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生徒会!? の日々  作者: 夜神
1学期
36/46

第35話 ~夏祭り前日~

「……帰りたい」


 なんで夏休みだっていうのに、快晴の下を歩いて学校に来なくちゃならんのだ。校舎の中だっていうのに暑くてたまらん。そもそも何でこの学校は……特別教室とか職員室にはエアコン付いてたな。

 でも……いま向かっている生徒会室にはない。部屋の場所か窓の位置が悪いのか風も入らない日が多い。帰りたいと言いたくなるのも理解してもらえるだろう。

 まぁ愚痴を言ってはいるが、生徒会活動で来ているため用件が済むまでは帰らないけど。


「元気ないじゃん!」


 誰かが走ってくる音が聞こえたと思った次の瞬間、元気のないときに1番会いたくないやつの声が響いた。

 立ち止まりながら人に謝るときのように頭を下げると、背中の上を何かが通り過ぎる気配がした。


「か、かわしただと!?」


 お前は何をそんなに驚いているんだ。

 3号館2階に来る人間なんて生徒会くらいで、俺に向かって走ってきそうなのは天然会長かバカ秋本くらいだ。だが会長なら遠くから声をかけてから走って隣に来る可能性のほうが高い。

 だから元気な声が聞こえる前に、向かってきているのは秋本だと推測した。

 秋本が俺に向かって走ってきている。のそのそと歩いている元気なさそうな相手にやりそうなこと。

 このふたつから考えれば、おのずとお前がやりそうなことは推測できるだろ。

 それに、俺は由理香という妹がいる。長年の経験から後方から何かされるときの気配は他の凡人よりも敏感に感じることができるんだ。手を避けるだけなら簡単にできるに決まってるだろ。


「はぁ……元気なやつ」

「ちょっ、何もなかったかのように行かないでよ~!」


 バカ野郎。

 いまお前の相手なんかしたら、蒸し暑そうな生徒会室での会話を乗り越える元気がなくなるだろ。

 まぁ最低限の会話はしてやるよ。しないと余計に面倒な絡み方されるだろうし。


「お前は相変わらず元気だな」

「……真央。どっか悪いの?」


 なんでこいつは心配そうな顔と声で返事を返してきたんだ。

 この暑さで頭がパァ~ってなったのか? って、こいつは普段からある意味パァ~ってなってるか。


「なんでそんな返事が返ってくるんだよ?」

「だってさ、いつもの真央なら『うるさいから黙ってろ』とか『いきなり何しやがるんだてめぇ。殴るぞ』とか言うでしょ。最低でも無視するじゃん」


 黙れと言ってもお前は「やだ」と言う。殴るぞというと「暴力反対!」とか大声で言うか、変態の返しが来る。無視したら「無視しないでよ~」と絡んでくる。

 俺もよく分からなかったお前の取り扱いを学んだんだよ。……あの事情を知ってから、こいつの見方が少し変わったってのも理由だけど。


「なのに元気だな、とか優しい返しが来るなんて……体調悪いんじゃないかって心配するに決まってるでしょ」

「なんだよそれ。聞き方によっては、お前が冷たいことを言われたいって聞こえるぞ」

「真央がこんな身体にしたんだよ」

「ふぁぁ~」

「スルーだと!?」


 いや、普通にあくびが出ただけだ。

 まあ、あくびが出なくてもスルーしてただろうけど。


「お前ってほんと無駄に元気だよな。そこまで俺に冷たいこと言われたいわけ?」

「いや多少なりとも傷つくから言われたくないけど。でも今までのやりとりと違うようで何か寂しいというか……」


 それって言われたいってことじゃないのか?

 ……やばいな。

 こいつの適当なところとか変態なところとかがあの事情によるキャラだってのは分かってるけど、本当の変態になって行ってる気がしてきたぞ。それに俺がこいつのMッ気を育てたんじゃないかって不安になってきた。


「真央さ、あたしのこと知って何かしら心変わりしたのかもしんないけど、別に遠慮とかしなくていいからね。言いたいことがあれば素直に言えばいいし、あたしがバカなこと言ったりしたら叩いていいんだから」

「……じゃあ言わせてもらうが、俺は自分の感情をちゃんとコントロールしてお前と接するよ」

「いやいやおかしいでしょ! なんでそんな返しが来んのさ! ここはじゃあ遠慮なく……って罵倒なりするところでしょ!」

「お前の方がおかしいわ! なんでそこまで俺に冷たくされたいんだよ!」

「前みたいに接しろってことだよ!」

「嫌だ、断る!」

「なんでさ!」

「お前が本物の変態になって行ってる気がしてならないし、その手伝いを自分がしてるみたいで嫌だからだよ!」


 ああもう……生徒会室まであと少しってところで、大声出して口げんかみたいな真似をやっちまった。

 そしてそれを認識してしまったために、俺のやる気と体力がグッと減った気がする。

 ……あーなんで俺は、今の秋本との口げんか誰かに聞かれたんじゃないか、なんて余計なことを考えるんだろうか。

 聞いた人物から生まれる誤解。平穏に向かっていた日々がまた逆戻り……いやネガティブに考えすぎるな。今日の3号館は静かだ。つまり3号館で部活動は行われていないか、現在地から離れた場所でひっそりと行われている可能性が高い。

 だから大丈夫のはずだ。生徒会室にいるであろうメンツには言い争ってるの聞こえたかもしれないけど。そのことで弄られたりするかもしれないけど。でも俺、頑張る。


「大体お前だって前と違うだろ」

「どこが?」

「それは……俺の呼び方とか」

「え、ダメなの? 特に何も言わないからいいとばかり思ってたのに。やっぱりきりりんとかキリキリとかのほうがよかったの?」

「別にダメってわけじゃ――なんでお前は余計なこと言うかな。変なあだ名で呼ばれるくらいなら名前で呼ばれたほうがマシだ。お前のあだ名って人のことバカにしてるというか、女の子につきそうな可愛らしいものが多いし」

「……ねぇ真央。意外と自分の名前とかも気にしてる?」


 ずばっと切り込んでくるなよ。

 たしかに小学生の低学年くらいのときに、女の子っぽい名前だって言われたことがあるけど。しかも同じクラスに同じ名前の女の子がいたから面倒な言われ方して……。

 はぁ……自分だけならまだしも、他の子に迷惑かけたってことのほうが嫌だったな。

 たしか亜衣だったっけ。小さいときに「亜衣ちゃんのお兄ちゃんって女の子っぽい名前だよね」とか言われて同じクラスのやつとケンカしたこともあったっけ。

 今ではほとんど気にしてなかったけど、色々と思い出すと気分が悪くなってきたな。


「真央?」

「ん、ああ気にしてねぇよ。ただガキのときはからかわれたなって思い出しただけだ」

「そっか……真央が女の子だったら問題なかったのにね」

「おい、そこはまだ名前が違ったらよかったのにね、のほうがマシだ」

「まあそだね。……真央が女の子だとあたし困るし」


 秋本は、こちらに適当に返事をしながら窓のほうに顔を向けると、ぼそぼそと何か呟いた。

 顔を背けられながら言われる独り言ほど気になるものはない。自分のことを言ってそうなものは特に。


「おい、お前最後なんて言った?」

「おっと、乙女の秘密を聞こうとはいけないことだぜ。真央はもうちょっと女心というものを……無視して先に行かないでよ、あたしがバカみたいじゃん!」


 いや、みたいじゃなくてお前は間違いなくバカだよ。

 と、思ったが口には出さなかった。出してしまうとまた秋本のペースに巻き込まれてしまうし、生徒会室間近なのにいつまでも話してばかりで入ってこないということで、先輩たちに何か言われるかもしれないからだ。

 生徒会室に先輩たちがいない可能性も0ではないが、可能性としては低い。会長がいないというなら半々といったところだが。


「あっ、真央くん恵那ちゃんおはよう」

「おう来たか」

「おはよう」

「…………」


 会長はいつもどおり元気な挨拶。このクソ暑い中、笑顔で元気に挨拶できるなんて俺みたいなやつからすれば尊敬できるレベルだ。

 氷室先輩は下敷きくらいの大きさの薄い板で扇ぎながら、少し気だるそうな挨拶。実に蒸し暑く風の入らない生徒会室にふさわしい挨拶だ。立場が逆なら俺もきっと似たような感じになるだろう。

 誠は、誠の周辺だけ温度が違うんじゃないかと思うほど爽やかな挨拶だった。真夏日、湿気が高い、無風という中で、どうやったらそんなに爽やかな挨拶ができるんだろうか。俺にはできそうにない。クーラーが利いた部屋でならできるかもしれないが。


 ……さて


 今のあの人は見てはいけない気がするな。机に突っ伏して身動きひとつしてないし。

 もし千夏先輩だけしか部屋にいなくて、最初に俺が生徒会室を訪れたなら死んでいるのでは? と思いそうなほどのバテっぷりだな。

 会長達が放置してることから暑いから突っ伏しているだけなんだろうけど……本当に大丈夫なのか?


「おはようございます……えっと、千夏先輩」

「……! な、なにかしら?」

「え、いや、おはようございます」

「えぇ、おはよう」


 突っ伏してた割には普段くらいの元気はあるみたい……でもないな。目の下にはっきりと分かるほど隈できてるし。


「あの、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫よ。ただの寝不足だし……夏は毎年寝つきが悪くなるから」


 普通ならそうなんだって納得して終われるんだけど、この人だと何をやってて寝不足なのか気になって仕方がない。

 最後に言ったのは、なんかこの場で考えて付け足した感じだったし。


「そうですか。じゃあ、さっさと今日の予定済ませて帰りましょう」

「それもそうね。全員揃ったわけ……なんでみんなは私たちを見てるのかしら?」


 あっ、本当だ。

 なんか驚いた顔かポカンとした顔でこっちを見られている。奈々先輩だけは興味なさそうに背もたれに寄りかかりながら自分に風を送っているけど。


「なんで見てるんだ誠?」

「え、僕に聞くの!?」


 会長、秋本、誠のうち誰に聞くかっていったら消去法で誠しかないだろ。

 会長は天然発言を返してきそうだし、秋本は面倒な方に持っていく言葉を言いそうだし。


「3人のうち誰かってなったら誠に決まってるだろ」

「そ、そうなんだ……」


 なんで誠は、俺から顔が見えないように顔を俯かせるんだろうか?

 俺は別におかしなことは言ってないはずだ。誰だってあの3人に状況確認の質問をするとしたら1番まともである誠にするはずだし。

 ということは……誠が妄想モードに突入したってことだよな。

 妄想するのはいいけど、自分ひとりのときにしてくれたら誠ってさらに常識人になるんだけどなぁ。


「話が進みそうにないから秋本」

「おいこら、その話の振り方はあたしに失礼じゃないか」

「じゃあ会長に聞くか」

「真央と先輩が下の名前で呼び合ってるからに決まってるじゃん」


 お前はなかなか売れない芸人かよ。どんだけ自分の番を大事にしてるんだ。別に今のは大事にしなくてもいいことだろ。


「そんなことで驚いたりすることか?」

「するよ、ついこの間まで苗字だったし! あっそうか……先輩に脅されたのか」


 お前、本人のいる前でよく言えたな。お前のその勇気、全然見習いたくないぜ。


「あら、別におかしなことではないでしょう。生徒会という繋がりがあるのだから自然と距離は縮まるだろうし」

「今が冬だったら納得しますけど、この真央と一気に距離が縮まるわけないでしょ」


 このってなんだよこのって。

 お前の経験から言ってるんだろうが、それじゃまるで俺がおかしいみたいじゃないか。誰だってな、お前みたいにあまりぐいぐい来られると抵抗を覚えるんだよ。


「恵那、あなたちょっと変わったわね」

「どっか変わりました?」

「唐突に変えたのに聞くんだな」

「奈々、ツッコミを入れるならもっと元気に」

「別に独り言だ。このクソ暑い中でツッコむ元気なんてねぇよ」


 いや、氷室先輩なら弄られたら確実にツッコむと思います。

 だって俺よりも身体に染み込んでるでしょうし、ツッコミをしない先輩は生徒会室にいても存在感がなくなりますし。


「話を変えたのそっちなのに放っておくなんてひどいよ先輩……」

「それはごめんなさいね。話を続けるから泣き真似やめてもらえるかしら?」


 千夏先輩……先輩は早く進めようとして言ったんでしょうけど、後半の部分は秋本にとってはダメージを受ける言葉ですよ。

 泣き真似をしたのに何事もなくスルーされたことに加えて、泣き真似だってバレたわけですから。

 まぁ本当に泣いたって思う人間は、この部屋にはひとりしかいないだろうけど。


「で、どっか変わりましたあたし?」

「そうね、まずは真央くんの呼び方かしら」

「まぁあたしと真央の仲ですからね」


 どういう仲だよ。もっと具体的に言え。変な場合はきっちりと否定してやるから。

 なんて今までのように言わないぞ俺は。ここで会話に入ってしまうと弄られるターゲットになってしまう可能性があるから。


「まあそうね。さっきも仲良く話してたみたいだし否定はしないわ」

「(否定してよ! どう考えてもケンカしてただけだよ俺と秋本!)」

「でも私が言いたい変わったところはそれじゃないわ。なんて言ったらいいかしらね……恵那の場合は丸くなったというか、真面目になったと言ったらいいかしら」

「なんですかそれ。人をまるで不真面目みたいに」


 不真面目だろ! 生徒会の中でダントツで不真面目だろ!

 と思わず言いそうになってしまった。だけど今は会話をしたくないという気持ちが勝ったことで何とか耐えることができた。

 それは誠や氷室先輩も一緒だったようで、一瞬だが口を開きかけたのを俺は見逃さなかった。


「そうだよ千夏。恵那ちゃんは言うことは不真面目なこと多いけど、仕事は割りと真面目にしてるじゃない」


 会長、それはフォローしてるようで秋本が不真面目だって認める発言だからね。

 それと会長も割りと不真面目……というか、仕事するときあまり役に立ってないよね。やる気があるのは分かるから、よほどのことがない限り口に出来ないけど。


「桜、あなたは真央くんとでも話していなさい。さて恵那、話の続きだけど。さっきなんで弄りに来なかったの? 少し前までのあなたなら『あれ~ふたりとも名前で呼び合ってる。何かあったのかな?』みたいな感じに言っているわ」

「いや、言おうかと思いましたけど。でもそれ言うと後で後悔するくらい疲れるんじゃないかって思ってやめました」

「本当にそれだけかしら? さっきの反応、まるでやきもちを焼いてるように見えたけど。恵那も真央くんに下の名前で呼んで欲しいのかしら?」

「べ、別に呼んでほしくないし!」


 …………。

 ………………なんで会話をやめたのあんたら。俺に何か言えってこと?


「呼ぶつもりはないぞ」

「バカ野郎! 今のはツンデレ風の言い回しでしょうが!」

「つまり呼んでほしいと?」

「それは……」


 聞き返すと秋本は、急にもじもじし始めた。

 普通ならこれは自分に名前で呼んでほしいんだ。この子俺に気があるんじゃ、なんて考えそうなものだが、俺はそんなことは考えない。

 これまでの経験から、今やっていることが俺にとって面倒な展開に持っていく演技の可能性が高いからだ。だから、しばらく何も反応しなければ演技か本心か分かるだろう。

 本心だと分かったならば……まぁなんだ。相手が秋本とはいえ、ほんのちょっと、マジでほんのちょっとだけど嬉しいって気持ちがあるから、下の名前で呼ぶのも考えなくもない。


「……まあ変な呼び方とかじゃないなら何でもいいかなぁ」

「なら今のままでいいじゃねぇかよ。無駄な時間使わせるなよな」

「まあまあ。生徒会終わったらデートとしてあげるからさ」

「断る」


 今日みたいな暑い日にお前とデートなんてやってられるか。

 それにしてあげるって何でお前が上から目線なんだよ。流れからすれば俺のほうが上でお前が下だろうが。


「断るにしてもちょっとは悩もうよ!!」

「千夏先輩、今日やることって何ですか?」

「スルー!? 氷室先輩~、真央がひどいです~」

「なんでマコトじゃなくてわたしなんだ――だぁぁッ、暑苦しいから引っ付くんじゃねぇ!」

「まだ心の準備できてないしね」

「おい、胸押し付けんな! それと小声でなんて言いやがった!」


 暑苦しさと女性らしさのダブルパンチ。

 氷室先輩、実に哀れだ。まあ助けたりはしないけど。また自分に矛先が向いたら嫌だし。


「やっぱり誠より胸ないんだな――」

「ふんッ!」

「――うッ!」


 おおぉ、秋本のほっぺに綺麗な紅葉が出来てる。

 漫画とかアニメとかでは結構見るけど、現実で見たのは初めてだな。


「そ、そんなに本気でぶたなくてもいいじゃないですか」

「うるせぇ、元はといえば本気でぶたれるようなことをテメェが言ったからだろうが。グーでやらなかっただけ感謝しやがれ」

「ぶたれて感謝するのは変態だけですよ。うぅージンジンする」


 頬をさする秋本を、お前は変態だから大丈夫だろみたいな目で見てしまったのは仕方がないだろう。氷室先輩も似たような目で見ていたし。


「さて、さっさと話を済ませて帰りましょうか」

「ねぇねぇ真央くん」


 会長さん、なんで今まで黙ってたのにやっと話が進むってところで話しかけてくるんですか。

 少しは空気を読みましょうよ。暑さでイライラしてるのか、生徒会の中でも会長に温和な千夏先輩が軽く睨んでますし。


「はぁ……桜、手短によ」


 許可しちゃうんですね。

 まあ話し合いの最中にちょくちょく余計なこと挟まれた方が時間かかるしな。ここにいるメンツってふとしたことで話が逸れるし。


「うん。あのね真央くん」

「なんです?」

「明日お祭りあるでしょ。そのね、私とデートしてほしいんだ」


 会長の発言に、会長を除いた生徒会メンバーは凍ったように固まった。

 高校2年生なのに全くと言っていいほど、異性というものを意識していないあのお子様会長が、突拍子もなくデートをしようと言ったのだから当然だとも言える。


「か、かかか会長! 突然何を言ってるんですか!」

「ふぉえ? 私、なにかおかしなこと言ったかな?」

「桐谷とデ、デートって言ったじゃないですか!」

「おいマコト、少し落ち着きやがれ」

「落ち着けるわけないじゃないですか! あ、あの会長がデートですよ!」

「気持ちは分からなくもねぇが、今の話にわたしやお前は関係してねぇだろ。だから落ち着けって」

「で、でも!」

「妙に食い下がるな。……お前、キリタニに気でもあんのか?」


 ……会長に引き続き氷室先輩も何を言ってるんですか?

 そういう話は俺のいないところでやってくださいよ。目の前でやられたら誠が俺をどう思ってるのか気になって仕方がないじゃないですか。


「なっ!? べ、別に僕は桐谷のことなんて何とも思ってませんよ! ……あっ」

「……だよなぁ」

「まあまあ元気出しなって。誠が真央のこと何とも思ってなくても、誠の分まであたしが思ってあげるからさ。今のは結構ポイント高いかも」


 お前の言うことの大半は余計なことばかりだな。

 そんでポイントってなんだよポイントって。そういうこと言ったら、評価が上がった傍から上がった分よりも多く評価が下がるだけだぞ。

 それにしても、誠は俺のこと何とも思ってないのかぁ。まあ最初の出会いを考えたなら、今の状態まで交友関係が改善されただけでもかなりの進歩か。

 へこんでしまったのは、あまりにも力強く否定の言葉を言われたことによる思春期の男子特有の反応だろうし、よく考えてみればへこむ必要はなかったな。


「えっと、あの、その。別に桐谷のことが嫌いとかの意味じゃなくて。な、何とも思ってないとは言ったけど、特別な感情って意味で。そのだから、桐谷のことは男の子だって思ってるから」

「あぁうん、分かってる」

「そ、そっか……」


 なんで誠は、安心という感情を抱いている一方で何かに落胆したかのような表情をしているのだろう?

 俺の返事は全くおかしくなかったはずだし、何かがっかりさせるようなことも言っていないはず。女心というか、誠の心はよく分からんなぁ。


「真央くん。勇気を振り絞ってデートに誘った桜のことを無視しないの」


 はい、すいません……って、俺が悪いのか?

 いや俺も悪いのかもしれないけど、最も話を逸らしたのは誠じゃないだろうか。それに勇気を振り絞るって、会長はいつもと変わらない表情でさらっと言った気がするんだけどな。会長、全く照れてる様子なかったし。


「話が進みそうなところ悪いんだけどよ」

「奈々、なにかしら?」

「なんでてめぇが仕切ってんだ? じゃなくて、なんでサクラは突然キリタニをデートに誘ったんだ?」


 確かに俺も気になる。

 会長はこの中で、特定の分野においては考える必要がないくらいダントツで精神年齢が低い。

 これまでの経験から予測して、会長が言ったデートという言葉は『異性と一緒に遊ぶ』のような意味の方だろう。だからデートという言葉を使ったところはそこまで気にしていない。

 気にしているのは、俺だけを誘ったことだ。会長の性格からして「ねぇみんな、夏祭り一緒に行こう」というだろう。特定の誰か、とよりもみんなでわいわいするほうが会長は好きなはずだ。


「だって……千夏はいつの間にか真央くんと仲良くなってるし、奈々ちゃんは先輩後輩って感じで真央くんと仲良いでしょ。誠くんは最初はケンカばかりしてたのに、今じゃケンカしないし。恵那ちゃんは前から真央くんと仲良かったし――」

「氷室先輩、会長の目はおかしいじゃないですか? あたし、真央と仲良くしてた覚えないですよ。痛い思いをした覚えはありますけど」

「あとで話してやるから今は黙っとけ。話が進まねぇだろ」

「――なんか前よりもっと仲良くなった感じだしさぁ。私だけ真央くんと仲良くなってない気がするんだもん」


 うん、まあ……千夏先輩とは1日彼氏のふりをするってことがあったし、氷室先輩とは一緒にゲームした。誠とは……何かあったっけ? いつの間にか誠の態度が変わって、それに比例して距離が縮まっただけな気がする。秋本は……あれがあったしな。

 会長とは……これといって何もないよな。

 誰もツッコんでないけど、会長自身には何かあったみたいだけどな。日焼けの仕方が俺たちと段違いだし。

 まぁ泳げるようになったから、また海にでも行った。みたいなことだろうけど。


「さて、奈々の疑問も解決したことだし。真央くん、返事は?」

「なんであなたが進めるんですかね?」

「そんな細かいこと気にしない。早くOKの返事をしないと桜が泣くわよ」

「千夏、私そんなに子供じゃないもん。断られたって泣かないんだから」

「怒られたら?」

「……な、泣かないよ」


 なにこの断りにくい雰囲気。最後の方は全く関係ないはずなのに、断ったら会長泣くんじゃないかって不安になる。

 会長に泣かれると、女子を泣かしたってことと子供を泣かしたってことのふたつが混ざり合った罪悪感に襲われるだろう。考えただけで精神的にかなりきついぜ。

 でも俺には美咲との約束がある。

 急病で行けなくなったとかなら美咲は普通に納得してくれるだろうけど、会長と約束して行けないなんてなったら……俺の命が危ないな。


「会長……悪いんですけど先約があるんです」

「女か」「女ね」「女だな」


 おいそこの3人、ハモって変なことを言うんじゃないよ。

 まるで俺が浮気してる悪いやつみたいじゃないか。俺と会長の関係は、学校の先輩と後輩。または生徒会会長と執行委員であって、断じて彼氏彼女という関係ではない。


「その言い方はやめてもらえませんかね?」

「なんでさ? 真央の先約の相手って女でしょ」


 なんで断定なの?

 確かに美咲は女だけど、根拠もないのに勝手に決め付けないでほしい。


「なんで断定なのかって顔してるけど、真央くんに同性の友達はいないでしょ」

「だから断定しないでもらえますかね。男友達くらいいますよ」


 この学校には……友達と呼べるやつはまだいないけど。


「いたともしても高校生にもなって一緒に夏祭りはないでしょう。あっ、ごめんなさい。そっちの趣味の人も世の中にはいるものね」

「それ以上言ったら怒りますよ。子供だっているんですから」

「子供? ……奈々ちゃん?」

「ち……そうだよ」


 氷室先輩、会長の前で子供なんて言ってごめんなさい。

 そして、話を進めるために否定の言葉を我慢してくれてありがとうございます。


「それにちゃんと言っておきますけど、俺はそっち系じゃないですし、これから先もそっちに進む気はありませんから」

「分かったわ。つまり女で合ってるということでいいのよね?」


 ……誘導された!?

 どどどうする。この生徒会がこんな中途半端なところで終わるはずがない。下手をすれば、俺が誰と行くか言うまで話が進まないぞ。


「それは……」

「まぁ誰でもいいじゃねぇか。キリタニが誰とどこに行こうが、わたしらには関係ないんだしよ」

「先輩……」

「それに、女とどこかに行くってことでもよ。アキモトやマコトじゃねぇなら、どうせ妹たちだろ。深く聞いても面白くねぇ」


 話を進めようとしてくれた理由はそれかよ! 俺の感動返して!

 でも妹たちとって思ってくれて助かったといえば助かったか。妹とは特別な関係になれないけど、従姉はなれる。この生徒会ならそこに気づくだろうから面倒な展開になっただろうし。


「あら、妹って言った瞬間にホッとした顔をしたわね」

「つまり、真央は妹さんたち以外と約束があるってことだね」


 こんなメンバーのいる生徒会はもう嫌だ。

 常識人で大抵のことは俺の味方だと思ってた氷室先輩ですら、今の誘導のために自分の役割を演じたようにしか思えなくなってきたし。先輩、暑さで気力が低下してるのか無表情に近いから本当のところが読めないしなぁ。

 そんなことを考えていると、ポケットに入れていたケータイが振動した。ゆっくりと取り出し、画面を確認すると、そこには『綾瀬美咲』と表示されていた。


 ……美咲さん、なんでメールじゃなくて電話なんですか?


 待ち合わせ場所とか時間の件なんだろうけど、メールでいいじゃないですか。

 でも急用の可能性もあるのか……祭りの件以外には何もなかったから可能性は0に等しいけど。親とか妹たちに何か、って場合は別の人間からかかってくるだろうし。

 あぁ……早く出ないといけない。けど周囲には生徒会がいるから出たくない。って、何もこの場で電話に出る必要はないじゃん。


「すみません、ちょっと席を外しますね」


 ……なんで千夏先輩と秋本は立ち上がったのかな。

 まさか付いて来るわけじゃないよね? 人の電話を盗み聞きなんて真似まではさすがにしないよね?


「……付いて来ないでください」

「別に付いて行ってはないわ」

「そうそう。だから気にしない」

「…………もしもし」

『あっやっと出た。出るの遅かったけど、なんか立て込んでる?』

「ちょっと――なんでお前らは近づいて来るんだよ! おい秋本、お前は露骨にケータイを取ろうとするんじゃない!」

『え、なに、どうしたの?』

「後でまた電話する!」


 怒鳴るようにケータイを切ると、千夏先輩は舌打ちした。

 あんたは人の弱みなり、情報をそこまで知りたいのかよ。まぁこっちには仮面を外した姿を知られてるわけだしな。

 だから千夏先輩はまだ理解できる。だが……


「てめぇはケータイを取ると見せかけて引っ付いてるんじゃねぇ!」

「はぅッ!」


 秋本って不思議だよね。女のはずなのに、そのへんの男友達よりも手を出しやすいんだもの。


「そ、そんにゃに思いっひりぶたにゃくてもいいひゃん!」

「反対側にも紅葉ができてバランス良くなっただろうが」

「しょこどうでもいいひゃん!」

「うるさい、黙って座れ。さっさと話を済ませて俺は帰るんだ」

「しぇめてしゅこしはあやまりぇよ!」



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