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いろいろありましたが異世界に召喚されやがるようです。なにがどうしてこうなった版。

注意:異世界に行きません

《好きな人》


 好きな人がいる。

 何故好きなのかと問われれば迷わずにこう言う。

「理由なんてない。ただ好きなだけだ」

 顔が好みだったのかもしれない。

 性格が好きだったのかもしれない。

 スタイルが好きだったのかもしれない。

 性に飢えていただけかもしれない。

 そのすべてかもしれない。

 ただ、好きだった。

 好きだったのだ。

 だが、彼女は…


――☆――★――☆――


 俺の名前は一矢かずや 神谷こうやという。

 何の変哲もない中学三年生である。

 突然で悪いが好きな人が見知らぬというか名前すらも聞いたことが無かった奴と駆け落ちしたらしい。

「皆さんに聞きたいが俺のこの気持ちはどうすればいいと思う?」

『知るか!こっちも同じ気持ちなんだよ‼』

 どうやら男子クラスメイトの半分近くが同じ気持ちだったらしい。

『そうよ!お姉さまをあんな屑に取られて最悪なのよ‼』

 女子の中にもいるらしい…

 それなら好都合だ。俺の頭の中に浮かべていることをここにいる奴等と実行しよう。

「諸君!我等がヒロイン『湯布院ゆふいん 沙耶さやちゃんを探し隊』を結成しよう!そして憎き神藤しんどう しゅうというわけ分からん奴から我等がヒロインを取り戻そう‼」

『応ッ‼』

 こうして俺達は意中の相手である湯布院沙耶ちゃんと憎き恋敵である神藤修を探しに行くのであった。


 まさかこのあとあんなことになるとは誰も思わなかっただろう…





《好きな人は何処へ》


 そもそもの発端は我が親友(彼女持ち)が教室に来るなりもたらしたあの報告だった。

 今日は卒業式で、皆と涙のお別れをするはずだった。

 そして俺はある一大決心…まあ、告白する予定だった。

「さっき職員室で先生たちが話しているのを聞いたんだけど、うちのクラスの湯布院が三組の神藤と駆け落ちしたんだってさ」

 予定で終わった。

 こんなことを言った親友の名前は橋本はしもと 聖也せいや

 イギリス人とのハーフでイケメン。短い金髪と青の目。

全校女子生徒を虜にしたであろうスマイルを浮かべながら言い放った。

「は?」

 当然俺はわけが分からなかった。

 呆然とした。

 聖也の馬鹿は何を言っているんだ?

 馬鹿をこじらせたのか?

 クビヲモイデホシイノカナ?

「ん?だから……うちのクラスの湯布院さんと三組の神藤……しゅう、だったかな?そいつが駆け落ちしたんだって話していたよ」

「手前は何を言っていやがるんですか?」

 俺は親友の頭を両手でつかみ迫った。

「ちょ、おまッ!怖い怖い怖い!迫ってくるな気持ち悪い!」

「手前は何を言っていやがるんでしょうか?しっかりと説明しやがりください馬鹿」

 さらに俺は迫った。

 が、しかし…

「アタシの聖ちゃんに何してんだこの馬鹿ーーーーーー‼‼」

 蹴られた。

 これがハイキックとかだったらまだ可愛いものかもしれないが、とび蹴りだった。

 これ以上ないほど奇麗なとび蹴りだったであろうことは予想が付く。

 ちなみにシマパンだった。

 青と白のコントラストだった。

「フォッ‼…………い、いきなり何しやがる…!」

「あんたがアタシの所有物…じゃなかった、彼氏に迫っているからよ‼」

「あれ?今僕のこと所有物って言わなかった?」

「気のせいよ!」

 なんて奴だ。

 こいつ名前は二ノ宮にのみや 麗華れいか

 聖也の彼女である。

 肩にかかるくらいの金髪に青い目をしている。

 ペッタンコ。

 紛れもない美少女である。

 すぐ暴力に走ることが無ければキ○ガイ美少女の汚名を返上できるであろう美少女だ。

「それよりも聞いた?そっちのクラスの湯布院が…」

「聞いた」

「うちのクラスの神藤と駆け落ちしたんだってさ。神谷って湯布院のこと好きだったんでしょ?ざまぁwww」

「うるさい黙れ喋るな暴力系美少女。湯布院さんはお前と違ってな…」

「じゃ、すっきりしたから教室戻るわ」

「それだけを言いに来たのかよ!?」

「…そうだった。忘れてた。聖ちゃん!ちょっと来なさい」

 麗華の口癖と化している『ちょっと来なさい』である。

 俺の中では聖也の死刑宣告である。

「え?僕!?何!?僕何かしたっけ!?」

「いいから来い」

「……………イエスマム。それじゃあちょっと逝ってくるよ、神谷」

「じゃあ、ちょっとコレ借りるわね」

「応。死んでこ…頑張って来い」

「ごめん。シャレにならない」

 そうして嵐が去り、教室を見回してみると悲惨な状況にあった。

「おい、神藤ってだれだ?知ってる奴いるか?」

「二組の奴だろ?」

「いや、三組だろうが」

「丸坊主の奴だった」

「いや、ロンゲだって聞いたぜ?」

「誰から?」

「風からさ…」

「死ねリア充」

「死ねリア充」

「死ねリア充」

「皆酷い‼‼」

「それよりも神藤についてだよ!」

「実は神藤は女らしいよ」

「んなわけあるか‼‼」

「とりあえず神藤は有罪。死刑で」

『おk』

 悲惨だった。

 実際のところもっと悲惨である。

 具体的に言うと放送禁止用語が飛び交っていたぐらい。

 そこで俺は切り出したんだ。

「突然で悪いが好きな人が見知らぬというか名前すらも聞いたことが無かった奴と駆け落ちしたらしい…」


――☆――★――☆――


 卒業式後にあるはずだった男女合同カラオケ大会(担任支払い)は予定で終わった。

 残念なことに卒業式が終わり、親の言葉も無視して俺は町へと駆け出した。

 俺の後ろから数人が同じように駆けてくる。

「お先!」

 そんなことを言いながら俺を追い越していく運動部や別のクラスの男子…

「みんな考えることは一緒みたいだぜ?」

 そう俺に語りかけてきたのは彼女なしの親友…じん ひじりだった。

「お前…」

「なんでかって?俺のクラスもあの話を…そして、お前の話を聞いていたのさ。

 俺たち二組も参戦だぜ?ちなみに三組の連中もちゃんと動いている。三年生のほとんどが動いている。皆考えていることは一緒さ」

「…そうだな」

 俺はみんなの意図を理解した。

「「一番初めに見つけた奴が告白できる!」」

 声をそろえてそう言った。

「それじゃあお先に!」

「あ!ちょ…」

 残念ながら一緒に探してくれないようだ。

「こうなれば…はあ…奥の手を…はあはあ…使うしゴホッゴホッ…使うしか無いようだな…ゴホッ」

 一分ちょっとで諦めた。

 俺はクラスで1、2を争う足の遅さなのだ。

 歩きながら携帯で電話をかけた。

『どったのこーちゃん』

 出たのは同じクラスのお隣さんで幼馴染で彼女持ちな情報通。

 連山れんざん 連夜れんやである。

「れんちゃん!湯布院さんの住所知らない!?」

『知ってるけど教えないよ?女の子の個人情報だもん』

 何故知ってるし。

「じゃあ、そっちじゃなくて神藤の住所は?」

『知ってるよ。家出てずっと左に行くとマンションあるでしょ?白い奴。あそこから出て行くところ今日見たし』

「マジで!?」

『うん。朝の三時ごろ』

 それは朝じゃない。夜だ。

 てか深夜だろ。

「お前はいったい……いや、まあ、いいか。ありがとう。とりあえずそのときの状況を聞いてもいい?」

『おっけー。でもちょっと待ってて。二十分後かけなおすから』

「…まあ、いいか。分かった」

『それじゃあ、切るね』

「応」

 俺は小走りで家へと向かった。


「何してるの?神谷君」


 凛とした声が響いた。

 振り合えるとそこには美少女がいた。

 長い腰まで届く黒髪とエメラルドのように輝く目。

 少し大きめの胸。

 しかしその顔は無表情である。

「どうも、綺堂きどう先輩。ちょっと急いでいるんで歩きながらでもいいですか?」

 この人は綺堂 椎名しいな

 俺の一つ上で近くの女子高に通う高校一年生だ。

 去年まで同じ中学にいた。

 そして驚く無かれ、この人には八人の彼氏がいる。

 自称処女。

「いつも椎名でいいっていってるじゃん。まあ、いいよ。行こうか」

 どうやら俺は九人目に抜擢されたらしいのだ。

「毎回悪いですけど、諦めてもらえませんか?俺は他に好きな人がいるんで」

「どうせすぐ失恋するよ。君じゃあ、無理だもの」

「………」

 何も言い返せない。

 いつもなら『そんなのなんで分かるんですか。もしかしたら成功するかもしれないじゃないですか』って言うんだけど、失恋してきたところなのである。

「ん?どうしたの?…あ、ついに振られちゃった?」

「振られてはいませんよ。」

「振られて『は』?」

「さようなら‼」

 ガシッ

 腕を掴まれてしまった。

 と、いうより腕に抱きつかれてしまった。

 これが最近、いつものことになっている俺はリア充ではないかと思い始めた。

 いや、この人に彼氏がいなければ文句の付けようもなく告白していただろうが。

 残念ながら八人も彼氏が居る人と付き合ったりしない。

「離してください、逃げないので」

「そういえば私…」

 と、こんなことを先輩は切り出しやがった。

「六人と別れたんだ」

「………………………え?」

「神谷君、私と付き合ってください」

 この人無表情ですごいカミングアウトしやがったよ。

 たしか昨日までは八人と付き合っていたはずだ。

 なのになんでそうなった。

 どうしてそうなった。

 揺れちまうじゃねえか。

 でも、揺れるだけだ。

 俺は今、湯布院さんへの気持ちで埋まっているのだ。

 それに…

「全員と別れたら考えますよ」

 やっぱり彼氏持ちじゃあ嫌だ。

「そう…。神谷君が…」

「俺が?」

「神谷君が全員と別れたら付き合うって言ってくれたら別れるよ?」

「………」

 この返しは初めてなのでどうやって言っていいか分からなかった。

「…今は、冗談に付き合っている余裕は無いんで」

「冗談じゃないよ」

「………」

 くそッ!

 今日はなんて日だよ本当に!

 せめて今、今日、振られていればこんなに悩む必要なかったじゃねえか!

 明日…また明日…よし、卒業式にと先延ばしにしたのがまずかったのか。

 俺がチキンなのがダメなのか。

ダメなんだろうな…

俺は意を決して答えることにする。

最低な答えを口にする。

「今日、好きな人が知らない奴と駆け落ちしたかもしれないらしい」

「え?」

「だから、まだ告白できてないし、振られてもいない。俺は今からその人を探しに行く。クラスの奴等もその人を探しているんだ。

 ごめん。本当にごめんなさい。あと一週間…いや、三日でいい。三日間だけ…待ってくれませんか?」

 男として最低の答えだ。

 好きな人がいるから付き合いたくない。

 でも振られたら付き合って。

 酷い奴だ。

「いいよ」

「…は?」

「待ってる。三日でも、一週間でもいい。待ってるから」

「本気で言ってるんですか?」

 絶対に振られたと思った。

 てか、もう、振られるだろうと思って言ったのだ。

 嘘ではなく、本心を。

 本当のことを。

「うん。神谷君は分かってなかっただろうけど、私は中学生のころから好きだったんだよ?」

「…そんな馬鹿な。嘘でしょ?」

「うん嘘だよ」

 …なんか台無しだ。

「好きっていうのは嘘だけど、結構気にかけてたの。本当はあのころから侍らせようと思っていたんだよ?」

 こいつ侍らせようととかいいやがった。

「嘘にはだまされませんよ?」

 とりあえずそう返しておく。

「フフフ…。それじゃあ、いい返事、期待しているね?」

 なんて奴だ。

「コッチとしては悪い返事を言いたいですよ」

「確かに」

 なんだかんだでこの人の笑顔を見たのはだいぶ久しぶりだった。


 いつのまにか俺の家についていた。

「神谷君の住所ゲット」

「それが最初からの狙いか!」

 そういやこの人に俺の家は教えてなかったんだった!

「じゃあ、またね。神谷君」

 綺堂先輩は自分の家に帰っていった。

 さて、着替えてすぐに神藤の家に行かないとな。


――☆――★――☆――


『もしもし?こーちゃん?ごめんねさっきは。ようやく落ち着いた場所に移動できたからかけたよ』

 ちょうど神藤の住んでいるというマンションに着いたところでれんちゃんから電話が来た。

「うん。俺は今神藤のマンション前。とりあえず神藤の家に行ってみる予定」

『それじゃあ、その前に基本的なことを教えてあげよう』

「応。頼むぜ」

 基本的なことってなんだろう。

『まず、神藤修は基本ボッチである。特定の友達がいないので、いつも一人で本を読んでいる眼鏡で顔がお世辞にも良いとは言えない奴だ。勿論、湯布院さんとの接点は聞いたことも無い』

 なるほど。

「つまり駆け落ちはおかしいってことか?」

『いや、そうとも言えない。接点は無いって言ったけど、それは中学での話で小学生のころはあったんだ。神藤は小二のころに一回引っ越しているんだ。それでその小学校は湯布院さんと同じ小学校だったらしい』

 いつも思うんだが一体どこから情報を仕入れているんだろうか。

「つまりその時に何かあって、それを湯布院さんが覚えていたとか?」

 所謂将来お嫁さん説。

『ま、可能性の話だけどね。と、その前に忠告が一つ。神藤の家には行かないほうがいい。いや、行っても良いけど、それ以上関わらない方が良いよ。こーちゃんの手には余るから』

 どういうことだ?

 こいつ…何か知っていやがるな。

 そういうことなら、俺は直接聞いてみることにする。

 どうせ遠まわしに聞くことなんて出来やしない。

「れんちゃん。一体何を知っているの?教えてくれない?」

『…ごめん。それは出来ない契約なんだ』

「…そうか。ならいいや。続きをお願い。俺は関わるよ。もう無理だと判断するまでは諦めないから」

『そう…。ならいいか。ヒントをあげよう。南小学校に行ってみるといい。何かが分かるかもしれないよ』

「ありがとう」

 残念ながら礼の言葉の前に切れてしまった。

 一体何がなにやら分からんが、別に幸せになろうとしている二人を引き離そうとかそういうのではない。

 ただ、気持ちを伝えたいだけだ。

 きっと迷惑だろうが、好きだと…たった一言伝えたいのだ。

 皆もそのはずだ。

 …一部は分からんが。


 そして俺は307号室…神藤家へ行くのだった。

なにがどうしてこうなった。

自分のいろいろありましたが異世界に召喚されやがるようです。の最初の方を見てもらえればなんとなく分かると思います。

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