表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生徒会!? の日々  作者: 夜神
1学期
1/46

第1話 ~初入室~

 3号館2階の突き当たりにある一室。

 俺はその部屋の前に立っている。廊下に俺以外の人影は見当たらない。在るのは置く場所がないのか重ねて置いてある生徒が使っている物と同じ机。しかもある場所は立っている部屋の真正面。廊下の窓側にだ。

 机の他に突き当たりにはローラー付きの洋服掛けがある。これも机同様に置く場所がなくて置いてあるのだろう。

 服とか全く掛かってないしな。それ以前にハンガーさえ無いわけだし。


「……ここで合ってるんだよな?」


 疑問の独り言に返事をくれる人間は誰もいない。分かっていても状況が状況だけに言ってしまったんだ。

 今日初めてこの部屋を訪れたのだからそのへんは理解してほしい。


「……とりあえず中に入るか」


 このまま立ち尽くしていても何も変わらないしな。

 右手にはかばんを持っているので自由な左手でドアをノックした。


「……いないのか?」


 ノックしたのだがドアの向こう側からは物音ひとつしない。

 音が小さくて聞こえなかったのかと思い、再度ノックしてみた。一度目よりも力を入れてだ。

 しかし、先ほどと同様にドアの向こうは無音。中には誰もいないということになる。


「はぁ……」


 普通は真っ先に来る人間(鍵当番になっているやつ)がいてもいいと思うんだがな。いや、おそらくいるだろう。そいつさえ来ていないということはHRとかが長引いているのかもしれない。

 鍵は開いてないんだろうな……


「……って開いてるのかよ」


 ドアに手を当てて軽く横向きに力を入れるとガララと音を立ててドアが開いた。誰もいないのに開いているとか無用心過ぎる。

 ここって結構見られちゃいけないものとかもあるんじゃないのか?


「失礼します……」


 誰もいないのだが今までに染み付いた習慣からか断りを入れて部屋の中に入った。部屋の中には大きめのテーブルがひとつにパイプイスが畳まれているのも合わせると10個ほど。

 打ち合わせなどで使っているのだろうが、何も書かれていない綺麗な黒板。部屋の隅のほうにパソコンとプリンタが1台ずつあった。

 部屋の隅にかばんと空になっている弁当などが入っているスポーツバックを置く。スポーツバックだが体育会系の部活に入っているわけじゃない。大きいから使っているだけだ。辞書とかはかばんには入れられないしな。教科書やノートが入ってるわけだし。


「……何かイメージと違うな」


 それが部屋を歩いて真っ先に思った感想。最初のイメージはきちっと整頓されつくしている感じだったのだが、イスはテーブルの奥まで入れられていない。それにカッターやはさみ、のりなどは分別されておらず、一緒のケースの中に入っている。

 それだけならまだイメージは崩れなかったのだが……この場にあるとは予想していなかった決定的な物があった。それは


「……トランプにUNO」


 手に取って確認してみるが、ケースも中身も正真正銘トランプにUNOだ。カードの他にもオセロなどのゲームもあるようだ。

 ゲームをする部活にありそうなものが真面目なイメージであるここにあるとは……。


「……いや」


 真面目なイメージのある生徒会だって偶には息抜きすることもあるだろう。行事とかが上手く行った後は打ち上げとかするかもしれない。

 そう結論付けて元あった場所に置いてあった形で戻す。下手に弄ると管理している人がどこにやった!? ってなるかもしれないからな。


「……他の人はまだ来ないのか?」


 廊下に人影があるか確認しておくか。

 そう思ってドアの方へ歩いていく。ドアに手をかけようと手を伸ばした瞬間


「いっちば~ん! あぅッ!」


 元気な声と共に勢いよくドアが開き、開いたドアと変わらないくらいの勢いで誰かが部屋の中に入ってきた。

 ドアを開けようとしていた俺は突然の事で避けることもできず入ってきた人物と思いっきり衝突した。力を入れていなかった身体では受け止めることもできず背中から地面に倒れていく。


「ッ……!」


 受身も取れずに背中をもろに床に打ちつけ、そのあと後頭部を打った。正直に言って頭の方はかなり痛い。反射的に手を頭に持って行こうとするのだが、上に誰かが乗っている。その人物の腕に引っかかって頭に持って行けない。

 後頭部の痛みだけでなく背中を打ったからか息苦しい。上に人が乗っているのも理由だろうが。


「ッぅ……」


 痛みに耐えながら閉じていた目を開けると、目の前に顔があった。

 くりっとした大きな瞳と赤みがかった髪が特徴的な可愛らしい女子。目をパチパチと何度も瞬きさせながら俺を見ている。

 や、やばい……顔が近すぎる。たださえ可愛らしい顔をしているのに、それを目の前でとなると平凡な男子は誰だって緊張するだろう。俺も例外なくそれに当たる平凡な男子のひとりだ。


「何か私の顔についてる~?」


 上に乗っかっている女子は首を傾げながら問いかけてきた。可愛らしい仕草なのだが、先ほどまでの緊張は消滅して行った。

 人の上に乗っかってる今の状態でその質問はないだろ。普通は急いで退くだろうに。退かなくてもせめて俺が誰なのかとか聞くんじゃないのか?


「あの……」

「何かな?」

「……退いてくれない?」


 俺がそう言うと彼女は今気がついたような声を出して上体を起こした。そして握り締めた片手をもう片方の手に軽く打ちつけた。

 いやいやポンってしなくていいから退いてくれ。


「かかか会長……何してるんですか?」


 俺でも上に乗っている女子でもない声が聞こえた。どうやら乗っかってる女子以外の生徒会メンバーが来たようだ。姿は女子の所為で見えないけど……って乗っかってる女子って生徒会長なのかよ!

 って今は乗っかってる女子が生徒会長とかどうでもいい。今の体勢をどうにかしないと。はたから見ればこの人が俺を押し倒してるようにしか見えないだろうし。


「あっまことくん、別に何もしてないよ~?」


 何この生徒会長、俺に乗っかってることもう忘れてるわけ……。ほんの数秒前に退いてくれって言ったのに。今日初対面で会って5分も経ってないけどこの人が絶対天然だってことは分かった。


「いやいやいやいや現在進行形でしてますって!」

「……?」

「なんで分からない顔浮かべるんですか!? 誰かの上に乗ってるのに!」


 驚愕の声が響くと、生徒会長の顔がドアのところにいる誰かから俺の方に向いた。

 ここで何してるの? とか言ったら天然どころの話じゃない。即行で病院に行かせるべきだと判断するぞ俺は。


「おぉ~そういえば退くところだったんだ」


 ふぅ……さすがに脳に障害があるってレベルの発言はしない……ってなんで俺の身体に手を置くの。腕を使って立ち上がるにしても床に置けばいいよね。


「よいしょ……」


 いやいや「よいしょ」じゃなくて……って立ったのならさっさと退けよ! なんでスカートなのに無防備に立ったままなわけ、あんたに羞恥心ってないの!?

 そう思いながら身体を仰向けからうつ伏せに変え、急いで生徒会長から距離を取った。


「君、どうかした?」


 生徒会長は俺の行動が分かってない様子で尋ねてきた。

 この人、男の前で無防備すぎる。もしかして高校生なのに思春期迎えてないの? それとも俺みたいな平凡な男子に見られてもどうってことないって人なのか。

 やっと生徒会長の姿を全て見れたが、美少女って呼べる外見してる。顔からは可愛らしかったから少し幼い印象を受けたけど、髪は肩甲骨あたりまで伸びていて大人っぽい。それに発育もかなりされている。顔以外の身体の方は大人っぽいよこの生徒会長。

 さっきあの大きく育っている胸が当たってたんだよな……別のこと考えすぎて感触は覚えてないな。


「いや……何でもないです」

「そうなの? ならいっか」


 この人が生徒のトップでいいのか。凄く騙されやすかったりしていらない仕事とかも引き受けてきそうなんだけど。

 そういややっと立てたからドアにいるやつの顔が見えた。……イケメンだな。だけどなんで女子の制服を着ているのだろう。ボーイッシュな女子という可能性もあるのだが、生徒会長は確かくん付けで呼んだよな。ということはやはり男?


「いやいやこっちは良くないですから。会長、この人誰なんですか?」


 女装している男子、またはボーイッシュな女子はまともなようだ。よかったぁ……全員が生徒会長みたいな人だったら仕事できない気がするし。というか今すぐにでも職員室に行ってどうにかしてやめられないか相談すると思う。


「う~ん……さあ?」

「さ、さあって……」

「部屋に入ったらぶつかって……押し倒されちゃった」


 いやいや俺はあなたを押し倒してなんかいないから! あと笑顔で言うんじゃない!

 どう考えても押し倒されたのは俺だからな。そんな言い間違いしないで、俺の世間体とかに影響しかねないから。目撃者は体勢を見ているから大丈夫だろうけど。


「ななな……」


 ってなんでお前は顔真っ赤にしてんだよ! さっきの体勢見てただろうが!


「食パンをくわえて走っていると、角を曲がった瞬間にぶつかるという運命の出会いのようなことになったからって一気に押し倒すのはいくらなんでも早過ぎる」


 運命の出会いとか思ってないからね! というかそんな少女漫画みたいな出会いも今どき現実じゃ無いと思うよ!

 というかどんな思考してるんだよ。出会ってすぐ押し倒すってもう犯罪に等しいだろ。早過ぎるとかの問題じゃなくて。

 確かにこの生徒会長さんなら「どうかした?」とか聞きそうだけど。


「――いや俺は押し倒された側だから」

「はっ……そういえば。……まさか会長がそれほどの肉食系女子だったなんて」

「肉食? ……確かにお肉は好きだよ」


 なんでそっちに考えるお前。会長は予想の範疇の反応だ。それにしても肉を想像しただけで幸せそうな顔しますね会長さん。

 それといつまでお前は会長さんを見ている気だ。会長さん全く理解してないぞ。そもそもこの生徒会長さんにそっち方向の知識ってないだろ。そもそも異性を意識していらっしゃらないわけだし。なんていうか幼稚園とかの子供のときくらいの接し方だったよ。


「……いや会長にその手の知識はないか。ということは……まさかお前、会長のストーカーか!」


 えぇ!? なんで今度はそっちに思考が飛んだの!? お前の思考何か極端過ぎるんだけど!

 それと……空手のようなファイティングポーズしないでくれ。敵意剥き出しの視線も向けないでくれ。男子か女子か分からないけど、どちらにせよ格闘技やったことない俺からしたら怖いから。


「覚悟しろ!」

「なんでそうなる!?」


 と、こちらの言葉に耳を傾けることなく接近してきた。そして躊躇無く顔面目掛けてハイキック。反射的に体勢を低くする。


(……危なかった)


 髪にかすったぞ。何なのこの子、なんで当たったら一撃でダウンしそうな威力がありそうな本気な蹴りしてくるわけ。というか


「ちっ、ストーカーのくせにやるな!」

「俺はストーカーじゃないし、スカート履いてるのに蹴りなんかするな!」


 男ならいいが、女だったら俺が間違いなく悪者にされるだろ。短パンを履いてるから大丈夫とかそんな理屈は男には理解できないからな。短パンがあってもドキってすることは間違いないんだから。


「ぅ……」


 性別不明の人物は急に顔を真っ赤にしてスカートを両手で押さえた。

 この反応からして女子で短パンは履いていないってことか。言っておく蹴り避けるのに必死で見たりはしてないからな。


「この……変態!」

「変態じゃない!」


 何も見てないのに変態扱いするな!


「嘘付け、僕の……その……見たくせに!」

「なんでまた蹴りなんだよ!」


 何なのお前、普通は腕に攻撃方法切り替えない。お前見るなみたいなこと言ってるのに、本当は見せたい性癖でもあるの。


「お前の記憶を手っ取り早く消すためだ!」


 人の記憶を恐怖で封印させようとするとか発想が怖ぇよ! 蹴りの切れ味も増してるから現実に起きそうだからさらに怖ぇ!

 こいつ絶対見られたっていう被害妄想回数をわざと上げるような事して、怒りのパワーで威力上げようとしてるだろ!


「せりゃぁぁ!」


 ハイキックだけじゃ当たらないと踏んだのか、ハイキックの勢いを殺さないように回転して地面を這うような回し蹴りを俺の足目掛けてやってきた。

 ハイキックを避けるだけでも紙一重のギリギリだったのに、コンビネーションなんて避けられるわけがない。まともに蹴りを足にもらって倒れこんだ。

 痛ぇ……しかもまた頭打った。この短時間で2度目だよ。脳細胞かなり死んだんじゃないのか?


「もらった!」


 やばい! マウントポジションを取られた。ここから記憶を封印したいと無意識に思ってしまうほどの恐怖体験が始まるのか。ドMでもないやつにそんなことが耐えられるわけない。下手したら対人恐怖症になるぞ。


「これで終わりだぁぁぁ!」

「ちょっ誠くん、早まっちゃダメだよ!」


 男女が拳を打ち下ろそうした瞬間、展開について行けずに空気になっていた生徒会長が止めに入った。


「大丈夫です会長、記憶を飛ばすだけです!」


 何が大丈夫なんだよ! 記憶が飛ぶって全然大丈夫じゃないから! というか生徒会の一員なのに暴力しちゃダメだろ!


「いやいや誠くん、記憶が飛ぶって大丈夫なことじゃないよ! というか暴力はダメだよ!」


 さすが生徒会長、こういうときは頼りになる。もっとこの男女に言ってやってくれ。


「せめて手荒なことしない方法でやって!」


 なんで止めようとしたのに手段が別のなら良いって助長するんだよ! さっきの頼りになる生徒会長だって尊敬した気持ち返せよ!

 問題にならないようなら黙認、って考えの生徒会長なのかよあんた! 天然のくせにそのへんはちゃっかりしてるな!


「何か騒がしいな」

「声からして誠に会長、それともうひとりいるみたいですね」

「……ったく、生徒会室に来て早々仕事かよ」

「大変ですね~先輩」


 何やら廊下から別の声が聞こえたぞ。今の状況を見られたらさらに誤解とか、面倒なことになるんじゃないのか。

 何たって生徒会メンバーからすれば見知らぬ男子の上に男か女か分からない生徒が乗っているんだ。加えてその生徒を生徒会長が必死に止めようとしている。


「おいお前ら! いったい何騒いでやが……る?」

「おぉ~誠が男子押し倒してる」


 入ってきた生徒は2名。

 最初に入ってきたのは小学生? と思ってしまうほど小さな女子。騒がしい登場だったが、俺達の姿を見て徐々に声が収束していった。そして目を見開いたまま固まっている。

 小学生と思うような女子のあとに入ってきたのも女子。背丈は女子の平均よりも少し高いくらい。活発そうな印象を受ける。


恵那えな、違う! 僕はそんなつもりでこうしてるわけじゃなくて!」

「そんなに必死になんなって、別にあたしは気にしないからさ。どうぞ続けて続けて」

「いや続けないから!」


 こいつ、俺の上に乗っているやつの反応見て絶対楽しんでるだろ。乗っかってるやつも一々反応するなよ。うるさいし、またからかうようなこと言ってくるだけなんだから。


「奈々先輩、恵那に何か言ってやってください!」


 その前にお前が人の上から退け。退けば少しは恵那って女子のからかいは納まる。

 恵那ってやつが活発そうな女子だとすると、今出た奈々先輩ってのが恵那ってやつの隣にいる女子ってことか。そうかそうか、先輩か……って先輩!?

 悪いけど小学生みたいな容姿だから先輩って感じがしない。正直に言えば来る学校間違ってるじゃないないかとか、ここの制服を着た小学生って感じしかしない。

 まだ同級生っていうのなら半信半疑で納得したんだけど。半信半疑なのに納得してるのか、と聞かれたら……どうなんだろうな。


「……マコト、お前に男がいるなんて知らなかったぜ。しかもサクラも交えた三角関係とは恐れ入った」

「なんで僕なんですか!? しかも恵那よりひどい!」


 確かに真顔で言われるとそう思っても無理はないな。先輩、ノリで真顔で言ってんですか? それとも本気で思って言ってるんですか?

 後者だったら俺も参戦しないといけないんですけど。というか生徒会長との三角関係とか余計に面倒な方向に持っていかないでもらえますマジで。


「会長、恵那と奈々先輩がよってたかって僕をいじめますぅ……」

「誠くん、いい加減その子から退いてあげた方がいいと思うよ」


 …………。

 予想外の発言に部屋中の誰もが動きを止めた。会長を頼った俺の上に乗っている奴は分からんが、大抵の連中は空気を呼んでからかう。ということはせずに慰めるか注意するだろうと思っていたはず。

 なのにまさかの、この場で1番冷静な発言だったんだよ。何か男女にグサッて何か刺さったような音が聞こえるくらいの。動きを止めても仕方ないだろ?


「…………その前に記憶を」

「暴力はいけません」

「……はい」


 乗っかっていたやつはしょんぼりしながら俺の上から退いた。

 そのしょんぼりしている原因は会長に怒られたからで、俺を殴れなかったことじゃないよな。もし殴れなかったからなら今後の学校生活が凄くデンジャラスなものになりそうなんだけど。これからここに通うことになるわけだから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ