第6話 ~歓迎会?~
声に出してツッコミをしてしまい、会長も泣きそうになった生徒会メンバーによる騒動は月森先輩の提案によって幕を下ろした。
提案に会長が即行で賛成したので、俺の歓迎会が行われることになりました。もちろんイェーイ! という気分にはならない、というかなれないぜ。
だって会長は俺の歓迎会って思ってるだろうけどさ、本当は会長の機嫌直しが目的なんだもん。それを行うためにちょうどよかったから歓迎会ってなった気がしてならないんだ。これって素直に喜べないよねー。
そもそも男女比が1:5の時点で楽しめって方が無理だけど。
美少女や美女に囲まれて楽しくないわけがないだろってツッコミが入りそうだけど。しかも魂の叫びレベルで。
「(……でもさメンバーに普通って呼べる女子はいないんだよ?)」
会長はちょー天然で子供っぽいし、月森先輩は人を弄ったりして性格悪くてエロいこと平気で言う人だもん。氷室先輩は今のところ唯一仲良くなりたいって思った常識人……だけど見た目が小学生。先輩と恋仲とかになった人は間違いなくロリコンの異名を与えられ、下手したら犯罪者として捕まるだろうな。
大空はイケメンでボーイッシュな女子で恐怖で記憶を消そうとする危険人物。秋本はまあ親しみやすい性格だからか人をからかうところもあるがまともだな。……笑わなければ。もうあれは一度病院に行くべきだと思うんだ。
「(……思考するという名の現実逃避はそろそろやめるか)」
それにしてもどうしてこうなったんだろう?
歓迎会の場所がファミレスというのは別にいい。学生の金銭で考えれば無難な場所だし。でもおそらくだけど、歓迎会なのに俺も金出さないといけない気がしてならない。それって歓迎会って呼べるのかな?
いや……それは歓迎会という名の会長の機嫌直しが無事に終わったら分かる事だ。時間が解決してくれることは考えないでおこう。
話を戻すがなんでこうなってるんだろう。俺がいま座っているのはテーブルを挟むように配置されている3人ほど座れる座席。俺の向かい側には窓側から会長、月森先輩、大空が座っている。そして俺が座っている方は窓側から秋本、俺、氷室先輩。
どうして女子に囲まれる形になっちゃったんだろうね。これじゃあトイレに行きたくなったときは氷室先輩に退いてもらわないといけない。
何か先輩にトイレ行きたいんで退いてくださいって言いにくいよね。しかも異性となると余計にさ。加えてここは飲食店なわけですよ。食事中にそういう話ってマナー違反でしょ。トイレに行きたい! ってならないことを祈らずにはいられない。
「あ~む……美味しい~♪」
会長さん、ワイルドだぜー。
何でかって言われたらさ。山盛りにされているパフェの頂上をスプーンを使わず、大きく口を開けて直接かぶりついたからだ。口の周りに凄くクリームがついてるよ。こらこら、舌で口の周りを舐めるのやめなさい。勿体無いって気持ちは分かるけど、余計に広がるでしょ。
「こら桜、スプーンで食べなさい」
「はーい」
「それとほら、こっち向いて」
会長に注意した後、口の周りを拭く月森先輩。
2人は同級生のはずなのに、同い年に見えないのは何でだろうねー。制服じゃなかったら娘と母親って言われても、信じられなくはないよマジで。髪色がかなり違うから疑問は抱くけど、染めたとか父親の方に似たって言われたら問題なくなるし。
「あ~む♪」
「桜は本当に美味しそうに食べるわね」
「そうかな~ただ食べてるだけだよ♪」
そっか、でも本当に美味しそうに食べてますね。
俺の中でもたった今、美味そうに食べる人No1になったよ。だって会長さん、パフェを山盛りにすくったスプーンを口に入れるたびに幸せそうな笑顔浮かべてるからさー。
ある意味パフェを美味しく食べるお手本だね。
順序で言えば、パフェは山盛りにすくう→口を大きく開けて食べる→口の中で味わいながら、スプーンが綺麗になるようにしっかりと舐め取る→笑顔、になる。
ここでも色々と騒がしくなるのではと不安だったが、月森先輩は子供(会長)の面倒を見るようだな。あの人が大抵の発端だからここでは静かに過ごせるだろう。というかここで騒いだら店に迷惑だ。
「ねぇ桐谷」
「ん……」
「聞きたいことがあるんだけどさー」
「……なんだよ?」
これから仕事をしていくことを考えると、答えれることには答えておいた方がいいだろう。仲が悪くては仕事の効率も落ちるし、他のメンバーが気まずいだろうからな。
だけど秋本も月森先輩ほどではないが、ぶっこんでくるやつなのだ。大空の下着を見たのかって聞いてきたし。だから警戒心を持っても仕方ないよな。
「……月森先輩に抱き締められたときはどんな感じだった? 胸とか当たってたから気持ちよかったんじゃない?」
警戒していたのだが悩んでる顔をしたのでまだ考えてなかったのかよ、と思って安心したのが間違いだった。
秋本は悩みの表情をすればこちらが警戒を解くと話す前から予想していたのか、すっと顔を俺の顔に近づけたかと思うと、耳元で甘い声で囁いてきた。
「なっ!?」
質問によって思い出した感触や構図と秋本の甘い声に一気に顔が熱くなるのを感じた。加えて少し身を引きながら秋本の方に顔を向けたため、目と鼻の先くらいの距離で秋本の顔を見てしまった。
何度か言ったと思うが、生徒会は美少女・美女で構成されている。秋本ももちろん美少女だ。美少女の顔を間近で見て涼しい顔をできるわけがない。
会長や月森先輩のときは呆れや恐怖などがあったので別だったけど。
「こらこら離れちゃダメだって」
だぁぁぁぁ! 近い近い近い! お願いだから顔を必要以上に近づけないで!
平凡男子の俺にはお前の顔って刺激が強すぎるんだよ。俺は美少女とかだろうと、基本的に仲良くなろうとかの願望はないから普通に会話とかできる。けどそれは1メートルくらい距離がある場合だけだからね。今の距離じゃ無理。
「なに顔赤くしてんのさ。月森先輩とはもっと密着してたじゃん」
いやいやあのときは恐怖心があったから他の感情が湧かなかっただけだから!
だからお前の質問にあったような先輩の胸の感触はあまり覚えてないんだよ。というか、恐怖心とかなくて胸の感触とか明確に覚えてたら月森先輩と会えなくなっててもおかしくないからね。
だって覚えてたら先輩の顔見れないもん。……胸も。何故なら、見たら絶対感触を思い出して顔を真っ赤にすると思うし。
「それに、他所様に聞かれちゃ困る内容でしょ。ここのメンツはともかくね」
そうだよなぁ……って、だったらそんな質問するんじゃねぇよ! それとなんで甘い声で囁いてくるんだよお前! 顔を赤くするなみたいに言ったけど、内心もっと赤くしてやろう、とか思ってるんだろ!
だけど思い通りにはいかないからな。お前への怒りで顔の熱は冷めてきたから。
「それでどうだったの?」
「どうもこうもねぇよ」
「え? ……つまり先輩に抱き締められても何も感じなかったの。あんた、男として大丈夫? まさか同性愛者なわけ?」
しばくぞテメェ! 恐怖で胸の感触がどうのって余裕なかったんだよ!
それとな、さっきお前相手に赤面してたのに同性愛者なわけあるか! 俺は普通に女が好きだよ! 年頃の一般男子並みにエロい方向のことにも興味を持ってるよ!
「なんでぶっとんだ返答が来るわけ? さっき俺の顔が赤いって言ったよなお前。それなのに同性愛者って言うの?」
「だってさ、先輩の身体って女の私から見ても反則レベルだよ。しかも身体だけじゃなくて精神も大人だからやることとか言うことエロいじゃん。総合的にあそこまでエロい人はそうそういないって。1つ上とは思えない――」
月森先輩がエロいというのは認めよう。それと1つ上に思えないことも。
正直言って俺も先輩は高校2年生のプロポーションじゃないと思うよ。どういう生活を送ったらそこまでスクスクと育ったんですか? って疑問が湧いてくるほどに。
でも秋本、お前に言っておきたいことがある。お前は月森先輩の身体は反則って言ったけどな、お前も充分に育ってるだろ。つまり……俺からしたらお前も充分に反則って言えるわ!
「――会長さんも身体はエロいけどさ、何かエロさを感じないじゃん。あの身体でエロさを感じないとは不思議だね。仕草も先輩はエロいけど、会長さんは可愛いって感じるし。やっぱエロさって精神が大きく影響してるのかねー」
そうだな、会長さんにエロさは感じない……なわけあるか!
そりゃ仕草とかは月森先輩と違って可愛らしいけどな、男からしたら身体だけで充分にエロいって感じるわ! しかも精神年齢が幼いからか男の前でも無防備だぞ、会った初日にパンツ見るところだったんだからな! けど言っておくが見てないからな。即行で動いたから。
というかよ、ついさっきもエロい格好してたじゃねぇか。お前にはアレがエロい格好じゃなくて可愛らしい格好に見えてたわけ?
そもそもさ
「――なんで真面目に推測とかし始めてんのお前」
「おぉーツッコんできたね」
「ツッコんだつもりは……」
「お前らな!」
大声に遮られて最後まで言わせてもらえなかったぜ。
いやまあ、そのうち割り込んでくるとは思ってたよ。秋本とはちょー至近距離でコソコソと会話していたわけだからさ。
テーブルを叩かなかっただけ目の前にいるやつも店への配慮をしたのだろう。でも1番良い配慮は黙々と食事をすることだぞ。それができないなら小声で怒鳴るべきだったな。
「どったの誠?」
「どったのじゃない! さっきから人目もはばからないでイチャイチャしてただろ!」
「イチャイチャってどんな?」
何か秋本が弄るために会話し始めているが気にしないでおこう。俺もこいつがどんな勘違いをしているのか予測できないから気になるし。
「そそそれはだな……」
うろたえ方がハンパないなこいつ。一瞬にして顔が茹蛸みたいに真っ赤になったぞ。
まあ会話に割り込んできたときも赤かったけどね。おそらく原因は怒り。
だけど今の方が赤い。何を勘違いしてんだろうこいつ。下手したら勘違いした挙句、勝手に妄想までしてるんじゃないだろうな。会長が上に乗っていたときも訳の分からんこと口走ってたし。
「それは?」
「そ、その……ス」
「何? 聞こえなかったんだけど」
別に秋本もいじわるで言ってるわけじゃないぞ。マジで大空の声が小さすぎて聞こえなかったんだ。大空の向かい側にいるけれども。
「……キ」
「キ?」
「……キスだよ! 恵那からそいつのほっぺにしてただろ! というか恵那、いくら歓迎会だからってやりすぎだ! か、彼氏でもないやつと……キス……するとかさ!」
こいつやっぱとんでもない勘違いしてやがった! けど今回の勘違いはこっちにも原因あるじゃん! これって仕方ないって割り切らないといけないのかな?
……いやいや会話してたのは問題ないはず。つまり秋本が最初耳元で囁いたのがキスしているように見えたのだろう。なら秋本が原因ってことだ。俺は原因じゃない……はず。
というか何大声で言っちゃってんの!? 店中に聞こえててもおかしくないほどでさ!? って周囲の視線がこっち向いてるじゃん!
「誠、周囲の人に迷惑。それとあたしは桐谷と話してただけでキスとかしてないよ」
なんであんたはそんなに冷静に対応してんの!? ……って他のメンツも何もないように食事してる!?
内心慌ててるの俺だけってことですか……。まあそうだよね、秋本みたいな美少女が俺なんか平凡男子にそんなことするわけないもんねー。皆さんは冷静に現実見てますね、会長は食べることに夢中なだけでしょうけど。
さて、気を取り直して。いいか大空、秋本が俺にキスなんかするわけがないだろ。考えてもみろ、顔を近づけられただけで俺は顔を赤くしたんだぞ。キスなんかされてたら秋本と会話なんかできるわけないだろ。
つまり……お前みたいなイケメンじゃない平凡男子ナメんなよ! そっち方面の経験ないわ!
「でもまあ……桐谷がしてほしいってんならやってあげてもいいけど、別に減るもんじゃないし」
お前はなんで矛先を俺に変えたんだよ! しかも笑顔で言うんじゃない!
いやいやいや近づいてくんなよ! しかもなんで色っぽい仕草しながらなの!
「恵那ッ!」
「別にいいじゃん、あたしと桐谷の問題なんだしさ」
「やるなら僕たちがいないところでやれよ! 時と場所を考えろよな!」
大空、お前も時と場所を考えろ! お前の所為で周囲の人の注目集めてるからな! 気にしてるの俺だけだけどな!
というか、秋本さん、あなたは経験豊富なんですか? それとも凄く男性に優しい人なんですかね。
俺、人生で初めてキスをしてほしいならやってあげるって聞きましたよ。しかもキスすることに抵抗が全くないようなセリフも。
それとおそらく大空をからかうためにしてるんだろうけどさ、それでもドキドキしちゃうものなんだって実感したよ。別にドキドキしちゃってる俺はおかしくないよね?
……でもさ、ドキドキしている一方でイライラもしてるわけですよ。大空をからかうために俺の男心を弄ぶ秋本さんに。
「話を戻すけど、桐谷はしたいの? したくないの? どっち?」
「まず最初に離れてくれ。そしてやたらと近づいてくるな」
「それって暗にあたしとはキスしたくないってこと?」
ああぁぁもう!
お前はいったい何なのさ! 離れてとか近づくなって言ってるのに、なんで甘い声を出しながらこっちに来るわけ!
「……あっ」
どどどうしよう……。
下がりすぎてぶつかっちゃったよ。しかも生徒会のメンツで1番強気な性格をしている人に。
恐る恐る振り返ってみると、スプーンを口に咥えたままこちらを見ている氷室先輩と目が合った。
よりにもよって最悪のときにぶつかってんじゃん!? 下手したらスプーンが喉に入ってたかもしれねぇし! ってそんなこと考えていないで謝らねぇと。
「すいません……先輩」
……やっちまったよ。顔色を窺うようにしながら言っちまったよ。
先輩は俺から視線を外し、スプーンを口から抜いた。そのあとスプーンをテーブルに置いて、再びこちらに顔を向けてきた。
スプーンを音が鳴るように置いたのは怒ってらっしゃるからだろうか? それとも俺がそんな風に思ってるから妙に響いて聞こえたのかな?
「……別に謝らなくていい。オメェは悪くねぇってことは分かってるからよ」
先輩は俺の肩にポンと手を置くと、優しい声でそう言ってきた。
……先輩ぃぃぃ! やっぱりあなたは良い人だぉぉぉぉ!
何かあれだね、今の言葉で一気に追い込まれていた精神が救われた気分だよ。今決めた、俺はこの人とは絶対仲良くなる。だって……生徒会で唯一この人だけが常識人なんだもの。他のメンツはおかしいもん。
順番で言えば会長=月森先輩>秋本>大空の順にさ。大空は他の3人と違ってエロい方向とかではないけど、勘違いして怒鳴ったり蹴ってくるしね。
「マコト、黙って食いやがれ」
「え、僕ですか!?」
「うるせぇから大声出すなって言ってんだよ。周囲の人達に迷惑だろうが」
「……はい」
先輩パネェ……大空を一瞬にしてしゅんって聞こえそうな状態まで黙らせたよ。この人が会長だったら超真面目な生徒会が出来てたんじゃねぇの?
……いやないか。メンバー変わらないなら役職変わっても意味がない。真面目な氷室先輩に挨拶って仕事が加わるだけだ。たださえツッコミで忙しいってのに、それは厳しいよな。
「アキモト、テメェもそのへんにしとけよ」
「はーい」
お前って氷室先輩には素直に従うんだな。この場にいる2年で唯一真面目だから慕ってるってことなのだろうか。このメンツの関係性はまだよく分からないからなぁ。同じ中学だった人がいてもおかしくないよな。全員同じってのは確率的には低いだろうけど。
でも全員同じじゃないとすると、なんで大空だけ全員名前で呼んでるんだろうか?
「キリタニ」
ぇ……俺は悪くないって言ったのに、俺にも何かあんの?
「――はい」
「これでもう今日はちょっかい出せねぇだろうから、ちゃんと食えよ。本当の目的は違うけどよ、お前の歓迎会には変わりねぇんだからな」
先輩……先輩みたいな良い先輩に高校に入って初めて会いましたよ。まあ1年が2、3年に会うことは部活してないとほとんどないわけですけど。俺が顔と名前知ってるのってここのメンツくらいですし。中学とかが同じだった人は別として。
話は変わるけど、先輩を見てると何だか微笑ましくなってくるなぁー。だって氷室先輩さ、オムライスを食べているんだ。先輩にオムライスってかなりマッチした組み合わせだぞ。これはもう、リラックス効果があってもおかしくない光景だ。
「……キリタニ、食べろ」
「……はい」
やっぱりこの人って何らかの能力がある気がしてならない。俺ってまさかだけど顔に出てるのだろうか?
でも顔に出てるって言われたことないんだけどな。何を考えてんのか分からんって言われたことはあったけど。
とりあえず考えるのやめて食べよう。考えてたらまた注意されそうだし。