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生徒会!? の日々  作者: 夜神
1学期
3/46

第3話 ~苦難の始まり?~

「……さて、気を取り直しましょう」


 月森先輩は一度咳払いをしてから言った。

 現状を説明するとだ、俺の『大空は男、それとも女?』という発言によって生徒会室はしばらくの間笑いに包まれていたのだ。訳が分かっていない会長と、怒っている大空を除いて笑っていたから。

 いや月森先輩と氷室先輩は声を殺していたから、秋本ひとりだったといった方が正しいのかもしれないな。


「はぁ……はぁ……あかん、めっちゃ腹と手が痛い」


 1番爆笑していた秋本が1番ダメージが大きいようだ。テーブルにぐったりと伏せている。まぁあれだけ大声出しながらテーブルをバンバン叩いていれば当然だろう。


「恵那は笑いすぎだ……」


 自分の性別で異常なほど笑われたからか、大空はしゅんとしてしまっている。少々涙目に見えるのは俺の目に同情というフィルターが掛かっているからだろうか。


「ごめんごめん……ぷっ」

「アキモト、思い出して笑うんじゃねぇよ」

「奈々先輩……」


 奈々先輩、あんたカッコよすぎるよ。身体は子供なのに精神は大人すぎる。精神面には憧れるぅ。

 あっ、でも声を出すのは我慢してたけど先輩も笑ってたっけ。やっぱり憧れるのは取り消そう。


「……先輩」

「……な、なんだよ?」

「……徐々に口元がにやけてきてるんですけど」

「な、なに言ってんだよ……笑ってなんかいねぇよ」


 おっ、確かに氷室先輩の口角がひくひくと動いている。秋本に注意した割りに自分も思い出して笑ってるじゃないですか。笑うのを必死に堪えてらっしゃるけど。


「……桐谷、お前の所為だぞ!」


 急に大空はテーブルを叩いて立ち上がった。何度も叩いて手は痛くないのかこいつ。


「待て、その言い方じゃ俺だけ悪いみたいじゃないか?」


 確かに俺の発言も現状になった原因のひとつだろう。しかし、俺の抱いた疑問は全くおかしいものではない。


「お前が悪いだろ!」

「いやいや俺の発言も悪かったが、他にも理由はあるだろう。お前がボーイッシュなこと、しかもイケメン。それに加えて運動能力が高くて、男子相手にスカートを履いているのに蹴ってくる。他に一人称が僕であること、会長がお前を『誠くん』とくん付けで呼んでいたこと。今日初めて会った俺からすればお前の性別がどちらなのか分からなくなるに決まってるだろ」

「確かに桐谷くんのケースだとそう考えてもおかしくはないわね」

「ねぇねぇ千夏、私が悪いの?」


 …………何だと!?

 天然で空気の破壊者の会長が自分が悪いのか? という空気を読んだ発言をするなんて。どうしたんだよ会長、あんたはそんな人じゃないはずだろ。今日初めて会って数時間も経ってない俺が思っちゃいけないかもしれないけどさ。


「桜だけが悪いとは言わないわ」

「そっか」


 やっぱあんたは俺のイメージに焼きついた会長だったよ! 自分は悪くないみたいに言われたら一瞬にして笑顔になったよこの人!

 でもな、『だけ』ってついてるの分かってる?


「桜も悪いのよ」

「ガーン……」


 さすが月森先輩、ちゃんと言ってくれたよ。そして擬音語言いながら落ち込む人初めて見た。何か俺の人生で擬音語を言いながら何かをする人っていうのはこの会長で全部埋まりそうな気配がしてきたぜ。


「とりあえず話を戻しましょう」

「えっと、誠くんの性別の話だったね。真央くん、誠くんは女の子だから間違ったらダメだよ」


 会長、頬を膨らませていかにも怒ってますってしてますけど可愛いだけで全然怖くないですよ。それと月森先輩の話っていうのはそこじゃないと思います。その証拠にあなたと俺、それに大空以外の人達がまた腹押さえ始めましたから。

 天然って怖いね。空気読まないと思ったら、こういうときに限ってやっちゃいけないほうの空気を読むんだもん。


「わかりました」

「素直でよろしい。えらいよ真央くん。頭撫でてあげようか?」


 会長、あなたの中では『褒められる=頭を撫でる』がまだ成り立ってるんですね。

 正直に言って、この歳で恋人とかそういう特別な関係じゃない人に人前で頭を撫でられるというのは一種の羞恥プレイだと思う。


「いえ結構です。とりあえず会長は黙っててもらえますか?」

「え!? まさかの真央くんから会話に参加するな、って意味の発言が出るなんて!」


 だってあなたが会話に参加すると約3名ほどダメージ受けるんですもん。そのうち1名は重症なんですよ。大空の性別の話はサイドポニーの彼女には思い出し笑いの種で、しかもツボに入るみたいですから。


「じゃあ鼻だけで息しててください。してくれたらあとで頭撫でてもいいですよ」

「…………」


 …………マジで黙っちゃったよ会長!?

 どんだけ頭を撫でてもらうことに飢えてるんですか! そりゃ性格からして少しは可能性はあるだろうなって思って言いましたけど、ここまで効果あるとは思ってませんでしたよ俺も!

 セクハラだとか言われたくないから冗談っぽい口調で言ったのに。大空も何か驚愕の顔で会長見てる。そして俺のほうをチラッと見てくる。


「(……会長は高校生なのか?)」

「(ここの制服着てるんだから高校生だろ。気持ちは分かるけど……自分で言ったがここまで効果があるとは思わなかった)」


 不思議だね、この中で1番仲が悪いと言える俺と大空でアイコンタクトが成立したんだから。それだけ会長への驚愕が互いにあったってことだよな。凄いよ会長、こんなに簡単に人にアイコンタクトを成立させる材料になるなんて。

 まあ大空にも会長には黙っていて欲しいって思いがあったからできたんだろうけど。その思いがなかったら冗談ぽく言ってもセクハラだとか言ってきそうだから。


「月森先輩、話を戻して質問いいですか?」

「え、えぇそうしましょう。……でもさっきみたいな質問はやめてね」


 それは分かってますよ。あなたとか氷室先輩とかきつそうですから。秋本は「腹筋割れる」とかブツブツ言いながらダウンしかけてますし。そこで言うほど性格悪くないですよ。というかさっきみたいな疑問はそうそうないですよ。


「なんで3年生が1人もいないんですか? それと執行委員が俺だけってどういうことです?」

「あぁー、まずは3年生がいない理由はもう引退したからよ。先週までは私と奈々で引き継ぎの仕事とかやってたわ。この学校は受験のために6月で3年はやめて、2年と1年でやっていく形になっているの」


 なるほど、確かに3年生からは受験とかで忙しくなるからな。

 他に分かったことは月森先輩と氷室先輩は1年のときから生徒会にいたってことだよな。まあ経験者がいないと2年と1年でやっていけないか。……あれ? ちょっと待てよ


「あの……」

「何かしら?」

「経験者ではないと思われる天川先輩が何故会長に? 普通なら月森先輩か氷室先輩がなるべきだと思うんですけど」

「それはな、この学校の生徒会の選び方が特殊だからだよ。この学校の生徒会の選び方は3年が人気投票みたいなことをやって役員を選ぶんだ」


 ……斬新な選び方ですねここ。前年から生徒会にいた氷室先輩と月森先輩は顔とか知られてるし、経験者がいないといけないから選ばれたんだろう。大空と秋本の2人は来年のために。天川会長は……言っちゃなんだけどマスコット的な感じでなのだろうか。『生徒の頂点=シンボル=ある意味マスコット』って構図が成り立たないわけでもないし。


「選び方にどうかとは思うんだけどよ、経験者のいない年がないって意味では理に適ってんだよな。選ばれた方は堪ったもんじゃねぇけどよ。よほどのことないと拒否できねぇし」


 それは災難だ。1年のときに選ばれたときはさぞかし嫌だったんだろうな氷室先輩。だけど1年して感情が変わったようで今は嫌ではないって風にも見える顔してる。


「桐谷、生徒会役員の選ばれ方が分かったんだから執行委員があんただけってのも分かるんじゃない?」


 おぉ秋本持ち直したのか。けどやっぱり疲れたんだな、笑ってるけどどことなく疲れが見えるし。笑いすぎでお前ほど疲れたやつは初めてだけど。

 役員の選ばれ方が分かったから執行委員が俺だけというのが分かるって言い方だったな。まず役員の選ばれ方は3年の人気投票。3年だというところはとりあえず置いておいて、人気投票ということは一般的に外見が優れている人物が選ばれるよな。


「…………」


 天川会長はド天然で子供っぽいけど身体は大人な可愛い顔した先輩。こういう人は人に嫌われにくい、というか誰からにでも好かれるだろう。真剣に相手すると疲れるけど。

 月森先輩は心身共に大人過ぎる可愛いより綺麗だと言った方が良い先輩。お姉さんキャラだし、抜群のスタイルからして男女共に人気があると思われる。

 氷室先輩は会長とは反対に身体は子供だけど心は大人な強気な性格の先輩。怒っても全くといって良いほど怖くない。ロリっ子ということで男子に需要がありそう。

 大空は大抵の男子よりもカッコいいボーイッシュな女子。身体能力も高い。まるで王子様のようなやつなので男子よりも女子に人気がありそうだ。

 秋本は活発そうな印象とフレンドリーな性格をしている女子。男女隔てなく接しそうなので友人が多いタイプだろう。男女共に人気があってもおかしくない。


(全く似てもいない性格に外見だ……)


 しかし、大きく分けて見ると共通点がある。このメンバー全員、美人または美少女ということだ(大空は性別は女だが、美少年の方がしっかりくる)。

 つまり執行委員が入らない理由は単純にして明快。このメンバーと一緒にいたら、惜しくも人気投票で6番目とかになって生徒会役員に選ばれなかった人物以外嫉妬の視線などを浴びる事になる。俺でいうと主に男子の。


「…………」

「うふふ、桐谷くんどこに行く気かしら?」


 職員室に行ってどうにか執行委員を辞退しようと、イスから立ち上がってドアに歩き出した瞬間に月森先輩に話しかけられた。

 笑っていると分かる声だったのに、へびにらまれたかえるのように身体が動かなくなった。大空の蹴りをもらいそうになったときよりも冷や汗が出るのは何でだろうね?


「どうしたの? そんなに身体を縮めちゃって」


 やばいやばいやばい! ちょー怖いよこの人! 後ろから抱き締められてるっていう状態なのに怖いって感情しか湧かない!

 普段なら背中に当たる豊満な胸の感触とかに男として喜びとか感じるんだろうけど、今の俺に胸の感触を感じる余裕なんてない。

 しかも月森先輩と背丈変わらないから抱き締められてるのも逃げられないように捕縛されてるって言えるよ絶対!


「汗が凄いけど具合でも悪いのかしら?」


 お願いですから耳元でささやかないで!

 甘くてとろけそうな声ですけどマジで超怖いです! それと両腕を動かすのやめてください! 腹辺りを触っている左手は不気味ですし、右手で顔触らないでください。恐怖心がさらに増すんで!


「いえ……大丈夫です。だから放してもらえます?」

「あら、私にこういう風にされるのは嫌なの?」


 正直に言って今の先輩は嫌です。さっきまでの先輩なら歓迎ですけど。

 でも正直に自分の気持ちを伝えるの怖ぇ。言ったら今より状況悪化しそうだもん。

 声とか低くされたら、もう精神が危ないと思う。


「嫌では……ないですよ」

「じゃあこのまま話しましょう。桐谷くんはどこに行こうとしたのかしら?」

「それは……」


 どどどどうする俺、ここでトイレですとか言ったら下手したら処理される可能性があるぞ。かといって素直に言うのは、それはそれで危ない気がする。


「ねぇ桐谷くん」

「……はい」

「桐谷くんはどういう経緯で生徒会に入ろうと思ったのかは知らないけど、執行委員の紙に自分で名前を書いて提出したわよね?」


 帰宅部だったから担任が入らないかって言ってきたんだよな。特にやることなかったので生活を変えるきっかけにちょうど良いかなって思ったのと、生徒会やってたら学校からの評価とか良さそうってことで入ったんだよな。生徒会についてよく聞いてからにするべきだった……もう遅いけど。本当に『後悔先に立たず』だ。


「――はい」

「つまり自分の意思で生徒会に入ったってことよ。……私達と違ってね」


 ひゃぁぁぁ! 氷のような冷たさを感じる低い声だったよ最後の!

 月森先輩、言いたいことは分かりましたから声のトーン上げてください! 今みたいな背筋が凍る声を聞いてたらマジで精神がヤバいです!


「私は経緯はどうであれ桐谷くんが入ってくれて嬉しいのよ。人気投票って形から生徒会は女子ばっかりになるから」


 それはどういう意味で嬉しいんですか!? まさかですけど両刀って意味とかじゃないですよね!?

 あぁぁ自分で考えてなんだけど、なんでそんなこと考えたんだよ俺! この人なら『お姉さま』とか呼ばれててもおかしくないのに!


「去年も女子ばかりで苦労したのよ。生徒会の仕事って君が思っている以上に肉体労働が多いの。私達の筋力的に重たい物を運ぶのって君が考えてるよりもずっときついことなの。誠は言っちゃ悪いだろうけど例外ね。今年は先輩って立場上、去年よりも自分がしないといけないって思ってたの。奈々は見た目で分かるとおりこの中で1番筋力ないしね――」


 …………はぁ……よかったぁ。

 肉体労働をする量が男手(俺)がいるから減るって意味で嬉しいんですか。

 まあよくよく考えれば月森先輩(美人)が俺みたいな平凡男子をどうこうしようって思うはずないもんな。恐怖で現実ではありえない方向に考えてた。現実逃避しちゃダメだよな。


「――だから1年間は執行委員続けてね。まあ転校とかそういう理由じゃない限りやめれないけど♪」

「……はい」


 最後の最後で現実突きつけられたよ。転校なんて親の転勤とかベタな理由がない限りできるわけがないよな。このご時世に無駄に使える金はないし。

 1年……今までの人生の中で凄く長い1年になりそうだ。


「…………あの」

「なに?」

「話が終わったのなら放してもらえません?」


 この人いつまで今の状態でいる気なんだろう。話が終わったのなら解放してください。解放されるまで身体の緊張が解けないんで。


「……さっき嫌じゃないって言ったのに、本当は嫌だったってわけ?」


 嫌ぁぁぁ! 今のあなたが1番嫌だ!

 さっきまではまだ笑ってる感じだったからチラって見える顔は怖くなかったけど、今は目を細めてるというか鋭くして睨んでいらっしゃる。声も普段より低い。

 この人よく分からねぇ! 確かに女のプライドが傷つく言葉に取れなくもないけどさ! でも俺だって抱き締められるのが嫌、っていう理由だけで放してって言ってるわけじゃないからね!

 さっきまでは恐怖とかもピークだったわけだけど、今はどことなくわざとやってる雰囲気があるからこっちにも余裕が出てきてるの。

 つまり、背中に当たってる弾力のある柔らかい感触を感じれるわけです! 平凡男子の俺に耐えられるわけがないでしょ!


「……あのですね」

「な~に?」

「……その、この状態だと先輩の……が当たってるわけでして」

「私の何かしら?」


 ……急に声が弾みだしたな。あんた、絶対分かってるだろ。なんであんたはそういうことをはっきり言ったり、言わせたがるの?

 もうあなたをドSって認定していいですよね。秋本はいじりって感じですけど、あなたは完全に楽しんでますよねー。もしくは快感を得てますよねー。

 言わないと終わりそうにないので俺も覚悟決めて言いますよ。大空みたいに長時間弄られるのはごめんですから。


「先輩の胸です」

「そうね」

「そうねって……」

「桐谷くんも男の子なんだから嬉しいんじゃないの? あっ、それとも奈々みたいにぺったんこの方が好みなのかしら?」

「誰がぺったんこだ! チナツ、ちょっとこっち来い!」


 うん、氷室先輩の反応は正しいと思う。それにしても反応が早いですね。やっぱり色々と身体のことでコンプレックスがあるということかなー。


「正直に言って嬉しいんですけど……こういうことされたことがないので恥ずかしさの方が強いんで」

「あらそうなの?」


 何ですかその意外、って感じの声は。

 平凡男子が抱き締められるって滅多にあるわけないでしょ! イケメンとか先輩みたいな美人と違って恋人とかできにくいんですからね!


「そうですよ。なんで意外そうなんですか?」

「だってあまり初心な反応じゃないから、割と経験してるのかと思って」


 あなたへの恐怖心がなかったら初心な反応してますよ、100%の確率で。それとあなたがSじゃなかったらね。Sに初心な反応を見せたら余計に何かしてくるだろうし。


「というわけで放してもらえます? 氷室先輩も先輩を呼んでますし」

「そうねぇ、奈々をずっと無視すると泣いちゃうし」

「泣かねぇよ! わたしは子供か!」


 見た目は子供です! とはっきり断言できます。でも安心してください。心は大人だって分かってますから。だってあなたが1番常識人みたいですし。

 月森先輩は常識人に見えるけど、俺の中で会長と同レベルの非常識人認定されましたから。


「でもー放したくないわね。背丈的にも抱き締めるの楽だし、個人的に好きな抱き心地だし」


 いやいや俺は先輩の抱き枕とかじゃないですからね。それと腕の力強めないでもらえますかね。背中の感触がより感じられるんで。そろそろ恐怖心が消えてきてるんでマジでヤバいです。恐怖心消えたら、下手すると鼻血出る気がする。興奮で鼻血出す人って滅多にいないのにねー。

 できればそういう人に、俺はなりたくない。


「いや放しましょうよ。放してもらわないと色々とヤバいんで。下手したら大空に粛清されるかもしれませんし」

「お前の中の僕はどれだけ乱暴なんだよ! お前からしてるわけでもないのにするわけないだろ!」

「誠ならしちゃいそうね。生徒会室のドアを開けたらマウントポジションで桐谷くんを殴ってる姿が視界に映ってもおかしくないし」

「まさかの千夏先輩までそんな風に思ってる!?」

「確かに誠なら拳に血が付いていても不思議じゃないねー」

「恵那まで!? というかどれだけ僕の印象って偏ってるの!? しかもヤバい方向に!」


 この生徒会のメンツってノリが良いよね。だけど大空っていう人物がいてこその展開だ。大空って貴重な人材なんだなー。

 おっ、月森先輩が解放してくれた。よかったぁ……これで緊張がなくなったよ。

 おぉー、腕とか回したらゴリゴリとか言ってるなぁ。ボキボキ鳴るところもあるし、この短時間でここまで身体が強張ったのは人生初だ。


「それと今更なんですけど、会話ばかりしてましたけど仕事とかないですか?」

「それは大丈夫よ、いくら何でも仕事があったら今までみたいなことしないから。するにしても仕事をしながらするわ」


 ……それって仕事があろうとなかろうと一緒ってことですよね。でもあなたは仕事をバッチリとこなしながらもてあそんだりしそう。


「明日はあるけど、桐谷くんにはないから安心して」

「はい?」

「明日仕事があるのは役員だけってことよ。まあ桜以外は壇上に上がるだけだから、仕事があるのは桜だけなんだけどね。その桜のお仕事は新会長としての挨拶」


 つまり明日から正式に生徒会として活動を始めるってことか。行事予定とか全然確認してなかったな。今後は確認するようにしないと。月森先輩とかに笑顔で何か言われそうだもの。


「俺はどこにいればいいんですか?」

「普通は司会のマイクとかある近くにいるものなんだけど、明日は普通にクラスのところにいていいわよ。でも終わった後は片づけがあるからちゃんと手伝いにくるように」


 なるほど、俺の処刑はそのときってことか。全校の男子の嫉妬の混じった視線で串刺しにされるんだから。


「さて、もうそろそろ下校時間だし、今日やるべきことは済んだから帰りましょうか」

「おいチナツ、てめぇ逃げようとしてんじゃねぇ!」

「別に逃げようとなんてしてないわよ奈々、下校時間までに下校するっていう学校のルールを守ろうとしているだけだわ。帰りに甘いものでもおごってあげるから機嫌直して。チ●ルチョコでいいかしら?」

「だから子供扱いすんなぁぁ! というか大した物を奢る気ねぇ!」


 はたから見てたら子供をいじめている大人にしか見えないな。もしくは幼い妹の機嫌を直そうとする姉みたいな感じか。

 って見てないで俺も帰る準備しよう。


「…………ん?」

「…………」


 制服を誰かに引っ張られたので振り返ると、くりっとした瞳が凄くこっちを見てたよ。擬音語でいうなら『じ~』って感じだ。


「……えっと、どうかしました?」

「…………」

「しゃべってくれないと分からないんですけど」

「約束」

「約束?」


 何か会長と約束したっけ? 今日初めて会って話したわけだからここ数時間のことだよな。

 何を話したっけ? さっきの月森先輩の一件の印象が強すぎて忘れてしまったぞ。


「真央くん、鼻だけで息してたら頭撫でてくれるって言ったじゃん」


 あっ、そういや言った。途中から会長が大人しくなったなぁって思ってけど、そういやそういう約束したんだった。

 というか頭を撫でるっていうのは会長に効果絶大だな。頭を撫でるって言ったら大抵のことしちゃいそうで何か心配になってきたけど。


「大空からしてもらったらどうです?」

「えぇ~真央くんと約束したんだよ。約束破るの~」


 逆になんでイケメンな大空より平凡な俺に撫でられたいですかね。俺にはよく分かりません。ひょっとしてあれですか、全員に撫でてもらって心地よさを確かめようとしてるんですか?

 撫でてるところ大空に見られたら何か言われそうだよなー。でも撫でないと会長さんは解放してくれないよねー。

 しかも考えている時間はあまりないみたいだ。会長さんが何故か涙目になっていってるもん。


「(……よし、全員の目がこっちを見ていない今がチャンス!)」

「ふぇ……」


 会長さん、気持ち良さそうに目を細めてますね。そんなに撫でるのが上手いとは思わないんですけど。女子の頭を撫でたのって人生初と言ってもいいですよ。ガキのころは自分よりも幼い子供が泣いたときは泣き止ませようと頭を撫でたりしてたような気もしますけど。

 それにしてもあれだな、俺の人生初ってこの生徒会のメンツで全部経験するじゃないだろうか? もちろんキスとかそういう方向のは除いてだけどね。



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