第31話 ~ふたりっきりで・・・~
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「キリタニ、ぼぅ~と突っ立ってどうしたんだよ?」
どうしたって……それは俺のセリフでしょ。
「どうして先輩は……俺のベットに横になってるんですか?」
先輩って俺の部屋に入ったの初めてだよな。この前勉強会で生徒会のメンツが来たときは、秋本のやつが勝手に入って誠が乱入してきただけだったはずだし。
秋本はあの性格だから分からなくもないが、比較的真面目で常識的な先輩がこんなにくつろぐなんて誰が想像できただろうか、いやできるはずがない。
……反語を使ってみたけど、先輩をよく知る人間なら想像できたかもしれないよな。ここは俺には想像できなかった、と言い直すべきか。
「ん、ダメか?」
「いえ……別にダメじゃないですけど。分かってると思いますけど、それ……俺のですよ」
「おぉ、お前のだな」
先輩……俺の話適当にしか聞いてないでしょ。ゲームから目線を外さないし。
というか、人のベットに寝転がってゲームするのはまぁいいとして、せめて足は動かさないでやってもらいたい。
あっ、勘違いがないように言っておくが、先輩はスカートじゃなくて短パンだからな。だから先輩のパンツが見えるなんてことは起こらない。
なんでじっとしてほしいかっていうとだな……先輩が小学生に見えてくるからだよ。
寝転がって足をバタつかせながらゲームしてるロリって、年上でも小学生以下にしか見えないからさ。俺だけかもしれないけど。
「安心しろよ。別に汗臭くねぇし、寝心地も悪くねぇから」
汗臭さについてはまだいいとして……別に寝心地の心配なんかしてないんだけどな。毎日寝てるわけだから適度な弾力があるのは知ってるし。
「むしろあれだ、わたし好みの良い匂いだ」
……先輩、お願いだから適当なこと言わないで。
ロリコンが聞いたら「な、奈々ちゃんが俺の匂いを!?」って歓喜してるからね。
俺はどうかって?
そんなの嬉しいに決まってるだろ。小学生に見えると言っても先輩は女子高生なんだ。女子高生に良い匂いだねって言われて喜ばない男子高校生はいない。
まあその一方で、先輩って匂いフェチなのか? って疑問を抱いてるけどね。
もし本当に先輩が匂いフェチだったら……常識人だと思っていた先輩も生徒会に毒されつつあるのか。俺も次第に毒されて変人・変態に仲間入りするのか、って不安になるね。
…………よくよく考えればならないか。
誰だって○○フェチみたいなのは持っててもおかしくないし、俺の匂いは嫌なにおいって言われたわけじゃないしな。
先輩がやたらとクンカクンカしてくるようなら危険域だけど、実際は無邪気な子供のようにベットに寝転がってゲームしてるだけだからな。
さっきから先輩がチラチラと「さっさとやろうぜ」みたいな目で見てきてるし、マイナス思考はこれでやめるとしよう。
「そんなに心配そうな目で見なくても、いまさら先輩とゲームしないなんて言いませんよ」
「そんな目で見てねぇよ! いつまで突っ立ってんだ? って目で見てただけだ!」
「俺のほう見てていいんですか?」
「あっ……やべぇ、囲まれてるんだった!」
頑張れ~先輩。さっさと終わらせないと一緒にできませんよ。
あまり長いようだと、俺も痺れを切らして適当に素材集めとかに行っちゃいますからね。
まぁとりあえず暇潰しに武器の強化に必要な「だりゃ!」物でも確認したり、新しい武器を作るのに必要な「そこだぁッ!」――うるさいよ!
先輩、興奮するなとは言わないけど、こっちのテンションも考えて! まだ何もやってないからテンション上がってないんだよ! しかも俺の部屋、そんなに広くないからね!
なんて先輩に言えないよね――
「はぁ……」
「くそ、群がりやがって!」
そうだね、ザコが群がると嫌だよね。
特に虫系とか植物系とかは嫌だな。外見が気持ち悪いやつが多いし。
「けど、わたしのハンマーなら一瞬で一掃だぜ!」
へぇ、先輩ってハンマー使ってるんだ。
もし小説内にあるようなVR技術を用いられたゲームができて、先輩と一緒にやったらあれだよな。下手するとハンマーを振り回すロリを目撃することになるんだよな。
アニメとかだと力持ちのちびっ子くらいにしか思わないけど、仮想とはいえ現実で見るとなるとシュールな光景だよな。
でも……先輩って某魔法少女アニメのハンマー使うロリッ子に似てるんだよな。そのロリッ子のような赤いドレスと帽子を被って、ハンマーを持ったら公認コスプレモデルになれるんじゃないだろうか?
そう考えるとシュールだけどすっごく見てみたい気持ちが湧いてくるなぁ。
関係ないけど、何で先輩はじたばたと動きながらゲームするかなぁ。どんどんしわくちゃになっていってるんだけどなぁ俺のふとん……
「へ、ざまぁみやがれ!」
「あぁもう、うるせぇ! ひとりでピーチクパーチク騒ぐんじゃねぇ!」
割とこのへん、家密集してんだよ。
俺の部屋から女の声がしてたら変な噂立ちかねないじゃないの。亜衣と由理香のケンカなら「ああまたやってる」みたいになるけどさ。
俺はごめんだからね。桐谷家の長男は、真昼間から女を連れ込んで大声を出させるようなことしてる、みたいな噂が立ったりするの。
会長のあの一言のせいで生活が変わって、やっと最近桐谷たちの距離って縮まってないみたいだよなってことで元に戻りつつあるんだから。
「わ、悪かった……だから、そんなに怒んなよ」
ええぇぇぇぇぇぇッ!?
せせ先輩が何か泣きそうというか、しゅんとしてるんだけど! いったい何故に!?
……内心で思ったこと口に出しちゃったんだな俺。無意識に言う癖があるって千夏先輩に言われたし、この状況からしてそれ以外に理由が見当たらないしなぁ。
でも大声出したくらいであの先輩が今みたいになるなんて……もしかしての話だが。
俺たちは今まで散々大声出したりするやりとりをしてきた。だけどそれはどこかふざけてやってるとわかっていた。
しかし今の俺は純粋にキレた。先輩も自分が怒られた理由が分かっている。だから……今のようにしゅんとなった可能性が高い、気がする。
いや、今はそんな理由とかどうだっていい。先輩を元の状態に戻さなければ。子供をいじめたみたいで凄い罪悪感があるし。このままじゃ俺の心が悲鳴を上げる。
「先輩、すいません。その……最近色々と溜めこんでたんで」
言っておくが断じて嘘じゃないぞ。
千夏先輩のこととか、千夏先輩とのツーショットをどうしようってこととか、どうやってカンの良い亜衣にやってしまった色々なことを誤魔化して説明するかとか、ここ何日か考えてたんだし。
それに伴って、先輩とのデートで先輩が俺に行った理不尽と思える行動に対する鬱憤。これをどうしても思い出してしまっていた。
だからそれが今、爆発しちゃったんだよ。ほら、どこかで発散しないと身体に悪いしさ。
なんで先輩で、って思ったやつ、冷静に考えてみるんだ。
生徒会の常識人は先輩だけだぞ。誠は微妙なので除外だ。
つまり先輩には、常識人だからこその安心感がある。加えて……他のメンツ相手にやると余計にこちらが鬱憤を溜める可能性が高いだろ?
「……そっか。まぁわたしも悪かったし……お前、チナツのことで色々あっただろうからな」
……俺の聞き間違えだろうか。今の先輩の言葉の、特に後半の部分。
千夏先輩と色々あったって言ったよな。色々って……どういう色々なんだ。
まさか氷室先輩……俺と千夏先輩のあんなこと(間接キス)やこんなこと(プリクラで撮ったツーショット)を知っているんじゃ――
「――あの~先輩」
「な、なんだよ?」
「……別に怒ってないんで、そんなにビクビクしないでください」
まだ何もやってないですよ。
言っておくが、『まだ』とつけたが俺は善からぬ事を先輩にするつもりはないぞ。やったら犯罪だし。
あと大学生くらいになって先輩と一緒に歩いた場合……下手したら未来の俺は、はたから見た人物に通報されるんじゃないだろうか。「あの男の人、幼女を連れている。不審者じゃね!?」みたいな感じで。
……自分で考えておいてなんだが、結構傷つくな。ただでさえ目の前で小学生くらいの女の子、に見える先輩に怖がられて傷ついてたのに。
こんな風に思うのは俺だけじゃないよね?
先輩と一緒に歩いたら不審者にってあたりはともかく、誰だって小さい子供に何もやってないのに怯えられたら傷つくよね?
「色々ってどういう意味なんですか?」
「ん、別に大した意味はねぇよ。お前とチナツ、海に行った日の後から気まずそうだったからな」
「……そうなったのは先輩のせいでしょ」
「……過ぎたことだし気にすんなよ」
事の発端の先輩がそれ言っちゃいますか。
少しは気にしてるみたいですけど、もっと気にしてくださいよ。そうじゃないと今後似たようなこと起きる気がしてなりませんし。
今回はどうにかなりましたけど、次やったら千夏先輩に俺消されてもおかしくないですから。
対象が他のメンツ(先輩が俺を蹴り飛ばした状況だから先輩は除く)に変わったとしたら……会長はまあ大丈夫かな。痛がるだろうし、痛みで泣きそうになるかもしれないけど謝れば許してくれるだろうし。
誠だった場合は……あの殺人キックをくらうんだろうな。状況的に避けるってわけにもいかないだろうけど、誠の蹴りって頭付近に当たったら首の骨折れるんじゃないかって心配になる威力なんだよな。
……誠だけは押し倒したりしたらダメだ。即行で命を刈り取られてもおかしくない。ある意味千夏先輩より危険だ。
秋本の場合は、考えるまでもないな。あいつのことだから「押し倒すなんて大胆だなぁ」とか笑いながら言って、「そっちからやってきたんだから……イイよね」とか獣みたいな目をしながら言うだろう。言った瞬間に押し倒してるのとか気にしないで、あいつの頬を叩きそうだな俺。
「お前とチナツ、仲直りしたみてぇだし」
「……はい?」
「なんだよ、その『俺、先輩と仲直りしたっけ?』『先輩は何を言ってんの?』みたいな感情が混じった反応は」
はい、まさにいま俺が抱いてる感情はそんな感じです。
「お前よぉ、チナツと下の名前で呼ぶ合うことにしたんだろ?」
「え、えぇ……まあ」
たしかに千夏先輩と電話でそういう話はしたし、先輩の正論の嵐に耐えかねて一応了承したけど……秋本とかが絶対絡んでくるよな。細かな変化にまでウザく絡んでくるのがあいつだし。
そういうところに気づくならもうちょっと別のことに気づけってんだよ。……いや、あいつなら気づいてもやるときはやるか。
「……って、何でそのこと先輩が知ってるんですか!?」
俺、誰にも言ってないはずなんだけど……そもそも気軽に相談できる人間がいないけどね。亜衣は違った方向の話に持っていくだろうし、由理香は異性の話をするとムスッとするし、両親とはあまり顔を会わせないし。親の会社って労働基準法守ってんのか? って思わなくもないけど。
って今は親の労働問題はどうでもいい。別に手取り足取り世話してもらわないといけない年齢でもない。
「何日か前にチナツが電話してきてお前と距離を縮めるにはどうしたらいいか、みたいなことを聞いてきたからだ。お前って急に来られたらなんだ? ってなるタイプぽかったから、下の名前で呼ぶようにして自然と縮まるようにしたらいいんじゃね? みたいなことを言っておいたぞ」
俺のことがよく分かってま――その提案を出したの先輩だったの!?
もっと相手を考えて言おうよ。先輩の言った相手は、普通の人じゃなくて千夏先輩なんですよ。だから俺と千夏先輩との距離、自然にじゃなくて強引に縮まりましたよ。
それに縮まったのは、俺と千夏先輩をはたから見たときの距離だけで、俺の精神的な部分は離れた気がします。
「てっきりお前が死ぬほど謝って許してもらったのかなぁと思ってたんだが、なんか違ったみてぇだな。じゃあ電話越しに聞こえたチナツの声が、少し高揚してたのは何でだ? キリタニが土下座してるのを見て興奮したってわけじゃないわけだし……」
うわぁ……先輩って意外と歪んだ見方をする人だったんだな。
俺が考えるに高揚してたんじゃなくて、恥ずかしかったからじゃないですかね。
千夏先輩の性格を考えたら人に仲直りするにはどうしたらいいか? みたいな相談しないでしょうし。もしかしたら人に相談したの初めて、もしくは久しぶりだったって可能性もありますしね。
あの人って他人が持つイメージをそのまま外面にしちゃってますから、相談されることは多々あったでしょうけど、相談することはなかったでしょうからね。自分のキャラじゃないってことで。
「……まさか」
そうです先輩。
まさかって思うのも分かりますけど、千夏先輩は恥ずかしがっていたんです。
……何で先輩は俺に視線を向けてるのかなぁ。自分の答えの確認の視線なら分かるんだけど、どう見てもそういう感じの視線じゃない。
先輩はいったい何を言うつもりなんだ?
「チナツのやつ、キリタニに惚れたのか」
犯人は、あなただ。みたいな感じだなぁ――って、この人は急に何を言ってんの!?
「ななな何を言ってるんですか?」
「おっ、すげぇ動揺してんな。ってことは……今まではこそこそ付き合ってきたけど、もう面倒だから堂々と付き合うことにした。キリタニを誰かに取られたくないからけん制のために、周囲から仲が良さそうに見えるにはどうしたらいいか。ってことを聞きたくてチナツはわたしに相談してきたのか。この理由なら声の件も納得できるぜ」
「ひとりで納得してすっきりしないで! 俺は動揺したんじゃなくて、先輩の言葉に戸惑っただけだから!」
そもそもの話。俺と先輩が出会ったの今年の6月だよ。そんで今は8月半ば。まだ出会って2ヶ月くらいしか経ってないのよ。
何があったら付き合えるような関係にまで進むのよ? 俺には先輩にアピールした覚えすらないのにさ。
それに付き合ってたら確実にバレてるから。生徒会に入った当初とか周囲の目が厳しかったし。緩んできたの最近だし……俺と秋本たちのクラスだけの気もするけど。
「けどよぉ、相談してきた理由は別としてお前に惚れてるって可能性はあるんじゃねぇの? チナツのやつ、お前と他の男子じゃ対応が違うし」
「それは俺が先輩の本性を知ってるから優等生ぶる必要がないってことでしょ! 惚れてる可能性なんて――」
ちょっと待てよ。
そういえば桃香さんが『あのね真央くん。私が見た感じだけど千夏、結構真央くんのこと男の子として意識してるみたいだよ。だから頑張れば本当に恋人になれるかもしれないよ』なんてことを放心状態になりつつあったときに言っていた気がするぞ。
いやいや変な期待をするんじゃない。押し倒したり、胸に頭とはいえ触れちゃったり、恋人のフリして色々やっちゃったから意識されてるだけだ。
これは一時的なものであって、純粋に異性として意識されてるはずがない……はずだ。
「――ないですよ」
「おい、今なんか間があったよな。それに必死さが消えた。お前、少なからずチナツと何かあったろ? 惚れられてる可能性を否定しきれないだろ?」
くっ……勝ち誇ったような顔をしてむかつく。
こうなれば……その勝ち誇った顔ができないように否定してやる。
「……もしもし千夏先輩」
『……な、なにかしら突然電話なんかかけてきて』
「それはその……すみません」
『いえ……別にいいのだけれど。それで用件は?』
「用件っていうほどのことでもないんですけど……」
『え? ……』
急に声が聞こえなくなったと思ったらドタドタした感じの音が聞こえてきた。ケータイでも落としそうになったのだろうか?
「先輩?」
『だ、大丈夫。君がまさか用件もないのに電話してくるなんて思わなかったから、ちょっと驚いて手を滑らせただけよ』
千夏先輩、俺の言葉ちゃんと聞いてないよね。用件がないとは言ってないよ俺。用件と言えないほどの用件って感じのことは言ったけど。
それと個人的に普通の男子高校生は、昔から交遊のあった場合を除いて異性に用件もなく電話はしないと思うんですけどね。俺のことをなんか特殊扱いしてるみたいですけど。
「そうですか。えっと、話進めてもいいですかね?」
『……いいわよ』
「あのですね……唐突ですけど、先輩俺のこと好きですか?」
『……!』
なんかさっきより大きな音が聞こえてきたけど、千夏先輩に何があったんだ!?
『……き、君は突然何を言ってるのかしら?』
「先輩は俺のことを好きですか? と言ってますけど」
『そういう意味じゃなくて……』
目の前にいるわけじゃないのに、頭に手を当てている先輩の姿が見えるな。まぁ声が呆れていたことからの想像だけど。
『なんでそんなことを急に聞くのかって意味よ』
「いやですね、いま氷室先輩がうちに来てるんです。それで氷室先輩が千夏先輩と仲直りしたって話をし始めて、そのうち千夏先輩が俺に惚れているのでは? みたいな話に飛びまして」
『……何で飛んだのか聞きたいところだけど』
何で飛んだかって? そんなの俺も分かりませんよ。知りたいなら氷室先輩に直接聞いてください。
『続けて』
「それで俺はそんなわけないって否定したんですけど、氷室先輩が納得しなかったんですよ。だから千夏先輩に直接聞こうと思って電話したわけです」
『……そう』
あれ? なんだか先輩の声が一気に冷え切ったように聞こえた気がする。
『真央くんさっきの答えだけれど、私は君のこと嫌いよ♪』
……こっちの返事を待たずに電話切られたぜ。
にしても最後の言葉、先輩の声からしてすっごくイイ笑顔で言われた気がする。
やばいなぁ……。
何でかって? そんなの思ってたよりも千夏先輩の嫌いって言葉がきつかったからに決まってるじゃないか。変人・変態な部分があっても先輩は異性だし。
というかさ、『嫌い』って言葉は『大嫌い』って言われるよりもきついと思わない?
ほら「あんたのことなんて大嫌いだから」だと冗談とか嘘っぽさを感じるけど、「あんたのこと嫌いだから」って言われると現実のみを突きつけられた感じするじゃない。
俺が、ただアニメとか漫画を見過ぎかもしれないけど。
「……ね、俺の言ったとおりでしょ?」
「お、おお……言ったとおりだな」
氷室先輩、思いっきり同情してるな。
たかがこんなことのために自分が傷つくような真似をするなんて、こいつ頭大丈夫か? って同情と異性に嫌いって言われたことに対する同情が混じってるけど。
なんで氷室先輩が会話の内容を知ってるかっていうとだ、先輩が読心術を持っているからさ。
なんてのは嘘だよ。単純に俺がケータイのボリュームいじって先輩に聞こえるようにしたんだ。
「まぁ気にすんな」
ベットを背もたれにして床に座ると、先輩が続けて口を開いた。俺の頭を撫でながら。
「ちょっ!?」
「世の中の全員から好かれるやつなんていねぇよ」
……慰めるならそんな「全員には好かれないんだから諦めろよ」みたいな現実を突きつける言い方じゃなくて、もうちょっと違った言葉で慰めてほしかった。
「それにチナツはお前のこと嫌いかもしんねぇけど、わたしはお前のこと結構好きだぞ。でも勘違いはすんなよ」
「勘違いするなって言うなら頭撫でるのやめません?」
「やめてほしいなら素直に言えってんだよ」
「別にやめてほしいってわけじゃないですけど……する側だった立場からすると慣れてないから恥ずかしいです」
「それって、ようはやめてほしいってことじゃねぇか」
なんでそんなイタズラ心が見えるような顔をするんですかね。
まさかこのまま続けるつもりですか? そのつもりなら俺は先輩と距離を置いて座りますよ。
こんなところ誰かに見られたら嫌ですからね。はたから見たら『小学生に頭を撫でられている高校生』なわけですし。
「兄貴~、私が貸してた本どこにある~?」
…………なんで突然帰ってきたのお前。
というか、ノックぐらいしろよ! とは俺とお前の普段の生活から考えて言わないけどさ。いま中に入ったら絶対に面白くなる! ってタイミングで入ってくるなよぉ。
「……お邪魔しました~、ごゆっくりどうぞ♪」
「亜衣、ちょっと待てぇッ!」
「そうだ誤解だぁぁぁッ!」




