落下物にはご注意を!
「月梨幸太さん。残念ながらお亡くなりになりました」
「は?」
目を覚ました俺の目に映ったのは、白髪の艶やかな髪を肩口まで伸ばした、この世の物とは思えぬほど美しい一人の女性の姿だった。え? ちょっと待て。ほんとに状況が分らない、俺は自分の部屋で寝ていたはずだぞ?周りを見回してみると、まったく見覚えのない部屋だ。真っ白で目の前の女性以外は何もなく、どこから光が注がれているか分らず物寂しさと不気味さを感じる部屋だ。
間違いなく俺の部屋ではない。ここは……?
「混乱するのも無理はありません。でも、あなたは本当に死んでしまわれたのです」
悲しみの表情をしながら再度、同じ内容を告げてくる女性。その幻想的な美しさを醸し出す姿を見て、俺はある結論に思い至る。
「なんだ、夢か……」
「違いますからね!?」
う~ん、こんな美人を夢の中に召喚させるとは俺は、もしかして欲求不満なのだろか?
仕方ない、明日はとっておきのエロ本でこの熱いパトスを開放するとしよう。
でも、この年になって彼女の一人もいないでエロ本で性処理なんてちょっと空しいな……。
よし! 明日からは積極的に女の子に話しかけていこう!
いけたら、良いなあ……。
「ちょっと月梨さん!聞いているんですか!? む~……えいっ!」
「へぶっ!」
俺が明日の目標を掲げ意気込んでいると、目の前の女神のような女性が拳を固め、いきなり殴ってきた。
いてえな! 夢の中で創られた分際で、創造主たる俺を殴るとは……。
あれ?
「痛い?」
殴られた頬を左手でさすりながら違和感に気づく。痛いと感じるってことは、もしかしてこれって……。
「夢じゃない?」
「ようやく分っていただけましたか……」
息を吐き安堵の表情を浮かべる女性。その表情から今までの彼女の話は嘘ではないのだと感じ取ることができた。
つまり……。
「俺、本当に死んだのか……」
「はい、御いたわしい限りですが……」
彼女の顔は本当に俺に同情しているようで、俺はかなり凄惨な死を遂げたのだろうと伺い知ることができる。
「なぜ死んだのか、教えていただいてもいいでしょうか?」
もしかしたら聞かないほうが良いかもしれないその質問。しかし、俺は知りたかった。いや、知らねばならないと思った。もし、それが受け入れがたいものだったとしても、自分の死に方ぐらい知っておかなくてはいけないと思う。
よし! 覚悟は出来た。どんとこい!
「隕石が降って来ました」
「は?」
予想もしてなかった答えに俺は面食らい目を丸くしてしまう。ちょっと、この人いきなり何言ってんの?俺は死因についてきいたんだぞ。それなのに隕石が降ったとか意味不明だ、頭おかしいのかこの人。
「なんか失礼なこと考えてる顔ですね……。嘘は言っていませんよ。あなたが寝ている時、あなた目掛けて隕石が落ちてきたんです」
俺の考えを見透かし、補足説明してくる女性。
えっと、それってつまり。
「隕石の直撃で体が爆発四散して死んだって事?」
「はいその通りです。笑えますよね?」
「笑えねえよおおおお!!!」
なんだその死因! 壮絶すぎるだろ! すっごく悪い事した人でも、もっとましな死に方するよ!?
「ちなみに現在、落ちた隕石が人類の大きな躍進に繋がるものだということが解り、あなたが死んだことなんてお構いなしに国民の皆さん喜んでいます」
「俺の死、報われなさすぎるだろ!」
御いたわしいって、そういうこと!?たしかにこんな死に方、御いたわしい以外言葉に出来ないけどさ!
すると女性は「あっ」と思い出したように俺が最も気になっていた事が告げられる。
「ご家族の方々は無事ですのでご安心ください」
「そう……ですか」
それを聞いて急に気持ちが落ち着き、肩を撫で下ろし安堵の息を吐く。よかった……。家族の身代わりになったと考えれば多少は報われたという気分になる。
「それでこの後、俺はどうなるんですか? やっぱり天国や地獄に行くことになるのでしょうか?」
一番の懸念は晴れた。ならば、聞くことは今後の俺の処遇がどうなるかだけだ。
できれば天国が良いなあ……。
いや待て、もしかするとあれができるんじゃないだろうか?
そんな都合のいいことある訳ないだろうと思いつつも、ドキドキと脈打つ胸の高鳴りを抑えることが出来ない。
俺の心臓の鼓動がどんどん加速する中で女性が申し訳なさそうな様子でその言葉を口にした。
「そのことなんですが……。よろしければ強力な能力を持って異世界に行って見ませんか?」
来た、来た、来た、来たあああ!!
俺は間髪入れずに即答した。
「はい!」
「突然こんなことを言われてもすぐに了承できない気持ちは分ります。ですが、今その世界は魔王の危機に……、って、ええええ!!」
俺の即答が予想外だったのか目を丸くし驚愕の声を上げる女性。
「ほ、本当にいいんですか? これまでの常識が全く通用しない場所へ行くんですよ、迷いとかないんですか!?」
「男に二言はありません」
女性は、俺を気遣うような口調で尋ねてくるが迷いなんてあるわけがない。
だって異世界だぞ! 異世界! 魔法があってエルフやドラゴンなんかが存在するそんなファンタジーな世界なんだろ! 俺はギルドで依頼を受けたり、冒険したりしながら貰ったチートでたまに無双しちゃって、いつの間にかそれに惹かれた女の子たちが俺の元に集まってきてハーレムとかそういうあれだろ!?
「わ、分りました。では今更ですが自己紹介を、わたくし新神転生神のルルと申します」
丁寧に頭を下げながら自己紹介してくれる女性、改めルル。
「新神?」
気になった単語があったので思わず聞きなおす。
「はい!わたくし転生をさせるのは今日が初なんです!」
俺の疑問に口元を笑ませながらハキハキと答えるルル。その姿はまさに初入社した社員のようであり、こういうのは人も神も変わらないんだなと感じる。
「そうだったんですか。俺が言うのもなんですけど、がんばってくださいね」
「ありがとうございます!精一杯、転生させたいと思います!」
精一杯転生ってなんだよ、とはつっこめなかった。屈託のない笑顔を浮かべるルルに見惚れ、一瞬意識が飛んでしまったからだ。
やめてくれよ……。俺にその笑顔は眩しすぎて直視できないよ。思わず顔を背け、ルルの顔を見ずに質問を続ける。
「そ、それで、俺が行く異世界ってどんな所なんですか?」
「アルベルンと呼ばれる、気候や重力などは地球と変わらない、比較的過ごし易い世界です」
「もしかして魔法があって、主な武器が刀剣だったり……?」
「は、はいその通りです。良くわかりましたね?」
ここで「いや、そんなものは有りません」とか言われたら前言を撤回し「やっぱり、やめます」と返すところだったが、どうやら俺の期待通りの世界らしい。転生チート物の小説を読み漁った俺にとってはまさに夢のシュチュエーションだ。
やばい、わくわくが止まらないぜ!
「それでは転生する前に魔力測定とチート選びを行って貰いますね」
「あれ、魔力測定ここでやるんですか?」
俺が読んだ小説の中では、たいていギルドで測定してもらえる事が多かった気がするのだが。
「はい、最初に測っておいたほうがチート選びがしやすいと思いませんか?」
言われてみるとその通りだ。魔力がほとんどないのに魔法チートなんて取っても無駄になるだけだしね。俺が納得し「了解です」と告げると、ルルの手のひらに水晶玉の様なものが形成されていく。
「では、こちらに手をかざして頂けますか?」
「こうでしょうか?」
無造作に手を水晶玉にかざし、反応を待つ。
すると、透き通るほど透明だった色が白、黄、緑、青、赤、と目まぐるしく変わっていき最後は真っ黒になってしまった。
その反応を見ていたルルの表情が驚愕に染まっていく。
「あの、俺の魔力どれくらいなんでしょうか?」
この反応、ひょっとすると……。
「信じられない……、ありえない魔力量です。数値にすると六百六十六万なんて」
はい、来たああ!!これは有名な元からチート!
小説での異世界チートの一つ、初めからなんらかの強大な力を持っていたパターンじゃないですか!
「それって多いんですか?」
わざとらしく、良く分からない風を装う俺。
しかたないじゃん、こういうのはいっぱい褒めて欲しいんだよ!
「ええ、わたくしの知っている限りでも最高は千程度でした……。本当にすごいです」
驚きを浮かべながらも羨望の視線を送ってくれる。
きもちいいい!!
「そ、それじゃあ魔法とかいっぱい使えます?」
「ええ、もっとも消費量の多い魔法でも魔力の一割も消費しません」
俺、マジTUEEEE!!
「では、早速チート選びをさせて貰わせてもいいですか?」
「では、こちらのカタログから好きなものをお選びください」
ルルが再び形成させたカタログを受け取りそこで一つ疑問が生じる。
「貰えるチートって一つだけなんですか?」
「いえ、通常でも二つなんですが今回はわたくしの転生者第一号ということで三つお選びいただけます!」
「すごいじゃないですか!」
「はい、すごいんです!」
チートの大盤振る舞いに思わずサムズアップする俺。それにノリ良く笑顔で同じくサムズアップで返してくれるルル、マジ女神。
そして膨大なチートの中から特に強力な以下の三つを選択する。
『身体能力超強化』、すさまじい身体能力を得る。所持者は拳で岩をも砕く。※……
『全魔法取得』、すべての魔法が使えるようになる。
『不死身化』、決して死なぬ体になる。体がバラバラになろうともすぐに再生する。また一定以上の痛みを遮断してくれる。
うん、我ながら遠慮なしに強いのを取ったなあ……。まあ王道ファンタジーを目指すんだからこれでいい。
「決まりましたね。では、転生を行います『ゲート』よ!」
俺の目の前に光り輝く扉が出現する。この扉をくぐった時から俺の新たな人生が始まると言うことか。
「それでは最後に一つ、これから向かう世界には魔王と名乗る者の脅威が迫っています。あなたにはそれの討伐をお願いしたいのです」
いいねえ、王道だねえ。
「分かりました!行ってきます!」
「いってらっしゃい勇者様」
ルルの俺にとって最高の言葉に後押しされ、眩い光を放つ扉に向かって勢い良く足を踏み込んだ。
幼いころからの夢が叶いそうだと期待に胸を高鳴らせながら……。