いきなり詰みました!?
のっけから主人公が出てきません…
「ねえ…本当にここなの、そのアンタがいう頼りになるっていう友達」
「と、いいますか…この奥ですがね~」
「そんなこと言ってんじゃないのよ!」
欝蒼とどこまでも続いているような森の前に二人の若者が並んでいた。一人は腰まである金髪を頭上で一つに纏め、海のような色の瞳をした少女で、もう一人は少女よりも頭3つ分程高い赤茶の短い髪をした、がたいのよい青年だ。
少女の方が青年の方に叱責を向けている。青年の方はヘナヘナとしたゆるい返答を返している。
「いい!解ってるだろうけどこれは国の一大事なのよ!」
少女は青年の方を見ながら先日の事を思い出していた。
―――――――――…
「なんたることだ…」
セシリー王国騎士団長、ライル・ヘースヴェントは自身の無骨な手に広げられている書状を見て、そこに書かれている内容に眉間に深い皺を寄せながら唸っていた。
普段見られない困惑顔の上司の表情に、副団長である少女、リーシェ・アルバトリアは只ならぬ事なのだということを瞬時に感じた。そうでなくともここは王城の一角であり必要に駆られた場合にしか使用することはない。
「だ、団長、いったい何が」
「………見てみなさい」
そう言われ、卓上に投げ出された書状を「失礼します」と言いながら黙読する。
いくつかの間を置いた後、リーシェはそこに黒々としたインクで綴られている内容に思わず目を見開いた、口もパクパクと魚のように開け閉めを繰り返しており、傍から見るとひどく滑稽な表情だったが、上司であるライルもいつものように注意する気力も尽きていた。
書状には現状の国境からの報告というものが記されていた。
それだけなら全くもって問題なく、むしろ報告が無事に届くことに安堵するべき何だが、この報告はそんなこと言っていられない内容だった。
「カ、カレドレア王国とシュティリ王国が同盟の気配あり…ほぼ確定状況って…」
《強欲と戦火の国》カレドレア、《商人の国》ラッシュゼーレ、《神秘の国》ワキュリー
それらの国はこの《魔法の国》セシリー王国の海と山以外である東部から北部にかけて建国されている。
その三国の中でもラッシュゼーレとワキュリーとは友好的な協定を結んでおり、何の問題もないのだが、今回の書状にも出てきたカレドレア王国はまた別だ。
一年中に何かしら何処かしらと戦を繰り返しており、その名の通り戦禍の絶えない王国。
そしてそんなカレドレアと同盟を組もうとしているのは《人と物の行きかう国》シュティリ王国。
カレドレアの弱点は人と物資の少なさだ。北部という厳しい環境での作物の不足、それによる餓死者などでの人口の不足。
それらがこの書状の通りになってしまうようなことがあれば全て改善されてしまう。
そしてそうなってしまえば間違いなく狙ってくるのは豊かな土壌と海に面しているこの国だ。
「あら~…見事に詰んじゃいましたね…」
「あ、アンタそんな呑気に言ってる場合じゃないわよ!!」
「この状況わかってるの!」という鬼の形相のリーシェに対して、同じく副団長で同僚であるアームド・ルレイシュターと言えば、いつものように柔和な(というより気の抜けた)表情を崩すことなく「わかってますよ」と言って自身の日に焼けた健康的な肌をポリポリと掻いている。
そんな行動も一々リーシェの神経を逆なでしているのだが、アームドはそんなこと知ってか知らずかいつものペースを壊すこともない。
「でも実際ヤバいですよね~」
「だから、もっとアンタは緊張感ってもんを持ちなさいよ!!」
そんな二人の部下を前に、ライルは心底唸る様な気持で最善の策を考えていた。
リーシェの言うように呑気にしている場合ではないにせよ、こちらとしては打てる手というものがそもそも少ない。
友好的な協定の周辺国である2国はまず当てにならない。協定というのは互いに利益があってこそ成り立っていることだ、特に《商人の国》ラッシュゼーレなどは利益のみで判断する。今回は全体的に拒否するだろう。
《神秘の国》ワキュリーは何を考えているのか全くもって分らない。
閉鎖的な国、それがワキュリーだ。
こちらも同じく。
唯一積極的に協力してくれそうな友好国はあるが、そこは新興国であるタール王国と接戦中である。
そしてそんな訳でもあるから当然このセシリーからも兵を少なからず派遣している。
つまりこの国には今、協力してくれる国も居らず兵も少ないという……全くもって絶望的としか言えない状況なのである。
いわゆる八方塞状態だ。
「………ルレイシュター副団長、何か良い案はないか」
「ありますよ~」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ちーん
「「………はぁ!!!??」」
と、今に至る。