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転生先にはご注意を!

「ここは……?」


 瞼を開き俺の目に映ったのは辺り一面に広がる色鮮やかな緑色の草原だった。そよ風が俺の頬を優しくなで、息を少し深く吸い込むと若草のいい香りがする。


「う~ん、ルルにどの辺りに召喚されるのか聞いとくべきだったな……」


『お呼びですか、月梨さん』


「うわっ!」


 突如ルルの声が響き、慌てて周囲を見回すがどこにも人影は見当たらない。


『驚かしてしまって、申し訳ありません。今はあなたの脳に直接、声を送っていますので近くにわたくしが居るわけではありません』


「ホントにびっくりしました……。それで、なにか御用ですか?」


 尋ねてから気づいたが、これこっちからの声は届くんだろうか?


『ちゃんと届いていますよ。後、ここからは脳から思考を読み取っていきますので言葉を声に出す必要もありません』

 

 集中して聞いてみると確かに頭に直接声が響いている。


 なるほど流石は神様だ、現代科学もびっくりの高性能通信である。


『実は、わたくしのような新神転生神は初めに転生させた方のサポートをしながら、その世界の情勢を学ぶことを義務づけられているんです』

 

 俺も説明された通り、思考による会話に切り替えた。


『そうだったんですか。ならこの世界に来る前に言ってくれれば良かったのに……』


『ふふっ、その方が面白いかと思いまして、ご迷惑でしたか?』


 癒されるような美声でコロコロと笑うルルに文句を言う気は完全に失せてしまう。ああ、もう可愛いな!


『そんな事ないです。ちょうどここがどこか聞きたいと思っていたんです』


『分かりました、少々お待ちください……。ええと、そこはグリーンガーデンと言われる草原ですね。そこから南東に進んで行くと大きな町に着くみたいです」


『ありがとうございます。それで距離は…… ん、あれは……』


 さらに質問を続けようとした時、俺は見通しが良くかなり遠くまで見える草原で視界の端に動くものを捕らえる。


『どうかされましたか?』


『魔物っぽいのを見つけました。ちょっと行ってみます』


 ぶっちゃけわざわざ近寄っていく必要はないのだが、今の俺は一刻も早く授けられたチートによる無双を体験してみたかった。


 ある程度接近すると向こうもこちらに気づいたようで、走りながら距離を詰めて来る、これにより姿の全容がハッキリと確認できた。白く荒々しい毛並みに口からはみ出るほどに長く鋭い牙、全体的なシルエットは俺達の世界で言う虎に酷似していた。ただサイズは一回り以上大きい。


『あれは、ワイルドタイガーと呼ばれる魔物ですね。気性が荒く人を襲うこともあり、ギルドなどでも良く討伐依頼が届けられるようです』


 ルルには俺の周りの景色が見えているようで、丁寧に魔物の解説を入れてくれる。


 今の説明を聞く限りと倒しちゃっていい魔物ってことだよな!


 強靭な四肢で地面を踏みしめながらすさまじい速さでこちらに駆けてくるワイルドタイガーに向け俺は迎撃体制をとる。最初は身体能力を試してみるとしよう。俺は右拳をしっかり握り締め後ろに引き、左足に力を込め、気持ち前かがみになる。


 さあ、いつでも来い。


 両者の距離はどんどん近づいていく、十五メートル、十メートル、五メートル……。


 今だ!


「グゥォォォ!!」


 ワイルドタイガーが口を大きく開きその巨大な牙をむけ飛び掛ろうとした時、俺は左足に込めていた力を解放し爆発するよう勢いでに地面を蹴る。ドゴン!!と空気を震わせると、周囲の景色が霞むほどの速さでワイルドタイガーの目前まで迫る。


 その勢いを殺さず力いっぱいワイルドタイガーに右拳を叩き込んだ。 


 ベキッ!そんな音を立てながら俺の拳が顔面にめりこんだワイルドタイガーは錐揉みしながら十数メートルも飛んで行き、轟くような地響きを立て落下した。


 あれで生きてるってことはないだろう。


「よっしゃ! 初勝利! ってあれ?」


 そこで違和感に気づく。うまく立つ事ができないのだ。不審に思い足元に視線を落とす。


「なんじゃこりゃああ!!」


 そこにあったのは、決して曲がってはいけない方に曲がってしまった左足と、それを見る途中で目に付いてしまった手首から上のない右手だった。


 待って!ちょっと待って!どういうことなのこれ!


 俺が混乱している間に負傷した部分がシュウウと蒸気のようなものを上げながらみるみる内に怪我が治っていく。


「おいルル! これ、どういう事だよ!」


 あまりの非常事態に敬語を使うことも忘れルルを慌てて問いただす。


『ち、ちょっと待っててください!え、えっと……あっ!」


「どうした! 分かった事があるなら早く教えてくれ!」


『そ、その、非常に申し訳ないのですが……。『身体能力超強化』には制約がありまして』


 制約?使う前になにかしなくてはいけないとか、そういう類か?


『地球人は、あまりの強化に体が耐え切れないので『身体強度超強化』とセットで取るようにとの事です……』


「今更どうしろって言うんだあああ!!」


『すみません! すみません! 一応カタログにも注意書きがあったはずなんですが……』


「あっ」


 それには思い当たる節がある。たしかの『身体能力超強化』の下のほうに小さい※印があったような……。


「ご、ごめん、俺にも非はあったぽい……」


『いえ、これは転生神がきちんとお伝えしなくてはいけない事でした……』


 消沈した様子のルルはしばらくすると『うぅっ』と言う声を皮切りに泣き始めてしまった。


「ル、ルル?泣くなって、さっきは切羽詰っててつい責めるような感じになっちゃったけど、俺そんなに怒ってないから……」


『うえぇぇぇん!! このままじゃ先輩に見つかったらすごく怒られちゃいますぅ……』


「ええっ! 気にするとこ、そこ!?」


 あと先輩とかいたんだね……。


 そういう事情で泣いているのなら俺が慰めることは出来なさそうだったのでルルが落ち着くのを待つことにした。


 数分後……。


『ご、ごめんなさい、取り乱してしまって……』


 まだ鼻声だが、だいぶ落ち着いたらしいルルが謝ってきた。


「いや、さっき言ったように俺にも非はあったんだからいいよ」


 もう過ぎたことを責めても仕方ない。それよりこれからどうするかを考えるほうが建設的だ。そう考えルルにある事を相談する。


「こうなった以上は魔法メインで戦って行きたいと思う。それでルルには魔法の使い方を教えて貰いたいんだ」


 ちなみに話し方はこっちで固定することにした。あれだけタメ口きいて今更敬語に戻すのも違和感あるしね。あと、やっぱり声を出したほうがしっくり来るので他に人がいなければ、こうして普通に話すことにする。


『そ、そうですね! すごい魔力を持ってるんですし、魔法だけで十分戦えますもんね!』


 そういうことだ、元々適正が高いのは魔法なんだしこっちを使いこなせるようになれば『身体能力超強化』のカバーなんていくらでも出来る。というか本当はチートは二つしか貰えなかったんだからおまけ分が減っただけだ。うん、ポジティブシンキング!


『では、まず魔法を使うには魔力を感じ取る必要があります。意識を集中させて体に流れる血液以外のものを見つけてください』


 集中、集中、意識を集中、すると体に膨大の量のなにかが循環しているのを感じ取ることができた。これが魔力なのか……見つけ出したそれはとても荒々しく今にも外に出せとばかりに躍動している。


『見つけたようですね。では次は呪文です。頭の中で魔法を使いたいと念じてください。そこから発動する魔法を選択してください』


 言われるがまま念じると、脳裏に様々な魔法が属性別で強い順に浮かんでくる。その中から俺は火属性の中級魔法『バーストフレイム』を選択する。すると俺の口は勝手に言葉では言いあらわせない不気味な言語の呪文を紡ぎ、眼前に六芒星を描く赤い魔方陣が表れた。


『あとは、その魔方陣に手をかざし、魔法名を口にしながら体に流れる魔力を一定以上放出すれば発動します。あ、月梨さんの場合ちょっとで大丈夫ですからね』


「分かった!」


 魔方陣になんとなく左手を向けながらそこに魔力を集める。ルルはちょっとで良いと言ったがやはり最初は派手にいきたい。そう考え気持ち多めの魔力を掛け声と共に放出する。


「『バーストフレイム』!」


 すると、ボンッ! とすさまじい熱風が空気を震るわせると眼前に広がる草原と、なぜか俺の意識が吹き飛んだ。




『月梨さん! 月梨さん大丈夫ですか!?』


「ぅう~ん、ルル?」


 ルルの懸命に呼びかける声により俺は目を覚ます。えっと、俺は確かルルに魔法の使い方を教えて貰って、それからどうしたんだっけ?ゆっくりと体を起こし正面に広がる光景に目を見開く。


 なんだこりゃ!


 美しくどこまでも広がっていた青々とした美しい草原が俺の正面だけ爆撃でもされたかの様にごっそりとなくなっている。もしかして俺がやったのか? 


 フューっと、そよ風が吹き俺の体を通り過ぎていく、ぶるっ、なんだか肌寒くなってきたな……。


 眼前の光景は後でルルにでも聞くとして、俺は寒さを防ぐため襟を寄せ少しでも隙間を塞ぎ暖を取ろうとする、が……。


 襟がない? それになんだか股間がやけにスースーするような。そう感じなんとなく全身に目を向ける。すると……、俺は人類であれば確実に身に着けていて然るはずのものがなかった。

 

 つまり全裸だった。


「なんでだあああ!!」


『お、落ち着いてくださいわたくしが説明しますので……』


 頼む!なるべく迅速に!


『え、えと簡潔に申し上げますと魔法を放った瞬間、月梨さんの体が爆発しました……』


「だから、なんでだよおおお!!」


 そんなん説明ちゃうやろ! やばい興奮のあまりえせ関西弁になっちまった!いくら迅速にとはいっても、理解できないほど省略したら意味はない!


『で、ですから落ち着いてください。ちゃんと理由も説明しますから……。原因を明確にするため一つお尋ねしたいのですが、先ほどの魔法どれくらい魔力を込めました?』


「えっと、数値では分らないけど感覚として説明するなら一割ぐらいってところだな……」


 この場で魔力を測定できないので正確な数値を伝えることはできない。


 とはいえ、さすがにこんな抽象的な説明では分らないかな? と思ったがルルは妙に納得した様子で放し始めた。


『ああー、間違いなくそれが原因ですね。六百六十六万なんて魔力を持つ月梨さんが一割も魔力なんて込めたら、体が耐え切れるはずがないですよ。

例えるパンパンになってる風船から一気に空気を抜こうとしたようなものです』


「つまり、膨大な魔力の放出に俺の脆い体では耐え切れず破裂したってことか?」


『ご理解が早くて助かります』


 なるほどそういうことなら問題ない。要するにこれからは込める魔力を魔力をほんのちょっとにすれば良いだけだ。


『それで、もうひとつ報告があるのですが……』


 うん、なんだ早くちゃんとした魔法を打ってみたいんだが。


『今計算してみたところ月梨さんの体が魔力の放出に完全に耐えられるのは500までのようです。それ以上魔力を込めてしまうと体が欠損してしまいます』


「じゃあ、魔力の放出をそれ以下にすればいいのか?」


『そうなのですが……。それは現状できません』


 は? できないってどういうことだ?


『月梨さんは魔力が多すぎて、放出するとき魔力を500以下にするなんて無理なんです。例えるとすると水が満杯のバケツから一滴だけたらすようなものです』


 なるほどそりゃたしかに無理だ。どんなに頑張っても無駄な量が流れちまうだろう。


「つまり、俺は魔法を撃つと体が無事ではいられないって事か?」


『そ、そうなりますね』


 そうか、そうか、そういう感じかー。


 これまでの話をまとめると俺の体は戦うとほぼ確実に一部がなくなる素敵仕様ということだ。


 ふ、ふ、ふ……。


「ふざけんじゃねーーー!!」


 俺の悲痛な叫びがただっぴろい草原に空しく響き渡った。

 これでストック終了です。

 次話はかなり遅くなると思います。

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