「心」を躊躇なく傷つけたり壊したりしました。

 そしてとうとうニンゲン同士で殺し合うようになりました。一番愚かしいのは、思想が違うというだけで相手の一族を滅ぼしてしまうようになったことです。


 これを見たかみさまたちはあまりのことに恐れ慄き、中には自分の創った生物を全滅させられて泣きだすかみさまもいました。

 おちこぼれのかみさまは何度となく星に介入し、ニンゲンに殺し合いをやめるよう神殿で説きましたが、その言葉は都合のいいように捻じ曲げられて、かみの言葉を受け取った自分達こそが唯一正しく、他はみな間違っているから殺してしまえ!とさらに殺し合いを続けました。世代を交代させても、時間を流しても、いつの時代もニンゲン達は殺し合いをやめません。道具だけが進化して、殺されていくニンゲンの量が増えていきました。

 約束をしても書いた石板を無くし、すぐ裏切る。そのくせ殺し合いの時には自分のためだと大義名分を掲げ聖戦だ!などと叫ぶことに怒りが限界に達し、おちこぼれのかみさまはついにニンゲンを滅ぼすことを決意しました。

 大津波を起こしたり、地震を起こして建物を崩したり、作物が育たないように天候をおかしくしたり、病を撒きましたが、強い生命力を持つように創ったのがあだとなり、一定の効果はあるものの、全滅させることができませんでした。むしろ対策を施すようになり、死ににくくなっていったのです。


 血と爆薬の匂いと砂ぼこりまみれながら「もうお前達には愛想がつきた。永遠に殺し合いを続けるがいい」と無気力に言い残して、おちこぼれのかみさまは星を離れ天界へ帰りました。


 そこで待っていたのはかみさま裁判でした。おちこぼれのかみさまは「ニンゲンを創った罪」に問われました。

 おちこぼれのかみさまは証言することもなく、輝きを失った眼を開いて自分を罵倒する言葉を聞き流していました。

「やはり碌なことにならなかった!生物を創るべきかみではなかったのだ!こいつは死をもって罪を償うべきだ!」

「天界から追放し、牢獄へ繋いで死ぬまで出られなくすべきだ!」「そうだ!」「そうだ!」

 おちこぼれのかみさまに死を求めるかみさまが多くいる中、裁判長の大長老から判決が言い渡されました。

「このかみより全ての神力をはく奪し、記憶を抹消する。その後身体を創り替えあの星に堕とし、滅びるまでニンゲンを見続けることを罰とする」

「何故ですか大長老!」判決を不服とするかみさまたちから疑問の声が上がった。

「こやつの罪は、もはや死んで償えるようなものではないのだ。なんと恐ろしい…」大長老は眼を伏せ、おちこぼれのかみさまを見ないようにしました。


 こうしておちこぼれのかみさまはニンゲンとほぼ同じ身体構造に組み変えられ、記憶とかみさまとしての力を全て失い、星に堕とされました。ニンゲンを創っていた場所は見つかって封鎖され、誰も立ちいらないよう厳重な管理下に置かれることになりました。

 彼は今一人のニンゲンとして、大陸を渡り歩く日々を送っています。身体こそニンゲンと同じですが、命の力はかみさまのままなので、傷ついてもあっという間に治るし、頭を打ち抜かれても死にません。病気にもなりません。彼は虚無と絶望を胸に、ニンゲンの滅びる日を待っているのです。いつまでも、いつまでも。

 彼が立ち去った後も、その地域では殺し合いが続いています。ニンゲン達は今日も神の名を叫び、自分勝手な思想の元、硝煙と鉄の匂いをその身体に纏わせているのだという。

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